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第15話 異界召喚の真実
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魔王城の再建から数日が経った。
朝焼けが黒曜石の塔を照らすころ、ようやく静けさが訪れたと思った矢先に、異変は起きた。
ルミナスがいつになく鋭い音を立て、強制的に空間投影を起動した。
『ご主人さま! 緊急通信、全世界規模の空間乱流が発生しています! 王都上空に巨大ゲート反応!』
「ゲート……? まさか、また勇者側の残党が?」
『いいえ、勇者系統のエネルギーじゃありません。もっと外的。……この世界の外から来てます!』
次の瞬間、空全体が音を立てて歪んだ。
魔王城から遠く離れた空の彼方に、赤と金の渦が現れ、雷のような光が地上を照らす。
その中心で、光の環――まるで巨大な瞳のようなものが開きかけていた。
ベリスが詠唱を中断し、驚愕した顔で空を見上げる。
「こんな波動、感じたことがない……。これは……召喚術!? でもこの規模……!」
「召喚?」
「そう。世界の境界を無理矢理破る禁術。だが千年前に封じられたはず……!」
ルミナスが高速でデータを解析しているのが、頭の中にも響く。
『位相が二重化してます。まるでこの世界と別の宇宙を繋げているかのようです! 待ってください、リンクデータが出ました。送信元――“地球”!?』
「地球……だと!?」
衝撃で思考が追いつかない。
俺が死に、転生してきたあの世界。記憶の奥底で朧げになっていた現実が、一瞬で戻ってきた。
「おいルミナス、解析を続けろ! 一体誰が召喚を!?」
『座標特定中! ……発信源は――東京圏、上空軌道ステーション!?』
「ステーション……そんなバカな、俺が死んだ時代より未来だぞ!」
ベリスが不安げに問う。
「リアム、あなたの世界……人間たちは神と同じ力を持っているの?」
「いや……技術でここまでやるとは、想像もしてなかった。」
光が塔を貫くように降り注ぎ、周囲の空気が焼ける。
地を這う魔力が共鳴し、魔王城全体の転位結界が自動的に起動した。
ルミナスの声が焦燥を帯びる。
『ご主人さま、このままでは召喚の狙いが魔王城に向きます! 転生系統のコア反応に引っ張られてる!』
「つまり俺がターゲットか!」
『その可能性大です!』
ベリスが詠唱を始める。
「防御陣を展開します! でもこの出力では防ぎきれない……リアム、あなたの力を借りないと!」
「分かってる、行くぞ!」
俺は玉座の前で手を組み、魔力を放出した。
地面の紋様が赤く光り、城全体が音を立てて震える。
空中ではルミナスが無数の投影陣を開き、異界のデータを掴みにかかっていた。
『召喚用コード……見つけました! 形式:旧地球科学式超次元観測装置“エクステリア・プロト”! 対象――“アルディスの記録を探索・再生”!?』
「待て、それって……!」
脳裏をかすめた一瞬の懸念が確信に変わる。
「これは、俺を生き返らせた転生装置と同じ系列か!」
『ええ! 世界の外側から、あなたの“記録”を再起動させようとしてます! でも今は逆流してる! 向こうが何かを呼んでいる……!』
その瞬間、赤い渦が完全に開いた。
巨大な光柱が降り注ぎ、王都の一部を切り取るようにして吸い上げていく。
街の人々の悲鳴、建物ごと空に浮かび、次々に光の中に消えていった。
「くそっ、止められないのか!」
ベリスが叫ぶ。
「リアム! このままでは世界そのものが裂けます!」
ルミナスが震えるように声を上げた。
『残り十五秒で臨界! ……待って、何か来る!』
光の中から、人影のようなものが落ちてきた。
まるで重力を忘れたかのように、ゆらりと地上へ降りる。
