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第44話 ブラバ卿
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王宮の階段を下りながらブツブツと独り言を囀っている小太りの男の名は、グレッグ・ヴァン・ブラバ。
侯爵に名を連ねる者の1人で、歳は50を超え、顎ひげがくっついてしまいそうなほどもみあげが長い。
小綺麗で、見るからに貴族といった服装。
すれ違う者全てが深く一礼するほどの地位と権力を持っている。
「クソッ!」
ノーピークス襲撃に使う予定だった人員を割いてまで魔法書の奪還に向かわせたのに、返り討ちにあうとは……。
ゴールドプレートとはいえたった2人。しかも1人は手負いだというのに、20人もの人員を割いてこの体たらく。無能どもめ……。
損害は大した事ではないが、非常にマズイ状況だ。
王女を人質に取った挙句、殺されるとは……。
死ぬのは構わないが、自分の事を喋ってはいないかとヒヤヒヤしていた。
国王に謁見した帰り道。自分の思い通りに事が進まず、苛立ちが募る。
アンカース家とノーピークスの領有権を争い、アンカース領への挙兵を嘆願したのだが、王の裁可は得られなかった。
貴族同士の戦争は、正当な理由なき場合は禁じられている。
王の裁可か、自治の防衛のみ可能であるのだ。
アンカース領から盗賊が流入し、こちらの領内を荒らしまわっているのだが、アンカース卿は盗賊を討伐しようとしない。
やる気がなければこちらにノーピークスの領有権を渡すべきで、自分が討伐に赴いてやる。
だがそれは表向き。
裏で盗賊を操っているのは私なのだ。
ブラバ家にとってアンカース家は盗人のようなもの。
元々は冒険者だっただけの一般人が貴族を名乗るなど、烏滸がましいにもほどがある。
アンカースの先祖であるバルザックが爵位を賜り、貴族の仲間入りを果たした。
その際に、我が家の領地だった所を移譲したものが、今のアンカース領となったのだ。
与えられた領地はノーピークスを有する1等地。
王を守る為にと王都から最も近い領地を賜ったのである。
国王が決めたことは絶対。ならば、アンカース家を没落させ領地を取り戻そうと躍起になっているのだ。
「陛下も陛下だ……。あんな弱小貴族、放っておけばよいものを……」
長い階段を降りると、見えてきたのは美しい中庭。
そこに響く高い声の主は第4王女。
ちょうど魔術修練の真っ最中であった。
(アンカースの小娘……。いつ見ても腹が立つ。我が物顔で王宮内をウロチョロしおって……)
この苛立ちをぶつけるいいカモがいた。
小汚いローブを身に纏った冒険者。
隣の魔獣は恐らく従魔であろう。最近街を騒がせているという噂は耳に入っていた。
「おいそこの男! ここは部外者立ち入り禁止だぞ! ここをどこだと思っている!?」
冒険者の男に勢いよく近づくと胸ぐらを掴み、背中を壁に打ち付け大声で怒鳴り散らす。
魔法修練の手が止まり、静まり返る中庭。
苦痛に顔を歪める冒険者の男は、抵抗することなくされるがままであった。
「ブラバ卿、お止めください。私の護衛として同行を許している者でございます」
目を細め、乱暴に突き放す。
「おお、そうでしたか。アンカース卿の御息女殿。これは失礼を致しました」
もちろんそんなことは知っている。
ストレス発散ついでだ。
逆らおうものならそれを理由に糾弾できると考えていたのだが、どうやらバカではないらしい。
「リリー様。修練の方はうまくいっておりますかな?」
「ええ。おかげさまで……」
「そうですかそうですか。それは良かった。それでは私はこれにて失礼いたします」
王女にのみ頭を下げると、中庭を抜ける。
「アンカースの小娘が……。第4王女に上手いこと取り入りおって……。今に見ておれ……」
国王からの信用を無くせば、アンカースは勝手に沈んでゆくだろう……。
その為には何としても魔法書を奪わなければ……。
返還のタイミングは、宝物庫の虫干しと同日に行われる曝涼式典が最適だと考えるはず。
