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第699話 クリス、選択を間違える
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レオンというリーダーを失ったキャラバンは、その代理としてギャレットをリーダーに据え、旅を続けることに。
皆の輪を乱す者がいなくなったこともあり、終始穏やかな旅になるかと思いきや、皆の不安は別のところにあった。
「俺達……解散できなきゃ、次のキャラバンには参加できねぇってことだよな?」
「だろうな……。まぁ俺としては、カネさえ貰えりゃなんでもいいけどな」
それは、ギルドの冒険者規約第12条、キャラバン雇用に関する特則である。
第5項(行方不明者の発生禁止)
1 ギルド認可を受けて活動するキャラバン(以下「当該キャラバン」という)は、所属隊員(以下「隊員」という)に行方不明者を発生させてはならない。
2 隊員の行方不明が確認された場合、当該キャラバンは、当該行方不明者を発見し、身柄を確保するまで、いかなる理由があっても解散を認められない。
3 ただし、行方不明者が死亡したと合理的に認められる場合であって、識別用プレートを証拠として提出したときは、前項の規定にかかわらず解散を申請することができる。
第6項(他キャラバンへの参加制限)
1 前項第2号の事由が解消されるまで、当該キャラバンに所属する全隊員は、他のキャラバンへの参加、移籍、または兼任を行ってはならない。
2 前項に違反した場合、ギルドは当該隊員及び所属キャラバンに対し、罰則を科すことができる。
第7項(罰則)
1 本条の規定に違反した隊員またはキャラバンは、以下の措置のいずれか、または併せてこれを受けるものとする。
契約の解除、報酬及び一時預かり金の没収、一定期間の活動停止。
2 上記措置は、違反の重大性及び情状を考慮し、各ギルド支部の裁量により決定される。
そもそもの話、行方不明者が出ること自体稀なのだが、その後の対応としては、依頼達成後キャラバンの依頼主が行方不明者に懸賞金を出すのが相場ではある。
ただ、今回の依頼主がギルドと言う事もあり、少々特殊な状況故、どう処理されるのかがわからない。
報酬を払わないという事はないだろうが、レオンを積極的に探そうという意思があるのかどうか……。
最悪、解散することなく暫くの間放置されるという可能性もある。
そんな懸念で冒険者たちが頭を悩ませる中、クラウスが馬車から顔を出すと、落ち着いた声で冒険者たちに告げる。
「特例ではありますが、この件は私が何とかいたします。ですので、皆さんには本命に集中していただきたい……」
「それなら……まぁ……」
その言葉は、まるで張り詰めた糸を切るように場を包む緊張を解いた。
それで、不安が完全に消えたわけではないが、冒険者たちからは、安堵の息を吐く音が漏れる。
一方のクラウスはというと、気が気ではない。
それもそのはず、このキャラバンの結果に、クラウスの命運がかかっているのだ。
「なんで、こんな事になるんだ……」
まさか、道中でこんなトラブルに見舞われるとは思いもよらず、馬車の中で静かに溜息をつくクラウス。
「この任務を成功させれば、念願の支部長……。ここで諦めるわけには……」
ギルド上層部は、長きにわたる検討の末、キャラバンに随行させる職員を選定していた。
ただ、同行するわけではない。その者にはギルドの深部に触れる機密を開示せねばならない。その重責を担える人物は限られていた。
やがて、白羽の矢が立ったのはギルドの模範的職員だったクラウス。
折しも、スタッグギルド支部長の席は未だ空白のまま。その空席を餌にしたのだ。
クラウスに課せられた任務は二つ。
ひとつは、迫り来るオーガの群れを討ち果たした後、その背後に潜んでいると目される魔族の娘を生きて確保すること。
もうひとつは、機密を守るため、現場に居合わせた冒険者たちを処理してしまうことだった。
――――――――――
キャラバンがトゥームレイズを発ってから二週間。
遥か彼方に目指す都市、スルトの影がようやく地平の彼方に仄かに見え始めた頃。
旅路の終着を目前にしたキャラバンを待っていたのは、安堵などではなく、キャラバンの存在意義を疑問視するほどの重大な問題だった。
「なぁ、クラウスさん。考え直した方がいいんじゃねぇか?」
「う、うるさい! 大丈夫だ! オーガさえなんとかなれば……」
「それが、怪しいから言ってるんだが……」
隣で馬の手綱を握り締めるギャレットの言葉に、耳を貸さないクラウス。
そんなクラウスを除き、当初10人の団体だったキャラバンの人数は、何故か4人にまで激減していた。
レオンを始め、次々と失踪する冒険者たち。魔物や人さらいの可能性を疑い、見張りを2人に増やしたりもしたが効果はなく、2人同時に失踪してしまうという状況に、最早打つ手はない状況。
キャラバンの存続が危ぶまれる事態――と言っても過言ではない……はずなのだが……。
(なんなの!? 普通ここまで減ったら中止にするでしょ!? クラウスって人、ギルドでどんだけ偉いのか知らないけど、馬鹿なんじゃないの!?)
