落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

文字の大きさ
22 / 30

第22話 灼熱竜の炉心戦

しおりを挟む
アストリアが人の姿を得てから三日。  
創星の炉は再建作業の真っ最中だった。  
焼け落ちた外壁はガルドの手で作り直され、ティナは瓦礫から部品を分別している。  
エルナはアストリアの容態を確認しながら、傍らではレオンが新たな設計図を描いていた。  

アストリアは人の身体を得たものの、魂と炉を繋ぐ“魂導核”が不安定で、時折発熱と共に錯乱を起こす。  
その症状が収まるたびに、彼女は小さな声で呟いた。  
「わたし……ここにいてもいいの?」  
レオンは迷わず頷く。  
「お前はこの炉の心臓だ。いなくなったら、創星は止まってしまう」  
アストリアは涙をこぼしながら、静かに微笑んだ。  

だがその穏やかな時間を、届いた一通の封書が破壊する。  
王都防衛局の緊急印が押された書簡。そこに短く記されていた。  

――『天災級魔竜《イグニス・ロード》、北方鉱山地帯に出現。星鉄炉心を捕食中。創星の炉、直ちに協力せよ』  

エルナが声を詰まらせる。  
「……星鉄炉心……まさか、あの星鉄鉱山?」  
「俺たちが封印したティルナ鉱区だ」レオンの声が低く響く。  
「星喰いの残骸があの深層で眠っていた。それを狙って竜が……いや、竜の暴走を利用して誰かが動かしている」  

アストリアが弱く首を振る。  
『竜の炉心……感じます。あれは人工の熱。誰かが“火霊核”を埋め込んでます』  
「火霊核? ヴァリド火霊の欠片を……?」  
『はい。つまり、かつてマスターが鎮めた火霊王の一部を盗んで、竜の体内に移植したんです。それを制御できる存在がいる……』  

レオンの目が鋭く細まる。  
「また紅錆の残党か。それとも評議会の裏工作だ」  

ティナが不安そうに問いかける。  
「どうするんですか……?」  
「行く。だが今回は戦うだけじゃない。火霊核を取り戻すための鍛造戦になる」  

◇  

王都北方、ティルナ山脈。  
空は鉛色に曇り、吹き荒ぶ熱風が焼けた鉄粉を巻き上げる。  
その中心――断崖の峡谷で、巨大な紅い影が唸っていた。  
翼は山を越え、咆哮一つで雷雲を割る。  
あれが、“灼熱竜イグニス・ロード”。  

「でけぇ……こいつが星鉄を喰うってのか」ガルドが小声で唸る。  
「魔力反応、尋常じゃない……!」エルナが計器を握りしめる。  
レオンはマントを払って前へ出る。  
背中には、自ら設計した新兵装――“焔吊炉《ほのかづり》”を背負っていた。  
携行型鍛造炉に錬金融合機構を組み込み、アストリアの補助を受けて稼働する新型装備だ。  

「いいか、アストリア」  
『はい、マスター。魂導率、安定しています』  
「この戦いで俺たちの技術が試される。命を削る戦いになるが、逃げる気はないだろ?」  
『もちろん。私は炎の意志。戦って、創らなければ消えてしまう』  

レオンは頷くと、槌を握った。  

◇  

咆哮。地を揺るがす轟音と共に、灼熱竜が口を開いた。  
内部の炉心から溶岩よりも高温の火線が放たれる。  
周囲の岩が粉末になり、鉄が気化する。  
その熱波を真正面から受け止め、レオンが槌を振り抜く。  

「創精鍛造――反響壁起動!」  
アストリアの光と同調し、周囲の空気を圧縮する。  
蒼より白い七層の盾が現れ、竜炎の直撃を防いだ。  
轟音が響く中でもレオンの声は静かだった。  
「防御成功、出力三割保持。次は攻撃だ」  

背の焔吊炉が開き、内部から青い槍が形を成した。  
「星喰槍《ネブラ・ランス》、融合再起動!」  
槍を掴むと同時に、周囲の炎が渦を巻く。  
白い槍身に星光が流れ、竜の首筋に突き刺さった。  

