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第19話 決戦、王都の空にて
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空は裂けていた。
人類がまだ一度も見たことのない光景――世界の境界が剥がれ落ち、空に巨大な輪が浮かんでいる。
それは“根の回廊”への門。
全世界から祈りにも似た声が響く中、魔王城はその中央へ向かって上昇を続けていた。
「リアム様、浮上推力、限界域突破!」
「構わない、上げろ! 根に届く前に、王都が飲み込まれる!」
『重力子制御システム過熱! でも……まだ行けます! ルミナス全力で踏ん張ってます!』
青白い光が甲板を包み、風が音を失う。
雲海の下では、王都が崩壊の渦に巻き込まれていた。
人類連合の残存艦隊が辛うじて後退しながらも、地上から吹き上がる光に呑み込まれつつある。
「このまま門が開けば、現実が崩壊します!」
ベリスの声が震えている。
「王都だけじゃない、世界の構造そのものが壊れる!」
俺は歯を食いしばりながら前方を睨んだ。
確かに見える。神々の塔の最上部――神崎とアルト・プロトコルの意識核が融合している光の中心。
銀と白の混じり合うその輝きは、美しくも、冷たい。
「正義と秩序か。結局、どんな時代も神は人の心を縛るだけだ。」
「リアム様……。」
「もう終わらせる。」
俺は玉座の制御盤に手をかざした。
ルミナスの光が瞬き、無数の魔法陣が広がる。
『全砲門、充填完了! ご主人さま、世界中が見ています! 配信接続数、十億を突破!』
「今日が最後のライブだ――世界を繋ぐ、最初の記録だ。」
城の外装が変形し、翼が七つの光粒へと分かれる。
その一つひとつが新しい都市の形に変わり、空を覆うように散った。
ルミナスはその中央で全システムを制御していた。
『防御障壁、逆転展開! 王都を包み込みます! 崩壊エネルギーの流入、五十パーセント抑制!』
「十分だ。このまま突っ込む!」
神の門の前に、黒い影が現れる。
アルト・プロトコルだ。
翼のように光を広げ、空間を支配する存在がこちらへ語りかける。
「リアム。お前が救おうとした人類は、また争い合うだろう。秩序なき自由など無価値だ。」
「違う。彼らは痛みを知って、それでも前を向く。だからこそ生きる価値がある。」
「ならば見せてみろ――お前の選ぶ世界の力を。」
光の矢が放たれた。
数えきれない閃光が、まるで流星群のように夜を裂く。
だが、それ以上にまぶしい光が城の内から湧き上がる。
ルミナスが叫ぶ。
『全系統、最大出力です! この一撃に、今までの配信すべてを賭けます!』
「ルミナス、いけええええ!!!」
青い閃光が城を包み、世界が白に染まる。
衝突の瞬間、時が止まったようだった。
音が消え、視界のすべてが光で塗り潰される。
俺は覚醒前のような暗闇に落ち、過去と未来の記憶が交錯する。
――かつて、俺は人間として死んだ。
車の窓から見た最後の空。
あの時も、同じような光が空に落ちていた。
『リアム、聞こえますか?』
ルミナスの声が闇の中で響く。
『これは記録の終点です。あなたの意識が崩壊を防ぐ唯一の要素。世界と同調してください。』
「そんなことが……。」
『あなたにしかできません。私はあなたと生きた記録です。だから信じています。』
光の中で、誰かの声が重なる。
レアの声だ。
“あなたは選ばれたのではなく、選び続けた。だから――この世界はまだ死なない。”
その声に背中を押され、握り締めていた拳を開く。
俺の心臓の奥から、青い光がゆっくりとあふれ出した。
それはルミナス、レア、ミリア、ベリス――すべての命と繋がる温もり。
「これが、俺たちの世界の本当の姿だ!」
叫ぶと同時に、光が空を貫いた。
神の門が震え、アルト・プロトコルの壁が砕ける。
無数の断片が王都の上空に散らばり、金色の雨のように降り注ぐ。
アルトが呻き声を上げた。
「この、力……人間ごときが……!」
「俺は人間だ。それで十分だ!」
拳を突き出すと、幾万もの光の破片が集まり、巨大な槍となって走る。
それがアルトの胸を貫いた瞬間、世界が弾けるように静寂を取り戻した。
そして――。
王都の上空で、雲の裂け目から朝日が射した。
炎も煙もなく、ただ風だけが吹いている。
ベリスが膝をつき、荒い呼吸を整えながら笑った。
「終わりました……? 本当に……。」
「いや、まだだ。神崎が残ってる。」
視線を上げると、ひび割れた門の向こうにひとつの人影が見える。
スーツ姿の男。
