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三河に帰国
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信玄との話し合いが終わると、義信は飯富虎昌と自室に戻っていた。
「助かったぞ。よくぞ私の考えを読んで合わせてくれた」
上機嫌の義信とは対照に、疲れた様子の飯富虎昌がため息をついた。
「まったく……突然諍いの渦中に放り込まれるそれがしの気持ちも考えてくだされ」
「フフフ、それだけ爺を信頼しているということだ。これからも頼むぞ」
そう言われては、飯富虎昌としても何も言えなくなってしまう。
「……して、若様はどのような者が欲しいのですか?」
「奥近習六人衆が欲しい」
奥近習六人衆といえば、真田昌幸、土屋昌続、三枝昌貞といった、信玄子飼いの優秀な若者たちである。
かくいう長坂昌国もその一人で、その才能は信玄も認めるところである。
「あやつらですか……お館様も、手放しはしないでしょうなぁ……」
「父上はそう言うだろうな。……だが、こちらに送られる人材を決めるのは爺と信春だ。……信春だけ言いくるめればいいと考えれば、まだ気が楽じゃないか?」
「言ってくれますな……」
飯富虎昌が疲れた様子でため息をつくのだった。
躑躅ヶ崎館に数日の間滞在していた。
義信としては早く三河に戻り恩賞や城主を決めてしまいたかったのだが、信玄の意向を無視しては、義信の決定が覆されてしまいかねない。
そのため、信玄の沙汰を待っていたのだ。
「おお、爺。戻ったか」
「全員というわけにはいきませなんだが、真田昌幸、三枝昌貞、土屋昌続の三名はこちらにつけてくれることとなりました。他にも読み書きのできる者や有望な者を何名か集めましてございます」
「おお、でかしたぞ」
これで当面の人手不足は解消されそうだ。
また、義信の新たなお目付け役に、馬場信春、飯富昌景がつけられることとなった。
いずれも武田の重臣であり、おいそれとは動かすことのできない人材だ。
目付けとはいえ、馬場信春、飯富昌景をつけるというのだから、信玄の本気が伺える。
「父上らしからぬ大盤振る舞いだな。これは期待されていると見ていいのか?」
「いえ、むしろ警戒されていると見るべきでしょうな。近ごろの若様の活躍は目を見張るものがありますからな。……いずれ自分も追放されるのではないかと、危惧しておられるのでしょう。
かくいう、それがしもお館様から叱責されましたゆえ」
愚痴を垂れる飯富虎昌に、義信が苦笑した。
「父上も難儀なものよ……。素直に跡取りの成長を喜べばいいものを……」
「きっと、恐れているのでしょう。いつの日か、父を追放した報いを受ける日が来ることを……」
ああ見えて、お館様は信心深いですからな……。
と、飯富虎昌が遠くを見つめるのだった。
馬場信春、飯富昌景ほか、新たに義信につけられた家臣を連れ、義信は岡崎城に帰還した。
「戻ったぞ」
拠点としている屋敷に入ると、長坂昌国、曽根虎盛、雨宮家次が駆け寄ってきた。
「おお、殿!」
「待ちわびておりましたぞ!」
「恩賞を! はやく恩賞を決めましょうぞ!」
「そう急かすな。慌てずとも、恩賞は逃げやしないさ」
はやる家臣たちをなだめ、義信は家臣と三河の国衆を岡崎城に集めた。
集まった家臣たちを見回し、声を張り上げる。
「飯富虎昌、お主には岡崎の地一万石と岡崎城代を任せる。この地は三河の要ゆえ、お主が適任だろう。……これからも頼りにしているぞ」
「ははっ、謹んでお受けいたします」
長坂昌国には5000石、曽根虎盛には3500石、雨宮家次には2000石を加増した。
義信の家臣団に恩賞を渡すと、次は信玄から借りた援軍にも恩賞を渡した。
義信の直臣ではないが、かといって恩賞を渡さなければ不満が出かねない。
「馬場信春、お主には吉田城代を任せる」
「はっ」
信春ほか、信玄から借りた援軍たちに恩賞を渡すと、次は三河の国衆たちの所領を安堵しなくてはならない。
徳川に味方したとはいえ、根絶やしにしては統治に障り、かといって野放しにしておけば反乱の芽となる、厄介な存在だ。
また、刈谷城の水野信元ほか、大久保忠世、奥平貞能など、三河の多くの国衆が武田家に臣従を表明した。
「若様に忠誠を誓う起請文をしたためました。どうぞ、お納めください」
「必要とあらば、人質も出させていただきますゆえ、なにとぞ……」
頭を下げる国衆たちを前に、義信が声を張り上げた。
「新たな三河の主であるこの私に頭を下げるその心意気、あっぱれである。お主らの臣従を受け入れよう」
国衆たちがほっと胸を撫で下ろした。
飯富虎昌がそっと耳打ちする。
「……よろしいのですか? あのようなことを約束して……」
「まだ本領を安堵したわけじゃないからな。これから先の戦いで我らに反抗した者には、所領を召し上げるなりなんなりするさ」
三河における武田家の力を強めるには、どのみち直轄地を増やす必要がある。
今はただ、ゆっくりと支配を強めていこう。
その間、自分にはやるべきことがあるのだ。
義信は一人思いふけるのだった。
あとがき
この時代、真田昌幸は武藤喜兵衛と名乗っていましたが、真田昌幸の方がわかりやすいので本作での表記は真田昌幸に統一しようと思います
