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第13話 裏切りと誓いの夜
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落ち着きを取り戻した王都の夜は、妙に静かだった。
戦いのあとに残る瓦礫の匂い、焦げた木の香り、ドームを覆う空の星々。
人々はようやく笑顔を取り戻しつつあったが、その裏で、俺たちは次の一手を考えていた。
根の回廊――世界の基盤、神々の記録層。
アルトのクローンが残した情報によれば、そこへ至る道は王都の地下、禁断の階層に存在するという。
ただし、そこへ入る鍵は「王家の血と創造者のコード」、二つが揃わなければ開かない。
レアとルミナスと共に、俺は王城跡地の地下に佇んでいた。
昼間は復興作業で人の気配が絶えない王都も、夜になると足音すら消える。
星の光を背負った廃墟は、まるで眠る巨人の墓のようだった。
ルミナスの光が足元を照らす。
『ご主人さま、セリカから通信が入りました。新しい解析データが届いてます。』
「聞かせてくれ。」
『“根の回廊”は単なる地の底ではなく、空間そのものの裏側……世界の座標を裏返すことで到達できる異界。神核炉が制御者を失った今、入るだけでも命の保証はないそうです。』
「つまり行けば戻れないってことか。」
レアが小さく息を飲む。
「それでも行くのね、リアム。」
「行かなきゃ何も終わらない。アルトが残した残滓、放っておいたらまた誰かが神を作ろうとする。」
一瞬、沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、廃材を踏みつける足音だった。
「やれやれ……夜にこそこそ動くのは、性に合わんのだが。」
声の主は、リオネルだった。
だが、その背後にいる数人の影が気になる。
彼に付き従うはずの学徒ではなく、鎧を纏った男たち――聖騎士団の残党。
「……どういうつもりだ、リオネル。」
彼は眼鏡を押し上げ、冷ややかに笑った。
「これ以上の混乱を避けたいだけです。リアム、あなたはもはや神にも等しい力を持った存在だ。人々はそれに酔い、祈るようにあなたの名を口にしている。アルトと何が違う?」
「俺は支配なんてしてない。」
「違いなどない。人は映像で信仰を作る生き物だ。」
ルミナスの光がわずかに強まる。
『ご主人さま、通信遮断区域です。周囲の信号がブロックされました! 罠です!』
レアが一歩前に出た。
「リオネル、あなたまでも勇者の後を継ごうというの?」
「私は学者です。ただ、秩序を維持したいだけですよ。世界があなたたちのような例外者に振り回されるのを見たくはない。」
そう言うと、彼の手に魔導銃が現れた。
その銃口は、ためらいなく俺に向けられていた。
「……まさか撃つ気か。」
「あなたがいなくなれば、世界は安定する。」
彼の指が引き金にかかる。
ルミナスが目を見開いたように電子音を発した。
『回避不能! 発射まで0.3秒!』
乾いた音が鳴った。
しかし、俺に痛みはなかった。
弾丸はまっすぐ飛び――俺の前に立ちはだかったレアの胸を貫いた。
「レアっ!!」
世界が一瞬、凍りついた。
光をまとった弾丸は、彼女の胸の中心を焦がし、淡い光を散らして消えた。
ゆっくりと彼女が倒れる。
俺は駆け寄り、腕の中でその体を抱いた。
「なぜ……どうして……!」
レアは微笑みながら、かすかに声を漏らす。
「あなたが倒れたら……みんなが困るもの。」
血と涙が混じった彼女の笑顔が痛いほど眩しい。
リオネルの目に一瞬の動揺が走る。
「まさか……王女殿下、そこまで……。」
俺は彼を睨みつけた。
「お前は“秩序”を保ちたいと言ったな。じゃあ見せてやるよ。これが支配じゃなく人の意志だ!」
叫ぶと同時に、全身から光が溢れ出る。
ルミナスが高速で警告を発した。
『ご主人さま、魔力暴走の兆候! 制御不能になります!』
「構わない!」
「やめて……リアム……!」
レアの声が届いた瞬間、俺は手を止めた。
彼女の手が、俺の頬に触れている。
