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第4話 第一村人ならぬ、第一美少女発見。瀕死の『姫騎士』を拾う。
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「あの、貴方は……?」
透き通るような銀髪の美少女は、不思議そうな顔で俺を見つめていた。
彼女が着ている鎧は見る影もなく砕け散り、その下の衣服もボロボロだ。白い肌が所々露出し、泥と煤で汚れているが、それでも彼女の持つ高貴なオーラは損なわれていない。
アメジストのような瞳。整った鼻筋。そして何より、凛とした意志の強さを感じさせる表情。
俺がこれまで見てきたどの貴族よりも、彼女は「本物」の気品を漂わせていた。
「俺はレント。しがない冒険者だよ」
「レント様……。私はシルヴィアと申します。……お恥ずかしいところをお見せしました」
シルヴィアと名乗った少女は、悔しそうに唇を噛み締めながら、何とか立ち上がろうとした。
だが、足元がふらつき、再び倒れそうになる。
俺はとっさに彼女の肩を抱いた。
「無理するな。傷は治したけど、体力と血液が足りてない。相当な期間、まともに食べてないんだろ?」
「……はい。この迷宮に入ってから三日、水一滴口にしておりません」
「三日も? よく生きてたな」
Sランク迷宮の最深部で、食料なしで三日生存。
それだけで彼女の実力が只者ではないことが分かる。
俺は【四次元収納】から、先ほどドラゴン討伐のドロップ品の中に混じっていた『世界樹の果実』を取り出した。
ひと口かじれば体力が全快し、満腹感も得られるという神話級のフルーツだ。
「これでも食ってろ」
「こ、これは……なんと芳醇な魔力……! よろしいのですか? これほど高価そうな物を」
「拾い物だから気にするな」
「かたじけない……!」
シルヴィアは果実を受け取ると、上品ながらも貪るように食べた。
その姿を見ながら、俺は尋ねる。
「で、お姫様みたいな格好のあんたが、なんでこんな地獄の底に一人でいたんだ?」
「……私は、ある王国から逃れてきたのです」
果実を食べ終え、少し顔色の良くなったシルヴィアが重い口を開いた。
「我が国は、隣国の帝国の侵略を受け、滅亡の危機に瀕しています。父である国王は病に倒れ、騎士団も壊滅状態……。私は、この状況を打開する力を求めて、伝説にある『竜の心臓』を手に入れるためにここへ来ました」
「竜の心臓?」
「はい。不老不死と万能の魔力を与えるという秘宝です。それがあれば、父の病を治し、帝国軍を追い払えるかもしれないと……」
なるほど。
典型的な「亡国の姫騎士」というやつか。
国を背負って単身でSランク迷宮に挑むとは、無謀だが、その覚悟は嫌いじゃない。
かつての俺も、自分の無能さを呪いながら、それでも必死にパーティに貢献しようとしていた。方向性は違うが、どこか親近感を覚える。
「でも、たどり着いた時にはもう限界でした。竜の部屋に入る前の番人……ゴーレムやキメラとの戦いで消耗しきって、竜の姿を見る前に力尽きてしまったのです」
シルヴィアは悔し涙を浮かべた。
彼女の視線が、奥の広大なドーム――ボス部屋の方へ向く。
「レント様、ここから先には『古の竜』がいるはずです。どうか、引き返してください。貴方がどれほどの使い手かは存じ上げませんが、あの竜は人間が勝てる相手ではありません」
「ああ、竜ならもういないぞ」
「え?」
「さっき俺が倒した」
俺は事もなげに言った。
シルヴィアがポカンと口を開ける。
可憐な顔が台無しになるくらいのマヌケ面だ。
「た、倒した? お一人で? あのエンシェントドラゴンを?」
「うん。なんかデコピン……じゃなかった、石を投げたら死んだ」
「い、石……?」
「素材は全部回収したから、ここにはもう何もないよ。あ、竜の心臓も持ってるけど、見るか?」
