相互理解は難しい〜とある幼い初恋の始まり方は周りを巻き込んで大騒ぎ〜

あとさん♪

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第7話 王宮の流儀(?)は難しい(サラ視点)

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 なんとかアンに体裁を整えて貰い(私の瞳と同じ翡翠の色をベースにした外出用のワンピースは繊細なレースがたっぷり施されていてお気に入りです。髪の毛もツインテールにして同じ色のリボンで飾って貰いました。可愛くして貰えたと思うのですが、どうなのでしょう)、最速で馬車を走らせて登城します。
 城門前で止められるかと危惧していましたが、さすがは公爵家家紋入りの馬車ですね。ノーチェックノータッチで門を潜りましたよ。
 でも王宮は広いです。お父さまはどこにいるのでしょう?

 これは一つ、職権乱用ならぬ【公爵家令嬢特権】を使うべきですね!
 っていうか、ぶっちゃけ、お父さまの職場訪問です。
 私のお父さまは王宮では外務大臣の職をいただいています。
 なので、外務大臣の執務室へレッツラGoですよ! そこから王宮内部を探るのです……あらやだ、なんだか楽しい気分になってきました。
 と思っていたら。

「ベッケンバウワー公爵令嬢! ですよね!」

 外宮に入る前の馬車止めのところで私を止める方がいました。
 年の頃は、三十台前半? でしょうか?
 おとなしめなブラウンの髪と瞳でとても誠実そうな青年です。

 この彼がとても必死な顔をなさっています。どうしたというのでしょう。
 私が頷くと姿勢を正して一礼してくれました。

「突然の無作法、お許しください。僕はルイ・スミスといいます。外務省の文官でお父上の秘書官を務めております。お見知りお置きください」

 あら、ご丁寧にどうも。私も日ごろ習っているカーテシーを軽く披露します。

「ベッケンバウワー公爵家が長女サラと申します。いつも父がお世話になっております」

 ついでにニッコリ微笑んでみると、スミスさまも笑顔になってくれました。良かった、やっぱり笑顔は人付き合いの第一歩ですね!

「感激だなぁ~。本物だ~。本当にお可愛いらしいですねぇ! いつも閣下……お父上はご令嬢の自慢話ばかりなさっているんですよ! 部屋にいるときはいつもご家族全員の姿絵ばかり眺めて……あぁ、もちろん愛する奥さまと二人の息子さんの自慢もし放題です!」

 ええと?
 お父さまは王宮の執務室でいったいなにをなさっているのでしょう?
 ちょっとだけ、前世で見た覚えのあるチベットスナギツネの表情になってしまった気がします……。

 私のドン引いた気配を感じ取ったのでしょうか。スミスさまが慌て始めました。

「違うっ、そうじゃないっ! 一大事なんだった!」

 そしてスミス様から語られたお父さまの行動に……チベスナどころか明日のジョーの最終回の真っ白に燃え尽きたジョーの姿が脳裏を過ぎりました。

 ……終わった。
 我がベッケンバウワー家は終わりました。

 公爵家当主とはいえ、臣下が、王家の後宮に乗り込んで行った? お約束も謁見許可も取らずに?

 え? なにそれ。
 後宮って、思いっきり王家のプライベートスペースじゃないですか。
 王妃さまが管理する場所じゃないですか。
 後宮の中にも王子宮と王女宮という独立したお屋敷がそれぞれあって、それら纏めて『後宮』って言うって、昨日聞いた記憶があります。他ならぬ王子宮の主人である王子殿下から。

 そのうえ、そこで国王陛下のお名前を連呼したですって?

 お父さまったら、自殺願望でもあるのかしら?
 不敬の極みじゃないですか! 陛下のお名前なんて呼び捨てていいものじゃありませんよっ!
 それが許されるのは陛下のご両親である上皇さまか、王妃陛下だけでしょうに! それもプライベートな場に限られてるでしょうに!

 お父さまは行く手を阻もうとする近衛を引きずりながら進み(お父さまってば前世はブルドーザーだったに違いないわ)メイドや使用人たちがわんさといる中、大声で陛下を呼び続けた、のだとか……。
 いくらお父さまに公爵の身分があるから止め辛かったにしても、それらを実行された近衛隊たちの責任はどうなるのでしょう?
 誰かの首が飛んでるんじゃないかしら。物理的に。

 そして陛下に王太子殿下の身柄を要求して。
 で? 挙句の果てに、王子殿下と一緒に執務室に立て籠っているですって?!

 どこの極悪犯の話? うちのお父さまの話なのね! いやだ血が繋がった誘拐テロリストがいますーーー!!!

 どうしよう、どうしたらいいの?

「陛下は? いま、なにをなさっているのですか?」

 国王陛下の説得なら人質解放できるかもしれません! ここはやっぱり君主さまである陛下にお出ましいただいて……。

「陛下はご公務が立て込んでいらっしゃって今は謁見中ですかね。さきほどまで同席していらっしゃったのですが」

 あら?
 お部屋には出入り自由なの?
 あさま山荘事件の犯人のようにバリケート作って立て籠ってる訳じゃないのね?
 それに無礼三昧重ねているのにプライオリティは低めなのね。ほかのご公務に出席してるなんて……。お咎めは?

