落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

文字の大きさ
17 / 30

第17話 盗まれた設計図と裏市場

しおりを挟む
王都の朝は灰色の雲に覆われていた。  
ギルド広場を吹き抜ける風は冷たく、冬の訪れを告げている。  
前日の大騒動――紅錆の炉の偽装発覚から一夜。  
ほとんどの市民は「創星の炉が勝った」と祝福したが、レオンの心は静まらなかった。  

「カルドの姿が見つからない?」  
エルナの問いにガルドが頷く。  
「衛兵も探しておるが、影も形もない。火事の瓦礫も全部調べたが、遺体もなしじゃ」  
「ってことは、逃げたってこと?」ティナが不安げに声を漏らす。  
グランが低く唸る。  
「火霊の力を吸い上げた時、あいつは確かに生きていた気配を残していた。まるで“火灰”のように……焼けてもなお残るしぶとい奴だ」  

レオンは窓の外を見据えたまま槌を手に取る。  
「奴がこのまま黙ってるはずがない。次は“まともな手段”では来ないだろう」  
その時、ティナが慌てて机の上の書類をめくった。  
「レオンさん! 設計図が……ない!」  

エルナが思わず声を上げる。  
「まさか、また盗まれた⁉」  
「ヴィータ・シェルの改良版――先週試作していた図面だ。誰かが昨晩、奥の金庫をこじ開けたらしい」  
「金庫を? 魔封印が三重に張ってあったのに?」  

レオンは拳を固め、槌の柄をきつく握る。  
「やり方が雑じゃない。これは“手口を見せつける”ための盗みだ」  
「つまり挑発……」ティナが唇を噛む。  
グランが囁く。  
「裏市場だ」  
「裏市場?」  

ガルドがうなずく。  
「簡単に言えば、王都の底の底にある職人の闇市場じゃ。違法改造魔具や失われた技術が値で売られとる。“火を奪う商い”の場じゃ」  
エルナが顔をしかめる。  
「そんなの、衛兵に任せれば――」  
「無理だ。表の連中は踏み込めない。あそこには『ギルドの落ちこぼれ達』が山ほどいる」レオンの声が低く響く。  
「紅錆が逃げ延びたなら、まずそこに潜む。設計図も取引のネタに使われる」  

◇  

王都南端、廃倉庫地帯。  
昼も薄暗く、地面に染み出した油が腐った匂いを放つ。  
レオンは外套のフードを被り、仲間たちを背に進む。  
「まさか、こんなところに市場が……」ティナが小声で呟く。  
「日が沈む頃、本当の姿を現す」  

やがて夜の帳が降りると、闇の中にぽつりと赤い灯が灯った。  
鋳造炉を模した屋台、機械義手を並べた露店、ひび割れた魔導石を高値で売りさばく商人。  
それらが迷路のように広がる。  
人の声も、笑いも、わずかに熱を帯びている。  
違法の空気に、ティナが身をすくめるのをエルナが支えた。  
「怖くない。私たちは探しにきただけ」  

ガルドが低く囁いた。  
「向こうのテントだ。“灰鉄商会”。裏市場でも一番でかい組織じゃ」  
「灰鉄……聞いたことがある。カルドが紅錆の頃、取引してた連中だ」  

レオンは中へ踏み込んだ。  
帳の奥から現れたのは、銀髪の若い女。鋭い目を光らせ、口元だけ笑っている。  
「へえ、噂の落ちこぼれ……いや、“王都の英雄”さんか。初めまして、“灰鉄”のミラといいます」  

「単刀直入に聞く。俺の設計図を売ってるのはお前たちか?」  
「売ってるなんて人聞きが悪い。あれは持ち込まれた品よ。正規の出品、売り手は紅錆の炉――‘カルド・ハーヴィル’。お友達なんでしょ?」  

ティナが怒って一歩前に出かけた瞬間、レオンが手で制した。  
「……値は?」  
「今のところ、五百万金貨。ま、今夜の競りで倍にはなると思うわ」  

「競り?」  
「そう。夜十二時ちょうど、『灰鉄の炉祭(マルカ・フェスタ)』が始まる。奪い返したいなら、ルールは一つ――“商品は力で取り戻せ”」  

エルナが震える声で問い返す。  
「つまり、戦えってこと?」  
「ええ。それが裏市場の掟よ」  

◇  

深夜。  
地上の喧噪が消え、倉庫街地下への通路が開かれた。  
血と油の匂いが混ざる洞窟を降りると、広い空間が現れる。  
無数の炉が赤く灯り、観客が檻の周囲を取り囲んでいた。  
その中央――黒い鉄の祭壇の上に、例の設計図が掲げられている。  

ミラの声が響いた。  
「さあ始めましょう! 本日の最終競り――“創星鍛造式・命布《ヴィータ・シェル》改良版”。出品者は紅錆のカルド。入札条件、金貨ではなく“技術”!」  

