6 / 6
6.
しおりを挟む
「ラウル、ありがとうございます。私はもっと魔法を勉強したかったので、とても助かりました。」
「ああ、礼には及ばん。」
「でも、どうして私の居場所が分かったのですか?」
「これだ。」
そう言って、私の右耳のピアスに触れる。
「実はこのピアスには、呪い除けだけでなく、追跡魔法もかけてある。君が一人で出かけて何かあるといけないと思って。」
「へ!?そんなの聞いてないです。」
「――黙っていてすまない。実は君には黙っていたが、君が攫われる夢を繰り返しみて、本当に心配だったんだ。」
「予知夢ですか?それなら私に教えてくれればよかったのに。」
私には経験がないが、高い魔力を持つ者は、稀に予知夢を見ることがあると聞いたことがある。
「いや、俺もこんなことは初めてで予知夢かどうか確証が持てなくて。――それにしても、物理攻撃を仕掛けられるとは想定外だった。世の中は魔力が無い者がほとんどだということを忘れていた。このピアスに防御魔法を追加してもよいか?」
私が頷くと、鈍く赤くピアスが光った。また無詠唱でラウルが魔法をかけたのだろう。この一件以降、ラウルとの『デート』はなくなり、逆によっぽどの理由がないと魔塔から出してもらえなくなった。その分、魔法に専念できるし、親に会わなくていいため、助かってはいる。
モラレス伯爵家との縁談はもちろん破談になった。両親はあれから何度も手紙を寄こしたが、内容は交渉の余地がないものだった。子は親の所有物であるという感覚なのだろう。ラウルに報告すると、イグナシオ家の人間では魔塔の厳重な警備を超えられないだろうから、無視すればいいと言う。返事は送らないことにした。
魔塔に籠っている分、助手として魔法の研究・開発の仕事が増えた。今まで通り、ラウルは私の魔法練習の時間は取ってくれる。大変ありがたいのだが、この仕事は元々『短期・特定任務』の研究助手のはずだ。魅了魔法の開発はいいのだろうか?
「ラウル、そういえば『魅了魔法』の開発はどうなったんですか?」
「ああ、それか。魅了魔法は錬成不可能だと結論付けた。フェリペ殿下には自力で婚約者の気を引くように伝えた。」
「不可能と言いますと。」
「性欲を高めるだけであれば、万人に共通するメカニズムがある。だが一口に『恋愛』と言っても実に色々な状況があり、共通するトリガーを見出すのは難しい。」
「そうですね……。一目で誰かを好きになる人もいれば、何らかのエピソードを経て互いに想い合う人もいます。」
「俺はあの日、君が魔塔に戻らず、どうしようもなく不安になった。追跡魔法をたどって君の家に行き、無理に縁談を進められそうになっている君をみて、君の……、誰よりも美しい君の『魔力』を守らないといけない、と思った。」
「ま、魔力を?」
「この君の魔力を尊い想う気持ちが、世間で言う『誰かを愛しいと想う気持ち』に近いと思った。しかし、私のこの気持ちは、私が幼少の頃から、魔塔で育って、魔法研究に全て捧げているが故に生じた感情だ。同じように、人はそれぞれ生まれ育った環境、交友関係の中で、他人を愛し、恋に落ちる。つまり何がトリガーになるか分からないということだ。ある程度、一般化できないと魔法には落とし込めない。」
なるほど、そう来たか。魔法バカのラウルらしいなと思った。
「だとすると、私の仕事はどうなるんですか?もともと、私、魅了魔法の開発助手だったので……。」
「ああ。それなら、もう常勤の助手に切り替えるように手配している。今週中に君のところに新しい契約書が届くはずだ。待遇はこれまでと一緒だ。魔法も今まで通り教える。」
「へっ、私が常勤!?」
「……ダメだろうか?魅了魔法に限らず、ここで俺の研究を手伝って欲しい。君だって魔法を使えるようになりたいのだろう?」
慌てた様子でラウルが覗き込む。紫色の瞳が不安そうに揺れた。
「ええ、とてもうれしいです!ラウル、これからもよろしくお願いします。魅了魔法の件も、お役に立てたみたいでよかったです。」
「良かった。これからもよろしく頼む。」
それから用もないのに話しかけてきたり、私が他の研究員と話していると不機嫌になったり。――私が誘拐されてから、彼の態度は変わった。まだ彼が気づいてないだけで、彼が好いているのはきっと私の『魔力』だけではないんだろう。そんな彼を、私もいつの間にかただの上司以上に想うようになっていた。
――ちなみに私たち二人が恋人同士になって、正式に婚約をするのは、まだ先の話である。
「ああ、礼には及ばん。」
「でも、どうして私の居場所が分かったのですか?」
「これだ。」
そう言って、私の右耳のピアスに触れる。
「実はこのピアスには、呪い除けだけでなく、追跡魔法もかけてある。君が一人で出かけて何かあるといけないと思って。」
「へ!?そんなの聞いてないです。」
「――黙っていてすまない。実は君には黙っていたが、君が攫われる夢を繰り返しみて、本当に心配だったんだ。」
「予知夢ですか?それなら私に教えてくれればよかったのに。」
私には経験がないが、高い魔力を持つ者は、稀に予知夢を見ることがあると聞いたことがある。
「いや、俺もこんなことは初めてで予知夢かどうか確証が持てなくて。――それにしても、物理攻撃を仕掛けられるとは想定外だった。世の中は魔力が無い者がほとんどだということを忘れていた。このピアスに防御魔法を追加してもよいか?」
私が頷くと、鈍く赤くピアスが光った。また無詠唱でラウルが魔法をかけたのだろう。この一件以降、ラウルとの『デート』はなくなり、逆によっぽどの理由がないと魔塔から出してもらえなくなった。その分、魔法に専念できるし、親に会わなくていいため、助かってはいる。
モラレス伯爵家との縁談はもちろん破談になった。両親はあれから何度も手紙を寄こしたが、内容は交渉の余地がないものだった。子は親の所有物であるという感覚なのだろう。ラウルに報告すると、イグナシオ家の人間では魔塔の厳重な警備を超えられないだろうから、無視すればいいと言う。返事は送らないことにした。
魔塔に籠っている分、助手として魔法の研究・開発の仕事が増えた。今まで通り、ラウルは私の魔法練習の時間は取ってくれる。大変ありがたいのだが、この仕事は元々『短期・特定任務』の研究助手のはずだ。魅了魔法の開発はいいのだろうか?