俺はポケットから、ドクンドクンと脈打つ真っ赤な結晶体を取り出した。
バスケットボール大の大きさがあるそれは、周囲の空間を歪めるほどの魔力を放っている。
「ひっ……!?」
シルヴィアが悲鳴を上げて後ずさった。
あまりの魔力濃度に、常人なら近づくだけで精神汚染を起こしかねない代物だ。
「こ、これが伝説の……! 本物……!」
「お前が欲しかったの、これだろ? まあ、国を救うのに必要ならやってもいいけど」
「そ、そのような! 国宝級どころか、世界そのもののバランスを変えるほどのアーティファクトです! 命を救われた上に、そのような高価な物を頂くわけにはいきません!」
真面目だな。
俺なら「ラッキー」と言って貰うところだが。
こういう実直なところも、彼女が「姫騎士」たる所以なのだろう。
「まあ、今はここを出るのが先決だ。話は地上に戻ってからにしよう」
「は、はい。ですが、帰りの道も危険です。魔物たちが……」
「大丈夫だ。俺について来れば、散歩みたいなもんだから」
俺はシルヴィアの手を取り、歩き出した。
彼女の手は震えていたが、俺が握ると少し安心したように力が抜けた。
二人で第百階層の階段を上る。
第九十九階層。
そこは、俺がゴーレムを沈めた場所だ。
「あっ……あれは!?」
シルヴィアが指差した先には、俺が置き去りにしていった(回収し忘れていた残骸の一部の)ゴーレムの腕が転がっていた。
かつては彼女を苦しめたであろう最強の番人のパーツが、まるで壊れた玩具のようにひしゃげている。
「アダマンタイトの腕が、飴細工のように……。レント様、これを貴方が?」
「まあな。ちょっと柔らかくしたんだ」
「柔らかく……? 物理法則を無視していますわ……」
彼女は戦慄の眼差しで俺の背中を見た。
尊敬と恐怖が入り混じったような目だ。
悪い気はしない。ずっと「役立たず」と言われ続けてきた俺にとって、誰かに認められる(というか畏怖される)のは新鮮な快感だった。
その時。
ズズズ……と地面が揺れた。
「グルアアアアッ!」
通路の奥から、無数の影が現れた。
『ブラッド・キメラ』の群れだ。
ライオンの頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つ凶暴な合成獣。
その数、およそ五十体。
どうやら、ボスの死によってダンジョンの生態系が乱れ、魔物たちが暴走しているらしい。
「キメラの群れ! レント様、逃げましょう! この数は無理です!」
シルヴィアが俺の前に飛び出し、折れた剣を構えようとした。
騎士としての本能なのだろう。
自分が傷ついているのも忘れて、俺を守ろうとするその姿。
ああ、やっぱりこいつはいい奴だ。
俺を囮にして逃げたヴァルスたちとは大違いだ。
「下がってていいよ、シルヴィア」
俺は彼女の肩を軽く叩き、前に出た。
「でも、武器も持っていないのに!」
「武器? ああ、そういえば素手だったな」
俺は周囲を見渡した。
手頃な石ころもない。
あるのは、壁に生えている苔くらいか。
いや、武器なんて何でもいいんだった。
「じゃあ、これでいいか」
俺は『空気』を掴んだ。
比喩ではない。
空間そのものを掌の中に圧縮し、剣の形に固定する。
「【空間固定(スペース・ロック)】付与。【切断強化】付与。【範囲拡大】付与」
俺の手の中に、陽炎のように揺らぐ透明な剣が現れた。
空気の密度を極限まで高め、物理的な刃としたものだ。
重さはゼロだが、切れ味は空間ごと切り裂くレベル。
「キメラ風情が、俺の帰り道を塞ぐなよ」
俺は透明な剣を、無造作に横に薙いだ。
ヒュッ。
風を切る音さえしなかった。
ただ、視界の水平線が一度だけズレたような錯覚。
直後。
五十体のキメラの群れが、一斉に静止した。
そして次の瞬間、すべてのキメラの上半身と下半身が、まるで最初から別の物体であったかのように滑り落ちた。
ドサドサドサドサッ!!
