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8 強者
不義
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佳苗を呪って悪魔との契約が完了できないか試したけれどうまくはいかなかった。まあ、仕方がないか。とりあえず眠い、早くラロお祖父ちゃんに何とかしてもらわなきゃ、ゆっくりと寝ることもできないや。
「ふぁぁぁぁぁ」
ダメだ。欠伸が止まらない。嫌いだけれど、濃い目のコーヒーでも飲んで目を覚まそう。バッグを持って、自転車で通勤するサラリーマンやOLを追い抜きながら、駅前のカフェに向かった。
「ブレンドを濃い目で、一番大きなサイズで」
朝の混雑が一段落して、店内は客がまばらにいる程度だ。出来上がったコーヒーを持って、どの席に座ろうかと店内を見回していると、奥の方の席に如月がいることに気がついた。
「きさら……」
声を掛けた瞬間に、如月の前の席に誰か座っていることに気がついた。
"えっ、誰?女の人、に見えるけど"
こんな時間に会ってるなんて、昨日の夜からずっと一緒だったんじゃないの。わたしと別れてからあの女と一緒にいたんじゃないの。え、ちょっと、どういうこと。
如月とその女はすごく楽しそうに話している。
誰なの、その女?
わたし、わたし、如月の彼女になったんじゃないの?
どうなってんの?
一睡もしていない今のわたしの頭では思考が追いつかない。わたしは買ったばかりのコーヒーを近くの席に置いて、そのまま店を後にした。自分の気持が分からない。これ以上、他の女と一緒に笑ってる如月を見ていたらおかしくなっちゃいそうだ。そのまま家に帰り、自分の部屋に閉じこもった。
どれくらいの時間、思考を停止していたのだろう。ダメだ。とにかく如月に聞いてみよう。何かの間違いかもしれない。そうだよ、きっと何か事情があるんだよ。電話、そう電話してみよう。
しばらくコール音が鳴り、やがて留守番電話のアナウンスが聞こえた。出ない、何をしてるんだろう。まださっきの女と一緒にいるのかな。しばらくして、LIMEがメッセージの着信を知らせた。メッセージを確認すると、"Goodnight"の一言だけだった。何なの、これ。おやすみって何、今、朝じゃん。あの女の人との時間を邪魔しないように、わたしは寝て黙ってろってことなの。
頭の中が気持ち悪い、心の中が気持ち悪い。
何もかもが気持ち悪い。
二人で真呪教をやるんじゃかったの。
私の独りよがりだったの。
如月を信用していいの……
わたしを騙していたの……
如月……
◆◇◆◇◆◇
夕方になって、ラロお祖父ちゃんが帰ってきた。
「ラロお祖父ちゃん」
「おお、クラウか。ただいま。どうした、そんな顔して」
「あ、うん。あのラロお祖父ちゃんにお願いがあるの」
「どうした。目覚めてすぐに誰かに呪いでも掛けたのか」
えっ、なんで分かるの?あまりにビックリして声も出なかった。
「そんな不思議そうな顔をしなくても、クラウの考えていることくらいわかるさ」
そう言ってラロお祖父ちゃんは優しくわたしの頭を撫でてくれた。やはり、悪魔との契約を完了しているラロお祖父ちゃんはスゴいし、優しいなぁと改めて思う。
「ラロお祖父ちゃん、お願いできる?」
「まあ、まずは何があったのか経緯を話してみなさい」
ラロお祖父ちゃんの部屋に入り、向かい合わせに座ったわたしは、如月と佳苗がわたしをあの世界から助け出してくれたこと、如月の提案で佳苗を呪って悪魔に契約を完了できないか交渉したけれどダメだったこと、そして今の呪いの反動を解放してもらったらもう一度悪魔との契約に挑戦することをラロお祖父ちゃんに話した。
「なるほど、分かったよ。呪いの反動は昔、私も味わったが結構辛いからね。今夜にも私が呪いを行って解放してやろう。しかし、もう一度チャレンジするとは、さすがクラウだ」
「ありがとう」
良かった。これで悪魔との契約にまた挑戦できる。
「さっき名前の出てきた如月と言うのは、この呪いを知っているということかい」
「あっ、うん。如月はわたしと中学校の同級生だったの。それで同じオカルト研究会に入っていて、真呪教の教団跡地に行った時に地下の部屋に他の子に閉じ込められたの。その時に呪いの手順が書いてあるメモを見つけたんですって」
「なるほど、そのメモは松島か広幡のどちらかが残したモノだな。全くあの二人は死んでからも余計な亊をしおって」
「前にも話したけれど、わたしが最初に実施した呪いの告知直後に如月が告知をしてくれたから、あの時わたしは呪いの反動を受けなかったんだ」
ラロお祖父ちゃんは、なるほどって言ってから少し難しい顔つきになった。
「その如月とお前の関係は何かあるのかい?」
「えっ、うん、あの」
まさかそんな質問が来るとは予想もしていなかった。確かに彼氏彼女の関係になったとは思う。でも今朝のあのカフェでのシーンが鮮明に蘇る。如月の楽しそうな笑顔。あの女性が本命で、わたしには本当は何の気持ちもないってことなのかな。なんて言えばいいのかな。
「その如月という男、おそらくと言うか間違いなくお前を嵌めたな」
嵌めた?
「どういう……」
「その男は、お前が五十人目を呪っても以前の契約が完了しないことを分かっていたんだろう。もっとも、お前も今さら五十人目を呪っても契約を完了させることはできないと分かっていたんではないのか」
「…………」
「クラウ、お前はその男に惚れているのか?」
「うん、そうだったんだけど、今は分からない」
如月の気持ちが、わたし自身の気持ちが分からない。
「もし、その男がクラウを傷つけたのだとしたら許せんな。何より、かわいい孫娘であって私の後継者なのだからな」
「ラロお祖父ちゃん」
「その男、一度会ってみたいものだ。会ってどんな男なのか、お前に相応しいかどうかも見極めたいしな」
「如月に会うの?」
「まあ、お前を嵌めた時点でお前を利用しただけだとは決まっているがな。さて、私はこれからお前の呪いの反動を解放するためにそこら辺にいる奴を呪ってくるよ」
「う、うん。ありがとう」
もし、ラロお祖父ちゃんが言うように如月がわたしを裏切っているなら……
わたしは……、わたしは…………。
ラロお祖父ちゃんの部屋を出た後、わたしは自分の部屋に入り、電気も付けずにベッドにもたれていた。頭の中をずーっと同じ疑問がループしている。
そんなループの中、わたしの意識は不覚にも落ちていってしまった。
裏切りは許さない、という固い決意とともに……
◆◇◆◇◆◇
クラウも契約不履行の制裁から解放されたばかりで、もう一度悪魔と契約しようとするとは見上げた根性だ。ただ、後継者を名乗るならまだまだ教育しないといけないな。
それにしても、如月か……
危険な男だな。
まさか、クラウを丸め込んで呪いを行わせるとは驚きだ。
クラウよりはるかに素質がありそうなので、私の右腕としてそばに置いておきたい気もするが、松島の例もあるからな。
危険な存在は早めに潰しておいたほうが良い。
それに、クラウをこれ以上傷つけることは許せんしな。
さて、まずはクラウの呪いの反動を解放しないとな。早く解放して悪魔との契約の準備をさせてあげたいから、今夜呪いを実施して明日の朝にでも告知しておくか。呪うのは……そうだな、この機会を使おうか。
リカルド、いい子をありがとう。お前の役割は期待以上の成果で終わったよ、感謝している。明日には、お前の大好きだった母親のハツの顔を見られることだろう。
「クラウ、昨日頼まれた反動からの解放はやっておいたよ。後は発動を待つだけだ」
かわいそうに、昨夜も一睡もできなかったんだろう。表情も暗いし、体も妙に強張らせているようだ。
「それで、昨日話しに出ていた如月君のことだが」
クラウがピクッと反応し、顔だけ上げて私を見ている。
「昨日、あれからよく考えたのだが、やはりあの男はお前を利用しているだけだと思うぞ。お前に対しての愛情などはないのではなかろうか」
間違いなく如月にクラウを思う感情などないだろう。あの男は私に似ているところを感じる。クラウの祖母のハツが私に愛情がないと感じていたように、きっと如月にもそんな感情はないだろう。
「近いうちに如月君を我が家に招待し、その場で私が呪いの告知をしよう。クラウ、お前を嵌めて、利用しようとした男など生かしておく価値もないと思うぞ」
危険な存在は早めに潰しておかねばな。真呪教のためにな。
「いいか、クラウ」
「ねえ、ラロお祖父ちゃん。やっぱり、如月はわたしを裏切っていると思う?」
「ああ、間違いないだろうな」
「そう……だよね。分かった。如月がうちに来れる日を訊いてみるよ」
クラウは暗い表情のままだ。そうだろうな、恋心を寄せていた相手に裏切られたのだからな。
