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私、ルチアはダミアーニ伯爵家の長女として生まれた。隣領のヴェントーラ侯爵家は親同士がとても仲が良い。でも息子のファウストは最悪だ。会う度に私の容姿を「地味だ」と揶揄ってくる。
確かに、私のゆるく波打つ黒髪と菫色の瞳は、ファウストの金髪碧眼に比べれば控えめだ。でも自分としては気に入っている。小さいときのファウストは天使のようにかわいらしく、私とも仲良くしていたのに、背が伸びて貴公子然とした今は、どういうわけか私にだけ当たりがきつい。――いつも些細なことで喧嘩になってしまう。
15歳になると、この国の貴族の子弟たちは皆、王都にある王立学園に入学して、教養と交流を深める。初めて住む王都、新しい友だち――私は学園生活をとても楽しみにしていた。そんなある日だった、虫唾が走るような知らせを耳にしたのは。
「私とファウストが結婚?!」
親は新たに領境で見つかった鉄鉱山の開発のため、ヴェントーラ侯爵家と共同事業が必要である、政略結婚と思って嫁ぎなさいという。いくら抗議をしても、侯爵家からの申し出だから、と言って聞き入れてもらえなかった。
気が向かないまま、顔合わせに向かう。だけど――最初は少しは婚約者らしい雰囲気になるかとちょっとだけ期待した。
「ごきげんよう。婚約者様。」
完璧なカーテシーで挨拶したはずだった。ほんの一瞬、彼が私を見つめ、顔を赤らめたように見えた。でもこちらをまっすぐと見つめた双眸に、すぐに影が差した。
「ルチア、仮にも婚約者として会う初めてのお茶会なのだから、もう少しその……うれしそうにできないのか?」
残念そうに彼が言う。どういう意味だろう?内心ざわついたが、貴族らしくアルカイックスマイルを浮かべて答えた。
「突然のお話でしたから、私、心の整理がついていませんの。」
「ドレスも……この前うちに着てきたドレスと同じじゃないか?こういう時、女性は張り切って身なりを整え、殿方に会いにいくと聞くぞ。」
「あら、よく他人が着ていたドレスなんて覚えていますね。」
髪の毛はいつもより時間をかけて、専属侍女のジーナがセットしてくれた。まさか前回着ていたドレスを覚えているとは。ファウストの記憶力の良さと目ざとさに思わず目を剥いた。婚約者として仲良くできると期待した自分がやはり馬鹿だった。これでは、まるで世間で噂に聞く『姑』のようだ。
「うぐっ。君のお小遣いが足りていないというわけではないだろう。俺に会うのに派手にしろというわけではないが、ただもう少し着飾るという意欲はないのか。」
「そうですね。ありませんね。」
実のところ、私の服の趣味は壊滅的に悪い。これは侍女たち全員が口を揃えて言うから間違いない。だから母が買ってくれたドレスだけを着ている。もう数年、自分からねだることもしないから、数少ないドレスからやりくりしている。侍女たちが気を使って、コーディネートを頑張ってくれるが、ドレスがかぶってしまうのは仕方のないことだった。
「――それはつまり俺のことをなんとも思っていないということか?」
「そうは言っていないです。」
「じゃあどうして、うれしそうにしないんだ?」
「そう言われましても、ここ最近あなたとは喧嘩しかしてませんし。」
「ああ、もううんざりだ。お前といるとどうしていつもこうなってしまうんだ。」
ファウストが唇を噛みしめた。
「それは、あなたが初めに喧嘩を売るからでしょう?」
「ああそうか。お前の考えはよく分かった。そもそも俺は学園でかわいい令嬢を見つけて、仲良くしようと思っていたんだ。なんでお前と婚約なんてしなきゃいけないんだ。」
おお、ついに本音が出たか。
「それは、こちらのセリフですわね。」
売り言葉に買い言葉でつい口走る。
「親の意向だから結婚はする。だが婚約者だということは学園を卒業するまでは、絶対誰にも言うなよ。俺は学園でつかの間のモラトリアムを堪能させてもらう。いいか。学園で会っても話しかけて来るなよ。」
