4 / 6
4.
しおりを挟む
私は早速魔塔の寮に移り住んだ。アレハンドロ一級魔導士の助手として、私の主要な業務は彼との『デート』だった。いわゆる恋人が遊びに行く場所に二人で出向く。
「恋人はファーストネームでお互いを呼び合うと聞いた。君のことは『セレナ』と呼ぶから、俺のことは『ラウル』と呼べ。」
「アレハンドロ一級魔導士様、それは恐れ多いです。」
「これは任務だ、セレナ。」
「わ、分かりました。ラウル。」
今日はアレハンドロ一級魔導士改めラウルと魔塔を出て、近所のカフェを訪れた。
「セレナ、ここが恋人がよく訪れるというカフェだ。」
「それは、いいですけど、私たち手をつなぐ必要あります?」
「『デート』では手をつなぐと、既婚の魔導士から聞いた。必要だ。」
おしゃれな店内、かわいい店員さん、おいしそうなケーキ、良い香りの紅茶。さすが王都。どこをとっても洗練されていて、田舎者の私は思わず、挙動不審になる。
「ラウル、おしゃれ過ぎて緊張しますね。」
「それはドキドキしているのか?顔面は赤くないようだが。」
「ドキドキはしていますね。」
「ご注文のシトロンのケーキです。」
うわあ、かわいい。私がケーキに見惚れていると、ラウルが先に一口、ケーキを口に運んだ。その瞬間、ラウルが奇声を上げた。
「うげ。なんだこのケーキ、どうして酸っぱいクリームが中に入っているのだ。」
「味が重層的になって、おいしいじゃないですか?むしろダメなんですか?」
「甘いものは甘くあるべきだ。」
「な、なるほど。」
ラウルは、黙っていればイケメンなのだが、どうにも魔塔暮らしが長すぎるせいか、ところどころ発想や発言が一般人のそれからズレている。
「――ところで『恋愛』というものは、『デート』の間に育まれると本で読んだ。」
「はい。」
「人は『恋』をすると、多幸感があり、心拍数が上がる。また末端の血管が開き、顔面が紅潮すると。」
「そうですね。」
「君は先程ドキドキすると言ったが、俺はここで君とケーキを食べ、紅茶を飲んでいても、そういったことが起こらない。」
「……。」
そりゃ私に対する好意がないのだから、仕方ないだろう。『一』は環境で『ニ』にも『三』にもなるが、『ゼロ』は何を掛け合わせても『ゼロ』のままだ。
それからも、めげずに二人で色々なところに行った。お祭りにディナー、仮面舞踏会、そして遠乗り。私も彼をドキドキさせようとあの手この手で頑張ったが、一般人と感覚がズレたラウルには、何をやってもイマイチ響かなかった。
「『恋』とは一体なんなのだ。人を愛しいと思う気持ちがどうしても分からない。」
もうこれは『相手』を替えるしかないんじゃないかと思ったけれど、私はあえてそれを提案しなかった。彼の魔術の授業がとても分かりやすかったから、少しでも長く彼の助手でいたかったのだ。
「ラウル、今日も魔塔に帰還後、特訓をお願いします。」
「ああ、それは約束だからな。魔導士たる者、約束は破らない。」
魔塔に戻ると、真っ暗になった中庭に明かりを灯して練習を始める。今日の特訓は基礎攻撃魔法だ。
「あの的に向かって、炎の矢を放て。矢が的に当たる様子をイメージするんだ。」
「はい。サギッタ・イグニス――炎の矢!」
杖を振ると、魔法陣が展開される。炎の矢が魔法陣から出力されて、次々と的に向かって飛んでいく。十本中九本の矢が的に当たり、的が燃え落ちた。その情景を恍惚とラウルが見つめていた。
「なんて美しい魔力なんだ……。これがクリスタルクリア。本当にきれいだ。」
ラウルは私が魔法を使う度に、きれいだきれいだと褒めてくれる。単に魔力の純度を褒められているだけなのに、自分のことを褒められているような、不思議な気持ちになる。
「ありがとうございます。でも私はラウルみたいに魔力が無尽蔵にある方がうらやましいです。」
「60,000あっても、普段は使わない。魔力純度が高いと、魔法を使った時に余計なノイズが出ないから、技の完成度も高くなるんだよ。これは生まれ持った才能だな。ははは。」
ラウルの笑顔は輝いていた。本当にこの人は魔法が好きなんだなと思った。
「そうだ、これ。」
彼はポケットから赤いピアスを取り出した。彼とお揃いのピアスだ。それを私の右耳に付けた。
「これは呪い除けのピアスだ。魔塔は色々な研究をしている奴がいるからな。用心するに越したことはない。」
中庭に灯された明かりで、ラウルの頬が少し赤く染まった。
「恋人はファーストネームでお互いを呼び合うと聞いた。君のことは『セレナ』と呼ぶから、俺のことは『ラウル』と呼べ。」
「アレハンドロ一級魔導士様、それは恐れ多いです。」
「これは任務だ、セレナ。」
「わ、分かりました。ラウル。」
今日はアレハンドロ一級魔導士改めラウルと魔塔を出て、近所のカフェを訪れた。
「セレナ、ここが恋人がよく訪れるというカフェだ。」
「それは、いいですけど、私たち手をつなぐ必要あります?」
「『デート』では手をつなぐと、既婚の魔導士から聞いた。必要だ。」
おしゃれな店内、かわいい店員さん、おいしそうなケーキ、良い香りの紅茶。さすが王都。どこをとっても洗練されていて、田舎者の私は思わず、挙動不審になる。
「ラウル、おしゃれ過ぎて緊張しますね。」
「それはドキドキしているのか?顔面は赤くないようだが。」
「ドキドキはしていますね。」
「ご注文のシトロンのケーキです。」