「頼んだよ。あともう少しで呪いも発動するだろうから、そうしたらゆっくり寝られるからな。それまで頑張るんだよ」
「そういえば、誰を呪ったの?」
「ああ、役割を終えた人だよ。そんなことは気にせずに、反動から解放されるまで頑張るんだよ」
うん、と頷いてから力なく立ち上がり、クラウは自分の部屋に歩いていった。
如月か、最初で最後の遭逢だな。
◆◇◆◇◆◇
「この度は、ご愁傷さまでした」
受付で、記帳をし、香典を渡した。列に並び、焼香の順番を待っている時に正面に飾られた遺影を確認する。彫りの深いとても整った顔立ちの男性と優しい目をした笑顔の女性の写真が並んでいる。なるほど、このご両親からならクラウさんがあれだけ美人なことも納得できる。
「立体駐車場の五階から転落したらしいわよ」
「それじゃ、車ごとぺしゃんこだったろうね。即死だったの?」
「ところが、二人とも最後まで意識があって、痛みに苦しみながら亡くなったらしいのよ」
「即死じゃなかったんだ。先に火葬してからお通夜、告別式だったからおかしいとは思ったのよ」
「聞いた話だと、いたるところ骨折していて、一部が皮膚を突き破って外に出ていったらしいわ。顔は原型をとどめていなかったくらい損傷がひどかったんだって」
「うわ、最悪。しかし、せっかくクラウちゃんが目覚めて、これから家族仲良くって時だったのにね」
「本当、運命って残酷よね」
後ろに並んでいた参列者同士の会話が耳に入ってきた。
運命?
そんなはずはない。クラウさんのご両親は何か意味があって殺されたんだ。まあ、おおよその見当はついているけれどね。焼香の順番が来て、遺族の方に向き一礼する時に見えたクラウさんはやや疲れた表情はしているものの、涙は見せていなかった。見る限り、クラウさんから聞いていたラロおじいちゃんは参列していないようだ。
焼香を終え、会場を後にしょうとすると、後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこにはクラウさんの顔があった。
「如月、今度の週末にラロお祖父ちゃんと会ってもらえないかな」
「今度の週末、うん、夜なら大丈夫だよ。そうだな、二十時くらいになるけれどいいかな」
「わかった。じゃあ、今度の土曜日にね」
それだけ言うとクラウさんはまた遺族席に戻っていった。ご両親が亡くなったというのに、さすがクラウさんだな。
それにしても、今度の土曜日か。いよいよ、クラウさんのおじいさんと真呪教の教祖と会える。さあ、どれだけの人物だ、真呪教の教祖様は。
「ふぁぁぁぁぁ」
ダメだ。欠伸が止まらない。嫌いだけれど、濃い目のコーヒーでも飲んで目を覚まそう。バッグを持って、自転車で通勤するサラリーマンやOLを追い抜きながら、駅前のカフェに向かった。
「ブレンドを濃い目で、一番大きなサイズで」
朝の混雑が一段落して、店内は客がまばらにいる程度だ。出来上がったコーヒーを持って、どの席に座ろうかと店内を見回していると、奥の方の席に如月がいることに気がついた。
「きさら……」
声を掛けた瞬間に、如月の前の席に誰か座っていることに気がついた。
"えっ、誰?女の人、に見えるけど"
こんな時間に会ってるなんて、昨日の夜からずっと一緒だったんじゃないの。わたしと別れてからあの女と一緒にいたんじゃないの。え、ちょっと、どういうこと。
如月とその女はすごく楽しそうに話している。
誰なの、その女?
わたし、わたし、如月の彼女になったんじゃないの?
どうなってんの?
