落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

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第1話 追放、そして自由

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王都クラウム。  
冒険者と職人が集うこの街では、ギルドランキングがすべてを決める。  
順位が高ければ依頼も報酬も集まり、低ければ客も仲間も離れる。  
そんな弱肉強食の世界で、俺――レオン・ハースは今日、ギルドを追い出された。

「悪いなレオン。お前みたいな凡人鍛冶師、うちにはもう必要ないんだよ」

冷たい金属音が響く工房の中で、ギルドマスターのバルドが俺の作業机を蹴飛ばした。  
机の上の未完成の剣がカランと音を立てて床に落ちる。焼き入れの途中だ。あと少しで仕上がったのに。

「……理由を聞いてもいいですか」

「理由? 簡単だよ。成果がない。売上も低い。このままじゃ赤字だ。お前の代わりなんていくらでもいる」

周囲にいたメンバーたちは、誰も俺のほうを見ようとしなかった。  
昨日まで一緒に鉄を打ち、笑い合っていた仲間たちが、今日は冷たい視線を向ける。  
もう俺は、彼らにとって“足を引っ張る雑音”でしかないらしい。

「……分かりました。荷物をまとめます」

俺は頭を下げ、工房の隅に置いた道具箱を抱えた。  
重いのは道具のせいじゃない。  
十年間、ここで積み上げてきた時間のほうがよほど重かった。

「これ、お前が作った剣。このギルドの鍛印があるからもう使えない。燃え残りみたいなもんだ」

バルドが笑いながら、自分の足元の剣を蹴り上げる。  
炎に包まれた刃が歪み、黒く焼け付いた煙が立ち上がった。  
その瞬間、俺の中で何かがぷつりと切れた気がした。

「……お世話になりました」

それだけ言って、俺は工房を後にした。  
外は初夏の陽射しが強く、真新しい空気が顔を刺すように感じた。  
見上げた空が、やけに広く見えた。



王都の外れ、旧市街。  
錆びた看板の下に、小さな庵のような廃屋がある。  
昔の鍛冶師が使っていた工房だと聞いて、ここを借りた。家賃はほぼタダ。屋根の穴の数だけ雨漏りがする。

「……ま、最初はここからだな」

埃をかぶった炉の前で、俺は拳を握る。  
火をつけようとすると、煤の中から何かがぼとりと落ちた。  
古びた革表紙の本――まるで長い年月をここで眠っていたみたいな、赤茶けた装丁だった。

「なんだこれ。『創精鍛造録』……?」

開いた瞬間、視界が白く染まった。  
脳裏に直接、声が響く。

――汝、創造の精霊と契約を望むか。

「うわっ!? な、なんだ今の……!」

声は続いた。

――鍛造とは命を繋ぐ行為。金属を命に変え、人に希望を与える。汝、その覚悟ありや。

「命を――繋ぐ……? ああ、俺は……あの時みたいにはならない。もう、自分の手を否定したくない。覚悟、ある!」

次の瞬間、胸が熱くなった。  
掌に、見たこともない文様が浮かび上がる。  
まるで溶鉱炉の火を宿したような紋章。それが右手の甲に刻まれていた。

――スキル《創精鍛造》が発動しました。

「スキル……? 俺が、鍛冶師スキルを得たのか……?」

身体の奥から、何かの流れを感じた。鉄の硬度、熱の循環、魔力の脈動。それらが一つの線で繋がる感覚。  
火を見ただけで、どんな温度で溶かせるか分かる。  
素材を手に取るだけで、混ぜれば何が生まれるかが浮かぶ。  
まるで――世界の“構造”が見えるようだ。

「はは……これが、本当の職人スキルなのか」

笑いが止まらなかった。  
胸の奥に積もっていた錆びついた悔しさが、一気に燃え上がる。  
俺は炉の中に火を起こし、最初の鉄塊を取り出した。  
槌を握る手が、自然に動く。

カン――カン――。

響く音が小屋中を満たす。  
昼も夜も忘れて打ち続ける。  
気づけば朝靄が差し込み、白い光が新しい剣を照らしていた。

できあがったのは、見たことのない淡青色の刃。  
金属なのに軽く、触れれば静かな脈動が伝わってくる。生きているようだった。

「……こいつは、ただの鉄じゃないな。魔素反応を持ってる……?」

試しに魔力を流すと、剣身が薄く光を帯びた。  
炎でも雷でもない、透明な力の震え。それが俺の手の中に呼応する。  
創精鍛造――このスキルで、素材そのものの“魂”を引き出せるらしい。  

「面白い。これは……本気でやる価値がある」

と、その時。  
背後の棚の上から、ごとりと音がした。  
振り向くと、煤だらけの鉄塊がころころと転がってきた。

「……お前もか?」

鉄塊は突然、口を開いた。

「やっと起きたか、人間。長かったなあ」

「な……しゃ、喋った!?」

「お前が契約者か。《創精鍛造》に選ばれたのは何百年ぶりだって聞いたぞ。名は?」

「レ、レオンだけど……お前こそ何者だ?」

「俺か? 俺はこの工房の守護具だ。名はグラン=アイアン。精霊鍛冶の残滓みたいなもんだ。よろしく」

「よろしくって……精霊鍛冶が喋ってる時点で充分すごいんだけど!」

「まあ細けぇことはいい。お前、工房を復活させるんだろ? だったらまず、炉を直せ。煙突が割れてる。これじゃ上手く酸素が入らねぇ」

俺は半ば呆れながらも、鉄塊の言葉に従って炉を修理した。  
不思議なもので、彼と話していると寂しさが薄れていく。  
追放されたばかりの空っぽな胸の中に、少しずつ火が灯っていくようだった。



数日後、王都の片隅に小さな看板が掛けられた。  
「無名工房 試作・修理承ります」

依頼はほとんどなかった。  
けれど最初の客は、意外な形で現れた。

「……こ、ここですか? 魔獣の爪を加工してもらえるって聞いて……!」

扉の向こうに立っていたのは、小柄な少女だった。  
青いケープを羽織り、旅装束のまま俺を見る目は真剣そのもの。  
腰にあるのは、折れた双剣。  
鍛冶師の目には、それが素晴らしい素材だと一瞬で分かった。

「爪の魔力がまだ生きてるな。よし、任せてくれ。折れた部分ごと再鍛造してやる」

「え、いいんですか!? 本当に!? どこ行っても断られて――」

「こっちは暇なんだよ。腕試しには丁度いい」

少女の目がぱっと輝いた。  
その笑顔に、不思議と懐かしいものを感じた。  
かつて失った“信頼”という温もりだ。

「私はエルナ。旅の冒険者です。よろしくお願いします!」

「レオン・ハース。鍛冶師……いや、万能職人見習いってところだ」

笑い合う声が、暖炉の中の炎と混ざって、工房に新しい色を灯した。

追放の日から始まった、俺の新しい物語。  
まだ名もなき工房だけれど、この小さな炉から、きっと何かを創り出せる気がする。

――そして、誰もが驚くような剣を。  
俺がこの手で、鍛えてみせる。

(第1話 完)
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