ほぼ全ての貴族達が一堂に会する場だ。
皆の集まる所で行方不明の魔法書を返還すれば、式典と相まって注目度も高まるはず。
それまでに何とかしなければ……。
――――――――――
リリーの魔法修練が終わり、今は帰りの馬車の中。
ネストは苛立ちを隠せず、俺に愚痴をこぼしていた。
「あれがブラバ家の当主のグレッグ。陰湿でちまちまと嫌がらせをして来るの。腹立たしいったらないわ」
行きより車内が強く揺れているのは道が悪いのではなく、ネストの貧乏ゆすりである。
「面倒くさそうですね……」
「そうなのよ。事あるごとにつっかかってきて手が出ちゃいそうだわ……」
ネストは憤慨しながらも、呆れているといった表情で溜息をつく。
先程までの機嫌の良さは何処に行ってしまったのかと思うほどだ。
「あいつの所為でウチの決定権はほぼないわ」
「決定権?」
「そう。陛下が決断に困ったときは貴族達に意見を求めることが多々あるの。ウチももちろん陛下の為に意見するわ。そうするといつもブラバ卿が横から口を挟むのよ。国宝の魔法書を無くすような家の意見は信用ならないってね」
ネストは右手に握り拳を作るとワナワナと怒りに打ち震える。
まあ、その気持ちもわかる。
300年も前の話でネチネチと言われたら、そりゃ苛立ちもするだろう。
「陛下の信頼を勝ち取ればそれだけ貴族内で優位に立てる。でもウチは意見すら聞いてもらえないってこと。でもそれも曝涼式典まで。そこで魔法書を返還して陛下の信頼を取り戻せれば、しばらくはこちらに口出ししてこなくなるはず」
「曝涼式典って何です?」
「曝涼式典って言うのはね、1年に1回宝物庫の虫干しをする日なのよ。王宮の庭でね。そのついでのお披露目会みたいなものかしらね。陛下はもちろん、大勢の貴族が出席することになっているわ」
他の貴族にアピールするという意味では、確かに最適な場だ。
「私達が魔法書を発見したことは知られているはず。あっちはかなり焦っていると見ていい。でなければ、直接襲って魔法書を奪うなんてリスキーなことするはずがないもの」
「じゃぁ、相手はそれまでに何か仕掛けてくる可能性が高いってことですね」
「そうね。それで間違いないと思うわ」
それまで何も起きなければよいのだが……。
5日目の朝。ギルドから呼び出しがあるとのことをセバスから聞いた。
予定よりも2日早い。リリーの圧力が効いたのだろうか?
それを聞いてネストとバイスも結果を知りたいとのことで、ギルドへと同行することに。
俺達がギルドへ入ると、場の空気は一変した。
こちらに視線を泳がせ、ざわざわとどよめく冒険者達。
ネストとバイスはさることながら、俺の知名度もそれなりに上がっているようだ。
ギルド職員の女性が俺達に気が付き、応接室まで案内してくれた。
作戦会議室と似ているが、こちらの方がより広い。
大きなソファーにネストとバイスが腰を下ろし、反対側のソファにミアがダイブ。その隣に座ろうとした瞬間、ソファの背もたれの後ろに何か大きな物体が落ちているのに気が付いた。
「ソフィアさん!?」
そこには土下座していたソフィアがいた。
壁とソファに挟まり、微動だにしないが間違いない。
その声に驚き、ミアは立ち上がるとソファの後ろを覗き込む。
「支部長!?」
このままでは話すこともままならない。
何があったのかを聞こうとするも、頑なに顔は上げなかった。
「ソフィアさん。とりあえず顔を上げてください」
「む……無理です……。九条さんにお許しを頂けなければ私は……私はぁぁぁぁ!」
土下座スタイルのまま大声を出し、プルプルと震えているソフィア。
そこにスタッグギルドの支部長であるロバートが入って来た。
「お待たせしました皆様、どうぞ席にお座りください」
「えっ……、でも……」
ロバートは俺達を見てその意味を理解したのだろう。
ひとまず座らないと始まらないと言われたのでソフィアは一旦置いておいてソファに腰を落とす。
するとソフィアは土下座スタイルのまま、カサカサとロバートの隣に移動した。