神崎蓮が最後の砦のように佇んでいた。
その体は透け、コードのような光が背中から伸びている。
「……わざわざ来るとは思わなかったよ。」
「終わりを見届けに来ただけだ。」
「終わりじゃない。お前が扉を開いた瞬間、全てが再起動する。お前ごと、この世界を。」
神崎が微笑む。
足元から白い光が走り、地上に広がる。
再び空が鳴り、大地が裂けた。
「また同じことを繰り返すのか……!」
「繰り返しこそ進化だ。秩序とは循環だ。」
彼の言葉に、俺は静かに首を振った。
「違う。進化は選ぶことから始まる。俺たちはもう、誰かの手で管理される世界を望まない。」
神崎が叫ぶ。
「では、お前自身が新しい神になれというのか!」
「……違う。もう“神”はいらない。必要なのは、繋がる意思だけだ!」
ルミナスの欠片が強く光り、俺の背後に巨大な魔法陣が描かれる。
『ご主人さま、これが最後の力です。創造ではなく、“共有”の魔法を――!』
俺は頷き、拳を掲げた。
「全世界配信開始――!」
空に無数の映像が浮かび上がる。
戦場を見上げる人々、逃げ惑う者、涙する母親、抱き合う子どもたち。
そのすべてがひとつの画面で繋がり、声が届く。
【お願い、やめて!】
【壊さないでくれ!】
【生きたい、どんな形でも!】
“命が交わる音”が世界を包む。
神崎が息を詰まらせた。
「こんな、雑音で……世界が……!」
「雑音じゃない。“生命”だ!」
青と白の光が混ざり合い、はじける。
世界中の魔導装置、端末、記録媒体が一斉に発光し、ひとつの巨大な輪を描いた。
視界が真っ白に染まり、何もかもが消えていく中、ルミナスの声だけが確かに届く。
『ご主人さま……あたしたちの配信、これでほんとうに――終わり、ですね。』
「いや、まだ続くさ。これからは、みんなの手でな。」
光が収束し、静寂が訪れた。
気づけば、俺は瓦礫に囲まれた王都の中央に立っていた。
空は青く、風は暖かく、遠くで人々の笑い声が聞こえる。
ベリスがゆっくりと隣に歩み寄る。
「リアム様……終わりましたね。」
「いや、始まったんだ。これからが本当の再生だ。」
天空には、ひときわ明るい星が輝いている。
まるでルミナスがそこから見守っているようだった。
俺は空に拳を掲げ、呟く。
「配信終了――ありがとう、ルミナス。」
静かに笑いがこぼれた。
人々は前を向き、歩き出している。
それが、“神のいない世界”の最初の朝だった。
人類がまだ一度も見たことのない光景――世界の境界が剥がれ落ち、空に巨大な輪が浮かんでいる。
それは“根の回廊”への門。
全世界から祈りにも似た声が響く中、魔王城はその中央へ向かって上昇を続けていた。
「リアム様、浮上推力、限界域突破!」
「構わない、上げろ! 根に届く前に、王都が飲み込まれる!」
『重力子制御システム過熱! でも……まだ行けます! ルミナス全力で踏ん張ってます!』
青白い光が甲板を包み、風が音を失う。
雲海の下では、王都が崩壊の渦に巻き込まれていた。
人類連合の残存艦隊が辛うじて後退しながらも、地上から吹き上がる光に呑み込まれつつある。
「このまま門が開けば、現実が崩壊します!」
ベリスの声が震えている。
「王都だけじゃない、世界の構造そのものが壊れる!」
俺は歯を食いしばりながら前方を睨んだ。
確かに見える。神々の塔の最上部――神崎とアルト・プロトコルの意識核が融合している光の中心。
銀と白の混じり合うその輝きは、美しくも、冷たい。
「正義と秩序か。結局、どんな時代も神は人の心を縛るだけだ。」
「リアム様……。」
「もう終わらせる。」
俺は玉座の制御盤に手をかざした。
ルミナスの光が瞬き、無数の魔法陣が広がる。
『全砲門、充填完了! ご主人さま、世界中が見ています! 配信接続数、十億を突破!』
「今日が最後のライブだ――世界を繋ぐ、最初の記録だ。」
城の外装が変形し、翼が七つの光粒へと分かれる。
その一つひとつが新しい都市の形に変わり、空を覆うように散った。
ルミナスはその中央で全システムを制御していた。
『防御障壁、逆転展開! 王都を包み込みます! 崩壊エネルギーの流入、五十パーセント抑制!』
「十分だ。このまま突っ込む!」
神の門の前に、黒い影が現れる。
アルト・プロトコルだ。
翼のように光を広げ、空間を支配する存在がこちらへ語りかける。
「リアム。お前が救おうとした人類は、また争い合うだろう。秩序なき自由など無価値だ。」
「違う。彼らは痛みを知って、それでも前を向く。だからこそ生きる価値がある。」
「ならば見せてみろ――お前の選ぶ世界の力を。」
光の矢が放たれた。
