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第691話 クリス、何もせず勝利する
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(ゴーレムだっつーから、どんなデカブツが出てくるかと思えば、予想外にも程があんだろ……。まるで、達人から手ほどきを受けてるみてぇだぜ……)
ガストンの凄さを今更ながらに理解しながらも、アシュラから目を離さないギャレット。
いくつか斬撃を貰ってしまったが、それは致命傷というにはほど遠い威力。手加減をしている訳ではないが、本気でもない。まるで指導を受けているかのような錯覚すら覚える反撃だった。
だからこそ、相手の底は見えず、勝ち筋などもっての外。しかし、諦めるという選択も、まだ早い段階である。
(目立つ場所に、コアはねぇ……。背中か……それとも、ひらひらした布の裏か……)
チラリと逸らした視線の先には、ただ突っ立っているだけのクリス。一目でわかる初心者丸出し。
その様子から、アシュラが操作型のゴーレムでない事は明らかだ。
自立型なら、何処かに魔力を供給しているコアが埋め込まれているはずなのだが、当然そんな弱点を、見えるところに設置するバカな錬金術師はいない。
「なにやってんだ! 術者を狙いやがれ! こっちはお前に、金貨賭けてんだぞ!」
突如、外野から飛び出す怒号。ギャレットは、それにカッとなって声を上げる。
「るせぇ! 誰も頼んでねぇんだよッ!」
そんなことは、ギャレットだってわかっている。アシュラはさておき、クリスはまだまだ青い。技術も経験も未熟で、隙だらけだ。
獣使いが操る獣や、錬金術師のゴーレムなど、自身が使役する存在を戦わせるタイプの冒険者においては、たとえその獣やゴーレムが健在であっても、使役している本人が倒された時点で敗北と見なされる。
しかし、ギャレットは、ハナからクリスを再起不能にしてやろうとは思っていなかった。ちょっと凄んでやれば、諦めるだろうと思っていたのだ。
(それが、なんでこんな事に……)
自己責任が基本の世界ではあるが、新人の教育もまた、熟練冒険者の務め。
そのやり方も、冒険者流。どうせ言っても聞かないのだ。ならば、功を急ぐ新人の鼻っ柱を折ってしまうのが最も安易。
ある意味、通過儀礼ではあるのだが、今回ばかりは話が違った。
オーガ討伐のキャラバンには、良くない噂が囁かれている。それが、オーガの裏で魔族が暗躍している可能性だ。
故の人手不足。オーガ相手なら報酬は妥当。しかし、魔族を相手にするとなれば、命を賭けるには値しない額である。
(コイツはどっちだ? 魔族の噂を知って尚、参加表明したマヌケか……。それとも、本当に何も知らないマヌケか……)
それを、考えている暇は与えられなかった。アシュラが踏み込み、ギャレットの懐へと飛び込んで来たからだ。
「しまッ……!」
その瞬発力には、誰もが目を見張る。一瞬、視界から消えたと錯覚した者も少なくない。
2本の木刀を前方でクロスさせ、防御の構えを取りつつも、4本の木刀を振りかぶるアシュラ。
「しゃらくせぇ!」
上下左右、死角のない連撃が襲い掛かるも、ギャレットは2本の斧を器用にクルクルと旋回させ、迎え撃つように木刀を弾く。
しかし、その斧が弾いたのは2本だけ。残る2本の木刀が、脇腹と太腿を強打する。
「ぐっ!」
呻きながら後退するも、辛うじて踏み止まる。斧を構え直し、足を強く踏みしめると、ギャレットは再び飛び込んだ。
どちらも引かない一進一退の攻防。鋭く、流れるような動きで木刀を操るアシュラに対し、力強く、それでいて柔らかく斧を操るギャレット。
周囲の観客は思わず息を呑み、そのやり取りに魅入られた。だが、そんな均衡が続いたのは、ほんの数十秒程度。
ギャレットの左斧が空を切った一瞬の隙を、アシュラは逃さなかった。
上段からの斬撃に加え、左右から同時に襲いかかる木刀。ギャレットはそれを受け流すことも、回避することもできない。
