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第四章 本当の愛
1. 招待
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ロレンシオの求婚を断ると、毎日のように届いていたあの手紙はぱったり来なくなった。羽ペンを握っては、毎日毎日、今日は何を書こうかと延々と悩んでいたのに……。実際に来なくなると、急に寂しく感じるものだ。
私はそっと耳裏に手を伸ばした。少しだけ赤みを帯びた肌が熱を持っている。――ロレンシオが残した”誓印”だけはそのままだった。
「これは、消えないのね……。」
身支度を手伝ってくれるブランカに言った。
「ベルトラン様の話だと――ロレンシオ様が他の女性と結婚するまでは、そのままってことじゃないですか?」
誓印を解くには、相手の貞操が破られるしかない。確かに、ベルトランはそう言った。
「まあ、公爵家の嫡男だし、遅かれ早かれ、誰かといつか結婚するわよね。こっちが心配しなくても。」
そして、ジュエリーボックスに入ったアメジストのイヤリングが目に入った。キラキラとした陽光を浴びて輝いている。これはロレンシオから贈られたものだ。だからもう――これを着けて外出する機会もないだろう。
「そういえば、オスカル様の結婚式楽しみですね。森の中の大聖堂で式をあげるなんて。」
大聖堂で結婚式を挙げたがる貴族は多い。だから寄付額がものを言う。父は我が家の財力を見せつけるために、わざと大聖堂に高額の寄進をし、オスカルの結婚式をねじ込んだ。子爵家が大聖堂で式をあげるなんて異例中の異例だ。披露宴も近くにある王家の古城を借りて、こちらも盛大に行う。天候にさえ恵まれれば、ガーデンパーティーにすると父が言っていた。古城とは言っても、外国の賓客をもてなしたり、イベントや行事に使われたりしているので、城内、庭ともに手入れは行き届いている。絶対に素敵な式になる。そう確信した。
「アイナ嬢はウェディングドレスが似合うでしょうね。私も袖を通してみたかったわ……。」
もう私は、男爵位を買って、早いうちに独立する気でいた。というのも、オスカルとアイナ嬢の結婚後も長々実家に居座るわけにもいかないだろう。
「フロレンシア様……。」
「……そんな顔しないで、ブランカ。私とは、縁がなかったのよ。で、あなたは私について来てくれる?お給金は弾むわよ!」
「ええ、もちろんです。私はフロレンシア様の専属侍女ですから。」
その晩、父に呼び出された。何のことだろうと部屋を訪ねると、単刀直入に結婚式の招待者リストを手渡された。
「すまない、フロレンシア。前にも言ったが、私の代で、確実に伯爵位を得たいと考えている。だから個人的な感情はどうであれ、うちと商売上付き合いがある高位貴族は全て声をかけないといけない……。」
渡されたリストを見ると……、アルバ家とアレジャーノ家の名があった。
「――分かりました。私は大丈夫です。オスカルの晴れ場ですから。」
「すまんな。フロレンシア。」
「実は、私――男爵位を買おうと思っているんです。翻訳した児童書や絵本の売り上げが好調で、自分の資産から買うことができると思います。」
「つまり……独立したいということかな?」
「はい。しかし、独立してもお父様はお父様、オスカルはオスカルです。一緒にスアレス家を盛り立てて行く所存です。」
「ありがとう、フロレンシア。君は本当に亡くなった妻に、よく似た素敵な女性に育った。」
そういうと、父がまだ母が生きていた頃、家族で描いてもらった肖像画に目をやった。母は茶色の髪に、碧眼。私と同じ色。優しそうな瞳をこちらにむけている。父は肖像画を見ながら、少しだけ目元を潤ませた。
「彼女が生きていれば、君のことだって、もっと上手く対処したはずなのに……。私はどうも色恋沙汰は不得手なようだ。」
