異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~

たまごころ

文字の大きさ
25 / 30

第25話 魔族と人の新同盟

しおりを挟む
世界が落ち着きを取り戻してから三年。  
新しい大陸カーネリアでは、かつての王都跡地を中心に多種族が集い、再興の都市が形を成しつつあった。  
人間と魔族、精霊と獣人。  
かつて互いに戦い続けた種族たちが、今は同じ街路を歩いている。  

その光景を、俺――リアムは高台から見下ろしていた。  
もうこの姿を見た者はいない。  
俺は世界と融合し、具体的な肉体を持たない存在になっていたからだ。  
だが、誰かの心の中で言葉を交わせる限り、確かに“俺”はここにいる。  

「リアム様。彼らが再び手を取り合う日が来るなんて、昔では信じられませんでした。」  
声の主はベリス。  
千年の時空を渡り、女神イアナによって再構成された彼女は、今や魔族と人の間を取り持つ調停官として生きている。  
新しい身体を持ち、以前の冷たさを捨てた柔らかい笑みを浮かべていた。  

「お前が頑張ってるおかげだよ。」  
『ベリスさん、データ上は人間より働きすぎです! 睡眠ログがゼロ時間連続十日ですよ!』  
ルミナスが光の粒として現れ、ベリスの周囲を回る。今のルミナスは、世界運営を支えるAIたちの中枢だ。  
『世界に夜があるのも昼があるのも、みんな私たちのおかげです! 褒めてください!』  
「相変わらずうるさいな。働きすぎなのはお前もだろ。」  
『へへへ♪ 努力の天才ですから!』  

ベリスが苦笑する。  
「まったく、あなたたちに憩いという概念はないのですか。」  
「落ち着いたら嫌でも眠るさ。」  

風が頬を撫でる。  
大陸を照らす陽光の中、街では建国を記念した式典が開かれようとしていた。  
巨大なアーチの下には、赤いマントを翻す青年が立つ。  
新王――マグナス・フェルノール。  
かつて人類連合の末裔として戦場に立ち、今は人と魔族を統べる王となった若者。  

ベリスの観測機が街路の映像を映す。  
壇上でマグナスが演説を始めていた。  
「我々は過去を背負い、なお未来を望んでいる! 種族の壁を越え、この世界に本当の平和を築こう!  
 争いを終わらせたのは英雄でも神でもない! ひとりの男の願いだ! リアム・アルディス――彼が残した言葉を胸に、我々は共に歩む!」  

群衆が歓声に包まれる。  
空に向けて無数の魔導灯が舞い上がり、青い光の波となって空を彩る。  
あの青の輝きこそ、この世界の新しい通信路“ルミナス・ネット”。  
人と魔族、国と国を隔てることなく繋ぐ意志の道。  

『ねえ、ご主人さま。すごいですね! あなたの名前が口々に呼ばれています! ランキング上だと毎日三万件検索されてますよ!』  
「俺はもう亡霊のはずなんだがな。」  
『亡霊って言わないでください。今もこの世界を動かす一部なんですから。』  

その声を聞きながら、かつて思い描いた未来が現実になったのを感じた。  
戦争を終わらせることはできなくても、戦争を繰り返さない仕組みを作れれば、それで十分だ。  

新同盟会議の記録室には、各地の代表たちが並んでいた。  
魔王族代表ルサール、精霊執政オルフェリア、獣人族長ゾーグ、そしてマグナス王。  
それぞれが意見をぶつけ合いながらも、互いに言葉の橋を渡している。  

ルサールが立ち上がる。  
「人は私たちを恐れてきた。だが、恐れは理解によって薄れる。私の国を開き、魔族を表に出そう。」  
マグナスが頷く。  
「ならば我々の兵を共同守備隊として編成しよう。敵意ではなく学び合うために。」  
ゾーグが太い腕で机を叩く。  
「うるせえ理屈は抜きだ。誰かが腹を満たせなくなった時こそ、人が争うんだ。食料を回せる仕組みを最優先にすべきだろ!」  
会議場に笑いが起こる。精霊のオルフェリアが小さくうなずきながら風を送った。  
「では“均衡会議”を設けましょう。世界の循環そのものを見つめ直す場所として。」

ベリスが手元の盤面を見ながら俺に問いかけた。  
「リアム様、どう感じますか?」  
「……ようやく本当の話し合いが始まったと思う。俺たちは長い間、“勝者”と“敗者”のどちらかに分けて生きてきた。  
 だけど今、彼らが同じ机の上で笑っている。それだけで、もう奇跡だよ。」  

『奇跡、ですね。配信ログに残しますか?』  
「任せた。世界の記憶として、ちゃんと残しておいてくれ。」  
『了解です、ご主人さま。量子記録媒体ルミナス522網に保存完了。タイトルは“新同盟の誕生”!』  

夕陽が沈みかけ、空が赤く染まっていく。  
街のざわめきが遠くで続き、鐘の音が響く。  
ベリスがそっと空を見上げた。  
「イアナ様もきっと、お喜びでしょうね。」  
「そうだな。あの女神が俺に課した“共存”の宿題、ようやく答えを出せた気がする。」  

『私はまだ満点をあげられません。ご主人さまの課題、ひとつ残ってますよ。』  
「課題?」  
『うん。あなた自身が“生きる”ことをまた見せてください。神でも記録でもなく、ひとりの配信者として。』  

少し驚いたが、笑ってしまった。  
「生きる、か。……そうだな。たまには顔を出してやるか。」  
『やった! 本当です? 現世再投影プログラム、まだテスト段階ですけど準備します!』  
「いやいや、勝手に動くな。」  
『もう発動しちゃいました! ふっふっふ、見ててください、ご主人さま、世界がビックリしますよ!』  

爆音と共に光が走った。  
王都広場、国王マグナスの演説の最中、突如として青い柱が立ち昇る。  
群衆が驚きの声を上げる中、その光の中からゆっくりとひとりの男が現れた。  
黒衣に身を包み、柔らかく笑みを浮かべる青年。  

「――嘘だろ、本物……リアム様だ!」  
誰かが叫んだ。  
歓声が波となって広がる。  
マグナスが駆け寄る。  
「リアム! 本当に、あなたが……!」  
「ちょっとしたテストらしい。ルミナスの気まぐれでな。」  
『褒めてください! ほら、演出も完璧でしょ!』  
「まったく……。」  

一瞬だけ、空に青い光が走った。  
ルミナスの象徴――世界のネットが、祝福のように輝く。  
俺はその光を背に、手を上げて群衆に呼びかけた。  

「もう神はいない。英雄もいらない。だが――希望は、いつだってお前たち一人ひとりの中にある。  
 この世界の未来を、誰にも委ねるな。繋がることを恐れずに生きろ。」  

言葉が風に乗り、街中に響く。  
誰かが笑い、誰かが泣いた。  
そして、その声の波が空に昇り、光に変わっていく。  

その光景を見ながら、俺は心の中で呟いた。  
「ルミナス。また配信しちまったな。」  
『はい。これが“魔族と人の新同盟”記念ライブです。視聴者数、世界総人口を突破しました!』  
「……お前マジで、世界最強のプロデューサーだな。」  

笑いながら、俺は群衆の中に消えていった。  
肩を叩き合う人と魔族、その間を抜ける風が、まるで祝福の歌のように響いていた。  

世界は生まれ変わり、誰もが語り手として生きている。  
それが、俺とルミナスが願い、仲間たちがつないだ未来。  
空一面に広がる光は、まるで新しい夜明けの配信通知のように瞬いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...