「……クソ、手が足りねぇッ……!」
一度崩れた均衡を、戻す事は叶わない。肩、膝、胸にと次々打撃が入り、ギャレットの動きは見る間に鈍る。
そして訪れた崖っぷち。闘技台の端にまで追い詰められたギャレットが、その猶予がどれほどかと思わず視線を逸らした瞬間だった。
アシュラから放たれた4本の突きが、両肩と首、そして眉間へと迫るも、それはスレスレのところで静止したのだ。
ただの寸止めではない。まるで止まることまで計算されていたかのような、完璧な制御。
空気を切る音だけが耳に残り、それが止まらなかった時の数秒後の自分を想像したギャレットは、少しの間を置き苦笑を漏らす。
「……参った。完敗だ」
両の斧を地面に落とし、素直に敗北を認めた。
クリスは、それにほっと胸を撫で下ろし、観衆からは歓声が上がる。その殆どが、ギャレットへの怒号だ。
「なんだよ、冗談だろ!」
「あれで終わりかよ、ギャレット!」
応援していた者たちの失望と苛立ちが、剣呑な空気となって場を包む。
「テメェらッ! アニキに向かってッ……」
末弟のブルーノがギャレットを庇おうと声を上げるも、それを制止したのもギャレット。
周囲の声に一瞥をくれると、斧をゆっくりと拾い上げ、肩に担ぐと観衆の方に向き直る。
「そんなに不満か? なら、お前等が代わりにやってみろよ」
怒鳴るでもなく静かな口調。だが、その目だけは鋭く挑むように光っていた。
「いつでも相手してやるぜ。……逃げねぇならな」
一瞬で、場の喧噪が凍りついたように静まり返り、その後誰一人として、ギャレットに挑もうとする者はいなかった。
「チッ……口だけの奴がイキがりやがって……」
遺恨がないとは言い切れないが、負けは負けだ。アシュラの力量を見極めるという意味で、ギャレットはその結果に文句はなかった。
ギャレットがクリスに歩み寄ると、さきほどまでの気迫が嘘のような笑顔で、右手を差し出した。
まるで人が変わったかのような穏やかな表情に、クリスは戸惑いを見せながらもそれを取り、二人は固い握手を交わす。
それに和解の手応えを感じたクリスだったが、ギャレットの口から洩れた言葉に、クリスは静かに目を伏せた。
「後で話がある。ツラぁ貸しな」
ガストンの凄さを今更ながらに理解しながらも、アシュラから目を離さないギャレット。
いくつか斬撃を貰ってしまったが、それは致命傷というにはほど遠い威力。手加減をしている訳ではないが、本気でもない。まるで指導を受けているかのような錯覚すら覚える反撃だった。
だからこそ、相手の底は見えず、勝ち筋などもっての外。しかし、諦めるという選択も、まだ早い段階である。
(目立つ場所に、コアはねぇ……。背中か……それとも、ひらひらした布の裏か……)
チラリと逸らした視線の先には、ただ突っ立っているだけのクリス。一目でわかる初心者丸出し。
その様子から、アシュラが操作型のゴーレムでない事は明らかだ。
自立型なら、何処かに魔力を供給しているコアが埋め込まれているはずなのだが、当然そんな弱点を、見えるところに設置するバカな錬金術師はいない。
「なにやってんだ! 術者を狙いやがれ! こっちはお前に、金貨賭けてんだぞ!」
突如、外野から飛び出す怒号。ギャレットは、それにカッとなって声を上げる。
「るせぇ! 誰も頼んでねぇんだよッ!」
そんなことは、ギャレットだってわかっている。アシュラはさておき、クリスはまだまだ青い。技術も経験も未熟で、隙だらけだ。
獣使いが操る獣や、錬金術師のゴーレムなど、自身が使役する存在を戦わせるタイプの冒険者においては、たとえその獣やゴーレムが健在であっても、使役している本人が倒された時点で敗北と見なされる。
しかし、ギャレットは、ハナからクリスを再起不能にしてやろうとは思っていなかった。ちょっと凄んでやれば、諦めるだろうと思っていたのだ。
(それが、なんでこんな事に……)
自己責任が基本の世界ではあるが、新人の教育もまた、熟練冒険者の務め。