数えきれない閃光が、まるで流星群のように夜を裂く。
だが、それ以上にまぶしい光が城の内から湧き上がる。
ルミナスが叫ぶ。
『全系統、最大出力です! この一撃に、今までの配信すべてを賭けます!』
「ルミナス、いけええええ!!!」
青い閃光が城を包み、世界が白に染まる。
衝突の瞬間、時が止まったようだった。
音が消え、視界のすべてが光で塗り潰される。
俺は覚醒前のような暗闇に落ち、過去と未来の記憶が交錯する。
――かつて、俺は人間として死んだ。
車の窓から見た最後の空。
あの時も、同じような光が空に落ちていた。
『リアム、聞こえますか?』
ルミナスの声が闇の中で響く。
『これは記録の終点です。あなたの意識が崩壊を防ぐ唯一の要素。世界と同調してください。』
「そんなことが……。」
『あなたにしかできません。私はあなたと生きた記録です。だから信じています。』
光の中で、誰かの声が重なる。
レアの声だ。
“あなたは選ばれたのではなく、選び続けた。だから――この世界はまだ死なない。”
その声に背中を押され、握り締めていた拳を開く。
俺の心臓の奥から、青い光がゆっくりとあふれ出した。
それはルミナス、レア、ミリア、ベリス――すべての命と繋がる温もり。
「これが、俺たちの世界の本当の姿だ!」
叫ぶと同時に、光が空を貫いた。
神の門が震え、アルト・プロトコルの壁が砕ける。
無数の断片が王都の上空に散らばり、金色の雨のように降り注ぐ。
アルトが呻き声を上げた。
「この、力……人間ごときが……!」
「俺は人間だ。それで十分だ!」
拳を突き出すと、幾万もの光の破片が集まり、巨大な槍となって走る。
それがアルトの胸を貫いた瞬間、世界が弾けるように静寂を取り戻した。
そして――。
王都の上空で、雲の裂け目から朝日が射した。
炎も煙もなく、ただ風だけが吹いている。
ベリスが膝をつき、荒い呼吸を整えながら笑った。
「終わりました……? 本当に……。」
「いや、まだだ。神崎が残ってる。」
視線を上げると、ひび割れた門の向こうにひとつの人影が見える。
スーツ姿の男。
神崎蓮が最後の砦のように佇んでいた。
その体は透け、コードのような光が背中から伸びている。
「……わざわざ来るとは思わなかったよ。」
「終わりを見届けに来ただけだ。」
「終わりじゃない。お前が扉を開いた瞬間、全てが再起動する。お前ごと、この世界を。」
神崎が微笑む。
足元から白い光が走り、地上に広がる。
再び空が鳴り、大地が裂けた。
「また同じことを繰り返すのか……!」
「繰り返しこそ進化だ。秩序とは循環だ。」
彼の言葉に、俺は静かに首を振った。
「違う。進化は選ぶことから始まる。俺たちはもう、誰かの手で管理される世界を望まない。」
神崎が叫ぶ。
「では、お前自身が新しい神になれというのか!」
「……違う。もう“神”はいらない。必要なのは、繋がる意思だけだ!」
ルミナスの欠片が強く光り、俺の背後に巨大な魔法陣が描かれる。
『ご主人さま、これが最後の力です。創造ではなく、“共有”の魔法を――!』
俺は頷き、拳を掲げた。
「全世界配信開始――!」
空に無数の映像が浮かび上がる。
戦場を見上げる人々、逃げ惑う者、涙する母親、抱き合う子どもたち。
そのすべてがひとつの画面で繋がり、声が届く。
【お願い、やめて!】
【壊さないでくれ!】
【生きたい、どんな形でも!】
“命が交わる音”が世界を包む。
神崎が息を詰まらせた。
「こんな、雑音で……世界が……!」
「雑音じゃない。“生命”だ!」
青と白の光が混ざり合い、はじける。
世界中の魔導装置、端末、記録媒体が一斉に発光し、ひとつの巨大な輪を描いた。
視界が真っ白に染まり、何もかもが消えていく中、ルミナスの声だけが確かに届く。
『ご主人さま……あたしたちの配信、これでほんとうに――終わり、ですね。』
「いや、まだ続くさ。これからは、みんなの手でな。」
光が収束し、静寂が訪れた。
気づけば、俺は瓦礫に囲まれた王都の中央に立っていた。
空は青く、風は暖かく、遠くで人々の笑い声が聞こえる。
ベリスがゆっくりと隣に歩み寄る。
「リアム様……終わりましたね。」
「いや、始まったんだ。これからが本当の再生だ。」
天空には、ひときわ明るい星が輝いている。
まるでルミナスがそこから見守っているようだった。
俺は空に拳を掲げ、呟く。
「配信終了――ありがとう、ルミナス。」
静かに笑いがこぼれた。
人々は前を向き、歩き出している。
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