うわあ、かわいい。私がケーキに見惚れていると、ラウルが先に一口、ケーキを口に運んだ。その瞬間、ラウルが奇声を上げた。
「うげ。なんだこのケーキ、どうして酸っぱいクリームが中に入っているのだ。」
「味が重層的になって、おいしいじゃないですか?むしろダメなんですか?」
「甘いものは甘くあるべきだ。」
「な、なるほど。」
ラウルは、黙っていればイケメンなのだが、どうにも魔塔暮らしが長すぎるせいか、ところどころ発想や発言が一般人のそれからズレている。
「――ところで『恋愛』というものは、『デート』の間に育まれると本で読んだ。」
「はい。」
「人は『恋』をすると、多幸感があり、心拍数が上がる。また末端の血管が開き、顔面が紅潮すると。」
「そうですね。」
「君は先程ドキドキすると言ったが、俺はここで君とケーキを食べ、紅茶を飲んでいても、そういったことが起こらない。」
「……。」
そりゃ私に対する好意がないのだから、仕方ないだろう。『一』は環境で『ニ』にも『三』にもなるが、『ゼロ』は何を掛け合わせても『ゼロ』のままだ。
それからも、めげずに二人で色々なところに行った。お祭りにディナー、仮面舞踏会、そして遠乗り。私も彼をドキドキさせようとあの手この手で頑張ったが、一般人と感覚がズレたラウルには、何をやってもイマイチ響かなかった。
「『恋』とは一体なんなのだ。人を愛しいと思う気持ちがどうしても分からない。」
もうこれは『相手』を替えるしかないんじゃないかと思ったけれど、私はあえてそれを提案しなかった。彼の魔術の授業がとても分かりやすかったから、少しでも長く彼の助手でいたかったのだ。
「ラウル、今日も魔塔に帰還後、特訓をお願いします。」
「ああ、それは約束だからな。魔導士たる者、約束は破らない。」
魔塔に戻ると、真っ暗になった中庭に明かりを灯して練習を始める。今日の特訓は基礎攻撃魔法だ。
「あの的に向かって、炎の矢を放て。矢が的に当たる様子をイメージするんだ。」
「はい。サギッタ・イグニス――炎の矢!」
杖を振ると、魔法陣が展開される。炎の矢が魔法陣から出力されて、次々と的に向かって飛んでいく。十本中九本の矢が的に当たり、的が燃え落ちた。その情景を恍惚とラウルが見つめていた。
「なんて美しい魔力なんだ……。これがクリスタルクリア。本当にきれいだ。」
ラウルは私が魔法を使う度に、きれいだきれいだと褒めてくれる。単に魔力の純度を褒められているだけなのに、自分のことを褒められているような、不思議な気持ちになる。
「ありがとうございます。でも私はラウルみたいに魔力が無尽蔵にある方がうらやましいです。」
「60,000あっても、普段は使わない。魔力純度が高いと、魔法を使った時に余計なノイズが出ないから、技の完成度も高くなるんだよ。これは生まれ持った才能だな。ははは。」
ラウルの笑顔は輝いていた。本当にこの人は魔法が好きなんだなと思った。
「そうだ、これ。」
彼はポケットから赤いピアスを取り出した。彼とお揃いのピアスだ。それを私の右耳に付けた。
「これは呪い除けのピアスだ。魔塔は色々な研究をしている奴がいるからな。用心するに越したことはない。」
中庭に灯された明かりで、ラウルの頬が少し赤く染まった。
21
あなたにおすすめの小説
あなたは愛を誓えますか?
縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。
だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。
皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか?
でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。
これはすれ違い愛の物語です。
似合わない2人が見つけた幸せ
木蓮
恋愛
レックスには美しい自分に似合わない婚約者がいる。自分のプライドを傷つけ続ける婚約者に苛立つレックスの前に、ある日理想の姿をした美しい令嬢ミレイが現れる。彼女はレックスに甘くささやく「私のために最高のドレスを作って欲しい」と。
*1日1話、18時更新です。
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
【短編】男爵令嬢のマネをして「で〜んかっ♡」と侯爵令嬢が婚約者の王子に呼びかけた結果
あまぞらりゅう
恋愛
「で〜んかっ♡」
シャルロッテ侯爵令嬢は婚約者であるエドゥアルト王子をローゼ男爵令嬢に奪われてしまった。
下位貴族に無様に敗北した惨めな彼女が起死回生を賭けて起こした行動は……?
★他サイト様にも投稿しています!
★2022.8.9小説家になろう様にて日間総合1位を頂きました! ありがとうございます!!
二人が一緒にいる理由
四折 柊
恋愛
キャサリンはヴィクターが好き。だけど私たちは恋人ではない。いわゆる腐れ縁で一緒に過ごしてきた。でもそれも終わる。学園を卒業すればお互いに婚約者を探すことになるから。そうなれば今と同じ気安い関係ではいられなくなるだろう。「それは嫌」キャサリンは勇気を出して想いを告げようと決心した。全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる