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第14話 魔王城、再建開始
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風が乾いていた。
夜明け前の砂漠の空は赤く光り、地平線の向こうにかすかに揺れる蜃気楼がある。
そこがセリカの指し示した位置――根の回廊への入口。
俺は砂丘の上に立ち、吹き上げる風に目を細めた。
ルミナスが肩元でいつになく静かな声を出す。
『……王都から三日。移動距離二千キロ。あの日から一睡もしてません。休むべきです、ご主人さま。』
「眠る暇があるなら、動いていたい。」
『レア王女の件、まだ……心が追いついていないのですね。』
答えられなかった。
胸に残るのは、温もりの記憶と、消えた光の残滓。
彼女が消えたあと、ルミナスには微かなデータ片が取り込まれていた。
それが時折、彼女の声として響くのだ。
『リアム、あなたはきっと真実に辿り着けるわ。』
まるで彼女自身がまだ隣にいるようで、痛かった。
砂丘の下には廃墟が広がっている。
灰色の柱、崩れた石門、そして黒ずんだ地面。
遠い昔、ここには“魔王城アルディス”があったという。
千年前、魔族と人類が最後まで争った地。
アルトが“神聖帝国”を築く前の、世界のもう一つの中心。
ルミナスが周囲をスキャンしながら囁く。
『ここが本当に魔王の拠点だったとしたら、ご主人さまの記憶の元データにも関わっています。もしかすると、ここで封印が始まり、根の回廊へと繋がったのかもしれません。』
「つまり、俺がアルディスだった頃の……始まりの場所ってことか。」
『ええ。でも今のあなたがどうするかで、歴史は変わります。』
俺はゆっくり歩き出した。
風に砂が巻き、地面からわずかに青い光が漏れる。
その光を辿るように進むと、崩れかけた城門の内側に巨大な魔方陣があった。
中心には、誰かが座っている。
近づくと、その人物はゆっくりと顔を上げた。
金色の瞳を持つ女――皮膚は灰色で、背中には黒い鱗の翼が折りたたまれている。
「待っていたわ。“転生魔王”リアム。」
「……お前は?」
「この城の管理者。アルディスの忠臣、“ベリス”。最後の魔族よ。」
ルミナスが低く警告する。
『戦闘能力、極めて高。高位魔導種。千年前の記録にも存在します。』
ベリスは微笑し、翼をわずかに広げた。
「あなたはアルディス。かつて私たちを導き、そして滅びを選んだ王。再び現れたあなたに問います。
――今度は何を壊しに来たのですか?」
「壊しに来たんじゃない。もう一度、作りに来たんだ。」
「作る?」
「この世界を、やり直すために。人も魔も、生きるだけで罰せられない世界に。」
ベリスの表情が変わる。
一瞬の沈黙ののち、彼女はゆっくりと跪いた。
「ならば、この城を再びお使いください。アルディス様が再生を望まれるなら、私はその礎となりましょう。」
ルミナスが音を弾ませる。
『ご主人さま、どうやら味方のようです! 協力要請の反応が確認されました!』
「協力してくれるのか?」
ベリスは頷いた。
「あなたが築く“魔王城”に、再び命を吹き込みましょう。
だがそのためには、根の回廊の“動力核”が必要。あれを取り込まねば、この地は再び崩れます。」
「動力核、つまり例の入口を開く鍵か。」
「はい。だが同時に、世界の法則を動かす危険な力。使い方を誤れば、あなた自身が神と同じ存在になるでしょう。」
「神にだけはならないさ。もう、そんなものにはうんざりだ。」
ベリスはわずかに微笑んだ。
「その言葉、嬉しく思います。」
彼女の翼が震え、魔法陣が広がる。
崩れ落ちた城壁が空中で反転し、ゆっくりと元の位置に戻っていく。
瓦礫の欠片が光に包まれ、黒曜石の塔が一本、また一本と立ち上がる。
巨大な構造体が大地に影を落とすと、砂が一気に吹き飛び、かつての“魔王城”が姿を現した。
ルミナスが感嘆の声をあげる。
『再建プロセス完了! うわぁ……ここ、完全に活動基地にできますよ! 配信スタジオにもぴったり!』
「配信スタジオって言うな。」
『だって全世界へ発信できるチャンネル拠点に最適なんです! 通信範囲、王都を超えて全大陸。しかも魔力安定値が最高クラス!』
ベリスがくすりと笑った。
「ルミナス……あなたが新時代の精霊ね。昔の記録よりもずいぶん喋る。」
『よく言われます! おしゃべりは性能の証です!』
俺は塔の最上階――玉座の間へ向かった。
