祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄

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アノ現象

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 ディルカは二段ベッドの下の段で上掛けを肩までかけられ横になっている。

 少しも持ち上がらない腕と、力の入らない足に内心不安になりつつも、ディルカは魔導具にこのような身体に影響のある仕掛けを付加することを考案した製作者に驚嘆の気持ちを抱いていた。

 同じ魔導具に携わる同志として、ある意味尊敬と畏怖の念すら覚える。

 ディルカとしては魔導具の可能性が無限に広がった気がした。魔導具を使って拷問器具になり得るなら、その反対もできるだろう。人を生かし、助ける道具としてさらに活用の場を拡大させることができるはずだ。

 もしかしたら、いにしえの魔導具たちもそういった使われ方があったかもしれない。

 解析した魔導具を改めて思い起こし、開発する同僚たちに意見を聞いてみようと考える。

 今まで解析してきたなかでどうしても用途が不明なものを反芻させるともしかしたら、使われ方自体が違うのではないかというものがいくつか浮上してきた。

 それを一つずつ改めて考えるのはディルカにとってとても楽しい時間だ。暇な時間ができてしまったと思っていたが、思いのほか有意義な時間になりそうだと思った。

「ディルカ、ただいま!」

 帰ってきたと思ったら室内でバダバタと忙しそうに動き回る背の高い男が声をかけてくる。幼なじみのミハエルである。

「おかえり、今日は助けてくれてありがとう」

 ミハエルがいてくれたから、ディルカは笑い死ぬこともなく助かったのだ。

「気にしないで。ディルカのピンチに駆けつけることができてよかったと思ってるんだから! ただ、ちょっとはずせない用事があってまた戻らなきゃいけないんだ……今夜は戻れそうになくて……。食事は買ってきたから。……くそっ、あのハゲッ、万年ハゲッ!」

 帰ってきたと思ったら、宰相のメロウになにかを頼まれてしまったらしい。ブツブツと呟く彼を横目に見ていると、支度をしながらチラチラと鬱陶しいくらい視線を向けてくる。彼なりに心配をしてくれているのだろう。

「ミハエルの応援しかできないけど、無理しないようにね。僕のことは気にしないでいいよ」
「応援は嬉しいけど、ディルカのこと気になるからっ! すぐに戻ってきたいんだけど……。うわー、もっと早く断っておけばよかった! 何でこんな面倒なことに……もぅっ、ディルカ、ディルカ、ハグしていい? こんな不遇な俺を慰めて!」

 両手を広げて覆いかぶさってくるミハエルに、大きなナリをして求めてくることが、毎回小さな子どものようだとディルカは思う。

「ハグは却下だよ。ミハエルの力が強すぎて抜け出すことも今はできないからね」
「そんなぁっ! うぅ、ディルカの癒やしがないとどこにも行けないぃっ。ディルカが心配なのに仕事を優先させなきゃいけないなんて、そんなの無理ぃ!」

 大げさに四つん這いになって嘆くミハエルが少しばかり可哀想になったディルカは優しい声音でたしなめた。

「もう、大げさなんだから。癒やしになるかわからないけど、動くようになったらお願いを一つだけ聞いてあげるからそれでいい?」
「いい! わかったよ、お願いってなんでもいいのか?」
「なんでもいいわけないだろ」
「え! じゃ、じゃぁ、どう癒やされればいいんだ?」
「僕ができる範囲だよ。なでてやろうか? 癒やされるかわからないけど、まぁそんなレベルのことだよ」

 ミハエルはディルカに食事と水分を補給させた後、手早く残りを平らげ腹に収める。

「楽しみにしてがんばる!! じゃ、行ってくるっ! 行きたくないけど行ってくる!」

 嬉しそうな表情をさせたミハエルがそう言った後、すぐに扉が閉まる音が響いた。単純でよかったと胸をなでおろした。

 ミハエルが仕事に向かってからしばらくして、ハッとする。自然現象的な問題だ。

「参ったな。違うことでも考えればトイレになんて行かなくて済む……わけないか。ミハエルが戻ってきたらお願いしよう。ところでいつ戻ってくるのかな……」

 恥ずかしい気持ちはあるが、さすがにこの歳になって漏らしたくはない。

 下の問題の気を逸らすためにディルカは石板から得た知識や、いにしえの魔導具について考えることにした。

 違う側面から推測をしてみるとまた違う結果にたどり着きそうだ。

 そうしているとカチャリと軽い金属音が聞こえ、次いでこの部屋の扉が開く微かな音がした。

 先程ミハエルは用事があると向かったばかりで、すぐに戻ってくるとも思えない。

 城内にある居住区にまで入ってくるのだから、相手はずいぶんと度胸のあることだとディルカは思った。
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