追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ

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第25話 王国再建、運命の決断

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帝都の夜空を裂いた光は、まるで世界を貫く神の槍だった。  
金と紅が絡み合い、崩れ落ちる巨大な塔を照らす。  
俺とアークは互いに剣を構えたまま、吹き荒れる魔力の中心で見つめ合っていた。  

「アレン・グランディア……あなたはもう過去の象徴だ。  
人と竜が共存する時代など、偽善の夢だ。  
必要なのは“選ばれた血”による新たな秩序だ。」  

アークの声には確かな自信と冷徹さがあった。  
あれほど幼かった瞳が、神をも計算に入れる者の光を宿している。  
だが、あの声は――どこか懐かしくもあった。  
俺の血から生まれた存在。自分自身の影と戦っているような錯覚。  

「秩序を作りたいなら、破壊ばかり繰り返すな!」  
俺は叫び、魔力を剣に集中させた。  
竜の紋が光り、炎が渦を巻く。  

刹那、アークも同じ動きをした。  
彼の剣は黒く、まるで影を切り取ったように光を飲み込む。  
二つの剣がぶつかった瞬間、熱と衝撃が爆発し、地面を吹き飛ばす。  

「お前は……!」  
「俺の“鏡”だろ。」  

せめぎ合う光の中、互いの顔がわずかに歪む。  
彼の中には俺の血が流れている――いや、俺の中にも彼の影があるのかもしれない。  
静かな時間が砕けると同時に、アークの姿が消えた。  
次に現れたのは背後。早い。  
反射的に防御を構えるが、腕が痺れる。  

「その体、竜の血に甘えている。我は完全だ。」  
「だから歪んでるんだ!」  

拳を繰り出す。その瞬間、爆発的な魔力が流れ、拳がアークの胸を叩いた。  
衝撃波が吹き荒れ、天井の結晶が次々に砕け落ちる。  

しかしアークは微動だにしなかった。  
胸に刻まれた紋章が、まるで新しい心臓のように脈動している。  
その輝きは俺の契約紋と同じ――いや、それ以上に濃い金色だった。  

「アレン、私が求めているのは理想ではなく“完璧”だ。  
人も竜も、争いも罪もない、純粋な世界。  
だが、そのためには欠陥の存在を消さねばならない。」  

「欠陥?」  
「そう。感情だ。愛だ。欲だ。そして……お前だ。」  

その刹那、鋭い光が放たれた。  
まぶしさに目を閉じた瞬間、周囲の空間が反転する。  
足元に感じる地面が変わり、目を開けるとそこは見たことのない白い世界だった。  

無数の記憶が流れ込んでくる。  
アークの記憶――いや、アルフテリアの記録だ。  
竜人たちが作り出した巨大文明、自らの力に溺れ、神竜を封印しようとした時代。  

そこに立つ一人の男。顔が俺に似ていた。  
『力は神のものだ。それを人の欲で扱えば、世界は終わる。』  
その男がそう叫んだ直後、天から炎の光が落ちた。  
大地が裂け、文明は消滅した。  

アークの声が響く。  
「見ただろう? 人は同じ過ちを繰り返す。  
だからこそ、私は創り変える。この腐った輪廻を、終わらせる。」  

「違う。お前が見たのは失敗じゃない、“始まり”だ!」  
俺の周囲に火の紋章が浮かぶ。  
「俺たちは何度でも間違える。けど何度でも立ち上がれる!  
それが人であり、竜の証でもある!」  

光が弾け、再び現実の世界に引き戻される。  
アークが苦しげに後退し、目を押さえた。  
その身体を包む光が、一瞬だけ弱まる。  

『今だ、アレン。心を繋げ。竜人である汝と奴の魂は一つに通じている。』  
アルディネアの声。  

俺は手を伸ばし、アークの胸に触れた。  
一瞬の抵抗。だが、次に流れ込んできたのは彼の心の声だった。  

――孤独。  
――生まれた意味がわからない。  
――誰かに、認めてほしい。  

「アーク……お前……」  

その想いが胸に焼きつく。  
俺と同じだ。  
信じる場所を奪われ、誰からも必要とされなかった孤独。  
それを埋めるために、彼は“完璧”という夢を求めただけだった。  

「お前が望んだのは終焉じゃない。救いだ。  
なら、俺がそれを見せてやる!」  

力を込める。  
金の光が溶け合い、二人の紋章が同調する。  
アークの体から黒い影が剥がれ落ち、悲鳴と共に崩れた。  
それはベニアスが仕組んだ“封印の呪い”だ。  
自由を奪われていたアークが、ようやく自我を取り戻す。  

「……俺は……何を……」  
少年のような声が響く。  
身体から光が消え、黒い衣が地に落ちた。  

「お前は生きていい。お前が罪だと言うなら、俺も同じ血を分けた罪人だ。」  

アークは俺をじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。  
「アレン。あなたは……兄のようだ。」  

「なら、弟らしく言うな。あの世界はもう、お前一人で背負う必要はない。」  

アークが微笑んだ――ほんの僅かだが、確かに安堵の笑みだった。  

しかし、その平穏を破るように揺れが走った。  
研究塔全体が震え、壁が崩れ始める。  
ベニアスの罠だ。  

『アレン! 地下の魔導炉が暴走しておる! このままでは都市ごと爆散する!』  

「リーナ、アークを連れて脱出しろ!」  
「でも!」  
「言う通りにしろ! ここで止めなきゃ、帝都が消える!」  

アルディネアの声が空気を震わせ、城外の空が紅く染まる。  
暴走する魔導炉が、竜の怨念と化して暴れ始めた。  

俺は剣を握り、咆哮する光の源へ突き進んだ。  
心の中で静かに誓う。  

――この力で、もう誰も滅ぼさせはしない。  

すべての炎が一点に集まり、世界が白に包まれる。  
意識が遠のく中、最後に見えたのは、リーナの泣き顔と、  
空に浮かぶアルディネアの巨大な翼だった。  

闇の中をただ一つの思考が貫く。  
王都も帝国も、すべてを越えて――  
この力は、新しい平和を築くために使うのだと。  

やがて光が弾け、終焉と再生が、同時に息づいた。  
そして運命の針が、再び動き出す音が聞こえた。
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