一睡もしていない今のわたしの頭では思考が追いつかない。わたしは買ったばかりのコーヒーを近くの席に置いて、そのまま店を後にした。自分の気持が分からない。これ以上、他の女と一緒に笑ってる如月を見ていたらおかしくなっちゃいそうだ。そのまま家に帰り、自分の部屋に閉じこもった。
どれくらいの時間、思考を停止していたのだろう。ダメだ。とにかく如月に聞いてみよう。何かの間違いかもしれない。そうだよ、きっと何か事情があるんだよ。電話、そう電話してみよう。
しばらくコール音が鳴り、やがて留守番電話のアナウンスが聞こえた。出ない、何をしてるんだろう。まださっきの女と一緒にいるのかな。しばらくして、LIMEがメッセージの着信を知らせた。メッセージを確認すると、"Goodnight"の一言だけだった。何なの、これ。おやすみって何、今、朝じゃん。あの女の人との時間を邪魔しないように、わたしは寝て黙ってろってことなの。
頭の中が気持ち悪い、心の中が気持ち悪い。
何もかもが気持ち悪い。
二人で真呪教をやるんじゃかったの。
私の独りよがりだったの。
如月を信用していいの……
わたしを騙していたの……
如月……
◆◇◆◇◆◇
夕方になって、ラロお祖父ちゃんが帰ってきた。
「ラロお祖父ちゃん」
「おお、クラウか。ただいま。どうした、そんな顔して」
「あ、うん。あのラロお祖父ちゃんにお願いがあるの」
「どうした。目覚めてすぐに誰かに呪いでも掛けたのか」
えっ、なんで分かるの?あまりにビックリして声も出なかった。
「そんな不思議そうな顔をしなくても、クラウの考えていることくらいわかるさ」
そう言ってラロお祖父ちゃんは優しくわたしの頭を撫でてくれた。やはり、悪魔との契約を完了しているラロお祖父ちゃんはスゴいし、優しいなぁと改めて思う。
「ラロお祖父ちゃん、お願いできる?」
「まあ、まずは何があったのか経緯を話してみなさい」
ラロお祖父ちゃんの部屋に入り、向かい合わせに座ったわたしは、如月と佳苗がわたしをあの世界から助け出してくれたこと、如月の提案で佳苗を呪って悪魔に契約を完了できないか交渉したけれどダメだったこと、そして今の呪いの反動を解放してもらったらもう一度悪魔との契約に挑戦することをラロお祖父ちゃんに話した。
「なるほど、分かったよ。呪いの反動は昔、私も味わったが結構辛いからね。今夜にも私が呪いを行って解放してやろう。しかし、もう一度チャレンジするとは、さすがクラウだ」
「ありがとう」
良かった。これで悪魔との契約にまた挑戦できる。
「さっき名前の出てきた如月と言うのは、この呪いを知っているということかい」
「あっ、うん。如月はわたしと中学校の同級生だったの。それで同じオカルト研究会に入っていて、真呪教の教団跡地に行った時に地下の部屋に他の子に閉じ込められたの。その時に呪いの手順が書いてあるメモを見つけたんですって」
「なるほど、そのメモは松島か広幡のどちらかが残したモノだな。全くあの二人は死んでからも余計な亊をしおって」
「前にも話したけれど、わたしが最初に実施した呪いの告知直後に如月が告知をしてくれたから、あの時わたしは呪いの反動を受けなかったんだ」
ラロお祖父ちゃんは、なるほどって言ってから少し難しい顔つきになった。
「その如月とお前の関係は何かあるのかい?」
「えっ、うん、あの」
まさかそんな質問が来るとは予想もしていなかった。確かに彼氏彼女の関係になったとは思う。でも今朝のあのカフェでのシーンが鮮明に蘇る。如月の楽しそうな笑顔。あの女性が本命で、わたしには本当は何の気持ちもないってことなのかな。なんて言えばいいのかな。
「その如月という男、おそらくと言うか間違いなくお前を嵌めたな」
嵌めた?
「どういう……」
「その男は、お前が五十人目を呪っても以前の契約が完了しないことを分かっていたんだろう。もっとも、お前も今さら五十人目を呪っても契約を完了させることはできないと分かっていたんではないのか」
「…………」
「クラウ、お前はその男に惚れているのか?」
「うん、そうだったんだけど、今は分からない」
如月の気持ちが、わたし自身の気持ちが分からない。
「もし、その男がクラウを傷つけたのだとしたら許せんな。何より、かわいい孫娘であって私の後継者なのだからな」
「ラロお祖父ちゃん」
「その男、一度会ってみたいものだ。会ってどんな男なのか、お前に相応しいかどうかも見極めたいしな」
「如月に会うの?」
「まあ、お前を嵌めた時点でお前を利用しただけだとは決まっているがな。さて、私はこれからお前の呪いの反動を解放するためにそこら辺にいる奴を呪ってくるよ」
「う、うん。ありがとう」
もし、ラロお祖父ちゃんが言うように如月がわたしを裏切っているなら……
わたしは……、わたしは…………。
ラロお祖父ちゃんの部屋を出た後、わたしは自分の部屋に入り、電気も付けずにベッドにもたれていた。頭の中をずーっと同じ疑問がループしている。