俺がプラチナだと発覚したその日のうちにギルド本部から呼び出しを受けたソフィアは、先程こちらに到着したとのことのようだ。
ロバートは咳払いをするとソフィアの処分から話を始めた。
「おほん。それではまずコット村支部長であったソフィアの処遇についてなのですが……。ソフィア。あなたは九条様がプラチナプレートだということを知りながらカッパーとしてギルドに登録した。間違いないですね?」
「……はい……」
「そのことについて、何か申し開きはありますか?」
「……いいえ……」
「というわけです九条様。本当に申し訳ございませんでした。ギルドを代表して謝罪いたします」
酷く弱々しい言葉を発したソフィアに続き、ロバートは深く頭を下げる。
「つきましては九条様。ソフィアの処分をご検討していただきたく……」
「ちょ……ちょっと待ってください。それは俺が決めるんですか?」
「さようでございます。九条様が1番の被害者となりますので……」
そんなこと言われても……。
正直言うと全くと言っていいほど気にしていなかった。
むしろカッパーだからこそ、ミアと出会えたとも言える。
そう考えると、逆にプラチナじゃなくて良かったのかもしれないとさえ考えていたのだ。
王都に来なければ、今頃のんびりコット村でいつも通りの生活を送っていただろう。
「処分が決められなければ、こちらで処罰致しますが?」
「その場合どうなるんです?」
「そうですね。奴隷落ちでしょうか……」
ソフィアの身体がその言葉に反応し小刻みに震えだす。
「奴隷落ち!?」
「はい。九条様がプラチナだと報告しなければならなかった義務違反。それに対するギルドの損害と賠償額を鑑みれば、それが妥当かと思われます。正直言いまして、一介のギルド職員が払える額ではありません」
流石にそれは厳しすぎやしないだろうか?
プラチナの冒険者にはそれなりの価値があるのだろうということは理解したが、それにしてもいきなり奴隷はやりすぎだ。
「俺が処分しなくていいと言えば、そうなるんですか?」
「いえ、その……これはケジメですので。何かしらの罰は与えていただかないと……」
どうすればいいのか全然わからない。
ビンタでもすれば罰になるのだろうか?
とにかくソフィアの顔を見て話がしたかった。
ずっと土下座している為に、籠った小さな声しか聞こえてこない。
「ソフィアさん。とりあえず立ってもらってもいいでしょうか?」
それに応じてゆっくりと立ち上がる。
その顔は酷いものだ。
目を合わせることは無く、髪はぐしゃぐしゃ。涙の跡がハッキリとわかるくらい肌の色が違い、元気もなくやつれている。
まるでこの世の終わりでも見ているかのような表情だ。
だが、ソフィアは後悔していないのだろう。
コット村を救う為、カイルと共に勧誘作業を毎回欠かさず行っていた。
それを間近で見ているのだ。
結果獲得できたのは俺だけで、それがプラチナだとわかればその落胆ぶりは想像に難くない。
「支部長……」
それを見てミアの顔には悲しみが宿る。
何故相談してくれなかったのか。
皆で考えれば、より良い解決法があったかもしれない。
しかし、そうしなかったのも皆を守る為なのだろう。
ソフィアが全ての責任を負えば、村のギルドが無くなる事はないはずだ。
新たに別のギルド職員が着任するだけである。
「じゃぁ、ソフィアさんは降格ということで……。どうでしょうか?」
それを聞いてソフィアは顔を上げた。
その表情は驚きと困惑が混ざり合った微妙なもの。
ふと目に入ったのはソフィアのブロンズプレートだ。そしてニーナの降格を思い出した。
それがどれほどの処分に相当するのかわからないが、奴隷よりはマシだろう。
「そんな程度の罰でよろしいのですか? それなら支部長を辞するなども付け加えても……」
ソフィアが何故自分を犠牲にしてまで村に固執するのかはわからないが、俺はそもそもソフィアをそこまで恨んではいないのだ。
正直、厳重注意くらいでいいと思うのだが、まぁ報告の義務を怠った罰としてはこのくらいで丁度いいのではないだろうか?