そこには、千年前と変わらぬ装飾の残骸があった。
石の椅子、割れた鏡、そして壁に刻まれた“契約の紋”。
その中心に、淡く光る赤い宝玉が埋め込まれている。
「これが……魔王の心臓、か。」
ベリスが頷く。
「アルディスはこの宝玉を通して、世界と対話していた。あなたが触れれば、封印が解除されます。」
「触れたら、俺はまた“魔王”になるのか?」
「いいえ。選択次第。救済者にも、破壊者にもなれる。」
ルミナスの声が真剣になる。
『ご主人さま、このデータリンクは強制的なものじゃありません。自ら判断してください。』
「なら、答えは決まってる。」
俺は宝玉に手を伸ばした。
冷たい感触。瞬間、体中を魔力が駆け抜け、視界が闇に閉ざされた。
次に見たのは、黒い大地と赤い空の世界。
目の前に、もう一人の俺が立っていた。
「お前が……アルディスか。」
「そうだ。そしてお前が“次の俺”だ。」
「俺はお前とは違う。」
「違わない。人を守るために力を使えば、それはすでに支配の始まりだ。お前もいずれ、俺と同じ道を歩く。」
「違うと言ってる!」
「なら証明してみせろ。この世界を壊さずに、再生できると。」
世界が砕け、意識が現実へと戻る。
汗が頬を伝って落ちた。
ルミナスが心配そうに光る。
『どうしました、ご主人さま? 脈拍上昇、精神波乱高!』
「なんでもない……ただ、確信した。
――あいつは俺の中にいる。でも、俺はもう負けない。」
ベリスが静かに頭を下げる。
「アルディス様の“影”もご覧になったのですね。ならば、それを乗り越える時代が来たということ。」
窓の向こう、夜明けの空が黄金色に染まる。
再建した魔王城の塔が朝日に照らされ、黒曜石の壁が炎のように輝く。
ルミナスがウィンドウを開いた。
『新しい配信タイトル、決まりました。“魔王城リブート・世界再生計画”です。』
「おい、また勝手につけるな。」
『でも、視聴者が待ってます。“魔王の再建ライブ”ってタグも急上昇中!』
笑ってしまった。
「まったく……お前ってやつは。」
空の彼方で、レアの欠片が淡い光となって瞬く。
まるで、見守られているようだった。
俺は玉座に座り、深く息を吸った。
「ここが出発点だ。魔王の力を、人の未来のために使う。破壊じゃなく、再生のために。」
そして宣言するように、目の前の光へ語りかけた。
「さあ――配信を始めよう。世界を繋ぐための、もう一度の物語を。」
夜明け前の砂漠の空は赤く光り、地平線の向こうにかすかに揺れる蜃気楼がある。
そこがセリカの指し示した位置――根の回廊への入口。
俺は砂丘の上に立ち、吹き上げる風に目を細めた。
ルミナスが肩元でいつになく静かな声を出す。
『……王都から三日。移動距離二千キロ。あの日から一睡もしてません。休むべきです、ご主人さま。』
「眠る暇があるなら、動いていたい。」
『レア王女の件、まだ……心が追いついていないのですね。』
答えられなかった。
胸に残るのは、温もりの記憶と、消えた光の残滓。
彼女が消えたあと、ルミナスには微かなデータ片が取り込まれていた。
それが時折、彼女の声として響くのだ。
『リアム、あなたはきっと真実に辿り着けるわ。』
まるで彼女自身がまだ隣にいるようで、痛かった。
砂丘の下には廃墟が広がっている。
灰色の柱、崩れた石門、そして黒ずんだ地面。
遠い昔、ここには“魔王城アルディス”があったという。
千年前、魔族と人類が最後まで争った地。
アルトが“神聖帝国”を築く前の、世界のもう一つの中心。
ルミナスが周囲をスキャンしながら囁く。
『ここが本当に魔王の拠点だったとしたら、ご主人さまの記憶の元データにも関わっています。もしかすると、ここで封印が始まり、根の回廊へと繋がったのかもしれません。』
「つまり、俺がアルディスだった頃の……始まりの場所ってことか。」
『ええ。でも今のあなたがどうするかで、歴史は変わります。』
俺はゆっくり歩き出した。
風に砂が巻き、地面からわずかに青い光が漏れる。
その光を辿るように進むと、崩れかけた城門の内側に巨大な魔方陣があった。
中心には、誰かが座っている。
近づくと、その人物はゆっくりと顔を上げた。
金色の瞳を持つ女――皮膚は灰色で、背中には黒い鱗の翼が折りたたまれている。
「待っていたわ。“転生魔王”リアム。」
「……お前は?」
「この城の管理者。アルディスの忠臣、“ベリス”。最後の魔族よ。」
ルミナスが低く警告する。
『戦闘能力、極めて高。高位魔導種。千年前の記録にも存在します。』