そんなループの中、わたしの意識は不覚にも落ちていってしまった。
裏切りは許さない、という固い決意とともに……
◆◇◆◇◆◇
クラウも契約不履行の制裁から解放されたばかりで、もう一度悪魔と契約しようとするとは見上げた根性だ。ただ、後継者を名乗るならまだまだ教育しないといけないな。
それにしても、如月か……
危険な男だな。
まさか、クラウを丸め込んで呪いを行わせるとは驚きだ。
クラウよりはるかに素質がありそうなので、私の右腕としてそばに置いておきたい気もするが、松島の例もあるからな。
危険な存在は早めに潰しておいたほうが良い。
それに、クラウをこれ以上傷つけることは許せんしな。
さて、まずはクラウの呪いの反動を解放しないとな。早く解放して悪魔との契約の準備をさせてあげたいから、今夜呪いを実施して明日の朝にでも告知しておくか。呪うのは……そうだな、この機会を使おうか。
リカルド、いい子をありがとう。お前の役割は期待以上の成果で終わったよ、感謝している。明日には、お前の大好きだった母親のハツの顔を見られることだろう。
「クラウ、昨日頼まれた反動からの解放はやっておいたよ。後は発動を待つだけだ」
かわいそうに、昨夜も一睡もできなかったんだろう。表情も暗いし、体も妙に強張らせているようだ。
「それで、昨日話しに出ていた如月君のことだが」
クラウがピクッと反応し、顔だけ上げて私を見ている。
「昨日、あれからよく考えたのだが、やはりあの男はお前を利用しているだけだと思うぞ。お前に対しての愛情などはないのではなかろうか」
間違いなく如月にクラウを思う感情などないだろう。あの男は私に似ているところを感じる。クラウの祖母のハツが私に愛情がないと感じていたように、きっと如月にもそんな感情はないだろう。
「近いうちに如月君を我が家に招待し、その場で私が呪いの告知をしよう。クラウ、お前を嵌めて、利用しようとした男など生かしておく価値もないと思うぞ」
危険な存在は早めに潰しておかねばな。真呪教のためにな。
「いいか、クラウ」
「ねえ、ラロお祖父ちゃん。やっぱり、如月はわたしを裏切っていると思う?」
「ああ、間違いないだろうな」
「そう……だよね。分かった。如月がうちに来れる日を訊いてみるよ」
クラウは暗い表情のままだ。そうだろうな、恋心を寄せていた相手に裏切られたのだからな。
「頼んだよ。あともう少しで呪いも発動するだろうから、そうしたらゆっくり寝られるからな。それまで頑張るんだよ」
「そういえば、誰を呪ったの?」
「ああ、役割を終えた人だよ。そんなことは気にせずに、反動から解放されるまで頑張るんだよ」
うん、と頷いてから力なく立ち上がり、クラウは自分の部屋に歩いていった。
如月か、最初で最後の遭逢だな。
◆◇◆◇◆◇
「この度は、ご愁傷さまでした」
受付で、記帳をし、香典を渡した。列に並び、焼香の順番を待っている時に正面に飾られた遺影を確認する。彫りの深いとても整った顔立ちの男性と優しい目をした笑顔の女性の写真が並んでいる。なるほど、このご両親からならクラウさんがあれだけ美人なことも納得できる。
「立体駐車場の五階から転落したらしいわよ」
「それじゃ、車ごとぺしゃんこだったろうね。即死だったの?」
「ところが、二人とも最後まで意識があって、痛みに苦しみながら亡くなったらしいのよ」
「即死じゃなかったんだ。先に火葬してからお通夜、告別式だったからおかしいとは思ったのよ」
「聞いた話だと、いたるところ骨折していて、一部が皮膚を突き破って外に出ていったらしいわ。顔は原型をとどめていなかったくらい損傷がひどかったんだって」
「うわ、最悪。しかし、せっかくクラウちゃんが目覚めて、これから家族仲良くって時だったのにね」
「本当、運命って残酷よね」
後ろに並んでいた参列者同士の会話が耳に入ってきた。
運命?
そんなはずはない。クラウさんのご両親は何か意味があって殺されたんだ。まあ、おおよその見当はついているけれどね。焼香の順番が来て、遺族の方に向き一礼する時に見えたクラウさんはやや疲れた表情はしているものの、涙は見せていなかった。見る限り、クラウさんから聞いていたラロおじいちゃんは参列していないようだ。
焼香を終え、会場を後にしょうとすると、後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこにはクラウさんの顔があった。
「如月、今度の週末にラロお祖父ちゃんと会ってもらえないかな」
「今度の週末、うん、夜なら大丈夫だよ。そうだな、二十時くらいになるけれどいいかな」
「わかった。じゃあ、今度の土曜日にね」
それだけ言うとクラウさんはまた遺族席に戻っていった。ご両親が亡くなったというのに、さすがクラウさんだな。
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