「コット村ではソフィアさんは村人達から慕われています。個人的には無理に支部長を変えるのは愚策だと思いますが……」
「そうですか……。まあ、九条様がそう仰るなら……」
少々不満気なロバート。恐らく罰としては弱いのだろう。
「九条さん……。許されないことだとは承知しています。ですが……ありがとうございます……。申し訳ございませんでした……」
ソフィアは目に涙を溜めながらも礼を言うと、頭を下げた。
「泣かないでください。ソフィアさんは当時無一文だった俺を助けてくれたんです。そして住む場所も提供してくれた……。俺はそれだけでも十分感謝しています」
元の世界で路頭に迷った時、見ず知らずの誰かが手を差し伸べてくれるだろうか?
恐らくは否だ。
しかし、ソフィアとカイルは何の疑いもなく助けてくれた。
『人は恩を知り、心に感じ、それに報いねばならない』
これは仏教の教えの1つ。受けた恩を返すのは当然のことなのである。
ミアもこの結果には満足な様子で、安堵の表情を浮かべていた。
侯爵に名を連ねる者の1人で、歳は50を超え、顎ひげがくっついてしまいそうなほどもみあげが長い。
小綺麗で、見るからに貴族といった服装。
すれ違う者全てが深く一礼するほどの地位と権力を持っている。
「クソッ!」
ノーピークス襲撃に使う予定だった人員を割いてまで魔法書の奪還に向かわせたのに、返り討ちにあうとは……。
ゴールドプレートとはいえたった2人。しかも1人は手負いだというのに、20人もの人員を割いてこの体たらく。無能どもめ……。
損害は大した事ではないが、非常にマズイ状況だ。
王女を人質に取った挙句、殺されるとは……。
死ぬのは構わないが、自分の事を喋ってはいないかとヒヤヒヤしていた。
国王に謁見した帰り道。自分の思い通りに事が進まず、苛立ちが募る。
アンカース家とノーピークスの領有権を争い、アンカース領への挙兵を嘆願したのだが、王の裁可は得られなかった。
貴族同士の戦争は、正当な理由なき場合は禁じられている。
王の裁可か、自治の防衛のみ可能であるのだ。
アンカース領から盗賊が流入し、こちらの領内を荒らしまわっているのだが、アンカース卿は盗賊を討伐しようとしない。
やる気がなければこちらにノーピークスの領有権を渡すべきで、自分が討伐に赴いてやる。
だがそれは表向き。
裏で盗賊を操っているのは私なのだ。
ブラバ家にとってアンカース家は盗人のようなもの。
元々は冒険者だっただけの一般人が貴族を名乗るなど、烏滸がましいにもほどがある。
アンカースの先祖であるバルザックが爵位を賜り、貴族の仲間入りを果たした。
その際に、我が家の領地だった所を移譲したものが、今のアンカース領となったのだ。
与えられた領地はノーピークスを有する1等地。
王を守る為にと王都から最も近い領地を賜ったのである。
国王が決めたことは絶対。ならば、アンカース家を没落させ領地を取り戻そうと躍起になっているのだ。
「陛下も陛下だ……。あんな弱小貴族、放っておけばよいものを……」
長い階段を降りると、見えてきたのは美しい中庭。
そこに響く高い声の主は第4王女。
ちょうど魔術修練の真っ最中であった。
(アンカースの小娘……。いつ見ても腹が立つ。我が物顔で王宮内をウロチョロしおって……)
この苛立ちをぶつけるいいカモがいた。
小汚いローブを身に纏った冒険者。
隣の魔獣は恐らく従魔であろう。最近街を騒がせているという噂は耳に入っていた。
「おいそこの男! ここは部外者立ち入り禁止だぞ! ここをどこだと思っている!?」
