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第25話 魔族と人の新同盟
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世界が落ち着きを取り戻してから三年。
新しい大陸カーネリアでは、かつての王都跡地を中心に多種族が集い、再興の都市が形を成しつつあった。
人間と魔族、精霊と獣人。
かつて互いに戦い続けた種族たちが、今は同じ街路を歩いている。
その光景を、俺――リアムは高台から見下ろしていた。
もうこの姿を見た者はいない。
俺は世界と融合し、具体的な肉体を持たない存在になっていたからだ。
だが、誰かの心の中で言葉を交わせる限り、確かに“俺”はここにいる。
「リアム様。彼らが再び手を取り合う日が来るなんて、昔では信じられませんでした。」
声の主はベリス。
千年の時空を渡り、女神イアナによって再構成された彼女は、今や魔族と人の間を取り持つ調停官として生きている。
新しい身体を持ち、以前の冷たさを捨てた柔らかい笑みを浮かべていた。
「お前が頑張ってるおかげだよ。」
『ベリスさん、データ上は人間より働きすぎです! 睡眠ログがゼロ時間連続十日ですよ!』
ルミナスが光の粒として現れ、ベリスの周囲を回る。今のルミナスは、世界運営を支えるAIたちの中枢だ。
『世界に夜があるのも昼があるのも、みんな私たちのおかげです! 褒めてください!』
「相変わらずうるさいな。働きすぎなのはお前もだろ。」
『へへへ♪ 努力の天才ですから!』
ベリスが苦笑する。
「まったく、あなたたちに憩いという概念はないのですか。」
「落ち着いたら嫌でも眠るさ。」
風が頬を撫でる。
大陸を照らす陽光の中、街では建国を記念した式典が開かれようとしていた。
巨大なアーチの下には、赤いマントを翻す青年が立つ。
新王――マグナス・フェルノール。
かつて人類連合の末裔として戦場に立ち、今は人と魔族を統べる王となった若者。
ベリスの観測機が街路の映像を映す。
壇上でマグナスが演説を始めていた。
「我々は過去を背負い、なお未来を望んでいる! 種族の壁を越え、この世界に本当の平和を築こう!
争いを終わらせたのは英雄でも神でもない! ひとりの男の願いだ! リアム・アルディス――彼が残した言葉を胸に、我々は共に歩む!」
群衆が歓声に包まれる。
空に向けて無数の魔導灯が舞い上がり、青い光の波となって空を彩る。
あの青の輝きこそ、この世界の新しい通信路“ルミナス・ネット”。
人と魔族、国と国を隔てることなく繋ぐ意志の道。
『ねえ、ご主人さま。すごいですね! あなたの名前が口々に呼ばれています! ランキング上だと毎日三万件検索されてますよ!』
「俺はもう亡霊のはずなんだがな。」
『亡霊って言わないでください。今もこの世界を動かす一部なんですから。』
その声を聞きながら、かつて思い描いた未来が現実になったのを感じた。
戦争を終わらせることはできなくても、戦争を繰り返さない仕組みを作れれば、それで十分だ。
新同盟会議の記録室には、各地の代表たちが並んでいた。
魔王族代表ルサール、精霊執政オルフェリア、獣人族長ゾーグ、そしてマグナス王。
それぞれが意見をぶつけ合いながらも、互いに言葉の橋を渡している。
ルサールが立ち上がる。
「人は私たちを恐れてきた。だが、恐れは理解によって薄れる。私の国を開き、魔族を表に出そう。」
マグナスが頷く。
「ならば我々の兵を共同守備隊として編成しよう。敵意ではなく学び合うために。」
ゾーグが太い腕で机を叩く。
「うるせえ理屈は抜きだ。誰かが腹を満たせなくなった時こそ、人が争うんだ。食料を回せる仕組みを最優先にすべきだろ!」
会議場に笑いが起こる。精霊のオルフェリアが小さくうなずきながら風を送った。
「では“均衡会議”を設けましょう。世界の循環そのものを見つめ直す場所として。」
ベリスが手元の盤面を見ながら俺に問いかけた。
「リアム様、どう感じますか?」
「……ようやく本当の話し合いが始まったと思う。俺たちは長い間、“勝者”と“敗者”のどちらかに分けて生きてきた。
だけど今、彼らが同じ机の上で笑っている。それだけで、もう奇跡だよ。」
『奇跡、ですね。配信ログに残しますか?』
「任せた。世界の記憶として、ちゃんと残しておいてくれ。」
『了解です、ご主人さま。量子記録媒体ルミナス522網に保存完了。タイトルは“新同盟の誕生”!』