「ええ、ありがとうございます。では私も学園生活を満喫させて頂きますわ。」
手に持った扇子をテーブルに叩きつけて、立ち上がる。ああ、やってしまった。私にだって婚約者になったからには、昔のように仲良くしたいという気持ちはあったのに。
きっとお茶会での出来事を両親に話しても怒られるのは私だ。だから帰るまでにスッキリさせないと。帰りの馬車で侍女のジーナに愚痴を聞いてもらう。ジーナはくるくるとした茶色の巻き毛に茶色い瞳、そばかす交じりの頬が愛らしい。まるで小動物のようだ。少しおっちょこちょいだが、いつも一生懸命で私は好きだ。
「すみません。お嬢様。まさか同じドレスだったとは。専属侍女としてあるまじき大失態です。」
「いいのよ。悪いのはアイツだから。」
「このジーナ、今度のアンナマリア様のガーデンパーティーではお嬢様を必ずや令嬢一の美少女に仕上げて見せます。」
そこまで言われて、私はやっととんでもない『約束』をファウストとしてしまったことに気づいた。
「どうしよう、ジーナ。アンナマリア様に今度のガーデンパーティーで婚約者を紹介するって言っちゃったのよ~。」
アンナマリア様は公爵家の令嬢。そして令嬢たちを牛耳る偉大な存在だ。そんな彼女に婚約者と早速仲たがいしましたと馬鹿正直に言ったら、なんと噂されるか分からない。令嬢たちは時に辛辣で残酷だ。『婚約者に愛されぬ令嬢』『女として魅力のない地味令嬢』――耳にしたくない悪名が次々と思い浮かぶ。
「困ったわ。実に困ったわ。」
馬車を降りた後も頭の中はぐるぐるしていて、気づけば自室に籠っていた。結局いくら考えても、いい考えは思い浮かばなかった。
「ルチア、ファウスト様とのお茶会はどうだった?昔みたいに仲良くできた?」
夕食の席で母がにこにこしながら、聞いてくる。まさか早速喧嘩をしたとも言えず、黙りこくる。
「今は上手くいかなくても、そのうちお互い素直になれるわよ。」
母は私の沈黙に何かを察したようだが、お角違いである。仮に素直になるなら、私も彼もさっさとこの婚約を破棄したいのだから。
確かに、私のゆるく波打つ黒髪と菫色の瞳は、ファウストの金髪碧眼に比べれば控えめだ。でも自分としては気に入っている。小さいときのファウストは天使のようにかわいらしく、私とも仲良くしていたのに、背が伸びて貴公子然とした今は、どういうわけか私にだけ当たりがきつい。――いつも些細なことで喧嘩になってしまう。
15歳になると、この国の貴族の子弟たちは皆、王都にある王立学園に入学して、教養と交流を深める。初めて住む王都、新しい友だち――私は学園生活をとても楽しみにしていた。そんなある日だった、虫唾が走るような知らせを耳にしたのは。
「私とファウストが結婚?!」
親は新たに領境で見つかった鉄鉱山の開発のため、ヴェントーラ侯爵家と共同事業が必要である、政略結婚と思って嫁ぎなさいという。いくら抗議をしても、侯爵家からの申し出だから、と言って聞き入れてもらえなかった。
気が向かないまま、顔合わせに向かう。だけど――最初は少しは婚約者らしい雰囲気になるかとちょっとだけ期待した。
「ごきげんよう。婚約者様。」
完璧なカーテシーで挨拶したはずだった。ほんの一瞬、彼が私を見つめ、顔を赤らめたように見えた。でもこちらをまっすぐと見つめた双眸に、すぐに影が差した。
「ルチア、仮にも婚約者として会う初めてのお茶会なのだから、もう少しその……うれしそうにできないのか?」
残念そうに彼が言う。どういう意味だろう?内心ざわついたが、貴族らしくアルカイックスマイルを浮かべて答えた。
「突然のお話でしたから、私、心の整理がついていませんの。」
「ドレスも……この前うちに着てきたドレスと同じじゃないか?こういう時、女性は張り切って身なりを整え、殿方に会いにいくと聞くぞ。」
「あら、よく他人が着ていたドレスなんて覚えていますね。」