大量の肉塊が地面に落ちる音だけが、洞窟内に響き渡る。
鮮血の噴水が上がり、通路が赤く染まった。
一振り。
たった一振りで、Sランク魔物の大群が全滅した。
「……え?」
シルヴィアの声が裏返っていた。
彼女は自分の目を疑うように、何度も瞬きをしている。
「魔法? いえ、剣技? 今、何をしたのですか? 何も見えませんでした……」
「空気を固めて切っただけだ。便利だろ? 刃こぼれしないし」
「空気を……固めて……?」
シルヴィアは理解が追いつかないようで、フラフラと目眩を起こしていた。
まあ、無理もない。
俺も昨日までの自分が見たら気絶している自信がある。
「さて、掃除も済んだし行こうか」
「……レント様」
「ん?」
「貴方は、神様なのですか?」
真剣な顔で聞かれた。
「いや、ただの付与術師だ」
「付与術師……? 私の知っている付与術師と、定義が根本的に異なります……」
「よく言われる(今日からだけど)」
俺たちは再び歩き出した。
シルヴィアは、俺の背中を見る目が完全に変わっていた。
最初は恩人を見る目だったのが、今は「崇拝」に近い色を帯びている。
彼女の頬が微かに赤いのは、興奮のせいか、それとも――。
そんなことを考えながら歩いていると、シルヴィアが悲しげに自分の手元を見ているのに気づいた。
彼女が握りしめているのは、柄だけになった剣だ。
刀身のほとんどが砕け散り、残っているのは根本の数センチのみ。
「……大切な剣だったのか?」
「はい。これは王家に伝わる聖剣『白銀の誓い』……のなれの果てです。父から託された国宝でしたが、私の未熟さゆえに、ゴーレムの装甲に弾かれて折れてしまいました」
彼女は今にも泣き出しそうな顔で、折れた剣を胸に抱いた。
「この剣がなければ、私は騎士として……それに、国を救う資格も……」
「貸してみな」
「え?」
「直せるかもしれない」
「直すと言っても、刀身が失われています。鍛冶師でも、これは……」
「鍛冶じゃ直せないなら、付与(エンチャント)で直せばいい」
俺は彼女の手から、折れた聖剣を受け取った。
確かに酷い状態だ。
魔力も枯渇し、ただの鉄屑になりかけている。
だが、微かに残る「核」の部分は死んでいない。
「再生、強化、そして進化」
俺の無限の魔力が、剣の柄へと注ぎ込まれる。
俺自身の肉体を書き換えた時と同じ要領だ。
失われた刀身を魔力で補い、さらに、元の素材であったミスリルを超える『オリハルコン』以上の強度と魔導伝導率を持つ物質へと変換する。
カッ!!
眩い光が俺の手元から溢れ出した。
洞窟全体が昼間のように照らされ、神聖な鐘の音がどこからともなく聞こえてくる。
「な、何が起きて……!?」
シルヴィアが腕で顔を覆う。
光が収まると、そこには――。
かつての姿とは似ても似つかない、しかし圧倒的に神々しい輝きを放つ剣があった。
刀身は透き通るようなクリスタル状に変化し、内部には七色の光が脈打っている。
柄の部分には、俺が付与した新しい概念『絶対切断』と『所有者守護』の紋様が刻まれていた。
「はい、お返し」
「こ、これは……?」
「ちょっとバージョンアップしておいた。『真・聖剣』ってところかな。これならドラゴンだろうが魔王だろうが、豆腐みたいに切れるはずだ」
俺は軽く言って、生まれ変わった剣を彼女に渡した。
シルヴィアは震える手でそれを受け取る。
瞬間、剣が喜びの声を上げるように共鳴(ハウリング)し、シルヴィアの全身を清らかな光が包み込んだ。
「あ……ああ……力が、溢れてくる……。剣が、私に語りかけてきます……」
彼女の瞳から、大粒の涙が溢れた。
それは悲しみの涙ではなく、感動と歓喜の涙だった。
「レント様……! 貴方は、私の命だけでなく、騎士としての誇りまで救ってくださいました……!」
「大げさだって。さ、行こうぜ。地上に出たら、美味しいもんでも食おう」
俺は照れ隠しに先を急いだ。
背後で、シルヴィアが剣を天に掲げ、何かを誓うように呟いたのが聞こえた。
「この命、そしてこの剣。すべて貴方様に捧げます――我が主(マスター)」
……ん?