凄まじい悲鳴が空を裂き、イグニスが暴れ回る。  
その揺れで山腹が崩れ、エルナたちがバランスを失いかけた。  
「レオンさん! もう限界です! あの竜、普通の生命じゃありません!」  
「わかってる。中枢に人工核がある。そこを――」  

その言葉は雷鳴に掻き消された。  
竜の背中が裂け、巨大な金属の杭が露出した。  
それはまさしく、かつてカルドが使った“灰神炉”の構造。  
「なんで……どうしてこれが……!」ティナが叫ぶ。  
アストリアの声が震える。  
『誰かが……カルドの灰を利用して……竜を再構築してる!』  

「やっぱりか」  
レオンの瞳が燃え上がる。  
「カルドの意志を穢されたまま放っておけるか!」  

彼は竜の体内に突っ込む。  
翼に叩きつけられ、鉄の爪が宙を切る。  
それでもレオンは一歩も退かない。  
槍の穂先が煌めき、竜の胸を貫く。  
内部へと飛び込んだその瞬間、強烈な光が彼の全身を包んだ。  

◇  

竜の体内は、もう生物ではなかった。  
金と赤が幾重にも層を成す炉心空間。  
中心に、黒いコアが脈打ち、そこから炎が循環している。  
「燃料循環を逆流させれば……!」  

アストリアが叫ぶ。  
『危険です! 完全な相転移を起こしたら、あなたも――!』  
「問題ない!」  

焔吊炉が開き、火霊核を展開。  
レオンの血が手のひらから流れ、炉心に吸い込まれる。  
「カルドの火霊よ――俺が、お前を鎮める!」  

槌を両手で握り、全力の打撃。  
轟くような金属音。  
竜の咆哮が泣き声に変わり、光が収束していく。  
外から見ると、巨竜の胸が赤く輝き、そこから白い炎が噴き出した。  

ティナとエルナが呆然と見つめる。  
「レオンさん……!」  
「彼、まだ中にいるんでしょ!?」  
山が崩れる。火柱が天を裂く。  

そして次の瞬間、真白い光が世界を包み――  

◇  

――静寂。  

雪の粒がひとつ、空から落ちてきた。  
冬の大気の中、巨大な竜の屍が氷のように固まり、崖の麓に沈黙する。  
その背から、青い火がゆらりと昇り、地上に二つの影を落とす。  

「見つけた!」ティナが駆け寄る。  
崩れた岩の上に、ボロボロのレオンが横たわっていた。  
その胸にはアストリアの人形体――だが、目を閉じて眠っている。  

「おい、しっかりしろ!」ガルドが担ぎ上げる。  
息がある。だが微弱だ。  
エルナが呟く。  
「……竜の炉心、完全に静まってる。まさか一人で……」  

ティナが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。  
「レオンさんって……いつも無茶ばっかり!」  
その時、炉の残骸に残った火霊の声が微かに響いた。  

――“ありがとう。俺の火は、ようやく安らげる”  

ティナとエルナが互いに顔を見合わせる。  
それは、カルドの声に似ていた。  

◇  

数日後。  
創星の炉の前に、凍った竜の欠片が積まれていた。  
それは星鉄を越える光を放ち、街の人々が息を呑むほどに美しかった。  
レオンは包帯だらけの右手で灰を払う。  
「火霊核も鎮まり、カルドの欠片も戻った。だが、アストリアがまだ眠ったままだ」  
ティナがうなずく。  
「彼女の魂、きっとまだ竜の中に残ってるんです。だから……」  
「取り戻す。どんなに遠くてもな」  

夜、炉の火が再び燃え上がる。  
その奥で、聞き覚えのある声が微かに囁いた。  

“マスター……帰りたい……”  

彼女の声が、灰の中の青い炎を揺らした。  
レオンは炎を見つめ、静かに頷く。  
「必ず迎えに行く。お前が創った火は、俺たちの未来だ」  

外の空では、竜の残した光が流星のように落ちていた。  

(第22話 完)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

処理中です...