温かい。こんなに傷ついているのに、まだ優しい。
「怒りで世界を壊したら……また同じになるわ。お願い、進んで……私がいなくても。」
「やめろ、そんなこと言うな……!」
ルミナスが必死に魔力を抑えているのが分かる。
『セリカに転送信号! 回復プログラム発動中! でも間に合わない!』
「ルミナス……セリカを通して……配信を繋げ……! 世界に告げる!」
『そんな状態でライブなんて――!』
「今じゃなきゃダメだ!」
俺は手を掲げ、光の窓を展開した。
まだ見ぬ世界中の人々の視線が、そこに集まる。
「……俺たちは神なんか要らない。英雄だの勇者だの、そんな呼び名もいらない。人が自分の足で立てる世界を作る。それが、レアと俺の誓いだ!」
レアが微笑む。
「なら……あなたはきっと、真の“再生者”になれるわ。」
「レア……やめろ……。」
「行って、リアム。根の回廊を……閉じて。」
その声と共に、彼女の体が光の粒となって溶けていった。
触れていた手の温もりが、風に消える。
ルミナスが静かに呟く。
『生命反応、消失……王女レア、死亡確認。』
胸の奥が空洞になったような感覚。
頭の中が真っ白で、涙も出ない。
ただ、あまりにも静かだった。
リオネルが膝をつき、床を叩く。
「私は……また間違えたのか……!」
俺は立ち上がった。
「もういい。お前の罪も全部、俺が背負う。だけど、これだけは勘違いするな。俺は“秩序”を守るためじゃなく、“レアの誓い”を果たすために戦う。」
外では風が吹き荒れ、夜空にひと筋の流星が走った。
その光の方角――南の砂漠。そこに“根の回廊”の入り口があるという。
『ご主人さま、どうしますか。もう後戻りはできません。彼女の命を代償に得た鍵が、今あなたの手にあります。』
「迷う理由なんてない。行くぞ、ルミナス。」
『……了解、相棒。配信ライブを続けます。“誓いの地、根へ”編を開始します。』
「タイトル……長いな。」
『すみません、つい気合いが……。』
俺はほんのわずか笑みを浮かべた。
レアの残した光の欠片が掌で微かに輝き、それが導くように風へ流れていく。
――誓いの夜は終わった。だが、その誓いを果たすための旅は、これから始まる。
戦いのあとに残る瓦礫の匂い、焦げた木の香り、ドームを覆う空の星々。
人々はようやく笑顔を取り戻しつつあったが、その裏で、俺たちは次の一手を考えていた。
根の回廊――世界の基盤、神々の記録層。
アルトのクローンが残した情報によれば、そこへ至る道は王都の地下、禁断の階層に存在するという。
ただし、そこへ入る鍵は「王家の血と創造者のコード」、二つが揃わなければ開かない。
レアとルミナスと共に、俺は王城跡地の地下に佇んでいた。
昼間は復興作業で人の気配が絶えない王都も、夜になると足音すら消える。
星の光を背負った廃墟は、まるで眠る巨人の墓のようだった。
ルミナスの光が足元を照らす。
『ご主人さま、セリカから通信が入りました。新しい解析データが届いてます。』
「聞かせてくれ。」
『“根の回廊”は単なる地の底ではなく、空間そのものの裏側……世界の座標を裏返すことで到達できる異界。神核炉が制御者を失った今、入るだけでも命の保証はないそうです。』
「つまり行けば戻れないってことか。」
レアが小さく息を飲む。
「それでも行くのね、リアム。」
「行かなきゃ何も終わらない。アルトが残した残滓、放っておいたらまた誰かが神を作ろうとする。」
一瞬、沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、廃材を踏みつける足音だった。
「やれやれ……夜にこそこそ動くのは、性に合わんのだが。」
声の主は、リオネルだった。
だが、その背後にいる数人の影が気になる。
彼に付き従うはずの学徒ではなく、鎧を纏った男たち――聖騎士団の残党。
「……どういうつもりだ、リオネル。」
彼は眼鏡を押し上げ、冷ややかに笑った。
「これ以上の混乱を避けたいだけです。リアム、あなたはもはや神にも等しい力を持った存在だ。人々はそれに酔い、祈るようにあなたの名を口にしている。アルトと何が違う?」
「俺は支配なんてしてない。」