観客がざわめく。  
「技術を賭けるだと!?」「腕前で勝負ってことか!」  
次の瞬間、客席の奥からカルドが姿を現した。  
赤黒い外套の下、見る影もなく痩せているが、その目には狂気じみた炎が宿っていた。  

「やあ、再会だな、レオン」  
「……お前、まだそんな顔ができるのか」  
「お前のおかげで俺は全てを失った。だが、“火霊を宿した男”の技術を奪えば、俺が新しい王都の王になる」  

カルドが手を掲げると、背後でいくつもの炉が咆哮を上げる。  
巨大な鋼人形――紅錆が作った旧式の戦闘機構が現れた。  
「こいつが俺の新しい作品だ。お前の創精鍛造と比べっこしようじゃないか!」  

歓声と怒号。観客たちの熱気が渦を巻く。  
レオンは静かに槌を構え、一歩前に出た。  
「いいだろう。職人は言葉よりも手で語る」  

戦いが始まる。  
火花が飛び、檻の鉄格子を溶かす。  
カルドの鋼人形が炎をまき散らし、床を焼く。  
だがレオンの右腕に刻まれた焔精の紋が光り、風のような動きで火を吸収していく。  

「これが“火を創る者”の技だ」  
「ふざけるな! 俺の方が長年、鍛冶の現場を――!」  

カルドの叫びと共に、鋼人形の胴体が爆裂。内部から黒い煙が吹き出した。  
「制御、外れた!?」ティナが悲鳴を上げる。  
人形の中核から、燃えさかる炎の核が暴走を始めた。  
「やめろカルド! あれは――」  
「これで終わりだ! 俺は炎と共に生きる!」  

しかし、暴走する核は彼さえ飲み込もうとしていた。  
レオンは無言で飛び込み、炉槌を振り下ろす。  
《焔喰らい》の紋が輝き、暴走した核の炎をすべて吸収した。  

爆音の後、沈黙。  
崩れた祭壇の上にはレオンとカルドが倒れていた。  
カルドは血を吐きながら笑う。  
「やっぱり……お前、俺と同じだな。火に憑かれてやがる」  
「違う。俺は火に救われた」  
「……あの時、お前を追放しなけりゃ……こんな化け物には……」  

その言葉を最後に、カルドの意識は闇に沈んでいった。  

観客席の熱気が消えた。  
ミラがゆっくりと壇上に上がり、設計図をレオンに差し出す。  
「勝者は創星の炉。だが――この市場を壊した代価は高くつくわよ」  
「構わない。どんな闇でも、真実の火で照らす」  

◇  

明け方。  
創星の炉に戻った一行を迎えたのは、灰色の空と冷たい風だった。  
ティナが崩れた椅子に腰を掛け、眠るような声で呟く。  
「やっと帰ってきた……」  
エルナが笑う。  
「もう二度と裏市場なんか行きたくないね」  

レオンは炉の前に立ち、設計図を広げた。  
焦げ跡が残っているが、中心部の魂術式は無傷だった。  
光が紙面に走り、まるで新しい命が吹き込まれたようだった。  

「これが、俺たちの“炎の証”だ」  
ガルドが頷き、グランが金属音を鳴らす。  
「紅錆は消えたが、また別の炎が地下で燃え出すじゃろうな」  
レオンは静かに答えた。  
「なら、その都度打ち直せばいい。炎は俺たちの師匠だ。何度でも鍛え直してやる」  

外の空が薄く明るむ。  
創星の炉の煙突から、再び青い炎が立ち上った。  
それは夜を越えて、王都のすべての職人たちに“新しい朝が来た”と告げる光となった。  

(第17話 完)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生した元開発担当、チート農業スキルで最高級米を作って「恵方巻」を流行らせます!没落令嬢と組んでライバル商会をざまぁする

黒崎隼人
ファンタジー
コンビニ弁当の開発担当だった俺は、過労の果てに異世界へ転生した。 手に入れたのは、触れるだけで作物を育て、品種改良までできる農業チートスキル『豊穣の指先』。 でも、俺が作りたいのは普通の野菜じゃない。 前世で最後に食べ損ねた、あの「恵方巻」だ! 流れ着いた先は、パンとスープが主食の田舎町。 そこで出会ったのは、経営難で倒産寸前の商会を切り盛りする、腹ペコお嬢様のリリアナだった。 「黒くて太い棒を、無言で丸かじりするんですか……? そんな野蛮な料理、売れるわけがありません!」 最初はドン引きしていた彼女も、一口食べればその美味さに陥落寸前? 異世界の住人に「今年の吉方位を向いて無言で願い事をする」という謎の風習を定着させろ! 米作りから海苔の養殖、さらにはライバル商会とのバトルまで。 チート農家と没落令嬢がタッグを組んで挑む、おいしくておかしなグルメ・サクセスストーリー、開店!

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...