「助かったぞ。よくぞ私の考えを読んで合わせてくれた」
上機嫌の義信とは対照に、疲れた様子の飯富虎昌がため息をついた。
「まったく……突然諍いの渦中に放り込まれるそれがしの気持ちも考えてくだされ」
「フフフ、それだけ爺を信頼しているということだ。これからも頼むぞ」
そう言われては、飯富虎昌としても何も言えなくなってしまう。
「……して、若様はどのような者が欲しいのですか?」
「奥近習六人衆が欲しい」
奥近習六人衆といえば、真田昌幸、土屋昌続、三枝昌貞といった、信玄子飼いの優秀な若者たちである。
かくいう長坂昌国もその一人で、その才能は信玄も認めるところである。
「あやつらですか……お館様も、手放しはしないでしょうなぁ……」
「父上はそう言うだろうな。……だが、こちらに送られる人材を決めるのは爺と信春だ。……信春だけ言いくるめればいいと考えれば、まだ気が楽じゃないか?」
「言ってくれますな……」
飯富虎昌が疲れた様子でため息をつくのだった。
躑躅ヶ崎館に数日の間滞在していた。
義信としては早く三河に戻り恩賞や城主を決めてしまいたかったのだが、信玄の意向を無視しては、義信の決定が覆されてしまいかねない。
そのため、信玄の沙汰を待っていたのだ。
「おお、爺。戻ったか」
「全員というわけにはいきませなんだが、真田昌幸、三枝昌貞、土屋昌続の三名はこちらにつけてくれることとなりました。他にも読み書きのできる者や有望な者を何名か集めましてございます」
「おお、でかしたぞ」
これで当面の人手不足は解消されそうだ。
また、義信の新たなお目付け役に、馬場信春、飯富昌景がつけられることとなった。
いずれも武田の重臣であり、おいそれとは動かすことのできない人材だ。
目付けとはいえ、馬場信春、飯富昌景をつけるというのだから、信玄の本気が伺える。
「父上らしからぬ大盤振る舞いだな。これは期待されていると見ていいのか?」
「いえ、むしろ警戒されていると見るべきでしょうな。近ごろの若様の活躍は目を見張るものがありますからな。……いずれ自分も追放されるのではないかと、危惧しておられるのでしょう。
かくいう、それがしもお館様から叱責されましたゆえ」
愚痴を垂れる飯富虎昌に、義信が苦笑した。
「父上も難儀なものよ……。素直に跡取りの成長を喜べばいいものを……」
「きっと、恐れているのでしょう。いつの日か、父を追放した報いを受ける日が来ることを……」
ああ見えて、お館様は信心深いですからな……。
と、飯富虎昌が遠くを見つめるのだった。
馬場信春、飯富昌景ほか、新たに義信につけられた家臣を連れ、義信は岡崎城に帰還した。
「戻ったぞ」
拠点としている屋敷に入ると、長坂昌国、曽根虎盛、雨宮家次が駆け寄ってきた。
「おお、殿!」
「待ちわびておりましたぞ!」
「恩賞を! はやく恩賞を決めましょうぞ!」
「そう急かすな。慌てずとも、恩賞は逃げやしないさ」
はやる家臣たちをなだめ、義信は家臣と三河の国衆を岡崎城に集めた。
集まった家臣たちを見回し、声を張り上げる。
「飯富虎昌、お主には岡崎の地一万石と岡崎城代を任せる。この地は三河の要ゆえ、お主が適任だろう。……これからも頼りにしているぞ」
「ははっ、謹んでお受けいたします」
長坂昌国には5000石、曽根虎盛には3500石、雨宮家次には2000石を加増した。
義信の家臣団に恩賞を渡すと、次は信玄から借りた援軍にも恩賞を渡した。
義信の直臣ではないが、かといって恩賞を渡さなければ不満が出かねない。
「馬場信春、お主には吉田城代を任せる」
「はっ」
信春ほか、信玄から借りた援軍たちに恩賞を渡すと、次は三河の国衆たちの所領を安堵しなくてはならない。
徳川に味方したとはいえ、根絶やしにしては統治に障り、かといって野放しにしておけば反乱の芽となる、厄介な存在だ。
また、刈谷城の水野信元ほか、大久保忠世、奥平貞能など、三河の多くの国衆が武田家に臣従を表明した。
「若様に忠誠を誓う起請文をしたためました。どうぞ、お納めください」
「必要とあらば、人質も出させていただきますゆえ、なにとぞ……」
頭を下げる国衆たちを前に、義信が声を張り上げた。
「新たな三河の主であるこの私に頭を下げるその心意気、あっぱれである。お主らの臣従を受け入れよう」
国衆たちがほっと胸を撫で下ろした。
飯富虎昌がそっと耳打ちする。
「……よろしいのですか? あのようなことを約束して……」
「まだ本領を安堵したわけじゃないからな。これから先の戦いで我らに反抗した者には、所領を召し上げるなりなんなりするさ」
三河における武田家の力を強めるには、どのみち直轄地を増やす必要がある。
今はただ、ゆっくりと支配を強めていこう。
その間、自分にはやるべきことがあるのだ。
義信は一人思いふけるのだった。
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この時代、真田昌幸は武藤喜兵衛と名乗っていましたが、真田昌幸の方がわかりやすいので本作での表記は真田昌幸に統一しようと思います
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