ベリスは微笑し、翼をわずかに広げた。
「あなたはアルディス。かつて私たちを導き、そして滅びを選んだ王。再び現れたあなたに問います。
――今度は何を壊しに来たのですか?」
「壊しに来たんじゃない。もう一度、作りに来たんだ。」
「作る?」
「この世界を、やり直すために。人も魔も、生きるだけで罰せられない世界に。」
ベリスの表情が変わる。
一瞬の沈黙ののち、彼女はゆっくりと跪いた。
「ならば、この城を再びお使いください。アルディス様が再生を望まれるなら、私はその礎となりましょう。」
ルミナスが音を弾ませる。
『ご主人さま、どうやら味方のようです! 協力要請の反応が確認されました!』
「協力してくれるのか?」
ベリスは頷いた。
「あなたが築く“魔王城”に、再び命を吹き込みましょう。
だがそのためには、根の回廊の“動力核”が必要。あれを取り込まねば、この地は再び崩れます。」
「動力核、つまり例の入口を開く鍵か。」
「はい。だが同時に、世界の法則を動かす危険な力。使い方を誤れば、あなた自身が神と同じ存在になるでしょう。」
「神にだけはならないさ。もう、そんなものにはうんざりだ。」
ベリスはわずかに微笑んだ。
「その言葉、嬉しく思います。」
彼女の翼が震え、魔法陣が広がる。
崩れ落ちた城壁が空中で反転し、ゆっくりと元の位置に戻っていく。
瓦礫の欠片が光に包まれ、黒曜石の塔が一本、また一本と立ち上がる。
巨大な構造体が大地に影を落とすと、砂が一気に吹き飛び、かつての“魔王城”が姿を現した。
ルミナスが感嘆の声をあげる。
『再建プロセス完了! うわぁ……ここ、完全に活動基地にできますよ! 配信スタジオにもぴったり!』
「配信スタジオって言うな。」
『だって全世界へ発信できるチャンネル拠点に最適なんです! 通信範囲、王都を超えて全大陸。しかも魔力安定値が最高クラス!』
ベリスがくすりと笑った。
「ルミナス……あなたが新時代の精霊ね。昔の記録よりもずいぶん喋る。」
『よく言われます! おしゃべりは性能の証です!』
俺は塔の最上階――玉座の間へ向かった。
そこには、千年前と変わらぬ装飾の残骸があった。
石の椅子、割れた鏡、そして壁に刻まれた“契約の紋”。
その中心に、淡く光る赤い宝玉が埋め込まれている。
「これが……魔王の心臓、か。」
ベリスが頷く。
「アルディスはこの宝玉を通して、世界と対話していた。あなたが触れれば、封印が解除されます。」
「触れたら、俺はまた“魔王”になるのか?」
「いいえ。選択次第。救済者にも、破壊者にもなれる。」
ルミナスの声が真剣になる。
『ご主人さま、このデータリンクは強制的なものじゃありません。自ら判断してください。』
「なら、答えは決まってる。」
俺は宝玉に手を伸ばした。
冷たい感触。瞬間、体中を魔力が駆け抜け、視界が闇に閉ざされた。
次に見たのは、黒い大地と赤い空の世界。
目の前に、もう一人の俺が立っていた。
「お前が……アルディスか。」
「そうだ。そしてお前が“次の俺”だ。」
「俺はお前とは違う。」
「違わない。人を守るために力を使えば、それはすでに支配の始まりだ。お前もいずれ、俺と同じ道を歩く。」
「違うと言ってる!」
「なら証明してみせろ。この世界を壊さずに、再生できると。」
世界が砕け、意識が現実へと戻る。
汗が頬を伝って落ちた。
ルミナスが心配そうに光る。
『どうしました、ご主人さま? 脈拍上昇、精神波乱高!』
「なんでもない……ただ、確信した。
――あいつは俺の中にいる。でも、俺はもう負けない。」
ベリスが静かに頭を下げる。
「アルディス様の“影”もご覧になったのですね。ならば、それを乗り越える時代が来たということ。」
窓の向こう、夜明けの空が黄金色に染まる。
再建した魔王城の塔が朝日に照らされ、黒曜石の壁が炎のように輝く。
ルミナスがウィンドウを開いた。
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「おい、また勝手につけるな。」
『でも、視聴者が待ってます。“魔王の再建ライブ”ってタグも急上昇中!』
笑ってしまった。
「まったく……お前ってやつは。」
空の彼方で、レアの欠片が淡い光となって瞬く。
まるで、見守られているようだった。
俺は玉座に座り、深く息を吸った。
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