生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第694話 クリス、初冒険で初キャラバン 

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 朝日が地平を照らし始める頃、街の西門に2台の馬車が並んだ。
 どちらも荷台に幌を付けただけの最低限のもので、その片方には天幕や保存食、替えの装備に薬品類がぎっしりと詰め込まれている。
 それは、今回の任務が長期に亘るだろうことを、暗に予感させていた。

 グリンガム兄弟を含む、選りすぐりの冒険者たちが10名。その中の例外を除いた全員が、幾多の戦いを潜り抜けてきた歴戦の手練れ。
 そんな例外枠のクリスは、ガストンの弟子として名が通ってはいるものの、実務経験はないに等しい。
 だが、その目に宿る決意は、老練の冒険者たちにも引けを取らない光を放っていた。

「よぉし! 全員、そろったな!?」

 今回のキャラバンのリーダーを務める若将。狩人レンジャーのレオンが、短い点呼を終えると、馬車が軋みながらも動き出す。
 目的地は、オーガの根城に最も近い都市、スルト。まずは、そこまでの旅路である。

 空は雲ひとつなく晴れ渡り、夏の陽光が地を照らす。つい先程まで地下街に潜っていたクリスも、日の光は久しぶり。
 外気を浴びながら歩けるというだけで胸が躍り、顔をしかめつつも、時折まぶしげに空を見上げていた。

(アシュラ……頼んだわよ……。ちゃんと私の事、守ってね……)

 クリスがチラリと視線を移した先には、馬車の荷台に置かれたアシュラの入った木箱。
 そんなクリスの頭を、ぽんぽんと優しく叩いたのは、グリンガム兄弟の長兄ギャレットだ。

「不安なのか? そう心配するな! アシュラが稼働してねぇ時は、俺達が守ってやるからよ」

 経験の浅いクリスではあるが、アシュラの戦力は侮れない。しかし、アシュラの稼働時間には制限がある。それを踏まえ、クリスは遊撃部隊としてのポジションを任された。
 通常時は、錬金術師として薬学……とは名ばかりの雑用を担当し、戦闘という局面においてはアシュラを運用する。……所謂なんでも屋だ。
 道中、クリスの面倒は、面識のあるグリンガム兄弟が担当。そんな4人は、キャラバンの殿を務めつつ、馬車の後ろからついて行く。

「……キャラバンって、こういうものなの?」

「あん? こういうって、どういう?」

「いや、先頭の馬車にみんなで……いや、せめて交代で半分ずつ乗れば疲れないし、体力的にも効率がいい気がするんだけど?」

「まぁ、言いたいことはわかるが、依頼主には逆らえないのが冒険者だからな。俺達はそれに従うまでよ」

 荷物の乗っていない先頭の馬車には、リーダーのレオンともう1人。キャラバンの依頼主、その代理のギルド職員が乗っていた。
 年の頃は40前後で、名はクラウス。目元にわずかな疲れを滲ませた人間の中年男性。顔立ちは平凡だが、鼻の下のちょび髭の所為で、どことなく几帳面そうにも見える。
 上からの指示でやって来た中間管理職といった印象で、魔族であるアミーを確実に回収する為の監視――と言ってもいいだろう。

「ふーん……」

 馬車の隙間からクラウスを覗き見するクリスに、ギャレットは眉を顰める。

「なんだ? 知り合いか? それとも媚びでも売って、楽でもしようって魂胆か?」

「違う違う。偉い人って、どこでも同じなんだなって思っただけ」

「ははっ、ちげぇねぇ」

 もっともだと笑い飛ばすギャレットに、肩をすくめて見せるクリスだったが、その真意は別の所にあった。
 クリスの目的は、キャラバンを裏から攪乱しつつも、魔族であるアミーを保護、回収すること。
 あわよくば、オーガたちも……といったところだが、そこまで完璧は求められていない。

(あのクラウスってのを始末すれば、キャラバン……解散したりしないかな?)

 アミーとオーガを狙う者がいなくなれば、それがベストではあるのだが、ギルドが諦めるはずがない。
 そうなると、やはり手っ取り早いのは、キャラバンの壊滅。次の追手が差し向けられる前に、保護してしまうというのが望ましい。
 当然だが、模擬戦でのアシュラは本気ではなく、キャラバンの壊滅は安易に行えるのだが、その容疑がクリスに掛からないようにするには、目撃者を出さず全員を始末しなければならない。
 相手は手練れの冒険者たち。それが難しい事は言わずもがな。故に、幾つかの段階を踏まなければならなかった。

「そういえば、今回のメンバーで一番強い人って誰ですか?」

「おいおい。そりゃ、隣にいるじゃねぇか!」

 ニカッっと白い歯を見せ、胸を張るギャレットに、クリスは苦笑いを返しつつも、言い方を変える。

「じゃぁ、ギャレットさんから見て、戦いたくない相手とか……」

「ふむ。そうだなぁ……。やはり、リーダーのレオンか……」

 最近ゴールドプレートに昇格した、人間の好青年。年の頃は20代前半。しなやかで無駄のない筋肉を身にまとった体つきは、山を駆け、獣と渡り合ってきた証明だ。
 肩まで伸びた黒髪は無造作に括られ、鋭い金の眼差しは、獲物を逃さぬ猛禽のよう。
 腰には長弓と二本の短剣、背には獣の毛皮を羽織っているのだが、そんな野性味に溢れた装備群とは裏腹に、涼しげな横顔の整った顔立ちは、群衆の中にいても自然と目を引くほどである。

 キャラバン出発前のブリーフィングで、各々の自己紹介はあったのだが、名前と軽い挨拶程度。
 冒険者としての経験があれば、名前から実績を結びつけることは容易いのだろうが、クリスにわかるはずもない。

「え? でも、近接職のギャレットさんの方が有利なんじゃ?」

「ああ、近接戦に持ち込めればな」

「アイツは暗殺者アサシンとしても優秀で、闇討ちが得意なんだ。模擬戦みてぇに正面からの勝負ってなら、アニキの方が断然有利だが、お互いの位置が把握できねぇ状態からの勝負となると、ヤツの有利は間違いねぇ」

 三男のブルーノも、レオンと同じ狩人レンジャー。それだけに、皮肉なほどよく知っていた。

「へぇ……」

 先発隊との合流までに、出来れば数を減らしたい。ターゲットは、トラッキングスキルを持つ狩人レンジャーが筆頭だ。
 アシュラの存在を探知されなければ、行動の自由度は格段に増し、暗躍しやすいという寸法なのだが……。

(レオンはいいとして、問題は……)

 そんなクリスの視線の先には、レオンの特徴を得意気に話すブルーノの姿があった。
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