「ラウル、そういえば『魅了魔法』の開発はどうなったんですか?」
「ああ、それか。魅了魔法は錬成不可能だと結論付けた。フェリペ殿下には自力で婚約者の気を引くように伝えた。」
「不可能と言いますと。」
「性欲を高めるだけであれば、万人に共通するメカニズムがある。だが一口に『恋愛』と言っても実に色々な状況があり、共通するトリガーを見出すのは難しい。」
「そうですね……。一目で誰かを好きになる人もいれば、何らかのエピソードを経て互いに想い合う人もいます。」
「俺はあの日、君が魔塔に戻らず、どうしようもなく不安になった。追跡魔法をたどって君の家に行き、無理に縁談を進められそうになっている君をみて、君の……、誰よりも美しい君の『魔力』を守らないといけない、と思った。」
「ま、魔力を?」
「この君の魔力を尊い想う気持ちが、世間で言う『誰かを愛しいと想う気持ち』に近いと思った。しかし、私のこの気持ちは、私が幼少の頃から、魔塔で育って、魔法研究に全て捧げているが故に生じた感情だ。同じように、人はそれぞれ生まれ育った環境、交友関係の中で、他人を愛し、恋に落ちる。つまり何がトリガーになるか分からないということだ。ある程度、一般化できないと魔法には落とし込めない。」
なるほど、そう来たか。魔法バカのラウルらしいなと思った。
「だとすると、私の仕事はどうなるんですか?もともと、私、魅了魔法の開発助手だったので……。」
「ああ。それなら、もう常勤の助手に切り替えるように手配している。今週中に君のところに新しい契約書が届くはずだ。待遇はこれまでと一緒だ。魔法も今まで通り教える。」
「へっ、私が常勤!?」
「……ダメだろうか?魅了魔法に限らず、ここで俺の研究を手伝って欲しい。君だって魔法を使えるようになりたいのだろう?」
慌てた様子でラウルが覗き込む。紫色の瞳が不安そうに揺れた。
「ええ、とてもうれしいです!ラウル、これからもよろしくお願いします。魅了魔法の件も、お役に立てたみたいでよかったです。」
「良かった。これからもよろしく頼む。」
それから用もないのに話しかけてきたり、私が他の研究員と話していると不機嫌になったり。――私が誘拐されてから、彼の態度は変わった。まだ彼が気づいてないだけで、彼が好いているのはきっと私の『魔力』だけではないんだろう。そんな彼を、私もいつの間にかただの上司以上に想うようになっていた。
――ちなみに私たち二人が恋人同士になって、正式に婚約をするのは、まだ先の話である。
22
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
あなたは愛を誓えますか?
縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。
だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。
皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか?
でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。
これはすれ違い愛の物語です。
似合わない2人が見つけた幸せ
木蓮
恋愛
レックスには美しい自分に似合わない婚約者がいる。自分のプライドを傷つけ続ける婚約者に苛立つレックスの前に、ある日理想の姿をした美しい令嬢ミレイが現れる。彼女はレックスに甘くささやく「私のために最高のドレスを作って欲しい」と。
*1日1話、18時更新です。
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
【短編】男爵令嬢のマネをして「で〜んかっ♡」と侯爵令嬢が婚約者の王子に呼びかけた結果
あまぞらりゅう
恋愛
「で〜んかっ♡」
シャルロッテ侯爵令嬢は婚約者であるエドゥアルト王子をローゼ男爵令嬢に奪われてしまった。
下位貴族に無様に敗北した惨めな彼女が起死回生を賭けて起こした行動は……?
★他サイト様にも投稿しています!
★2022.8.9小説家になろう様にて日間総合1位を頂きました! ありがとうございます!!
二人が一緒にいる理由
四折 柊
恋愛
キャサリンはヴィクターが好き。だけど私たちは恋人ではない。いわゆる腐れ縁で一緒に過ごしてきた。でもそれも終わる。学園を卒業すればお互いに婚約者を探すことになるから。そうなれば今と同じ気安い関係ではいられなくなるだろう。「それは嫌」キャサリンは勇気を出して想いを告げようと決心した。全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる