追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ

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第13話 辺境軍の創設、最強部隊結成

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セレスティアとの再会から数日が経った。  
王都からの使者は帰還し、村には再び静けさが戻った――表面上は。  
だが、心のどこかで、誰もがうすうす感じている。  
嵐の前の静けさだ、と。

俺はその嵐に備えるため、行動を始めていた。  
もはやこの地は小さな村ではなく、一つの独立した領地として成長しつつある。  
人が増えれば、商いも増える。商いが増えれば、奪う者も現れる。  
守るための“組織”が必要だった。

「アレン様、今日も朝から訓練場にお出ましですか。」

声をかけてきたのは、鍛冶頭のヴァルドだ。  
すっかり腹の出た体を揺らしながらも、片腕に持つ鉄槌は重そうに見えない。  
鍛冶屋というより、戦場帰りの傭兵のような男だ。  

「見ての通り、軍の土台づくりだ。初期部隊を十名ほどに絞った。」

「戦士を選ばれたのですな。」

「ああ。鍛冶や狩人、冒険者上がり……誰もが何かに長けている連中だ。」

彼らは交易商人を通じて噂を聞きつけ、自ら志願してきた者たちだ。  
それぞれが故郷を追われ、未来を求め、ここへ流れ着いた。  
その目には、俺がかつて王都で失った“決意”の光が宿っていた。

広場の中央では、訓練が始まっていた。  
木製の人形を使った模擬戦、弓の集中練習、そして魔力操作の訓練。  
ただの辺境とは思えない熱気が立ちこめている。  

その中でも特に目立つ者がいた。  
黒髪を後ろで束ね、全身黒装束に身を包んだ青年――レオン。  
元は王都の暗部、「影の剣」と呼ばれた刺客だった。

「アレン様。」

彼は短く頭を下げたあと、手に持った双剣を構えた。  
「噂では、異端者を匿う領主と聞いていたが……実際は違うようですね。  
この地には、“生きる意思”があります。」

「そう感じるか?」

「はい。……だからこそ、守りたい。  
俺の刃が、奪うためではなく“護るため”に使われる日を、夢見ていた。」

その言葉が嬉しかった。  
“守るための剣”――それは、俺の理想とまったく同じだった。  

「なら、お前の剣はこの領地の基柱だ。  
レオン、副隊長として隊をまとめてくれ。」

「光栄です。」

彼が膝をつくと、周囲の隊員たちが歓声を上げた。  
その中には、村を守るため槍を取った農夫や、かつて商隊を守っていた傭兵も混じっている。  
皆が同じ方向を見ていた。  

俺は手を上げ、声を張り上げる。

「いいか、これから結成する“辺境軍”は争うための軍ではない。  
この国に踏みにじられた者たちの、再出発のための軍だ。  
戦うためには戦う。だが、奪わず、護るためだけに剣を振るえ。」

兵たちの胸に手が当てられる。  
物音ひとつしない。  
だが、全員の目に宿る光が、答えのすべてだった。  

「俺たちはただの傭兵でも、ただの軍でもない。  
――“再生の竜隊”。そう呼ぶことにする。」

「竜隊……!」

名前を口にした瞬間、兵たちの士気が一気に高まる。  
地に足を鳴らし、声を重ね、まるで地鳴りのような響きが広場を包み込んだ。  

竜の隊――それは単なる誇張でも象徴でもない。  
この地には実際に神竜アルディネアが眠り、その加護を授けてくれている。  
だからこそ、俺たちの行動すべてに意味が宿る。

***

その日の午後、山の向こうから黒い煙が立ち上った。  
パトロール班がすぐに報告を持ってくる。  

「領主様、辺境と王都の国境付近で、商隊が襲われた形跡があります!」

「襲撃者は?」

「不明ですが、痕跡は魔術的な攻撃跡……おそらく、王都側の訓練兵と思われます。」

「もう動いたか。」

襲撃という形での“威圧”。  
つまり正式な宣戦布告ではないが、こちらを挑発する意図がある。  

アルディネアの声が頭の中に響いた。  
『王の軍ではない。別派閥だ。権力の影が動き始めた。』

「ベニアス宰相の手か……。」

俺は息を吐き、地図を広げた。  
辺境と王都を結ぶ街道のひとつが焦土になっている。  
ここを放置すれば、交易が遮断され、人々は孤立する。  

「行くぞ。初陣だ。」

広場に戻ると、竜隊の面々が即座に集まっていた。  
武装こそ簡素だが、その顔には恐れがなかった。  
隊長レオンが前に出る。

「アレン様、我々に命を。」

「敵を滅ぼすのではなく、守るために動く。  
救出と鎮圧を優先する。戦闘が不可避でも、民を巻き込むな。」

「了解!」

十数名の竜隊が馬にまたがり、街道へ駆け出した。  
風が強まり、森の葉が騒ぎ出す。  
まるでアルディネアが上空から見守っているようだった。  

***

夕刻、戦場は炎の中にあった。  
倒れた荷馬車、焼けた木箱、逃げ惑う商人たち。  
その中で、武装した男たちが笑いながら剣を振るっている。  

「貴様ら、王国の命を受けた検断官部隊だ!  
反逆領の物資を没収する!」

……王国直属ではない。  
服装こそ整っているが、正規紋章がない。  
つまり、名を借りた傭兵崩れだ。  

「名乗るなら、まず証を見せろ。」

俺は馬から降り、長剣を抜いた。  
男が嘲笑を浮かべた瞬間、風が唸る。  

斬撃というより、風そのものが通り過ぎた。  
男の剣が粉々に砕け、鎧が裂かれた。  
一瞬にして膝が崩れる。

「ひ、ひぃ……魔法使いか……!?」  

「竜隊を舐めるな。」

その声を合図に、仲間たちが突撃した。  
槍が弧を描き、弓矢が夜気を裂く。  
村の鍛冶で仕上げた武具が、見事に光を放つ。  
わずか十分――戦闘は終息した。  

泣き叫ぶ商人を助け起こし、馬車を立て直す。  
負傷者はいたが、死者はなし。  
俺たちは“守るための戦い”を、初めて無傷で成し遂げた。  

「見たか、レオン。これが俺たちの戦いだ。」

「……はい。これが、竜隊の証ですね。」

星が瞬き始めた夜空の下で、俺はゆっくりと剣を鞘に戻した。  
燃え落ちる炎の向こうに、再生の地ベルナスの灯が見える。  
その光が、戦火にも消されぬ希望の証だった。  

アルディネアの声が、静かに頭上から降る。  
『立派な指揮だった。王都の軍にも劣らぬ統率。  
だが人の羨望は希望にもなるが、同時に怨嗟にも変わる。忘れるな。』

「分かってる。だが、怨まれてでも前へ進む。  
人は立ち止まっちゃいけない。」

風が心地よく頬を撫でる。  
星明りに照らされた軍旗――そこには竜の紋章が描かれていた。  
勝利ではなく、再生を象徴する竜の姿。  

こうしてアルディナ領は、初めて自分たちの“軍”を持った。  
その報せは、翌日には王都に届くだろう。  
平和のために剣を取った彼らの姿を、敵はどう見るのか。  

――辺境の英雄か、あるいは反逆者か。  
どちらにしても、俺はもう後戻りしない。  
この地を、人の希望の象徴に変えるために。
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