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長篠城攻略
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長篠城を攻め落とすと、義信は勝鬨をあげた。
「エイエイ!」
「「「オー!!!!」」」
長篠城に入城した雑兵たちが思い思いに休息を取る中、義信が飯富虎昌を呼びつけた。
「爺、長篠城はお主に任せる。次の戦いまでに領地を育てておいてくれ」
「……お待ちくだされ。それがしが離れては若様をお守りできませぬ」
「…………なにが言いたいんだ?」
「お館様のことにございます。此度の侵攻、お館様より許しを得ていないのでしょう? いずれにせよ、このまま甲府に戻ればお叱りを受けるは必定……」
飯富虎昌の言葉に、義信の顔が曇っていく。
「……爺が父上をとりなすというのか?」
「はっ……それが叶わぬのなら、若に代わりそれがしが処罰を受けましょう」
すでに覚悟を決めているのか、飯富虎昌が義信をまっすぐに見つめる。
いざという時は首謀者の咎を引き受け、命を賭して義信を守ろうというのか……。
虎昌の心意気が、義信の胸に染み渡る。
(私はいい家臣を持った……)
虎昌は自分には過ぎた家臣だ。武田家筆頭家老として実務をこなす有能さはもちろん、武田家に対する忠節も抜きん出ている。
なにより、義信に尽くす気持ちは本物だ。
だからこそ、大事にしてやらねばならない。
下手に腹を切らせては、武田家の……。ひいては、義信にとって大きな損失である。
虎昌を安心させるように、義信は笑ってみせた。
「心配するな。父上とて人の子……。取って食われることはあるまい。第一、嫡男が武功を挙げたのだ。褒めることこそあれ、なぜ怒られる謂れがある」
豪快に笑ってみせる義信に、虎昌は一抹の不安を覚えた。
かつて、信玄は家のため、実の父──武田信虎を追放した。
その後は妹の嫁ぎ先である諏訪家を攻め、妹婿である諏訪頼重を自害に追い込んだ。
親類縁者といえ、信玄は己の障害となる者は容赦なく切り捨てることができるのだ。
いくら嫡男の義信とはいえ、例外ではないだろう。
これより義信が対峙するのは人の子か。
あるいは乱世の生んだ修羅か。
実の父に対峙する義信に想いを馳せ、虎昌は静かに義信を見送るのだった。
飯富虎昌に見送られ、義信は武田家の本拠地、躑躅ヶ崎館にやってきていた。
「大丈夫でしょうか……」
「なんだ、爺に続きお主も私を心配しているのか」
義信の配下で、乳人子の曽根虎盛が頷く。
「お館様は身内にも容赦のないお方……。たとえ若様と言えど、どのような罰を受けるか……」
「心配するな。私には長篠という手土産があるのだ。父上とて、無下にはすまい」
信玄が居を構える躑躅ヶ崎館にやってくると、すぐに信玄が出迎えた。
「待っておったぞ、義信」
「おお、父上自らお出迎えとは……。感謝の言葉もございません」
「徳川領に侵攻すると、またたく間に長篠城を落としたと聞く……。まずは重畳じゃ」
「もったいなきお言葉にございます」
義信が頭を下げると、信玄が労うように義信の肩を叩いた。
和やかな様子に、曽根虎盛がほっと胸を撫で下ろした。
……よかった。どうやら信玄は怒ってはいないらしい。やはり、こちらの杞憂だったか……。
「詳しく話を聞きたいゆえ、早く中に入るといい……!」
義信の肩を握る信玄の手に力が篭もる。
さながら獲物を逃すまいとする鷹のように、義信の肩に信玄の指がメリメリと食い込んだ。
「あの、父上…………もしかして怒っておられますか……?」
「なにを言っておる。儂はいたって平静そのものじゃ……!」
「ですが……」
「だからこうして、話を聞こうと言っておるのではないか。……お主にも、いろいろ言い分はあるであろうし、な……!」
義信を睨む信玄のこめかみには、何本も青筋が浮き出ていた。
((父上、(お館様)めちゃめちゃ怒ってる……!))
