生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第708話 クリス、すべてバラす

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 ギャレットが倒れ伏した黒ずくめの男を無造作に蹴り上げると、深く被っていたフードがずるりと外れ、その素顔が露わになった。

「九条の刺客かとも思ったんだが……。こりゃハズレだな」

 口の端を歪めながら吐き出された声。そこにあったのは、尖った耳を持つエルフの顔だ。
 黒ずくめの正体から鑑みれば、九条とのつながりがないことは明らか。

「逆に九条の刺客の方が、わかりやすくてよかった――まであるんだがな」

 読みが外れた苛立ちと、ブルーノの言葉に、ギャレットは深々と溜息をつく。
 しばしの沈黙の後、ギャレットの視線がクリスへと移ると、突然の圧に耐えかねたのか、クリスは慌てて口を開く。

「た、たすけてェ~……」

 だが返ってくるのは氷のような視線だけ。ギャレットは再び重い息を吐き、面倒げに頭を抱えた。

「……もう、おせぇよ」

「……あ、やっぱり?」

 場違いな軽口に、場の空気が一層冷たく沈む。
 アシュラが反応を示したのはクリスの声。更に言うなら、魔石の欠片を持っているのはオーガのドズルであり、彼らが人間を助けるとは考えにくい。となれば、アシュラは当初の見立て通り、操作型ではなく自律型。更に言うならクリスの立場もおのずと限られてくる。

「オーガを仲間に引き入れたって線は薄いだろうな。ってことは……」

 ギャレットの思考に浮かぶのはただひとつ。最初から仕組まれていた可能性だ。

「解せねぇな……。クリス、お前の本当の目的はなんなんだ?」

 最初からクリスがオーガ側の人間なら、他の冒険者同様に闇討ちでもしてしまえば済む話。しかし、クリスは人質役に扮する事でグリンガム兄弟に選択肢を与えようとしていた。
 その行動には、まるで一貫性がない。

「言わなきゃダメ?」

「俺達は閉じ込められてんだぜ? 話し合う時間は十分あると思うんだが?」

「それもそうね。……ありがとう」

 クリスの口からこぼれた言葉は、素直なものであった。
 争うこともできたはずなのに、ギャレットはそうせず、少なくとも話し合う場を与えてくれたのだ。
 それが体力を取り戻すための時間稼ぎなのか、あるいはクリスが選択を委ねたのと同様に、機会を与えてくれたのか――。その真意は掴めない。
 だが一つだけ確かなのは、最悪の結末を迎える可能性を、完全には閉ざされずに済んだ――ということだった。

 ――――――――――

 ギャレットたちは地面にそのまま腰を下ろし、クリスはオーガたちとアシュラを下がらせ、急遽始まった話し合いに臨む。

「なるほど? 九条の回し者は、お前だったってことか……」

「騙すつもりは……。いや、騙す気まんまんだったけど……」

 結局、クリスは全てを話した。状況的に誤魔化しようがなかったというのもあるが、悠長に考えている暇もなかったのだ。

「確かに、この先に魔族はいる。でも、それはあなた達が求めている者じゃないの」

「何を根拠に……」

「言ってたでしょ? 自分達の実力を証明するためって。でも、ここの魔族……アミーを倒したところで、それがあなたたちの自信に繋がることはないって断言できる。だって、相手はまだ子供だもの。しかも、弱っていて戦闘力なんて皆無。アシュラがいない私でも勝てるくらいだって言えば、わかるでしょ? 私はそれを保護しに来たの」

「子供とはいえ、魔族は魔族。それが成長すれば、人類の敵だ」

「そりゃ、このまま放っておけばそうなるでしょうね。ギルドがアミーの親を奪ったんだもん。人を恨んで当然。そうでしょ?」

「……どういうことだ?」

「あんたたちもギルドに騙されてるってこと。アミーの親は優秀な魔具師だった。ギルドがその技術に目を付けて、魔族でありながら取引をしたの。アミーの安全を保障する代わりに、ギルドのために働けってね。で、それが役に立たなくなったから代役が必要になった。そこまで言えばわかるでしょ? プラチナの錬金術師モラクスが、アミーの父親だった――って言えばどう? なんとなく実感が湧くんじゃない?」

 それを聞いたギャレットたちは、3人で顔を見合わせ暫くの間、沈黙していた。
 クリスの話には信憑性があった。なによりキャラバン初期の募集時の文言には、魔族の生け捕りが条件として設定されていたのだ。
 危険な魔族であれば捕獲と言わず、討伐がベストであることは間違いないにもかかわらずだ。
 誰も見たことがないと噂される、錬金術師モラクスの話も腑に落ちる。それが魔族であると仮定するなら、当然表舞台には出てこれない。

「冒険者の皆が謎の失踪を遂げているのに、無理矢理キャラバンを遂行しようとするクラウスの様子も、おかしかったでしょ?」

「そうだ。皆はどうなった?」

「もちろん殺してなんかいないわ。私にも仲間がいて、夜中にこっそり回収してくれてただけ。キャラバンが中止になれば、それでよかったんだけどね……。ここを出ることができたら探してみればいいんじゃない? ただ、ギルドにモラクスの事を問い質すのは、やめた方がいいかもね。恐らくは最重要機密だし、消されちゃうかも?」

 ワザとらしく不敵な笑みを浮かべるクリス。
 ギャレットたちへの説得には、多少の自信はあった。共に過ごした時間は決して長くはなかったが、その短さを補うように、クリスは彼らを知ろうと努めてきた。
 ギャレットたちは根っからの悪党ではない。ただ運に見放されただけで、心の底は誠実な冒険者なのだ。
 事実、駆け出しのクリスに彼らほど親切に接してくれた者はいない。それだけで、間違いではないと信じられる。
 だからこそ、裏切る形となったことへの罪悪感が、クリスの胸の奥で小さく疼いていた。
 説得できなかったとすれば、それは自分の選択が招いた結果だ。後に訪れるかもしれない後悔の影に、クリスは内心気が気ではなかった。
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