王女殿下のモラトリアム

あとさん♪

文字の大きさ
34 / 68

デビュタントの夜3

しおりを挟む
 
 舞踏会が始まるわ。
 わたくしはお兄様と共に王族専用の出入り口で待機している。

 本来は、デビュタントの子たちが入場する専用入り口が設けられているから、わたくしもそこへ行くべきなのでしょう。
 けれど、その列に並んでしまうと混乱の元になるとかいわれて。そうなったら警備上も大変だし……で、わたくしは王族専用口を使うのですって。

 つくづく『王女』なんて普通ではないのね。
 ……そういえば、あの人は言ってたわね。わたくしを見て王女に対する認識が変わったって。
 ドレスと宝石と花と甘いお菓子しか知らない……だったかしら。
 それは物語の住人ではないの?
 それか、テュルク国では王女を甘やかしているからそうなっちゃうってだけでは?
 思考を放棄したらすぐに老いて死ぬってお義姉様が仰ってるもの。まだ若いのに死にたくないわ。

「アンネローゼ」

 正面扉に目を向けたまま、お兄様がわたくしに話しかける。

「なぁに? お兄様」

 わたくしはお兄様を見上げる。

「おまえは僕の自慢の妹だ。美しく聡明だ。聡明過ぎて……おまえが我が儘を言わないから逆に心配になる」

「我が儘、言ってばかりですよ?」

 そのせいで放校処分者が二人も出たし。

「違う。おまえは無理が通るギリギリを見極めて発言している。
 あの事件はおまえには不可抗力だし、こちらでもっと早く対処すべき問題だった。あれは僕の不明だ」

 わたくしの預かり知らぬところで、いつの間にか発展していたのは事実ですものねぇ。

「おまえの結婚についても……希望を叶えられない。済まない」

 これは……わたくしのさきほどの発言、ルークお兄様が初恋だって話を受けてのお言葉なのかしら。

「王女は国の駒だと理解していますわ。
 でも……そうね。
 50以上離れたおじいちゃまのところへ嫁げと言うのなら、反抗しようと思っていましたの」

 今まで正面を向いていたお兄様が、ぎょっとしたようにわたくしを見遣る。

「や、さすがにそれは……ないと思うぞ?」

『心外』って顔に書いてあるわね。お兄様ってば、こんなに素直に感情を表す方だったかしら?

「そうよね。
 お父様もお兄様もご自分の初恋を叶えた方達ですものね。
 嫁いだと思ったら次の日に未亡人になるようなお相手を、愛娘であるわたくしに勧めるような鬼畜だとは思っておりませんわ」

「アンネローゼ……」

 なんだか、だんだんお兄様のお顔の色が悪くなってくるわ。
 塩辛いモノを食べたようなお顔だこと。
 からかいが過ぎたかしらね。

「お兄様たちのように、幼い頃からの付き合いで愛と信頼を育むような婚姻は叶いませんでしたが……。
 お父様たちのように、同盟と信頼から愛情を育むことはできるかもしれません。
 お兄様たちが選ぶお方ですもの、わたくしに否やはありませんわ」

 そう言えば、お兄様のお顔が泣きだしそうに歪む。

「おまえは、嫁になんか行かなくてもいいんだぞ?」

 その言葉は世の父親が嫁ぐ娘を前にして言う台詞らしいですよ?
 なのに適齢期を過ぎて家にいると、溜息をつかれてしまうのだとか。

 親という生き物は理不尽で構成されているのでしょうかね。
 もっとも、この方はわたくしの父親ではなく兄なのだけど。

 ほんと、年の離れた兄なんて厄介な存在ね。もう一人父親がいるみたいだわ。

「いいえ。わたくしを有益に使ってくださいませ?」

 わたくしがそう言ったのを合図にしたように、目の前の扉が開かれました。
 背後から『殿下方、お時間です』という侍従ミュラーの声がする。

 拍手と歓声と共に迎えられたわたくしたちは、何事もなかったような顔をして入場したのでした。





 本日最初のダンスは、デビュタントの子たちだけで踊るので、お歴々の皆様の監視……いえ、温かい目で見守られながらダンスを始めます。

 それぞれのパートナーの手を取って、当然、わたくしもお兄様のリードに合わせて踊りましたわ。

 今日のデビュタントはわたくしも含めて3組。これは少ない数字なのかしら? それとも多いの?

 どうでもいいことを考えながら曲に合わせて踊る。

 お兄様のリードはさすがの安定感ですね。
『どうでもいいこと』をぼんやり考えながらでも、普通に踊れてしまうのだから。
 やっぱりリードが巧い方と踊ると自分まで巧いような錯覚が起きるわ。
 もしくは、わたくしがお兄様を完全に信頼しきって身体を預けているから、かもしれませんね。

 学園の授業では、こう上手くはいかなかったもの。
 ダンスも相手との信頼があってこそ、なのね。
 またひとつお勉強になったわ。

 お兄様の腕の中で踊っていて、ひとつ思い出した事があったわ。

「ねぇ、お兄様。わたくし、昔よくお兄様に抱っこをせがみましたよね?
 そして抱っこされるとそのまま寝てしまった。違います?」

「おや。思い出したのかい?
 そうだよ。幼いころのおまえは眠くなると必ず両手を広げて僕の前に立ち塞がって抱っこをせがんだなぁ……」

 くすくすと笑うお兄様。

「おまえは僕に絶対の信頼を示してくれた。愛おしくて堪らなかったよ」

 踊りながらも眠くなったのは昔の条件反射のせいよ。
 お兄様の首筋に額を擦り付けて、お兄様の耳たぶをくにくにと揉みながら寝落ちしたことをふいに思い出したから。

 えぇ、絶対そう。決して朝早くから支度に手間取ったせいではないのよ……多分。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...