そんな現状に、クリスは表情こそ平静を装っていたが、内心では焦燥に駆られていた。
ブルーノにバレないよう細心の注意を払い、6人もの冒険者を失踪に導いたのだが、キャラバンの進行は止まる気配を見せない。
残る冒険者は、グリンガムの3人とクリスのみ。……にもかかわらず、クラウスは頑なに諦めようとはしなかった。
(何故、皆いなくなる!? ギルドの目論見がバレたのか!? サザンゲイアの冒険者がどうなろうと知った事ではないが、オーガの殲滅すら出来ないようでは……)
オーガたちが巣食うダンジョンの入口に待機している先発隊と組むとしても、敵の数を完璧に把握している訳ではない。
先発隊では歯が立たず、その為の援軍……にもかかわらず、キャラバンの戦力は既に半減。
ある意味ギルドへの嫌がらせの為にキャラバンに参加したのかと疑ってしまうほどの状況に、クラウスも気が気ではない。
「もうすぐスルトに着く。そこまで行けば……」
「本当にそう思うのか? 失踪した冒険者が、ただ逃げ出しただけならそれでいい。だが、そうじゃなかったら? 次はクラウスさんが失踪するって可能性もあるんじゃないのか?」
何が起きているのかわからないからこそ、皆疑心暗鬼になっていた。次は自分かもしれないという恐怖。
その為、殆どの者が数日前から一睡もしておらず、限界が近いのは目に見えて明らかだった。
「……」
クラウスからの返事はなく、馬車は黙々と進み続けた。
そんな中、クリスは始末する順番を間違えたかもしれないと、小さな舌打ちを漏らし、キャラバンがスルトに到着したのは、その二日後のことであった。
皆の輪を乱す者がいなくなったこともあり、終始穏やかな旅になるかと思いきや、皆の不安は別のところにあった。
「俺達……解散できなきゃ、次のキャラバンには参加できねぇってことだよな?」
「だろうな……。まぁ俺としては、カネさえ貰えりゃなんでもいいけどな」
それは、ギルドの冒険者規約第12条、キャラバン雇用に関する特則である。
第5項(行方不明者の発生禁止)
1 ギルド認可を受けて活動するキャラバン(以下「当該キャラバン」という)は、所属隊員(以下「隊員」という)に行方不明者を発生させてはならない。
2 隊員の行方不明が確認された場合、当該キャラバンは、当該行方不明者を発見し、身柄を確保するまで、いかなる理由があっても解散を認められない。
3 ただし、行方不明者が死亡したと合理的に認められる場合であって、識別用プレートを証拠として提出したときは、前項の規定にかかわらず解散を申請することができる。
第6項(他キャラバンへの参加制限)
1 前項第2号の事由が解消されるまで、当該キャラバンに所属する全隊員は、他のキャラバンへの参加、移籍、または兼任を行ってはならない。
2 前項に違反した場合、ギルドは当該隊員及び所属キャラバンに対し、罰則を科すことができる。
第7項(罰則)
1 本条の規定に違反した隊員またはキャラバンは、以下の措置のいずれか、または併せてこれを受けるものとする。
契約の解除、報酬及び一時預かり金の没収、一定期間の活動停止。
2 上記措置は、違反の重大性及び情状を考慮し、各ギルド支部の裁量により決定される。
そもそもの話、行方不明者が出ること自体稀なのだが、その後の対応としては、依頼達成後キャラバンの依頼主が行方不明者に懸賞金を出すのが相場ではある。
ただ、今回の依頼主がギルドと言う事もあり、少々特殊な状況故、どう処理されるのかがわからない。
報酬を払わないという事はないだろうが、レオンを積極的に探そうという意思があるのかどうか……。
最悪、解散することなく暫くの間放置されるという可能性もある。
そんな懸念で冒険者たちが頭を悩ませる中、クラウスが馬車から顔を出すと、落ち着いた声で冒険者たちに告げる。
「特例ではありますが、この件は私が何とかいたします。ですので、皆さんには本命に集中していただきたい……」
「それなら……まぁ……」
その言葉は、まるで張り詰めた糸を切るように場を包む緊張を解いた。
それで、不安が完全に消えたわけではないが、冒険者たちからは、安堵の息を吐く音が漏れる。
