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第二章 求婚
11. 挿絵
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後日、マヌエルからユニコーンの挿絵と、画廊で倒れたことの謝罪の手紙が届いた。購入した絵画については、展示期間がもう少しあるということで、後日届けられることになった。手紙の最後に添えられていた私の似顔絵は、驚くほど優しい線で描かれていて――思わず、切り取って額に入れたくなった。
マヌエルが私のことをね……。意外な気はしたけど、丁寧に書かれたこの絵を見て、大切に思ってくれているんだろうなと思った。
ロレンシオはというと、毎日のように長文で、表現や言葉を変えて、愛を伝えてくる。こちらは雑談や日常の出来事で返しているが、そろそろ話題にも困ってきた。羽ペンにインクをつけては、何を書こうかと迷ってしまう。今日は、ユニコーンとお姫様の挿絵が完成した、今度会ったときに見せたいと書いた。あえてマヌエルの名前は出さなかった。
午後は本屋と雑貨屋に顔を出す予定だ。お忍び用のチェックワンピースに袖を通し、街に出向いた。
「フロレンシア、みいつけた。」
馬車から降りて、本屋に入ろうとしたところ、ロレンシオに後ろからそっと抱きつかれた。
「あら、あなた。もしかして待ち伏せしていたの?」
「うん。本屋の店長に聞いたら、今日の午後来るかもって言ってたから。」
「ちょっと人前だし、離れてくれる?」
「あ……ごめん。つい、うれしくて。」
二人で店内に入ると、初老で白髪交じりの店長が出迎えてくれた。
「フロレンシア様、ロレンシオ様、お二人揃って見えられるとは、仲がよろしいようですな。」
店長はそういって、微笑んだ。その後、売れ筋の本や売り上げを確認し、店内を見回った。
「そういえば、今度また童話を出そうと思って。挿絵もできたから、活版印刷を頼もうと思っているわ。」
「いいですね。どのような内容にございますか?」
「またテリソートの童話よ。ユニコーンとお姫様のお話なの。お姫様に助けられたユニコーンが、今度は幽閉されたお姫様を救って、新しい国をつくるの。」
「それはそれは壮大なお話で。」
「翻訳は、ロレンシオにお願いしたの。素晴らしい出来よ。今回も売れると思うわ。」
「ロレンシオ様は多才なんですね。私ら庶民はこの国の言語をしゃべるだけで手一杯ですよ。」
そういって店長が笑った。
「ロレンシオはただ両方の言語が使えるってだけではないの。言葉選びがとても繊細できれいなのよ。だからいつもお願いしてるの。」
「フロレンシアにそう言ってもらえるとうれしいです。またいくらでもお手伝いしますよ。」
「ありがとうね。ロレンシオ。」
どこか照れたように、目を伏せて笑うロレンシオは、やっぱり年相応の青年だ。
その後、雑貨屋の方にも顔を出して、店内を見てまわった。店員に話を聞くと、文房具の売れ行きがいいらしい。特にパステルカラーの羽がついた羽ペンがよく売れているそう。
ロレンシオはユニコーンが描かれた小皿を見ていた。テリソートから輸入品は、ユニコーンに因んだ意匠が多い。
「ねえ、ロレンシオ。時間があったら、うちに寄っていかない?実は今日送った手紙にも書いたけど、ユニコーンとお姫様の挿絵が出来たの。あなたにも見せたくて。」
「うれしいです。ぜひ伺わせてください、フロレンシア。」
馬車に揺られ、家に戻ると、ロレンシオをサンルームに案内した。
「私ね、この部屋がこの家で一番好きなの。庭が見えて、ぽかぽかしてきれいでしょ。」
ロレンシオは何故かとても感心した様子だ。
「フロレンシアが、サンルームが好きだったとは。うちにも作らせます。」
「いいの、いいの。あなたの家は十分過ぎるほど、もう素敵だから。」
いきなり、そんなことを言いだすから、少し焦った。
「フロレンシア様、まずは紅茶をお持ちしました。挿絵の方もすぐにお持ち致します。」
ティーポットから熱々の紅茶がそれぞれのカップに注がれる。早速淹れたてを一口頂いた。
「――私も答えを保留にしているのは悪いと思っているわよ。ただ、やっぱりまだあなたを、弟としてしか見れないの。ごめんなさいね。」
「大丈夫です。待つのは慣れていますから。――ゆっくりゆっくり、心も体も僕のものにします。」
ロレンシオはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。まっすぐこちらを見つめる菫色の瞳に、胸がドキッとした。翻訳をほめられた時に見せた、照れくさそうな表情と違って、色気に満ちた余裕のある大人の男性の表情。――急にこういう表情をするから、彼の本心がどこにあるのか、よく分からなくなってしまう。
そんな話をしていると、ブランカが童話の挿絵を持ってきてくれた。食べ物や紅茶で汚さないように、手を拭いてから、受け取った。
「ロレンシオ、あなたはちょっと嫌かもしれないけど、実は今回の絵、マヌエルに描いてもらったの。」
マヌエルの名前を聞くなり、ロレンシオの眉尾がピッと上がった
「――大丈夫です。彼はフロレンシアの大事なビジネスパートナーだと、頭では理解していますから。」
それからいくつかの挿絵を見せた。始めは少し取り乱した様子だったロレンシオも、徐々に落ち着いてきた。
「この絵、森で姉様に見つけてもらった僕みたい。」
それは童話の冒頭のシーン。――傷だらけのユニコーンが王女様に助けてもらうシーンだ。
「そうね。言われてみれば、確かにそうかも。」