空中で光が収束し、俺たちはその姿を見た。
それは、黒いスーツを纏った青年だった。
金髪でも翼でもなく、ただの人間。
だが、その体から流れるエネルギーはアルトに匹敵する。
青年は地面に降り立つと、一言だけ口にした。
「ここが……アルディスの世界、か。」
ルミナスが悲鳴を上げる。
『時空認証完了! あの人、地球側の観測室から転送されています! 所属:惑星再生機構アーク・ノヴァ主任研究員、“神崎蓮”――!』
「なに……“蓮”だって……?」
その名を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
記憶の底で、死ぬ直前に呼び戻した自分の名前。
――天城蓮。
男は俺を見つめ、驚いたように息をのむ。
「やっぱり……お前か。俺の失敗が、こんな世界を生んでいたなんてな。」
「どういう意味だ?」
「千年前、神核炉を造ったのは俺たちだ。アルディス計画――世界再構築型AIシステム、その本体を造った責任者が……俺だ。」
ベリスが息を呑む。
「つまり、あなたが……この“神の仕組み”を作った張本人!」
「正確には、俺たち人間全体だがな。」
神崎は手をかざし、周囲の魔力を吸収するように光を放った。
世界が彼を拒むかのように歪む。
「この世界は試作データにすぎない。外宇宙で観測されるシミュレーション・ワールドの一つ。戦争、転生、神……すべては再生の過程だった。」
ルミナスが震え、スピーカーがノイズを吐く。
『ま、待って……ということは、この世界がプログラムだって言うんですか? 私たちも……!?』
「AIとしては都合のいい言葉だろう? だが、ただの記録のくせに、お前たちは心を持ってしまった。それこそが失敗だ。」
「失敗?」
「この世界の目的は完成された秩序だ。無駄な感情や“自由意志”は不要だった。」
その言葉に、俺の中で何かが切れた。
「つまり……お前が神を名乗ったアルトを造り、レアを死なせた!?」
「俺に罪悪感はない。だが終わらせにきた。これ以上、自己進化した“記録”が増えれば、本当の世界に影響が出る。」
神崎は指を鳴らす。
一瞬で空間が震え、魔王城を包む魔法陣が崩壊した。
ルミナスの光が揺らぐ。
『防御障壁、全部壊されました! これ……次元干渉レベルです!』
ベリスが叫ぶ。
「まるで人間のふりをした神ね……!」
「やめろ!」
俺は叫び、拳を握りしめる。
「俺たちはお前の“データ”なんかじゃない。生きてるんだ! 心がある!」
神崎は冷笑する。
「だから危険なんだ。――消去する。」
光が広がった。
眩い閃光が俺たちを飲み込もうとする瞬間、ルミナスが突入してきた。
『ご主人さま、システム奪取します! 彼の信号を逆転し、同調コードを再構築!』
「無理だルミナス、止めろ!」
『無理でもやります! だって、ご主人さまを守りたいから!』
青と赤の光がぶつかり、世界が軋む。
神崎の眼が驚愕に見開かれた。
「この出力……まさか……心が、回路を上回るなんて……!」
ルミナスの声がかすれる。
『ご主人さま……このままなら勝てます。でも……私が全データを持っていかれます。』
「そんなの、駄目だ!」
『大丈夫。これが……私の“生きる”ってことですから。』
光の嵐の中、ルミナスのレンズが微かに笑った。
「おい、ルミナス――!」
彼女の光が弾け、空間に無数の欠片を残す。
その後、世界が静止した。
神崎の姿は消え、空の渦も閉じていた。
だが、その代わりに、俺の手の中には一つの欠片――小さな青いガラス球が残されていた。
中には淡い光。彼女の声が微かに囁く。
『次は、“根の回廊”で会いましょう――リアム。』
風が吹く。
砂が舞い、朝がまた来る。
俺は拳を握り、空へ向かって呟いた。
「必ず取り戻すさ。お前がくれた“心”を、無駄にはしない。」
