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デビュタントの夜4
しおりを挟むお兄様とのダンスが終わると、国王陛下にご挨拶です。
わたくしの他2組のデビュタントたちと共に向かいます。
わたくしとしては、王族席に戻る感じだけど。
3組中、3番目にご挨拶。……お父様ったら、目に光るものが見えてよ?
この時わたくしはお父様……いいえ、国王陛下から赤いサッシュを賜りました。右肩にかけて左の腰に勲章が付いています。成人した王族としての証。
これでわたくしのデビュタントの重要なイベントが終了です。
そういえば、王族の入場は一番最後って聞いていたけど、わたくしたちの入場より前だったのかしら? それとも後?
緊張していたのか、よく覚えてないわ。わたくしとしたことが迂闊だったこと。
国王陛下とご挨拶した後は、次から次に挨拶にくる面々との対話……。
貴族名鑑の最初の方のページに載ってるような方々ばかりが列を作っているわ! びっくりよ。
それに各大臣がご夫人を伴って並んでるし、周辺諸国の大使もいるじゃない。
嫌ね、失敗できないわ。緊張しちゃうじゃない。
大使たちはわたくしの身に纏っているパールのお飾りに興味が引かれるようね。
パールといえば、テュルク国の名産といっても過言ではないし。
にも拘わらず、テュルク国の大使はこの場にいないの。これはどういうこと? と探りを入れに来ても仕方ないわ。お兄様ってば、策士ね。
「王太子殿下。姫殿下は見事なパールのティアラをお持ちですなぁ! ですが、これはもしや」
「えぇ。我が妹に振り向いて貰おうと、彼の国の第一王子から届きました。ま、貢ぎ物ですね」
「おやおや。振り向いてはいただけなかったのでしょうか?」
「さぁ、どうでしょう。私は妹の恋愛に口を挟む主義ではないので」
「はははっ。恋愛ですか。それはまた……」
「妹の意に添わぬ縁談など、私も陛下もお断りしている」
なぁに? この会話。
腹の探り合い? 嫌だわ~汚い大人の会話だわ~。
でもこれを笑顔で熟すのが王族であり、大人だということよね。
疲れるわ~。笑顔でお兄様の隣にいるだけなのに。それにこの話の流れだと、わたくしがテュルクから財宝を捲き上げるとんでもない悪女にならないかしら?!
あの大使は腹の内でなにを考えているのかしら。
わたくしの身に着けた数々のパールを見て、ざっとその金額を計算して、これだけのお品を贈ったとしても縁組に是と言わないシャティエル国の姿勢を見て。
財力があるからこそできる傲慢なこの態度。
いやぁね、お兄様ってば。
妹の恋愛だなんて言って、オークションで値を吊り上げる主催者側みたいになっていてよ?
さぁ! 貴方の国は、わたくしにいかほどの価値を見出して?
大使に向かって意識的に嫣然と微笑んで見せれば、彼は話を切り上げて引き下がったわ。
……悪女、確定しちゃったかしらね。頬が引きつるわぁ。
◇
「ローゼ」
この甘やかで優しいお声は!
「サラお義姉様!」
頃合いを見計らってかけてくださっただろう、優しいお声に満面の笑みを浮かべて振り返るわたくし。
「ご苦労様。そしてデビュタントおめでとう。ファーストダンス、素敵だったわ。貴女が断然っ光り輝いていたわ」
お義姉様は涙目でわたくしに祝いの言葉を贈ってくれます。なんだかさきほどのお父様を思い出すわね。
「アンネローゼ。デビュタントおめでとう。知ってはいたけど、わたくしの娘はとても美しかったわ。その装いも似合っていてよ」
「お母様ったら」
お母様がお若い頃に着た白いバルローベは、今日、娘のわたくしのデビュタントを飾りました。
大切にすれば、わたくしの娘へ贈ることもできるかしら。
「ここでローゼちゃんに紹介したい人がいるわ」
お義姉様が背後を振り返る……。
衝立の影から出てきたのは一人の背の高い男性。
「テュルク国の第一王子殿下よ。貴女のデビュタントのお祝いに駆けつけてくれたの」
黒いタキシードが素敵。
今日はその一つに結んだ長い髪を三つ編みにして身体の前に垂らしているのね……。
「改めまして。テュルク国のアスラーン・ミハイ・セルジュークです。本日はおめでとうございます」
胸に手を当てて軽く一礼した後、わたくしの手を取って唇を寄せた。
なんとまぁ、完璧な紳士ぶりだこと!
んん? その左手首に捲いているアイスブルー色のリボンはもしかして……。
「あ! おまえ……いや、君は……」
お兄様が慌てた様子でこちらに来る。
「アスラーン殿下。なぜここに?」
あら。お兄様とアスラーン、お二人は既に顔見知りなのね。
「王太子殿下もお人が悪い。
私が再三再四に渡り、本日の舞踏会の出席許可をお願いしていたにも拘わらず、色よいお返事はいただけなかった。
なので、正規のルートで招待状を入手致しました」
ニッコリと微笑んだアスラーンが懐から取り出した一通の封筒。そこに押された封蝋は……。
「ベッケンバウアー公爵家の、家紋……」
王家の家紋によく似た、でもちょっと違う家紋が、そこにはくっきり押されていたわ。
「はい。外務大臣の公爵からいただきました。
公爵はとても朗らかで良い男っぷりの御仁でした。さすが、妃殿下のお父上だと、敬服いたしました」
「しかし、舅殿がアスラーン殿下に? なぜ? どんな伝手で……」
なんだか狼狽えているお兄様。
実はお兄様はベッケンバウワー公爵閣下が苦手らしいのよね。
以前お義姉様がこっそり教えて下さったわ。
この舅と婿の関係は子どもにはわからない暗くて深い川があるのですって。
「私よ」
「サラ?!」
口を挟んだのはサラお義姉様。
そうよね、さきほどわたくしに紹介してくれたのも、お義姉様だったし。
「だって、こんなに素晴らしいお品をいただいたのに、身に着けているところをご覧いただけないなんて。
酷いわ、ヘル様。意地悪も過ぎるとローゼちゃんに嫌われてよ?」
「そ、れはそうだが、今日のところは、身内だけで堪能して、またいずれそのうち、と」
「初めてのプレゼント、くれなかった癖に」
ギクっ! と、お兄様が目に見えて焦りだしたわ。なにこれ。
「私、とても楽しみにしてたのに。泣いてしまったくらい……」
「いやいや、アスラーン殿下。今日は楽しんでくれ、ダンス踊るんだろう? うん、とっとと行きなさい、そしてさっさと帰ってくるように」
そう言いながらわたくしの背を押して、アスラーンの方へ促す。
「なぁに? あれ」
思わずひとりごちると、アスラーンがボソッと答えてくれた。
「妃殿下が弱みを握っている……ということだな。俺たちに知られたくないのだろう」
うわー、知りたいわぁ。
初めてのプレゼントくれなかったって言ってたわ~♪ お兄様ってば、なにをしたの?
いや、なにをしなかったの? が正しいのかしら?
「今は、俺に集中して欲しい」
あ。ゴメンなさい。
気がつけば、わたくしの手はアスラーンがエスコートする手に握られていたの。腰に添えられた手が熱いわ。
そのままダンスフロアに導かれる。
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