髪の毛はいつもより時間をかけて、専属侍女のジーナがセットしてくれた。まさか前回着ていたドレスを覚えているとは。ファウストの記憶力の良さと目ざとさに思わず目を剥いた。婚約者として仲良くできると期待した自分がやはり馬鹿だった。これでは、まるで世間で噂に聞く『姑』のようだ。
「うぐっ。君のお小遣いが足りていないというわけではないだろう。俺に会うのに派手にしろというわけではないが、ただもう少し着飾るという意欲はないのか。」
「そうですね。ありませんね。」
実のところ、私の服の趣味は壊滅的に悪い。これは侍女たち全員が口を揃えて言うから間違いない。だから母が買ってくれたドレスだけを着ている。もう数年、自分からねだることもしないから、数少ないドレスからやりくりしている。侍女たちが気を使って、コーディネートを頑張ってくれるが、ドレスがかぶってしまうのは仕方のないことだった。
「――それはつまり俺のことをなんとも思っていないということか?」
「そうは言っていないです。」
「じゃあどうして、うれしそうにしないんだ?」
「そう言われましても、ここ最近あなたとは喧嘩しかしてませんし。」
「ああ、もううんざりだ。お前といるとどうしていつもこうなってしまうんだ。」
ファウストが唇を噛みしめた。
「それは、あなたが初めに喧嘩を売るからでしょう?」
「ああそうか。お前の考えはよく分かった。そもそも俺は学園でかわいい令嬢を見つけて、仲良くしようと思っていたんだ。なんでお前と婚約なんてしなきゃいけないんだ。」
おお、ついに本音が出たか。
「それは、こちらのセリフですわね。」
売り言葉に買い言葉でつい口走る。
「親の意向だから結婚はする。だが婚約者だということは学園を卒業するまでは、絶対誰にも言うなよ。俺は学園でつかの間のモラトリアムを堪能させてもらう。いいか。学園で会っても話しかけて来るなよ。」
「ええ、ありがとうございます。では私も学園生活を満喫させて頂きますわ。」
手に持った扇子をテーブルに叩きつけて、立ち上がる。ああ、やってしまった。私にだって婚約者になったからには、昔のように仲良くしたいという気持ちはあったのに。
きっとお茶会での出来事を両親に話しても怒られるのは私だ。だから帰るまでにスッキリさせないと。帰りの馬車で侍女のジーナに愚痴を聞いてもらう。ジーナはくるくるとした茶色の巻き毛に茶色い瞳、そばかす交じりの頬が愛らしい。まるで小動物のようだ。少しおっちょこちょいだが、いつも一生懸命で私は好きだ。
「すみません。お嬢様。まさか同じドレスだったとは。専属侍女としてあるまじき大失態です。」
「いいのよ。悪いのはアイツだから。」
「このジーナ、今度のアンナマリア様のガーデンパーティーではお嬢様を必ずや令嬢一の美少女に仕上げて見せます。」
そこまで言われて、私はやっととんでもない『約束』をファウストとしてしまったことに気づいた。
「どうしよう、ジーナ。アンナマリア様に今度のガーデンパーティーで婚約者を紹介するって言っちゃったのよ~。」
アンナマリア様は公爵家の令嬢。そして令嬢たちを牛耳る偉大な存在だ。そんな彼女に婚約者と早速仲たがいしましたと馬鹿正直に言ったら、なんと噂されるか分からない。令嬢たちは時に辛辣で残酷だ。『婚約者に愛されぬ令嬢』『女として魅力のない地味令嬢』――耳にしたくない悪名が次々と思い浮かぶ。
「困ったわ。実に困ったわ。」
馬車を降りた後も頭の中はぐるぐるしていて、気づけば自室に籠っていた。結局いくら考えても、いい考えは思い浮かばなかった。
「ルチア、ファウスト様とのお茶会はどうだった?昔みたいに仲良くできた?」
夕食の席で母がにこにこしながら、聞いてくる。まさか早速喧嘩をしたとも言えず、黙りこくる。
「今は上手くいかなくても、そのうちお互い素直になれるわよ。」
母は私の沈黙に何かを察したようだが、お角違いである。仮に素直になるなら、私も彼もさっさとこの婚約を破棄したいのだから。
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