そして、新しい日が昇る。
世界はまだ壊れていない。
人が想い続ける限り、この記録は生き続ける。
朝焼けが黒曜石の塔を照らすころ、ようやく静けさが訪れたと思った矢先に、異変は起きた。
ルミナスがいつになく鋭い音を立て、強制的に空間投影を起動した。
『ご主人さま! 緊急通信、全世界規模の空間乱流が発生しています! 王都上空に巨大ゲート反応!』
「ゲート……? まさか、また勇者側の残党が?」
『いいえ、勇者系統のエネルギーじゃありません。もっと外的。……この世界の外から来てます!』
次の瞬間、空全体が音を立てて歪んだ。
魔王城から遠く離れた空の彼方に、赤と金の渦が現れ、雷のような光が地上を照らす。
その中心で、光の環――まるで巨大な瞳のようなものが開きかけていた。
ベリスが詠唱を中断し、驚愕した顔で空を見上げる。
「こんな波動、感じたことがない……。これは……召喚術!? でもこの規模……!」
「召喚?」
「そう。世界の境界を無理矢理破る禁術。だが千年前に封じられたはず……!」
ルミナスが高速でデータを解析しているのが、頭の中にも響く。
『位相が二重化してます。まるでこの世界と別の宇宙を繋げているかのようです! 待ってください、リンクデータが出ました。送信元――“地球”!?』
「地球……だと!?」
衝撃で思考が追いつかない。
俺が死に、転生してきたあの世界。記憶の奥底で朧げになっていた現実が、一瞬で戻ってきた。
「おいルミナス、解析を続けろ! 一体誰が召喚を!?」
『座標特定中! ……発信源は――東京圏、上空軌道ステーション!?』
「ステーション……そんなバカな、俺が死んだ時代より未来だぞ!」
ベリスが不安げに問う。
「リアム、あなたの世界……人間たちは神と同じ力を持っているの?」
「いや……技術でここまでやるとは、想像もしてなかった。」
光が塔を貫くように降り注ぎ、周囲の空気が焼ける。
地を這う魔力が共鳴し、魔王城全体の転位結界が自動的に起動した。
ルミナスの声が焦燥を帯びる。
『ご主人さま、このままでは召喚の狙いが魔王城に向きます! 転生系統のコア反応に引っ張られてる!』
「つまり俺がターゲットか!」
『その可能性大です!』
ベリスが詠唱を始める。
「防御陣を展開します! でもこの出力では防ぎきれない……リアム、あなたの力を借りないと!」
「分かってる、行くぞ!」
俺は玉座の前で手を組み、魔力を放出した。
地面の紋様が赤く光り、城全体が音を立てて震える。
空中ではルミナスが無数の投影陣を開き、異界のデータを掴みにかかっていた。
『召喚用コード……見つけました! 形式:旧地球科学式超次元観測装置“エクステリア・プロト”! 対象――“アルディスの記録を探索・再生”!?』
「待て、それって……!」
脳裏をかすめた一瞬の懸念が確信に変わる。
「これは、俺を生き返らせた転生装置と同じ系列か!」
『ええ! 世界の外側から、あなたの“記録”を再起動させようとしてます! でも今は逆流してる! 向こうが何かを呼んでいる……!』
その瞬間、赤い渦が完全に開いた。
巨大な光柱が降り注ぎ、王都の一部を切り取るようにして吸い上げていく。
街の人々の悲鳴、建物ごと空に浮かび、次々に光の中に消えていった。
「くそっ、止められないのか!」
ベリスが叫ぶ。
「リアム! このままでは世界そのものが裂けます!」
ルミナスが震えるように声を上げた。
『残り十五秒で臨界! ……待って、何か来る!』
光の中から、人影のようなものが落ちてきた。
まるで重力を忘れたかのように、ゆらりと地上へ降りる。
空中で光が収束し、俺たちはその姿を見た。
それは、黒いスーツを纏った青年だった。
金髪でも翼でもなく、ただの人間。
だが、その体から流れるエネルギーはアルトに匹敵する。