一方のクラウスはというと、気が気ではない。
それもそのはず、このキャラバンの結果に、クラウスの命運がかかっているのだ。
「なんで、こんな事になるんだ……」
まさか、道中でこんなトラブルに見舞われるとは思いもよらず、馬車の中で静かに溜息をつくクラウス。
「この任務を成功させれば、念願の支部長……。ここで諦めるわけには……」
ギルド上層部は、長きにわたる検討の末、キャラバンに随行させる職員を選定していた。
ただ、同行するわけではない。その者にはギルドの深部に触れる機密を開示せねばならない。その重責を担える人物は限られていた。
やがて、白羽の矢が立ったのはギルドの模範的職員だったクラウス。
折しも、スタッグギルド支部長の席は未だ空白のまま。その空席を餌にしたのだ。
クラウスに課せられた任務は二つ。
ひとつは、迫り来るオーガの群れを討ち果たした後、その背後に潜んでいると目される魔族の娘を生きて確保すること。
もうひとつは、機密を守るため、現場に居合わせた冒険者たちを処理してしまうことだった。
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キャラバンがトゥームレイズを発ってから二週間。
遥か彼方に目指す都市、スルトの影がようやく地平の彼方に仄かに見え始めた頃。
旅路の終着を目前にしたキャラバンを待っていたのは、安堵などではなく、キャラバンの存在意義を疑問視するほどの重大な問題だった。
「なぁ、クラウスさん。考え直した方がいいんじゃねぇか?」
「う、うるさい! 大丈夫だ! オーガさえなんとかなれば……」
「それが、怪しいから言ってるんだが……」
隣で馬の手綱を握り締めるギャレットの言葉に、耳を貸さないクラウス。
そんなクラウスを除き、当初10人の団体だったキャラバンの人数は、何故か4人にまで激減していた。
レオンを始め、次々と失踪する冒険者たち。魔物や人さらいの可能性を疑い、見張りを2人に増やしたりもしたが効果はなく、2人同時に失踪してしまうという状況に、最早打つ手はない状況。
キャラバンの存続が危ぶまれる事態――と言っても過言ではない……はずなのだが……。
(なんなの!? 普通ここまで減ったら中止にするでしょ!? クラウスって人、ギルドでどんだけ偉いのか知らないけど、馬鹿なんじゃないの!?)
そんな現状に、クリスは表情こそ平静を装っていたが、内心では焦燥に駆られていた。
ブルーノにバレないよう細心の注意を払い、6人もの冒険者を失踪に導いたのだが、キャラバンの進行は止まる気配を見せない。
残る冒険者は、グリンガムの3人とクリスのみ。……にもかかわらず、クラウスは頑なに諦めようとはしなかった。
(何故、皆いなくなる!? ギルドの目論見がバレたのか!? サザンゲイアの冒険者がどうなろうと知った事ではないが、オーガの殲滅すら出来ないようでは……)
オーガたちが巣食うダンジョンの入口に待機している先発隊と組むとしても、敵の数を完璧に把握している訳ではない。
先発隊では歯が立たず、その為の援軍……にもかかわらず、キャラバンの戦力は既に半減。
ある意味ギルドへの嫌がらせの為にキャラバンに参加したのかと疑ってしまうほどの状況に、クラウスも気が気ではない。
「もうすぐスルトに着く。そこまで行けば……」
「本当にそう思うのか? 失踪した冒険者が、ただ逃げ出しただけならそれでいい。だが、そうじゃなかったら? 次はクラウスさんが失踪するって可能性もあるんじゃないのか?」
何が起きているのかわからないからこそ、皆疑心暗鬼になっていた。次は自分かもしれないという恐怖。
その為、殆どの者が数日前から一睡もしておらず、限界が近いのは目に見えて明らかだった。
「……」
クラウスからの返事はなく、馬車は黙々と進み続けた。
そんな中、クリスは始末する順番を間違えたかもしれないと、小さな舌打ちを漏らし、キャラバンがスルトに到着したのは、その二日後のことであった。
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