「ねえ、姉様。やっぱり好き。大好き。――だから早く僕のお嫁さんになってよ。」
今度は上目遣いで甘えるようにそんなことをいう。そんなロレンシオの表情の一つ一つに、振り回され、心がかき乱されている。そんな自分に少しだけ動揺した。
マヌエルが私のことをね……。意外な気はしたけど、丁寧に書かれたこの絵を見て、大切に思ってくれているんだろうなと思った。
ロレンシオはというと、毎日のように長文で、表現や言葉を変えて、愛を伝えてくる。こちらは雑談や日常の出来事で返しているが、そろそろ話題にも困ってきた。羽ペンにインクをつけては、何を書こうかと迷ってしまう。今日は、ユニコーンとお姫様の挿絵が完成した、今度会ったときに見せたいと書いた。あえてマヌエルの名前は出さなかった。
午後は本屋と雑貨屋に顔を出す予定だ。お忍び用のチェックワンピースに袖を通し、街に出向いた。
「フロレンシア、みいつけた。」
馬車から降りて、本屋に入ろうとしたところ、ロレンシオに後ろからそっと抱きつかれた。
「あら、あなた。もしかして待ち伏せしていたの?」
「うん。本屋の店長に聞いたら、今日の午後来るかもって言ってたから。」
「ちょっと人前だし、離れてくれる?」
「あ……ごめん。つい、うれしくて。」
二人で店内に入ると、初老で白髪交じりの店長が出迎えてくれた。
「フロレンシア様、ロレンシオ様、お二人揃って見えられるとは、仲がよろしいようですな。」
店長はそういって、微笑んだ。その後、売れ筋の本や売り上げを確認し、店内を見回った。
「そういえば、今度また童話を出そうと思って。挿絵もできたから、活版印刷を頼もうと思っているわ。」
「いいですね。どのような内容にございますか?」
「またテリソートの童話よ。ユニコーンとお姫様のお話なの。お姫様に助けられたユニコーンが、今度は幽閉されたお姫様を救って、新しい国をつくるの。」
「それはそれは壮大なお話で。」
「翻訳は、ロレンシオにお願いしたの。素晴らしい出来よ。今回も売れると思うわ。」
「ロレンシオ様は多才なんですね。私ら庶民はこの国の言語をしゃべるだけで手一杯ですよ。」
そういって店長が笑った。
「ロレンシオはただ両方の言語が使えるってだけではないの。言葉選びがとても繊細できれいなのよ。だからいつもお願いしてるの。」
「フロレンシアにそう言ってもらえるとうれしいです。またいくらでもお手伝いしますよ。」
「ありがとうね。ロレンシオ。」
どこか照れたように、目を伏せて笑うロレンシオは、やっぱり年相応の青年だ。
その後、雑貨屋の方にも顔を出して、店内を見てまわった。店員に話を聞くと、文房具の売れ行きがいいらしい。特にパステルカラーの羽がついた羽ペンがよく売れているそう。
ロレンシオはユニコーンが描かれた小皿を見ていた。テリソートから輸入品は、ユニコーンに因んだ意匠が多い。
「ねえ、ロレンシオ。時間があったら、うちに寄っていかない?実は今日送った手紙にも書いたけど、ユニコーンとお姫様の挿絵が出来たの。あなたにも見せたくて。」
「うれしいです。ぜひ伺わせてください、フロレンシア。」
馬車に揺られ、家に戻ると、ロレンシオをサンルームに案内した。
「私ね、この部屋がこの家で一番好きなの。庭が見えて、ぽかぽかしてきれいでしょ。」
ロレンシオは何故かとても感心した様子だ。
「フロレンシアが、サンルームが好きだったとは。うちにも作らせます。」
「いいの、いいの。あなたの家は十分過ぎるほど、もう素敵だから。」
いきなり、そんなことを言いだすから、少し焦った。
「フロレンシア様、まずは紅茶をお持ちしました。挿絵の方もすぐにお持ち致します。」
ティーポットから熱々の紅茶がそれぞれのカップに注がれる。早速淹れたてを一口頂いた。
「――私も答えを保留にしているのは悪いと思っているわよ。ただ、やっぱりまだあなたを、弟としてしか見れないの。ごめんなさいね。」
「大丈夫です。待つのは慣れていますから。――ゆっくりゆっくり、心も体も僕のものにします。」
ロレンシオはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。まっすぐこちらを見つめる菫色の瞳に、胸がドキッとした。翻訳をほめられた時に見せた、照れくさそうな表情と違って、色気に満ちた余裕のある大人の男性の表情。――急にこういう表情をするから、彼の本心がどこにあるのか、よく分からなくなってしまう。
そんな話をしていると、ブランカが童話の挿絵を持ってきてくれた。食べ物や紅茶で汚さないように、手を拭いてから、受け取った。
「ロレンシオ、あなたはちょっと嫌かもしれないけど、実は今回の絵、マヌエルに描いてもらったの。」
マヌエルの名前を聞くなり、ロレンシオの眉尾がピッと上がった
「――大丈夫です。彼はフロレンシアの大事なビジネスパートナーだと、頭では理解していますから。」
それからいくつかの挿絵を見せた。始めは少し取り乱した様子だったロレンシオも、徐々に落ち着いてきた。
「この絵、森で姉様に見つけてもらった僕みたい。」
それは童話の冒頭のシーン。――傷だらけのユニコーンが王女様に助けてもらうシーンだ。
「そうね。言われてみれば、確かにそうかも。」
「ねえ、姉様。やっぱり好き。大好き。――だから早く僕のお嫁さんになってよ。」
今度は上目遣いで甘えるようにそんなことをいう。そんなロレンシオの表情の一つ一つに、振り回され、心がかき乱されている。そんな自分に少しだけ動揺した。
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