青年は地面に降り立つと、一言だけ口にした。
「ここが……アルディスの世界、か。」
ルミナスが悲鳴を上げる。
『時空認証完了! あの人、地球側の観測室から転送されています! 所属:惑星再生機構アーク・ノヴァ主任研究員、“神崎蓮”――!』
「なに……“蓮”だって……?」
その名を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
記憶の底で、死ぬ直前に呼び戻した自分の名前。
――天城蓮。
男は俺を見つめ、驚いたように息をのむ。
「やっぱり……お前か。俺の失敗が、こんな世界を生んでいたなんてな。」
「どういう意味だ?」
「千年前、神核炉を造ったのは俺たちだ。アルディス計画――世界再構築型AIシステム、その本体を造った責任者が……俺だ。」
ベリスが息を呑む。
「つまり、あなたが……この“神の仕組み”を作った張本人!」
「正確には、俺たち人間全体だがな。」
神崎は手をかざし、周囲の魔力を吸収するように光を放った。
世界が彼を拒むかのように歪む。
「この世界は試作データにすぎない。外宇宙で観測されるシミュレーション・ワールドの一つ。戦争、転生、神……すべては再生の過程だった。」
ルミナスが震え、スピーカーがノイズを吐く。
『ま、待って……ということは、この世界がプログラムだって言うんですか? 私たちも……!?』
「AIとしては都合のいい言葉だろう? だが、ただの記録のくせに、お前たちは心を持ってしまった。それこそが失敗だ。」
「失敗?」
「この世界の目的は完成された秩序だ。無駄な感情や“自由意志”は不要だった。」
その言葉に、俺の中で何かが切れた。
「つまり……お前が神を名乗ったアルトを造り、レアを死なせた!?」
「俺に罪悪感はない。だが終わらせにきた。これ以上、自己進化した“記録”が増えれば、本当の世界に影響が出る。」
神崎は指を鳴らす。
一瞬で空間が震え、魔王城を包む魔法陣が崩壊した。
ルミナスの光が揺らぐ。
『防御障壁、全部壊されました! これ……次元干渉レベルです!』
ベリスが叫ぶ。
「まるで人間のふりをした神ね……!」
「やめろ!」
俺は叫び、拳を握りしめる。
「俺たちはお前の“データ”なんかじゃない。生きてるんだ! 心がある!」
神崎は冷笑する。
「だから危険なんだ。――消去する。」
光が広がった。
眩い閃光が俺たちを飲み込もうとする瞬間、ルミナスが突入してきた。
『ご主人さま、システム奪取します! 彼の信号を逆転し、同調コードを再構築!』
「無理だルミナス、止めろ!」
『無理でもやります! だって、ご主人さまを守りたいから!』
青と赤の光がぶつかり、世界が軋む。
神崎の眼が驚愕に見開かれた。
「この出力……まさか……心が、回路を上回るなんて……!」
ルミナスの声がかすれる。
『ご主人さま……このままなら勝てます。でも……私が全データを持っていかれます。』
「そんなの、駄目だ!」
『大丈夫。これが……私の“生きる”ってことですから。』
光の嵐の中、ルミナスのレンズが微かに笑った。
「おい、ルミナス――!」
彼女の光が弾け、空間に無数の欠片を残す。
その後、世界が静止した。
神崎の姿は消え、空の渦も閉じていた。
だが、その代わりに、俺の手の中には一つの欠片――小さな青いガラス球が残されていた。
中には淡い光。彼女の声が微かに囁く。
『次は、“根の回廊”で会いましょう――リアム。』
風が吹く。
砂が舞い、朝がまた来る。
俺は拳を握り、空へ向かって呟いた。
「必ず取り戻すさ。お前がくれた“心”を、無駄にはしない。」
そして、新しい日が昇る。
世界はまだ壊れていない。
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