冒険者の男に勢いよく近づくと胸ぐらを掴み、背中を壁に打ち付け大声で怒鳴り散らす。
魔法修練の手が止まり、静まり返る中庭。
苦痛に顔を歪める冒険者の男は、抵抗することなくされるがままであった。
「ブラバ卿、お止めください。私の護衛として同行を許している者でございます」
目を細め、乱暴に突き放す。
「おお、そうでしたか。アンカース卿の御息女殿。これは失礼を致しました」
もちろんそんなことは知っている。
ストレス発散ついでだ。
逆らおうものならそれを理由に糾弾できると考えていたのだが、どうやらバカではないらしい。
「リリー様。修練の方はうまくいっておりますかな?」
「ええ。おかげさまで……」
「そうですかそうですか。それは良かった。それでは私はこれにて失礼いたします」
王女にのみ頭を下げると、中庭を抜ける。
「アンカースの小娘が……。第4王女に上手いこと取り入りおって……。今に見ておれ……」
国王からの信用を無くせば、アンカースは勝手に沈んでゆくだろう……。
その為には何としても魔法書を奪わなければ……。
返還のタイミングは、宝物庫の虫干しと同日に行われる曝涼式典が最適だと考えるはず。
ほぼ全ての貴族達が一堂に会する場だ。
皆の集まる所で行方不明の魔法書を返還すれば、式典と相まって注目度も高まるはず。
それまでに何とかしなければ……。
――――――――――
リリーの魔法修練が終わり、今は帰りの馬車の中。
ネストは苛立ちを隠せず、俺に愚痴をこぼしていた。
「あれがブラバ家の当主のグレッグ。陰湿でちまちまと嫌がらせをして来るの。腹立たしいったらないわ」
行きより車内が強く揺れているのは道が悪いのではなく、ネストの貧乏ゆすりである。
「面倒くさそうですね……」
「そうなのよ。事あるごとにつっかかってきて手が出ちゃいそうだわ……」
ネストは憤慨しながらも、呆れているといった表情で溜息をつく。
先程までの機嫌の良さは何処に行ってしまったのかと思うほどだ。
「あいつの所為でウチの決定権はほぼないわ」
「決定権?」
「そう。陛下が決断に困ったときは貴族達に意見を求めることが多々あるの。ウチももちろん陛下の為に意見するわ。そうするといつもブラバ卿が横から口を挟むのよ。国宝の魔法書を無くすような家の意見は信用ならないってね」
ネストは右手に握り拳を作るとワナワナと怒りに打ち震える。
まあ、その気持ちもわかる。
300年も前の話でネチネチと言われたら、そりゃ苛立ちもするだろう。
「陛下の信頼を勝ち取ればそれだけ貴族内で優位に立てる。でもウチは意見すら聞いてもらえないってこと。でもそれも曝涼式典まで。そこで魔法書を返還して陛下の信頼を取り戻せれば、しばらくはこちらに口出ししてこなくなるはず」
「曝涼式典って何です?」
「曝涼式典って言うのはね、1年に1回宝物庫の虫干しをする日なのよ。王宮の庭でね。そのついでのお披露目会みたいなものかしらね。陛下はもちろん、大勢の貴族が出席することになっているわ」
他の貴族にアピールするという意味では、確かに最適な場だ。
「私達が魔法書を発見したことは知られているはず。あっちはかなり焦っていると見ていい。でなければ、直接襲って魔法書を奪うなんてリスキーなことするはずがないもの」
「じゃぁ、相手はそれまでに何か仕掛けてくる可能性が高いってことですね」
「そうね。それで間違いないと思うわ」
それまで何も起きなければよいのだが……。
5日目の朝。ギルドから呼び出しがあるとのことをセバスから聞いた。
予定よりも2日早い。リリーの圧力が効いたのだろうか?
