【完結】報われないままの狂愛

佐藤さん

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星野柊斗と再会してから、俺の生活は再び軋み始めた。
 街を歩けば、どこかからその姿を感じる。声をかけられなくても、距離を取っても、彼は常にどこかで俺を見ていた。
 まるで、“俺の存在そのもの”を、誰にも渡したくないかのように。

 ――いや、あいつは元からそうだった。

 高校時代、クラスの中心で、他人の感情など歯牙にもかけず、けれど誰よりも“俺”にだけ干渉してきた。
 無視するのも、からかうのも、机に落書きをするのも、全部柊斗の仕業だった。
 だけどそれを周囲は「弄られてるだけじゃん」「星野、お前のこと好きなんじゃね?」なんて軽く笑い飛ばしていた。

 ……そんなの、愛じゃない。あれはただの暴力だった。


「連絡先、まだ変わってないんだな」
 ある日、スマホにメッセージが届いた。短く、簡潔に、だが一瞬で血の気が引いた。

 “今どこ?”

 返す必要なんてないと思って無視を決め込むと、数分後、再びメッセージ。

 “さっきのコンビニの前。お前、缶コーヒー派だったろ”

 鳥肌が立った。
 急いでスマホをポケットにしまい、背を向けて歩き出す。早足で、ただ遠ざかるように。

 だけど数十歩進んだところで、後ろから聞こえた。

 「逃げるの、また?」

 振り向かなくても分かる。あの声、あの湿った優しさのような響き。
 恐怖より先に、嫌悪が胸を満たした。

 「お前に関わる気はない」
 足を止めずにそう言い捨てると、背中に落ちてきた声は、思いのほか優しかった。

 「……じゃあさ、どうしたら、お前の中に入れるの? ちゃんと教えてよ。俺、努力するから」

 努力?

 あの星野柊斗が、“努力”なんて言葉を口にした。ぞっとした。
 それは自分の倫理を曲げてでも俺を手に入れたいと語っているような、そんな危うさだった。


 次の週、母の病室に見舞いへ行った帰り。
 駐車場で待ち伏せしていた柊斗がいた。

 「何やってんだよ」
 苛立ちを隠さずに言うと、柊斗は苦笑して言った。

 「お前、今日疲れてたろ。だから、車出した。送るよ」

 拒否しても意味がないことを俺は知っている。
 無理に突っぱねると、逆に近づいてくる。それがあいつの“病”だ。

 助手席に座ると、車内は静かだった。だが、信号待ちの時、不意に彼は口を開いた。

 「さ、今日のご褒美は何がいい? 俺に会ってくれたから」

 「……お前の顔見せられるのが、いちばんの罰だよ」

 そう言った瞬間、柊斗の手がハンドルから滑り落ちた。車がふらつき、ブレーキがぎゅっと踏まれる。

 「……そっか」
 呟いた声は、感情のない音だった。まるで録音された声のような、空っぽの声。

 「じゃあさ、俺、どれくらい壊れたら、お前は喜ぶ?」

 見れば、笑っていた。唇だけが、無理矢理吊り上がっていた。
 けれど目は、笑っていない。血が通っていない。
 それは、心のない人形みたいな顔だった。


 それから数日間、柊斗からの連絡は途絶えた。
 奇妙なほど、静かだった。

 けれど、次に見た時――彼は、変わっていた。

 髪がぼさぼさで、ジャケットも着崩れていた。かつての完璧主義な柊斗の姿はどこにもなく、目の下には深い隈、口元は乾いて割れていた。

 「なんで……連絡くれないの?」

 ただそれだけを呟くように言った。

 「お前がくれないと、俺、生きてるって分かんないんだ」

 その目は、完全に――病んでいた。
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