そのやり方も、冒険者流。どうせ言っても聞かないのだ。ならば、功を急ぐ新人の鼻っ柱を折ってしまうのが最も安易。
ある意味、通過儀礼ではあるのだが、今回ばかりは話が違った。
オーガ討伐のキャラバンには、良くない噂が囁かれている。それが、オーガの裏で魔族が暗躍している可能性だ。
故の人手不足。オーガ相手なら報酬は妥当。しかし、魔族を相手にするとなれば、命を賭けるには値しない額である。
(コイツはどっちだ? 魔族の噂を知って尚、参加表明したマヌケか……。それとも、本当に何も知らないマヌケか……)
それを、考えている暇は与えられなかった。アシュラが踏み込み、ギャレットの懐へと飛び込んで来たからだ。
「しまッ……!」
その瞬発力には、誰もが目を見張る。一瞬、視界から消えたと錯覚した者も少なくない。
2本の木刀を前方でクロスさせ、防御の構えを取りつつも、4本の木刀を振りかぶるアシュラ。
「しゃらくせぇ!」
上下左右、死角のない連撃が襲い掛かるも、ギャレットは2本の斧を器用にクルクルと旋回させ、迎え撃つように木刀を弾く。
しかし、その斧が弾いたのは2本だけ。残る2本の木刀が、脇腹と太腿を強打する。
「ぐっ!」
呻きながら後退するも、辛うじて踏み止まる。斧を構え直し、足を強く踏みしめると、ギャレットは再び飛び込んだ。
どちらも引かない一進一退の攻防。鋭く、流れるような動きで木刀を操るアシュラに対し、力強く、それでいて柔らかく斧を操るギャレット。
周囲の観客は思わず息を呑み、そのやり取りに魅入られた。だが、そんな均衡が続いたのは、ほんの数十秒程度。
ギャレットの左斧が空を切った一瞬の隙を、アシュラは逃さなかった。
上段からの斬撃に加え、左右から同時に襲いかかる木刀。ギャレットはそれを受け流すことも、回避することもできない。
「……クソ、手が足りねぇッ……!」
一度崩れた均衡を、戻す事は叶わない。肩、膝、胸にと次々打撃が入り、ギャレットの動きは見る間に鈍る。
そして訪れた崖っぷち。闘技台の端にまで追い詰められたギャレットが、その猶予がどれほどかと思わず視線を逸らした瞬間だった。
アシュラから放たれた4本の突きが、両肩と首、そして眉間へと迫るも、それはスレスレのところで静止したのだ。
ただの寸止めではない。まるで止まることまで計算されていたかのような、完璧な制御。
空気を切る音だけが耳に残り、それが止まらなかった時の数秒後の自分を想像したギャレットは、少しの間を置き苦笑を漏らす。
「……参った。完敗だ」
両の斧を地面に落とし、素直に敗北を認めた。
クリスは、それにほっと胸を撫で下ろし、観衆からは歓声が上がる。その殆どが、ギャレットへの怒号だ。
「なんだよ、冗談だろ!」
「あれで終わりかよ、ギャレット!」
応援していた者たちの失望と苛立ちが、剣呑な空気となって場を包む。
「テメェらッ! アニキに向かってッ……」
末弟のブルーノがギャレットを庇おうと声を上げるも、それを制止したのもギャレット。
周囲の声に一瞥をくれると、斧をゆっくりと拾い上げ、肩に担ぐと観衆の方に向き直る。
「そんなに不満か? なら、お前等が代わりにやってみろよ」
怒鳴るでもなく静かな口調。だが、その目だけは鋭く挑むように光っていた。
「いつでも相手してやるぜ。……逃げねぇならな」
一瞬で、場の喧噪が凍りついたように静まり返り、その後誰一人として、ギャレットに挑もうとする者はいなかった。
「チッ……口だけの奴がイキがりやがって……」
遺恨がないとは言い切れないが、負けは負けだ。アシュラの力量を見極めるという意味で、ギャレットはその結果に文句はなかった。
ギャレットがクリスに歩み寄ると、さきほどまでの気迫が嘘のような笑顔で、右手を差し出した。
まるで人が変わったかのような穏やかな表情に、クリスは戸惑いを見せながらもそれを取り、二人は固い握手を交わす。
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