追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ

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第24話 隠された血筋と、王家の罪

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帝国への潜入作戦が始まって三日目。  
俺たちは辺境を発ち、夜の雲を越えて帝国領の王都アステロンを目指していた。  
アルディネアの翼を借りた天空城アルテ・ノウアは、音一つ立てずに宙を滑る。  
下界には街の灯が小さく揺れ、遠い戦火の光が点滅している。  

「下層都市の外郭に警備網が見えます。魔導障壁は三重構造。」  
レオンが透視鏡を覗きながら報告する。  
「だが、中央付近――王立研究塔の周囲だけが異常に反応が強い。  
まるで、内側から魔力を吸い上げているようです。」  

「奴らの研究が、まだ続いている証拠か。」  

アルディネアの心声が響いた。  
『帝国の地は穢れている。竜の血が流れている感触がする。  
まるで大地そのものが呻き声を上げておるようだ。』  

俺は空気を吐き出し、指令を下す。  
「よし、俺とリーナが中心区に潜入。竜隊は上空で待機だ。  
セイルは遮断術式を切れ目なく展開してくれ。  
敵に存在を感知されるな、帝国の魔導探知は王国より数段上だ。」  

「了解。」  
静かな声とともに魔法陣が光り、飛行艇の姿が霧に溶ける。  

アルテ・ノウアから鉄梯子を降り、俺たちは夜の帝都へ音もなく降り立った。  
街並みは整然として美しく、だがその美しさにどこか血の臭いが混じっている。  
人々はまるで生気を失った人形のように歩き、笑う者は一人もいなかった。  

リーナが小声で言った。  
「……まるで魂を抜かれたみたい。こんな都市、昔の王都でも見たことがありません。」  

「人の心を削るのは、戦だけじゃない。“支配”だ。」  

その時、街角の広場に設置された水晶板に帝国広報が流れた。  
淡い映像に映るのは、黒衣をまとった男――ベニアス宰相。  
皺深い顔に不気味な笑みを浮かべ、群衆を見下ろしている。

「――同胞たちよ。ついに人は神を越えた。  
神竜の血を宿さぬ者であっても、我々は力を得た。  
新しき種、“竜帝の後継”が誕生したのだ。」  

リーナが息を呑む。  
男の隣、壇上に立つ少年の姿。  
黒髪に金の瞳。皮膚には竜の紋様のような纹が浮かんでいる。  
それは――俺によく似ていた。  

「……まさか。」  

リーナが震える声で言った。  
「アレン様、あの子……貴方に……」  

「似ている、だろうな。」  
胸の奥が焼ける。  
遠い記憶がよみがえる。  
追放される直前、王妃に呼ばれた日のこと――  
彼女は誰にも聞かれぬよう、俺の手を握って言った。  

“アレン、もし王家に何か起きたら、北の山に逃げなさい。  
お前には知られてはならぬ“血”が流れている。  
王族ではなく、神竜の……”。  

その言葉の意味が、今ようやく形を持った。  
ベニアスは俺の血を利用し、“竜人計画”を完成させた。  
あの少年こそ、俺の遺伝子から作られた“模造の後継者”――人工の竜皇だ。  

『アレン。怒りに飲まれるな。』  
アルディネアの声がまた低く震える。  
『奴らはお前の血を“器”として利用した。だが本質は違う。  
汝は選ばれた側、奴らは盗んだ側だ。』

「分かってる。だが……あの子を放っておけない。」

***

街の中央塔へ向かう途中、俺たちは帝国兵に包囲された。  
銀甲冑が光を反射し、無数の槍がこちらを囲む。  
「誰だ! 承認なき者が立ち入れば即刻――」  

リーナが指を鳴らし、風の呪文を刻んだ。  
次の瞬間、突風が吹き荒れ、兵たちが吹き飛ばされる。  
俺たちはその隙に階段を駆け上がった。  
地下へ繋がる通路の先に、異様な音が響く。  
脈動するような、心臓の音にも似た重低音。  

「ここが研究塔の地下施設――〈アーカル・ラボ〉か。」  

暗闇の中、薄緑の光が壁を照らす。  
無数の試験管と、透明な培養槽。  
その中に浮かんでいるのは――人ではない、竜でもない“何か”。  
翼を持たぬ竜の幼体、鋼の腕を持つ人影。  
命が壊れかけた悪夢のような光景だった。  

「これが……人が作った竜。」  
リーナが吐き捨てるように呟く。  
「こんなことのために……どれだけの命を……!」

俺は進む。階段の奥、巨大な鋼扉が見えた。  
その前に立っていたのは、黒衣の男――ベニアスだった。  

「久しいな、アレン。」  
その声は薄い笑みを伴っていた。  

「お前がやったのか。この惨状も、あの少年も。」  

「“やった”とは無礼な言い草だ。私は導いたのだよ。  
人は竜の力を遥かに越えることができる。  
その証こそ“竜皇アーク”だ。」  

「アーク……あの子の名前か。」  

「そうだ。君の“複製”だよ、アレン。  
君の竜の血を基に作られた新たな王。  
人と竜を一つにした種族の始祖となる存在だ。」  

言葉の一つ一つが刃になって突き刺さる。  
俺は一歩踏み出し、静かに剣を抜いた。  
「お前の研究は狂気だ。命を創ることが神の領域であることすら忘れたか。」  

ベニアスが笑う。  
「神とは何だ? 竜もまた死ぬ。  
ならば死を越える我らこそ“神”に近い。  
君もその血を持つではないか、アレン。  
君が王家の子として特別視された理由を、まだ理解していなかったのか?」  

「王妃が言っていた……“神竜の血”。」  

ベニアスは拍手を打つ。  
「そう、君こそ初代竜契者の直系。  
王家が滅びを恐れ、竜の力を封じた血統。  
王が君を追放したのは、力を隠すためではない。  
“恐れた”のだよ。  
その力が、いずれ王権すら凌駕することを。」  

衝撃で、膝がわずかに崩れる。  
俺の中に流れる血。  
それが王国の根を支え、そして破壊できる“鍵”だったとは。  

だが、ベニアスはさらに一歩近づいた。  
「その血を利用し、ようやく私はこの力を形にした。  
見よ、アレン。君の“弟”を。」  

鋼扉が開く。  
冷気が押し寄せ、光に包まれた空間に一人の影が現れる。  
少年――アーク。  
彼の瞳がこちらを向いた瞬間、周囲の空気が歪んだ。  
竜の咆哮が響く。  

「アレン・グランディア……あなたは、私の原型。  
だが、もう時代は私のものだ。」  

その声に人の温度はなかった。  
まるで竜が人の体を借りて語っているかのようだ。  

ベニアスが満足げに頷く。  
「さあ、アレン。お前が世界を滅ぼした神竜の“再臨”だとしたら、  
彼こそ、新たな時代の“創造主”だ。」  

「……ふざけるな。」  
俺は剣を構える。  
「“支配”のために生まれた命など、存在させはしない!」  

アークの瞳が赤く光り、空気が震える。  
竜の翼が背中から伸び、地下の壁を打ち壊した。  
風が唸り、金属片が舞う。  

「ならば証明してみろ。  
どちらが、本当の“竜の子”かを。」  

地下を突き破るように、二つの光が衝突する。  
帝都の夜空が開き、赤と金の閃光が噴き上がった。  
それはまるで――新しい神話の幕開けを告げるようだった。
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