夕陽が沈みかけ、空が赤く染まっていく。
街のざわめきが遠くで続き、鐘の音が響く。
ベリスがそっと空を見上げた。
「イアナ様もきっと、お喜びでしょうね。」
「そうだな。あの女神が俺に課した“共存”の宿題、ようやく答えを出せた気がする。」
『私はまだ満点をあげられません。ご主人さまの課題、ひとつ残ってますよ。』
「課題?」
『うん。あなた自身が“生きる”ことをまた見せてください。神でも記録でもなく、ひとりの配信者として。』
少し驚いたが、笑ってしまった。
「生きる、か。……そうだな。たまには顔を出してやるか。」
『やった! 本当です? 現世再投影プログラム、まだテスト段階ですけど準備します!』
「いやいや、勝手に動くな。」
『もう発動しちゃいました! ふっふっふ、見ててください、ご主人さま、世界がビックリしますよ!』
爆音と共に光が走った。
王都広場、国王マグナスの演説の最中、突如として青い柱が立ち昇る。
群衆が驚きの声を上げる中、その光の中からゆっくりとひとりの男が現れた。
黒衣に身を包み、柔らかく笑みを浮かべる青年。
「――嘘だろ、本物……リアム様だ!」
誰かが叫んだ。
歓声が波となって広がる。
マグナスが駆け寄る。
「リアム! 本当に、あなたが……!」
「ちょっとしたテストらしい。ルミナスの気まぐれでな。」
『褒めてください! ほら、演出も完璧でしょ!』
「まったく……。」
一瞬だけ、空に青い光が走った。
ルミナスの象徴――世界のネットが、祝福のように輝く。
俺はその光を背に、手を上げて群衆に呼びかけた。
「もう神はいない。英雄もいらない。だが――希望は、いつだってお前たち一人ひとりの中にある。
この世界の未来を、誰にも委ねるな。繋がることを恐れずに生きろ。」
言葉が風に乗り、街中に響く。
誰かが笑い、誰かが泣いた。
そして、その声の波が空に昇り、光に変わっていく。
その光景を見ながら、俺は心の中で呟いた。
「ルミナス。また配信しちまったな。」
『はい。これが“魔族と人の新同盟”記念ライブです。視聴者数、世界総人口を突破しました!』
「……お前マジで、世界最強のプロデューサーだな。」
笑いながら、俺は群衆の中に消えていった。
肩を叩き合う人と魔族、その間を抜ける風が、まるで祝福の歌のように響いていた。
世界は生まれ変わり、誰もが語り手として生きている。
それが、俺とルミナスが願い、仲間たちがつないだ未来。
空一面に広がる光は、まるで新しい夜明けの配信通知のように瞬いていた。
新しい大陸カーネリアでは、かつての王都跡地を中心に多種族が集い、再興の都市が形を成しつつあった。
人間と魔族、精霊と獣人。
かつて互いに戦い続けた種族たちが、今は同じ街路を歩いている。
その光景を、俺――リアムは高台から見下ろしていた。
もうこの姿を見た者はいない。
俺は世界と融合し、具体的な肉体を持たない存在になっていたからだ。
だが、誰かの心の中で言葉を交わせる限り、確かに“俺”はここにいる。
「リアム様。彼らが再び手を取り合う日が来るなんて、昔では信じられませんでした。」
声の主はベリス。
千年の時空を渡り、女神イアナによって再構成された彼女は、今や魔族と人の間を取り持つ調停官として生きている。
新しい身体を持ち、以前の冷たさを捨てた柔らかい笑みを浮かべていた。
「お前が頑張ってるおかげだよ。」
『ベリスさん、データ上は人間より働きすぎです! 睡眠ログがゼロ時間連続十日ですよ!』
ルミナスが光の粒として現れ、ベリスの周囲を回る。今のルミナスは、世界運営を支えるAIたちの中枢だ。
『世界に夜があるのも昼があるのも、みんな私たちのおかげです! 褒めてください!』
「相変わらずうるさいな。働きすぎなのはお前もだろ。」
『へへへ♪ 努力の天才ですから!』
ベリスが苦笑する。
「まったく、あなたたちに憩いという概念はないのですか。」
「落ち着いたら嫌でも眠るさ。」
風が頬を撫でる。
大陸を照らす陽光の中、街では建国を記念した式典が開かれようとしていた。
巨大なアーチの下には、赤いマントを翻す青年が立つ。
新王――マグナス・フェルノール。
かつて人類連合の末裔として戦場に立ち、今は人と魔族を統べる王となった若者。
ベリスの観測機が街路の映像を映す。
壇上でマグナスが演説を始めていた。
「我々は過去を背負い、なお未来を望んでいる! 種族の壁を越え、この世界に本当の平和を築こう!