「エイエイ!」
「「「オー!!!!」」」
長篠城に入城した雑兵たちが思い思いに休息を取る中、義信が飯富虎昌を呼びつけた。
「爺、長篠城はお主に任せる。次の戦いまでに領地を育てておいてくれ」
「……お待ちくだされ。それがしが離れては若様をお守りできませぬ」
「…………なにが言いたいんだ?」
「お館様のことにございます。此度の侵攻、お館様より許しを得ていないのでしょう? いずれにせよ、このまま甲府に戻ればお叱りを受けるは必定……」
飯富虎昌の言葉に、義信の顔が曇っていく。
「……爺が父上をとりなすというのか?」
「はっ……それが叶わぬのなら、若に代わりそれがしが処罰を受けましょう」
すでに覚悟を決めているのか、飯富虎昌が義信をまっすぐに見つめる。
いざという時は首謀者の咎を引き受け、命を賭して義信を守ろうというのか……。
虎昌の心意気が、義信の胸に染み渡る。
(私はいい家臣を持った……)
虎昌は自分には過ぎた家臣だ。武田家筆頭家老として実務をこなす有能さはもちろん、武田家に対する忠節も抜きん出ている。
なにより、義信に尽くす気持ちは本物だ。
だからこそ、大事にしてやらねばならない。
下手に腹を切らせては、武田家の……。ひいては、義信にとって大きな損失である。
虎昌を安心させるように、義信は笑ってみせた。
「心配するな。父上とて人の子……。取って食われることはあるまい。第一、嫡男が武功を挙げたのだ。褒めることこそあれ、なぜ怒られる謂れがある」
豪快に笑ってみせる義信に、虎昌は一抹の不安を覚えた。
かつて、信玄は家のため、実の父──武田信虎を追放した。
その後は妹の嫁ぎ先である諏訪家を攻め、妹婿である諏訪頼重を自害に追い込んだ。
親類縁者といえ、信玄は己の障害となる者は容赦なく切り捨てることができるのだ。
いくら嫡男の義信とはいえ、例外ではないだろう。
これより義信が対峙するのは人の子か。
あるいは乱世の生んだ修羅か。
実の父に対峙する義信に想いを馳せ、虎昌は静かに義信を見送るのだった。
飯富虎昌に見送られ、義信は武田家の本拠地、躑躅ヶ崎館にやってきていた。
「大丈夫でしょうか……」
「なんだ、爺に続きお主も私を心配しているのか」
義信の配下で、乳人子の曽根虎盛が頷く。
「お館様は身内にも容赦のないお方……。たとえ若様と言えど、どのような罰を受けるか……」
「心配するな。私には長篠という手土産があるのだ。父上とて、無下にはすまい」
信玄が居を構える躑躅ヶ崎館にやってくると、すぐに信玄が出迎えた。
「待っておったぞ、義信」
「おお、父上自らお出迎えとは……。感謝の言葉もございません」
「徳川領に侵攻すると、またたく間に長篠城を落としたと聞く……。まずは重畳じゃ」
「もったいなきお言葉にございます」
義信が頭を下げると、信玄が労うように義信の肩を叩いた。
和やかな様子に、曽根虎盛がほっと胸を撫で下ろした。
……よかった。どうやら信玄は怒ってはいないらしい。やはり、こちらの杞憂だったか……。
「詳しく話を聞きたいゆえ、早く中に入るといい……!」
義信の肩を握る信玄の手に力が篭もる。
さながら獲物を逃すまいとする鷹のように、義信の肩に信玄の指がメリメリと食い込んだ。
「あの、父上…………もしかして怒っておられますか……?」
「なにを言っておる。儂はいたって平静そのものじゃ……!」
「ですが……」
「だからこうして、話を聞こうと言っておるのではないか。……お主にも、いろいろ言い分はあるであろうし、な……!」
義信を睨む信玄のこめかみには、何本も青筋が浮き出ていた。
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