「このままじゃあ、仕事が滞って困るんです~~ お嬢さまから閣下に早く仕事に戻るよう説得してください~!!」

 あらら?
 なんか、危惧していたのと違う気がするわぁ。
 外務省のお仕事が進まないから、なんとかして欲しい、と?
 不敬とか不法侵入とか誘拐拉致監禁とかが問題なんじゃないの?

 釈然としない私の後ろから涼やかなお声が聞こえてきました。

「もしかして……あなた、サラ嬢? ベッケンバウワーの」

 お声の主は……。

 艶やかな赤みの強い金髪を綺麗に結い上げて。
 瞳は深い深い海のようなブルー。
 すっとした鼻筋と白磁の頬。
 柔らかく弧を描くぷるんぷるんの唇。

 美女やん……超嫋やかな美女やん……。

 この特徴……背後に傅く人たちの態度……ご本人のオーラ……。

 絶対王妃さまやん……!

 確か最近第三子で第ニ王子殿下をお生みあそばしたと聞いたわよね。もう出歩いて大丈夫なのかしら……あぁ、本当に本物の王妃陛下……。

 はっ! いけないっ! なにを呆けてるの私はっ!!!!!

 慌てて最敬礼にあたるカーテシーを取る。
 本物の王妃陛下の登場に心臓バクバクよっ!
 産後で大事をとって休んでるからって昨日はお会いできなかったのよ。

「ベッケンバウワー公爵が長女……サラ、と申します。陛下、お会いできて光栄です」

 どうしよう。感動のあまり泣けてきちゃう。
 だって王妃さま、綺麗なんだもん。目が離せない!
 凄いわ。この目力めぢからっていうのかしら、このパワーってば視線を外させないわっ吸い寄せられるわっまばたきもできないわっ!

「うふ。立ち上がって? 可愛らしい方。……いいえ。未来の息子のお嫁さん、と呼ぼうかしら?」

 あぁ。そう言って手をっ私の手を取って下さるっ素敵っ!
 プラス茶目っ気たっぷりなその笑顔、なんてお可愛いらしい……最高かよ……。

 王妃さま、たしか三十超えたばかりって聞いたけど、嘘やん、絶対二十代前半の、下手したら十代のお肌してるぅーー!
 ぷるんぷるんのツヤっツヤよ?
 うちのお母さま(三十五歳。三人の子持ち美魔女よ)も美形でうるるんしてるけど、王妃さまの透き通るようなこの白磁のお肌には負けるわ~。
 どんなお手入れしてらっしゃるのかしら?
 筆頭侍女の方に秘訣を伺いたいわ~。

 お手も温かくて柔らかい……なんだかいい香りもする……。

 私のこの状態、魅了されてるって言うのかしら。言うわね、間違いないわ。
 でもたとえそうでも、それでいいっ。むしろどんと来いっな気分だわ。

 ……いけない、混乱の極みだわ。冷静にならなくちゃ。

「サラ嬢……。サ―ラと呼んでも、よくて?」

 その涼やかなお声で、独特な間で語られるお言葉に否はありえませんっ。
 ぶんぶんと首を縦に振ると、王妃さまはコロコロとお笑いになった。

 はぅ……お美しいぃ……至福ぅ……。

 ここに来てやっと私は自分の新たな性癖を知ったわ。

 私って面食いだったのね。
 それも特に嫋やか系の美女に弱いのだわ……。

「ねぇ? サーラ。わたくしのお願い、聞いてくれる?」

 聞きますっききますっ
 赤べこのように首を縦に振る私に、王妃陛下はにっこりと微笑まれた。

「今からわたくし。こちらの執務室に入ってみようと、思うの。ドアは……うん。閉めないで置くから、サーラはわたくしが呼ぶまで、部屋の中に入っては、ダメ。ね?」

 赤べこ継続中です。

 王妃さまは私ににっこりの笑顔を向け、頭を軽くぽんぽんって撫でてくれて

「じゃあ、ね」

 と言って部屋へ向かい、外務省の扉を開けさせました。

 途端に、中の会話が漏れ聞こえてきました。外務省のその奥に、お父様の執務室があるみたいですね。王妃さまはそちらへ向かって優雅に歩を進めています。

「・・・その口から聞きたいのですっ」

「断る」

「公爵!」

「殿下に会うことで・・・・、・・・・・親心、ご了承ください」

 殿下とお父さまの会話ですが……なんでしょう? お声が大きいときは聞こえましたが、小さくなると聞き取り辛いですね。

「・・・・もう一度、会いたいのですっ」

 殿下のお声です。誰に会いたいというのでしょう。私に会いたいと思ってくださるなら、幾らでも会いますのに……。

「公爵。わたくしの息子をいじめるのも、そこまでにしてくださいませ」

 王妃さまのお声は、なんだかウキウキと心弾むような響き……ですね?
 もしかして楽しんでいらっしゃるのかしら。
 さきほど私と話したときは、甘やかで優し気で……一気に虜になってしまったお声でしたけど。


「ヘルムバート。ジークフリードから聞きましたよ。
 あなた、昨日。とんでもなくポンコツになったんですって?」

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