天才魔導士様はまだ恋を知らない~私を恋の実験台にしないで下さい!

志熊みゅう

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「ラウル、ありがとうございます。私はもっと魔法を勉強したかったので、とても助かりました。」

「ああ、礼には及ばん。」

「でも、どうして私の居場所が分かったのですか?」

「これだ。」

 そう言って、私の右耳のピアスに触れる。

「実はこのピアスには、呪い除けだけでなく、追跡魔法もかけてある。君が一人で出かけて何かあるといけないと思って。」

「へ!?そんなの聞いてないです。」

「――黙っていてすまない。実は君には黙っていたが、君が攫われる夢を繰り返しみて、本当に心配だったんだ。」

「予知夢ですか?それなら私に教えてくれればよかったのに。」

 私には経験がないが、高い魔力を持つ者は、稀に予知夢を見ることがあると聞いたことがある。

「いや、俺もこんなことは初めてで予知夢かどうか確証が持てなくて。――それにしても、物理攻撃を仕掛けられるとは想定外だった。世の中は魔力が無い者がほとんどだということを忘れていた。このピアスに防御魔法を追加してもよいか?」

 私が頷くと、鈍く赤くピアスが光った。また無詠唱でラウルが魔法をかけたのだろう。この一件以降、ラウルとの『デート』はなくなり、逆によっぽどの理由がないと魔塔から出してもらえなくなった。その分、魔法に専念できるし、親に会わなくていいため、助かってはいる。

 モラレス伯爵家との縁談はもちろん破談になった。両親はあれから何度も手紙を寄こしたが、内容は交渉の余地がないものだった。子は親の所有物であるという感覚なのだろう。ラウルに報告すると、イグナシオ家の人間では魔塔の厳重な警備を超えられないだろうから、無視すればいいと言う。返事は送らないことにした。

 魔塔に籠っている分、助手として魔法の研究・開発の仕事が増えた。今まで通り、ラウルは私の魔法練習の時間は取ってくれる。大変ありがたいのだが、この仕事は元々『短期・特定任務』の研究助手のはずだ。魅了魔法の開発はいいのだろうか?

「ラウル、そういえば『魅了魔法』の開発はどうなったんですか?」

「ああ、それか。魅了魔法は錬成不可能だと結論付けた。フェリペ殿下には自力で婚約者の気を引くように伝えた。」

「不可能と言いますと。」

「性欲を高めるだけであれば、万人に共通するメカニズムがある。だが一口に『恋愛』と言っても実に色々な状況があり、共通するトリガーを見出すのは難しい。」

「そうですね……。一目で誰かを好きになる人もいれば、何らかのエピソードを経て互いに想い合う人もいます。」

「俺はあの日、君が魔塔に戻らず、どうしようもなく不安になった。追跡魔法をたどって君の家に行き、無理に縁談を進められそうになっている君をみて、君の……、誰よりも美しい君の『魔力』を守らないといけない、と思った。」

「ま、魔力を?」

「この君の魔力を尊い想う気持ちが、世間で言う『誰かを愛しいと想う気持ち』に近いと思った。しかし、私のこの気持ちは、私が幼少の頃から、魔塔で育って、魔法研究に全て捧げているが故に生じた感情だ。同じように、人はそれぞれ生まれ育った環境、交友関係の中で、他人を愛し、恋に落ちる。つまり何がトリガーになるか分からないということだ。ある程度、一般化できないと魔法には落とし込めない。」

 なるほど、そう来たか。魔法バカのラウルらしいなと思った。

「だとすると、私の仕事はどうなるんですか?もともと、私、魅了魔法の開発助手だったので……。」

「ああ。それなら、もう常勤の助手に切り替えるように手配している。今週中に君のところに新しい契約書が届くはずだ。待遇はこれまでと一緒だ。魔法も今まで通り教える。」

「へっ、私が常勤!?」

「……ダメだろうか?魅了魔法に限らず、ここで俺の研究を手伝って欲しい。君だって魔法を使えるようになりたいのだろう?」

 慌てた様子でラウルが覗き込む。紫色の瞳が不安そうに揺れた。

「ええ、とてもうれしいです!ラウル、これからもよろしくお願いします。魅了魔法の件も、お役に立てたみたいでよかったです。」

「良かった。これからもよろしく頼む。」

 それから用もないのに話しかけてきたり、私が他の研究員と話していると不機嫌になったり。――私が誘拐されてから、彼の態度は変わった。まだ彼が気づいてないだけで、彼が好いているのはきっと私の『魔力』だけではないんだろう。そんな彼を、私もいつの間にかただの上司以上に想うようになっていた。

 ――ちなみに私たち二人が恋人同士になって、正式に婚約をするのは、まだ先の話である。
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