「違いなどない。人は映像で信仰を作る生き物だ。」
ルミナスの光がわずかに強まる。
『ご主人さま、通信遮断区域です。周囲の信号がブロックされました! 罠です!』
レアが一歩前に出た。
「リオネル、あなたまでも勇者の後を継ごうというの?」
「私は学者です。ただ、秩序を維持したいだけですよ。世界があなたたちのような例外者に振り回されるのを見たくはない。」
そう言うと、彼の手に魔導銃が現れた。
その銃口は、ためらいなく俺に向けられていた。
「……まさか撃つ気か。」
「あなたがいなくなれば、世界は安定する。」
彼の指が引き金にかかる。
ルミナスが目を見開いたように電子音を発した。
『回避不能! 発射まで0.3秒!』
乾いた音が鳴った。
しかし、俺に痛みはなかった。
弾丸はまっすぐ飛び――俺の前に立ちはだかったレアの胸を貫いた。
「レアっ!!」
世界が一瞬、凍りついた。
光をまとった弾丸は、彼女の胸の中心を焦がし、淡い光を散らして消えた。
ゆっくりと彼女が倒れる。
俺は駆け寄り、腕の中でその体を抱いた。
「なぜ……どうして……!」
レアは微笑みながら、かすかに声を漏らす。
「あなたが倒れたら……みんなが困るもの。」
血と涙が混じった彼女の笑顔が痛いほど眩しい。
リオネルの目に一瞬の動揺が走る。
「まさか……王女殿下、そこまで……。」
俺は彼を睨みつけた。
「お前は“秩序”を保ちたいと言ったな。じゃあ見せてやるよ。これが支配じゃなく人の意志だ!」
叫ぶと同時に、全身から光が溢れ出る。
ルミナスが高速で警告を発した。
『ご主人さま、魔力暴走の兆候! 制御不能になります!』
「構わない!」
「やめて……リアム……!」
レアの声が届いた瞬間、俺は手を止めた。
彼女の手が、俺の頬に触れている。
温かい。こんなに傷ついているのに、まだ優しい。
「怒りで世界を壊したら……また同じになるわ。お願い、進んで……私がいなくても。」
「やめろ、そんなこと言うな……!」
ルミナスが必死に魔力を抑えているのが分かる。
『セリカに転送信号! 回復プログラム発動中! でも間に合わない!』
「ルミナス……セリカを通して……配信を繋げ……! 世界に告げる!」
『そんな状態でライブなんて――!』
「今じゃなきゃダメだ!」
俺は手を掲げ、光の窓を展開した。
まだ見ぬ世界中の人々の視線が、そこに集まる。
「……俺たちは神なんか要らない。英雄だの勇者だの、そんな呼び名もいらない。人が自分の足で立てる世界を作る。それが、レアと俺の誓いだ!」
レアが微笑む。
「なら……あなたはきっと、真の“再生者”になれるわ。」
「レア……やめろ……。」
「行って、リアム。根の回廊を……閉じて。」
その声と共に、彼女の体が光の粒となって溶けていった。
触れていた手の温もりが、風に消える。
ルミナスが静かに呟く。
『生命反応、消失……王女レア、死亡確認。』
胸の奥が空洞になったような感覚。
頭の中が真っ白で、涙も出ない。
ただ、あまりにも静かだった。
リオネルが膝をつき、床を叩く。
「私は……また間違えたのか……!」
俺は立ち上がった。
「もういい。お前の罪も全部、俺が背負う。だけど、これだけは勘違いするな。俺は“秩序”を守るためじゃなく、“レアの誓い”を果たすために戦う。」
外では風が吹き荒れ、夜空にひと筋の流星が走った。
その光の方角――南の砂漠。そこに“根の回廊”の入り口があるという。
『ご主人さま、どうしますか。もう後戻りはできません。彼女の命を代償に得た鍵が、今あなたの手にあります。』
「迷う理由なんてない。行くぞ、ルミナス。」
『……了解、相棒。配信ライブを続けます。“誓いの地、根へ”編を開始します。』
「タイトル……長いな。」
『すみません、つい気合いが……。』
俺はほんのわずか笑みを浮かべた。
レアの残した光の欠片が掌で微かに輝き、それが導くように風へ流れていく。
――誓いの夜は終わった。だが、その誓いを果たすための旅は、これから始まる。
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