ロレンシオは祖父母のことを理想の夫婦だと、昔言っていたけれど、私にとっての理想は両親だ。政略結婚なのに、信頼関係があり。お互いに欠けた部分を補い合うそんな関係性……。私に縁がなかった訳だけど。
私はそっと耳裏に手を伸ばした。少しだけ赤みを帯びた肌が熱を持っている。――ロレンシオが残した”誓印”だけはそのままだった。
「これは、消えないのね……。」
身支度を手伝ってくれるブランカに言った。
「ベルトラン様の話だと――ロレンシオ様が他の女性と結婚するまでは、そのままってことじゃないですか?」
誓印を解くには、相手の貞操が破られるしかない。確かに、ベルトランはそう言った。
「まあ、公爵家の嫡男だし、遅かれ早かれ、誰かといつか結婚するわよね。こっちが心配しなくても。」
そして、ジュエリーボックスに入ったアメジストのイヤリングが目に入った。キラキラとした陽光を浴びて輝いている。これはロレンシオから贈られたものだ。だからもう――これを着けて外出する機会もないだろう。
「そういえば、オスカル様の結婚式楽しみですね。森の中の大聖堂で式をあげるなんて。」
大聖堂で結婚式を挙げたがる貴族は多い。だから寄付額がものを言う。父は我が家の財力を見せつけるために、わざと大聖堂に高額の寄進をし、オスカルの結婚式をねじ込んだ。子爵家が大聖堂で式をあげるなんて異例中の異例だ。披露宴も近くにある王家の古城を借りて、こちらも盛大に行う。天候にさえ恵まれれば、ガーデンパーティーにすると父が言っていた。古城とは言っても、外国の賓客をもてなしたり、イベントや行事に使われたりしているので、城内、庭ともに手入れは行き届いている。絶対に素敵な式になる。そう確信した。
「アイナ嬢はウェディングドレスが似合うでしょうね。私も袖を通してみたかったわ……。」
もう私は、男爵位を買って、早いうちに独立する気でいた。というのも、オスカルとアイナ嬢の結婚後も長々実家に居座るわけにもいかないだろう。
「フロレンシア様……。」
「……そんな顔しないで、ブランカ。私とは、縁がなかったのよ。で、あなたは私について来てくれる?お給金は弾むわよ!」
「ええ、もちろんです。私はフロレンシア様の専属侍女ですから。」
その晩、父に呼び出された。何のことだろうと部屋を訪ねると、単刀直入に結婚式の招待者リストを手渡された。
「すまない、フロレンシア。前にも言ったが、私の代で、確実に伯爵位を得たいと考えている。だから個人的な感情はどうであれ、うちと商売上付き合いがある高位貴族は全て声をかけないといけない……。」
渡されたリストを見ると……、アルバ家とアレジャーノ家の名があった。
「――分かりました。私は大丈夫です。オスカルの晴れ場ですから。」
「すまんな。フロレンシア。」
「実は、私――男爵位を買おうと思っているんです。翻訳した児童書や絵本の売り上げが好調で、自分の資産から買うことができると思います。」
「つまり……独立したいということかな?」
「はい。しかし、独立してもお父様はお父様、オスカルはオスカルです。一緒にスアレス家を盛り立てて行く所存です。」
「ありがとう、フロレンシア。君は本当に亡くなった妻に、よく似た素敵な女性に育った。」
そういうと、父がまだ母が生きていた頃、家族で描いてもらった肖像画に目をやった。母は茶色の髪に、碧眼。私と同じ色。優しそうな瞳をこちらにむけている。父は肖像画を見ながら、少しだけ目元を潤ませた。
「彼女が生きていれば、君のことだって、もっと上手く対処したはずなのに……。私はどうも色恋沙汰は不得手なようだ。」
ロレンシオは祖父母のことを理想の夫婦だと、昔言っていたけれど、私にとっての理想は両親だ。政略結婚なのに、信頼関係があり。お互いに欠けた部分を補い合うそんな関係性……。私に縁がなかった訳だけど。
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