今、主とか聞こえたような気がするが、空耳だろうか。
まあいい。
こうして俺は、最強の能力と、最初の仲間(兼、嫁候補?)を手に入れて、地上への帰路についたのだった。
だが俺はまだ知らない。
地上に戻った瞬間、俺を待ち受けている大騒動を。
そして、俺を捨てた元パーティ『栄光の剣』が、今まさに悲惨な状況に追い込まれつつあることを。
(続く)
透き通るような銀髪の美少女は、不思議そうな顔で俺を見つめていた。
彼女が着ている鎧は見る影もなく砕け散り、その下の衣服もボロボロだ。白い肌が所々露出し、泥と煤で汚れているが、それでも彼女の持つ高貴なオーラは損なわれていない。
アメジストのような瞳。整った鼻筋。そして何より、凛とした意志の強さを感じさせる表情。
俺がこれまで見てきたどの貴族よりも、彼女は「本物」の気品を漂わせていた。
「俺はレント。しがない冒険者だよ」
「レント様……。私はシルヴィアと申します。……お恥ずかしいところをお見せしました」
シルヴィアと名乗った少女は、悔しそうに唇を噛み締めながら、何とか立ち上がろうとした。
だが、足元がふらつき、再び倒れそうになる。
俺はとっさに彼女の肩を抱いた。
「無理するな。傷は治したけど、体力と血液が足りてない。相当な期間、まともに食べてないんだろ?」
「……はい。この迷宮に入ってから三日、水一滴口にしておりません」
「三日も? よく生きてたな」
Sランク迷宮の最深部で、食料なしで三日生存。
それだけで彼女の実力が只者ではないことが分かる。
俺は【四次元収納】から、先ほどドラゴン討伐のドロップ品の中に混じっていた『世界樹の果実』を取り出した。
ひと口かじれば体力が全快し、満腹感も得られるという神話級のフルーツだ。
「これでも食ってろ」
「こ、これは……なんと芳醇な魔力……! よろしいのですか? これほど高価そうな物を」
「拾い物だから気にするな」
「かたじけない……!」
シルヴィアは果実を受け取ると、上品ながらも貪るように食べた。
その姿を見ながら、俺は尋ねる。
「で、お姫様みたいな格好のあんたが、なんでこんな地獄の底に一人でいたんだ?」
「……私は、ある王国から逃れてきたのです」
果実を食べ終え、少し顔色の良くなったシルヴィアが重い口を開いた。
「我が国は、隣国の帝国の侵略を受け、滅亡の危機に瀕しています。父である国王は病に倒れ、騎士団も壊滅状態……。私は、この状況を打開する力を求めて、伝説にある『竜の心臓』を手に入れるためにここへ来ました」
「竜の心臓?」
「はい。不老不死と万能の魔力を与えるという秘宝です。それがあれば、父の病を治し、帝国軍を追い払えるかもしれないと……」
なるほど。
典型的な「亡国の姫騎士」というやつか。
国を背負って単身でSランク迷宮に挑むとは、無謀だが、その覚悟は嫌いじゃない。
かつての俺も、自分の無能さを呪いながら、それでも必死にパーティに貢献しようとしていた。方向性は違うが、どこか親近感を覚える。
「でも、たどり着いた時にはもう限界でした。竜の部屋に入る前の番人……ゴーレムやキメラとの戦いで消耗しきって、竜の姿を見る前に力尽きてしまったのです」
シルヴィアは悔し涙を浮かべた。
彼女の視線が、奥の広大なドーム――ボス部屋の方へ向く。
「レント様、ここから先には『古の竜』がいるはずです。どうか、引き返してください。貴方がどれほどの使い手かは存じ上げませんが、あの竜は人間が勝てる相手ではありません」
「ああ、竜ならもういないぞ」
「え?」
「さっき俺が倒した」
俺は事もなげに言った。
シルヴィアがポカンと口を開ける。
可憐な顔が台無しになるくらいのマヌケ面だ。
「た、倒した? お一人で? あのエンシェントドラゴンを?」
「うん。なんかデコピン……じゃなかった、石を投げたら死んだ」
「い、石……?」
「素材は全部回収したから、ここにはもう何もないよ。あ、竜の心臓も持ってるけど、見るか?」
俺はポケットから、ドクンドクンと脈打つ真っ赤な結晶体を取り出した。
バスケットボール大の大きさがあるそれは、周囲の空間を歪めるほどの魔力を放っている。
「ひっ……!?」
シルヴィアが悲鳴を上げて後ずさった。
あまりの魔力濃度に、常人なら近づくだけで精神汚染を起こしかねない代物だ。
「こ、これが伝説の……! 本物……!」
「お前が欲しかったの、これだろ? まあ、国を救うのに必要ならやってもいいけど」
「そ、そのような! 国宝級どころか、世界そのもののバランスを変えるほどのアーティファクトです! 命を救われた上に、そのような高価な物を頂くわけにはいきません!」
真面目だな。
俺なら「ラッキー」と言って貰うところだが。
こういう実直なところも、彼女が「姫騎士」たる所以なのだろう。
「まあ、今はここを出るのが先決だ。話は地上に戻ってからにしよう」
「は、はい。ですが、帰りの道も危険です。魔物たちが……」
「大丈夫だ。俺について来れば、散歩みたいなもんだから」
俺はシルヴィアの手を取り、歩き出した。
彼女の手は震えていたが、俺が握ると少し安心したように力が抜けた。
二人で第百階層の階段を上る。
第九十九階層。
そこは、俺がゴーレムを沈めた場所だ。
「あっ……あれは!?」
シルヴィアが指差した先には、俺が置き去りにしていった(回収し忘れていた残骸の一部の)ゴーレムの腕が転がっていた。
かつては彼女を苦しめたであろう最強の番人のパーツが、まるで壊れた玩具のようにひしゃげている。
「アダマンタイトの腕が、飴細工のように……。レント様、これを貴方が?」
「まあな。ちょっと柔らかくしたんだ」
「柔らかく……? 物理法則を無視していますわ……」
彼女は戦慄の眼差しで俺の背中を見た。
尊敬と恐怖が入り混じったような目だ。
悪い気はしない。ずっと「役立たず」と言われ続けてきた俺にとって、誰かに認められる(というか畏怖される)のは新鮮な快感だった。
その時。
ズズズ……と地面が揺れた。
「グルアアアアッ!」
通路の奥から、無数の影が現れた。
『ブラッド・キメラ』の群れだ。
ライオンの頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つ凶暴な合成獣。
その数、およそ五十体。
どうやら、ボスの死によってダンジョンの生態系が乱れ、魔物たちが暴走しているらしい。
「キメラの群れ! レント様、逃げましょう! この数は無理です!」
シルヴィアが俺の前に飛び出し、折れた剣を構えようとした。
騎士としての本能なのだろう。
自分が傷ついているのも忘れて、俺を守ろうとするその姿。
ああ、やっぱりこいつはいい奴だ。
俺を囮にして逃げたヴァルスたちとは大違いだ。
「下がってていいよ、シルヴィア」
俺は彼女の肩を軽く叩き、前に出た。
「でも、武器も持っていないのに!」
「武器? ああ、そういえば素手だったな」
俺は周囲を見渡した。
手頃な石ころもない。
あるのは、壁に生えている苔くらいか。
いや、武器なんて何でもいいんだった。
「じゃあ、これでいいか」
俺は『空気』を掴んだ。
比喩ではない。
空間そのものを掌の中に圧縮し、剣の形に固定する。
「【空間固定(スペース・ロック)】付与。【切断強化】付与。【範囲拡大】付与」
俺の手の中に、陽炎のように揺らぐ透明な剣が現れた。
空気の密度を極限まで高め、物理的な刃としたものだ。
重さはゼロだが、切れ味は空間ごと切り裂くレベル。
「キメラ風情が、俺の帰り道を塞ぐなよ」
俺は透明な剣を、無造作に横に薙いだ。
ヒュッ。
風を切る音さえしなかった。
ただ、視界の水平線が一度だけズレたような錯覚。
直後。
五十体のキメラの群れが、一斉に静止した。
そして次の瞬間、すべてのキメラの上半身と下半身が、まるで最初から別の物体であったかのように滑り落ちた。
ドサドサドサドサッ!!
