生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第706話 クリス、人質になる

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「連れて行くなどと言うが、どうやって?」

 ドズルと呼ばれたオーガの疑問はもっともだ。ダンジョンを侵攻してくるグリンガム3兄弟は、冒険者の中でも実力派。
 兄弟と呼ばれているだけあって、その連携力には定評がある。
 それを運よくどうにかできたとしても、ダンジョンの外には冒険者の一団が待ち構えているのだ。

「私に良い考えがあるわ。これを使うのよ」

 クリスが取り出したのは、オルガナから預かった魔石の欠片だ。

「その中身は、空っぽのはずだが……」

「確かにそうなんだけど、キャラバンのみんなはコレでアシュラを操作してると思っているのよね」

「そのゴーレム……。そこまでの性能を秘めているのか?」

「んー。まぁ強いとは思うけど、本気で戦ってもらったことはないから、なんとも言えないってのが正直なところ。相手に狩人レンジャーがいる時点で、不意打ちは無理だし」

「そうか……。だが、戦力が増えるのはありがたい。ここにいる者は殆どが一線を退いた者達だからな」

 オーガたちの中でも武闘派と呼ばれる者達は、魔王捜索の為、オルガナについて行ってしまった。
 ダンジョンに残っているのは、子供や戦えぬ老翁が殆ど。ドズルはその中でも若い方で、戦えるのは打って出てきた10人前後だ。

「ちょっと待って。出来れば彼等とは戦わず、穏便に済ませたいのよ」

「何を言っている? そんなこと出来るわけ……」

「だから、私があなた達に捕まって、アシュラを奪われたってことにするの。私を人質にすれば、鉾を納めてくれるかもしれないでしょ?」

 彼等もアシュラの実力は認めるところ。オーガの集団だけでなく、そこにアシュラも加われば躊躇うだろう事は間違いない。
 さらにクリスを人質にすれば、諦めてくれる可能性はゼロではない。

「……もし、それでも戦う事になったら?」

「その時は仕方ない。私も心を鬼にするわ」

 もちろん、クリスだって最悪は考えている。バレないようにと立ち回ってはいるが、冒険者側から見れば裏切り者。
 敗北が死を意味するだろう事は、叩き込まれているのだ。

「じゃぁ、細かい打ち合わせでもしましょ。相手の出方次第で色々なパターンを共有しておかなきゃでしょ?」

「わかった。それにふさわしい場所がある」

 アミーを休ませる為、ドズルが別室での作戦会議を提案したその時だ。
 突如、ダンジョンが深く軋むように揺れた。床石が鳴り、壁に走る亀裂から細かな砂がぱらぱらと落ちる。
 立っているのさえ困難なほどの衝撃に、一同は息を呑んだ。
 やがて揺れが収まりかけた頃、部屋の扉が勢いよく押し開けられ、一人のオーガが飛び込んできた。その顔には、隠しようのない動揺が浮かんでいた。

「大変だドズル! 20層で崩落がッ!」

「なにッ!?」

「そんな……。まだ時間は残されているはずなのに……」

 それは、このダンジョンが誇る最大級のトラップだ。崩落と同時に下層へと繋がる道を潰してしまうので、敵の侵攻を食い止めることができ、かなりの時間が稼げる反面、脱出も不可能となる諸刃の剣。

「え? それって、閉じ込められちゃったってコト!?」

 報告を聞き終えるや、ドズルの表情は険しさを帯びる。

「……直接確認しに行くしかあるまい……」

 ――――――――――


 ブルーノを先頭に、暗く湿った石造りの回廊を進む。ギャレットたちはクリスを捜索する為、ダンジョンの侵攻を続けていた。
 足元には仕掛けられた罠が幾重にも潜み、踏み外せば命取り。相も変わらず、行く手を阻む数多の仕掛けに手間取らされながらも、どうにか地下20層へと辿り着く。

「……待て」

 不意にブルーノが立ち止まると、自分達が進んできた後方へと耳を澄ます。

「魔物か?」

「いや、恐らくだが人の気配。それも結構な数だ」

 魔物の類でなければ、残る可能性は一つだ。

「先発隊の野郎どもか……。あれほど待ってろと言ったのに……。俺達がトラップを解除した後をついてきやがるとは、楽しやがって」

 ギャレットから漏れ出る舌打ち。文句の一つでも言ってやろうと待ち構えていたその時だ。
 19層の階段から降りて来たのは、闇の中に浮かび上がる影――黒ずくめの集団だった。

「なんだぁ? テメェら……」

 どう見てもキャラバンの先発隊ではない。かと言って、ただの通りすがりもあり得ない。
 少なくとも友好的ではないだろうと判断したギャレットは、斧に手を掛け、お互いに距離を測りながら声を掛ける。

 だが、それに返答はなく、その代わりに影たちは一斉に飛び掛かってきたのだ。

「――ッ!?」

 刹那、冷たい鉄の音が石壁に響き渡り、静寂だった回廊が殺気に満ちる戦場へと変わった。
 斧を振るうギャレットが正面から黒ずくめの男を叩き伏せるも、それを飛び越え次の相手が襲い掛かる。
 更にはその側面からもう一人。影のように滑る動きで回り込む。

「チッ、いきなり御挨拶じゃねぇか!」

 歯噛みしながらも、ギャレットは重い斧を振り抜き、石床を砕いて牽制。その横で、大剣を構えたロルフが突撃する。
 分厚い刃が唸りを上げ、複数の相手を敵を薙ぎ払う。しかし、黒ずくめたちは仲間の負傷にも感情を見せず、その攻め手を緩めなかった。

「ロルフ、伏せろッ!」

 鋭い声とともに飛翔する矢。ブルーノの放ったそれが敵の肩を貫き、ロルフを襲おうとしていた男を弾き飛ばす。

 広間の薄暗い灯りの下、三人の息はぴったりだった。ギャレットが正面で重圧をかけ、ロルフが間合いを詰めて斬り伏せ、ブルーノの矢が死角を射抜く。
 しかし、敵の数が多すぎた。黒い影が次々と立ち現れては、斬撃と刃を繰り出すのだ。

「数で押すつもりかッ……!」

 ギャレットが吠え、斧を振るいながらも、徐々に後退を余儀なくされる三兄弟。
 そんな戦闘のさなか、ブルーノの目が僅かな異変を捉えた。

(……なんだ? この境目……)

 ダンジョンの石壁には、ごくわずかな継ぎ目のような線が走っていた。その部分だけ石の色合いが鈍く、触れれば崩れそうなほど脆さを帯びている。

(これを利用すれば、奴等と俺たちの間に決定的な隔たりを作れる)

 即座に判断を下したブルーノは、兄弟にしか通じぬ合図を指先で送る。
 ギャレットとロルフが頷いたのを確認し、ブルーノは弓弦を引き絞った。

「”バーストショット”!」

 それは、放った矢を破裂させる事のできるスキル。矢は唸りを上げて飛び、壁面のもっとも脆くなっているだろう箇所を正確に射抜いたのだ。

「――ッ!?」

 刹那、地の底から唸るような轟音が響き渡り、天井が軋みを上げて崩れ落ち始めた。
 岩塊と瓦礫が奔流のように押し寄せ、それは黒ずくめの男たちを次々と飲み込んでいく。

「走れッ!」

 三人は揺れる地面を蹴り、崩落の余波を振り切るように駆け出した。
 落石を身をひねって避け、舞い上がる砂塵の中をさらに下層へと駆け降りたのだ。
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