争いを終わらせたのは英雄でも神でもない! ひとりの男の願いだ! リアム・アルディス――彼が残した言葉を胸に、我々は共に歩む!」
群衆が歓声に包まれる。
空に向けて無数の魔導灯が舞い上がり、青い光の波となって空を彩る。
あの青の輝きこそ、この世界の新しい通信路“ルミナス・ネット”。
人と魔族、国と国を隔てることなく繋ぐ意志の道。
『ねえ、ご主人さま。すごいですね! あなたの名前が口々に呼ばれています! ランキング上だと毎日三万件検索されてますよ!』
「俺はもう亡霊のはずなんだがな。」
『亡霊って言わないでください。今もこの世界を動かす一部なんですから。』
その声を聞きながら、かつて思い描いた未来が現実になったのを感じた。
戦争を終わらせることはできなくても、戦争を繰り返さない仕組みを作れれば、それで十分だ。
新同盟会議の記録室には、各地の代表たちが並んでいた。
魔王族代表ルサール、精霊執政オルフェリア、獣人族長ゾーグ、そしてマグナス王。
それぞれが意見をぶつけ合いながらも、互いに言葉の橋を渡している。
ルサールが立ち上がる。
「人は私たちを恐れてきた。だが、恐れは理解によって薄れる。私の国を開き、魔族を表に出そう。」
マグナスが頷く。
「ならば我々の兵を共同守備隊として編成しよう。敵意ではなく学び合うために。」
ゾーグが太い腕で机を叩く。
「うるせえ理屈は抜きだ。誰かが腹を満たせなくなった時こそ、人が争うんだ。食料を回せる仕組みを最優先にすべきだろ!」
会議場に笑いが起こる。精霊のオルフェリアが小さくうなずきながら風を送った。
「では“均衡会議”を設けましょう。世界の循環そのものを見つめ直す場所として。」
ベリスが手元の盤面を見ながら俺に問いかけた。
「リアム様、どう感じますか?」
「……ようやく本当の話し合いが始まったと思う。俺たちは長い間、“勝者”と“敗者”のどちらかに分けて生きてきた。
だけど今、彼らが同じ机の上で笑っている。それだけで、もう奇跡だよ。」
『奇跡、ですね。配信ログに残しますか?』
「任せた。世界の記憶として、ちゃんと残しておいてくれ。」
『了解です、ご主人さま。量子記録媒体ルミナス522網に保存完了。タイトルは“新同盟の誕生”!』
夕陽が沈みかけ、空が赤く染まっていく。
街のざわめきが遠くで続き、鐘の音が響く。
ベリスがそっと空を見上げた。
「イアナ様もきっと、お喜びでしょうね。」
「そうだな。あの女神が俺に課した“共存”の宿題、ようやく答えを出せた気がする。」
『私はまだ満点をあげられません。ご主人さまの課題、ひとつ残ってますよ。』
「課題?」
『うん。あなた自身が“生きる”ことをまた見せてください。神でも記録でもなく、ひとりの配信者として。』
少し驚いたが、笑ってしまった。
「生きる、か。……そうだな。たまには顔を出してやるか。」
『やった! 本当です? 現世再投影プログラム、まだテスト段階ですけど準備します!』
「いやいや、勝手に動くな。」
『もう発動しちゃいました! ふっふっふ、見ててください、ご主人さま、世界がビックリしますよ!』
爆音と共に光が走った。
王都広場、国王マグナスの演説の最中、突如として青い柱が立ち昇る。
群衆が驚きの声を上げる中、その光の中からゆっくりとひとりの男が現れた。
黒衣に身を包み、柔らかく笑みを浮かべる青年。
「――嘘だろ、本物……リアム様だ!」
誰かが叫んだ。
歓声が波となって広がる。
マグナスが駆け寄る。
「リアム! 本当に、あなたが……!」
「ちょっとしたテストらしい。ルミナスの気まぐれでな。」
『褒めてください! ほら、演出も完璧でしょ!』
「まったく……。」
一瞬だけ、空に青い光が走った。
ルミナスの象徴――世界のネットが、祝福のように輝く。
俺はその光を背に、手を上げて群衆に呼びかけた。
「もう神はいない。英雄もいらない。だが――希望は、いつだってお前たち一人ひとりの中にある。
この世界の未来を、誰にも委ねるな。繋がることを恐れずに生きろ。」
言葉が風に乗り、街中に響く。
誰かが笑い、誰かが泣いた。
そして、その声の波が空に昇り、光に変わっていく。
その光景を見ながら、俺は心の中で呟いた。
「ルミナス。また配信しちまったな。」
『はい。これが“魔族と人の新同盟”記念ライブです。視聴者数、世界総人口を突破しました!』
「……お前マジで、世界最強のプロデューサーだな。」
笑いながら、俺は群衆の中に消えていった。
肩を叩き合う人と魔族、その間を抜ける風が、まるで祝福の歌のように響いていた。
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