大量の肉塊が地面に落ちる音だけが、洞窟内に響き渡る。
鮮血の噴水が上がり、通路が赤く染まった。
一振り。
たった一振りで、Sランク魔物の大群が全滅した。
「……え?」
シルヴィアの声が裏返っていた。
彼女は自分の目を疑うように、何度も瞬きをしている。
「魔法? いえ、剣技? 今、何をしたのですか? 何も見えませんでした……」
「空気を固めて切っただけだ。便利だろ? 刃こぼれしないし」
「空気を……固めて……?」
シルヴィアは理解が追いつかないようで、フラフラと目眩を起こしていた。
まあ、無理もない。
俺も昨日までの自分が見たら気絶している自信がある。
「さて、掃除も済んだし行こうか」
「……レント様」
「ん?」
「貴方は、神様なのですか?」
真剣な顔で聞かれた。
「いや、ただの付与術師だ」
「付与術師……? 私の知っている付与術師と、定義が根本的に異なります……」
「よく言われる(今日からだけど)」
俺たちは再び歩き出した。
シルヴィアは、俺の背中を見る目が完全に変わっていた。
最初は恩人を見る目だったのが、今は「崇拝」に近い色を帯びている。
彼女の頬が微かに赤いのは、興奮のせいか、それとも――。
そんなことを考えながら歩いていると、シルヴィアが悲しげに自分の手元を見ているのに気づいた。
彼女が握りしめているのは、柄だけになった剣だ。
刀身のほとんどが砕け散り、残っているのは根本の数センチのみ。
「……大切な剣だったのか?」
「はい。これは王家に伝わる聖剣『白銀の誓い』……のなれの果てです。父から託された国宝でしたが、私の未熟さゆえに、ゴーレムの装甲に弾かれて折れてしまいました」
彼女は今にも泣き出しそうな顔で、折れた剣を胸に抱いた。
「この剣がなければ、私は騎士として……それに、国を救う資格も……」
「貸してみな」
「え?」
「直せるかもしれない」
「直すと言っても、刀身が失われています。鍛冶師でも、これは……」
「鍛冶じゃ直せないなら、付与(エンチャント)で直せばいい」
俺は彼女の手から、折れた聖剣を受け取った。
確かに酷い状態だ。
魔力も枯渇し、ただの鉄屑になりかけている。
だが、微かに残る「核」の部分は死んでいない。
「再生、強化、そして進化」
俺の無限の魔力が、剣の柄へと注ぎ込まれる。
俺自身の肉体を書き換えた時と同じ要領だ。
失われた刀身を魔力で補い、さらに、元の素材であったミスリルを超える『オリハルコン』以上の強度と魔導伝導率を持つ物質へと変換する。
カッ!!
眩い光が俺の手元から溢れ出した。
洞窟全体が昼間のように照らされ、神聖な鐘の音がどこからともなく聞こえてくる。
「な、何が起きて……!?」
シルヴィアが腕で顔を覆う。
光が収まると、そこには――。
かつての姿とは似ても似つかない、しかし圧倒的に神々しい輝きを放つ剣があった。
刀身は透き通るようなクリスタル状に変化し、内部には七色の光が脈打っている。
柄の部分には、俺が付与した新しい概念『絶対切断』と『所有者守護』の紋様が刻まれていた。
「はい、お返し」
「こ、これは……?」
「ちょっとバージョンアップしておいた。『真・聖剣』ってところかな。これならドラゴンだろうが魔王だろうが、豆腐みたいに切れるはずだ」
俺は軽く言って、生まれ変わった剣を彼女に渡した。
シルヴィアは震える手でそれを受け取る。
瞬間、剣が喜びの声を上げるように共鳴(ハウリング)し、シルヴィアの全身を清らかな光が包み込んだ。
「あ……ああ……力が、溢れてくる……。剣が、私に語りかけてきます……」
彼女の瞳から、大粒の涙が溢れた。
それは悲しみの涙ではなく、感動と歓喜の涙だった。
「レント様……! 貴方は、私の命だけでなく、騎士としての誇りまで救ってくださいました……!」
「大げさだって。さ、行こうぜ。地上に出たら、美味しいもんでも食おう」
俺は照れ隠しに先を急いだ。
背後で、シルヴィアが剣を天に掲げ、何かを誓うように呟いたのが聞こえた。
「この命、そしてこの剣。すべて貴方様に捧げます――我が主(マスター)」
……ん?
今、主とか聞こえたような気がするが、空耳だろうか。
まあいい。
こうして俺は、最強の能力と、最初の仲間(兼、嫁候補?)を手に入れて、地上への帰路についたのだった。
だが俺はまだ知らない。
地上に戻った瞬間、俺を待ち受けている大騒動を。
そして、俺を捨てた元パーティ『栄光の剣』が、今まさに悲惨な状況に追い込まれつつあることを。
(続く)
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後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
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魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
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……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
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【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
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そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
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ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
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