天才魔導士様はまだ恋を知らない~私を恋の実験台にしないで下さい!

志熊みゅう

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 私は早速魔塔の寮に移り住んだ。アレハンドロ一級魔導士の助手として、私の主要な業務は彼との『デート』だった。いわゆる恋人が遊びに行く場所に二人で出向く。

「恋人はファーストネームでお互いを呼び合うと聞いた。君のことは『セレナ』と呼ぶから、俺のことは『ラウル』と呼べ。」

「アレハンドロ一級魔導士様、それは恐れ多いです。」

「これは任務だ、セレナ。」

「わ、分かりました。ラウル。」

 今日はアレハンドロ一級魔導士改めラウルと魔塔を出て、近所のカフェを訪れた。

「セレナ、ここが恋人がよく訪れるというカフェだ。」

「それは、いいですけど、私たち手をつなぐ必要あります?」

「『デート』では手をつなぐと、既婚の魔導士から聞いた。必要だ。」

 おしゃれな店内、かわいい店員さん、おいしそうなケーキ、良い香りの紅茶。さすが王都。どこをとっても洗練されていて、田舎者の私は思わず、挙動不審になる。

「ラウル、おしゃれ過ぎて緊張しますね。」

「それはドキドキしているのか?顔面は赤くないようだが。」

「ドキドキはしていますね。」

「ご注文のシトロンのケーキです。」

 うわあ、かわいい。私がケーキに見惚れていると、ラウルが先に一口、ケーキを口に運んだ。その瞬間、ラウルが奇声を上げた。

「うげ。なんだこのケーキ、どうして酸っぱいクリームが中に入っているのだ。」

「味が重層的になって、おいしいじゃないですか?むしろダメなんですか?」

「甘いものは甘くあるべきだ。」

「な、なるほど。」

 ラウルは、黙っていればイケメンなのだが、どうにも魔塔暮らしが長すぎるせいか、ところどころ発想や発言が一般人のそれからズレている。

「――ところで『恋愛』というものは、『デート』の間に育まれると本で読んだ。」

「はい。」

「人は『恋』をすると、多幸感があり、心拍数が上がる。また末端の血管が開き、顔面が紅潮すると。」

「そうですね。」

「君は先程ドキドキすると言ったが、俺はここで君とケーキを食べ、紅茶を飲んでいても、そういったことが起こらない。」

「……。」

 そりゃ私に対する好意がないのだから、仕方ないだろう。『一』は環境で『ニ』にも『三』にもなるが、『ゼロ』は何を掛け合わせても『ゼロ』のままだ。

 それからも、めげずに二人で色々なところに行った。お祭りにディナー、仮面舞踏会、そして遠乗り。私も彼をドキドキさせようとあの手この手で頑張ったが、一般人と感覚がズレたラウルには、何をやってもイマイチ響かなかった。

「『恋』とは一体なんなのだ。人を愛しいと思う気持ちがどうしても分からない。」

 もうこれは『相手』を替えるしかないんじゃないかと思ったけれど、私はあえてそれを提案しなかった。彼の魔術の授業がとても分かりやすかったから、少しでも長く彼の助手でいたかったのだ。

「ラウル、今日も魔塔に帰還後、特訓をお願いします。」

「ああ、それは約束だからな。魔導士たる者、約束は破らない。」

 魔塔に戻ると、真っ暗になった中庭に明かりを灯して練習を始める。今日の特訓は基礎攻撃魔法だ。

「あの的に向かって、炎の矢を放て。矢が的に当たる様子をイメージするんだ。」

「はい。サギッタ・イグニス――炎の矢!」

 杖を振ると、魔法陣が展開される。炎の矢が魔法陣から出力されて、次々と的に向かって飛んでいく。十本中九本の矢が的に当たり、的が燃え落ちた。その情景を恍惚とラウルが見つめていた。

「なんて美しい魔力なんだ……。これがクリスタルクリア。本当にきれいだ。」

 ラウルは私が魔法を使う度に、きれいだきれいだと褒めてくれる。単に魔力の純度を褒められているだけなのに、自分のことを褒められているような、不思議な気持ちになる。

「ありがとうございます。でも私はラウルみたいに魔力が無尽蔵にある方がうらやましいです。」

「60,000あっても、普段は使わない。魔力純度が高いと、魔法を使った時に余計なノイズが出ないから、技の完成度も高くなるんだよ。これは生まれ持った才能だな。ははは。」

 ラウルの笑顔は輝いていた。本当にこの人は魔法が好きなんだなと思った。

「そうだ、これ。」

 彼はポケットから赤いピアスを取り出した。彼とお揃いのピアスだ。それを私の右耳に付けた。

「これは呪い除けのピアスだ。魔塔は色々な研究をしている奴がいるからな。用心するに越したことはない。」

 中庭に灯された明かりで、ラウルの頬が少し赤く染まった。
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