それを聞いてネストとバイスも結果を知りたいとのことで、ギルドへと同行することに。
俺達がギルドへ入ると、場の空気は一変した。
こちらに視線を泳がせ、ざわざわとどよめく冒険者達。
ネストとバイスはさることながら、俺の知名度もそれなりに上がっているようだ。
ギルド職員の女性が俺達に気が付き、応接室まで案内してくれた。
作戦会議室と似ているが、こちらの方がより広い。
大きなソファーにネストとバイスが腰を下ろし、反対側のソファにミアがダイブ。その隣に座ろうとした瞬間、ソファの背もたれの後ろに何か大きな物体が落ちているのに気が付いた。
「ソフィアさん!?」
そこには土下座していたソフィアがいた。
壁とソファに挟まり、微動だにしないが間違いない。
その声に驚き、ミアは立ち上がるとソファの後ろを覗き込む。
「支部長!?」
このままでは話すこともままならない。
何があったのかを聞こうとするも、頑なに顔は上げなかった。
「ソフィアさん。とりあえず顔を上げてください」
「む……無理です……。九条さんにお許しを頂けなければ私は……私はぁぁぁぁ!」
土下座スタイルのまま大声を出し、プルプルと震えているソフィア。
そこにスタッグギルドの支部長であるロバートが入って来た。
「お待たせしました皆様、どうぞ席にお座りください」
「えっ……、でも……」
ロバートは俺達を見てその意味を理解したのだろう。
ひとまず座らないと始まらないと言われたのでソフィアは一旦置いておいてソファに腰を落とす。
するとソフィアは土下座スタイルのまま、カサカサとロバートの隣に移動した。
俺がプラチナだと発覚したその日のうちにギルド本部から呼び出しを受けたソフィアは、先程こちらに到着したとのことのようだ。
ロバートは咳払いをするとソフィアの処分から話を始めた。
「おほん。それではまずコット村支部長であったソフィアの処遇についてなのですが……。ソフィア。あなたは九条様がプラチナプレートだということを知りながらカッパーとしてギルドに登録した。間違いないですね?」
「……はい……」
「そのことについて、何か申し開きはありますか?」
「……いいえ……」
「というわけです九条様。本当に申し訳ございませんでした。ギルドを代表して謝罪いたします」
酷く弱々しい言葉を発したソフィアに続き、ロバートは深く頭を下げる。
「つきましては九条様。ソフィアの処分をご検討していただきたく……」
「ちょ……ちょっと待ってください。それは俺が決めるんですか?」
「さようでございます。九条様が1番の被害者となりますので……」
そんなこと言われても……。
正直言うと全くと言っていいほど気にしていなかった。
むしろカッパーだからこそ、ミアと出会えたとも言える。
そう考えると、逆にプラチナじゃなくて良かったのかもしれないとさえ考えていたのだ。
王都に来なければ、今頃のんびりコット村でいつも通りの生活を送っていただろう。
「処分が決められなければ、こちらで処罰致しますが?」
「その場合どうなるんです?」
「そうですね。奴隷落ちでしょうか……」
ソフィアの身体がその言葉に反応し小刻みに震えだす。
「奴隷落ち!?」
「はい。九条様がプラチナだと報告しなければならなかった義務違反。それに対するギルドの損害と賠償額を鑑みれば、それが妥当かと思われます。正直言いまして、一介のギルド職員が払える額ではありません」
流石にそれは厳しすぎやしないだろうか?
プラチナの冒険者にはそれなりの価値があるのだろうということは理解したが、それにしてもいきなり奴隷はやりすぎだ。
「俺が処分しなくていいと言えば、そうなるんですか?」
「いえ、その……これはケジメですので。何かしらの罰は与えていただかないと……」
どうすればいいのか全然わからない。
ビンタでもすれば罰になるのだろうか?
とにかくソフィアの顔を見て話がしたかった。
ずっと土下座している為に、籠った小さな声しか聞こえてこない。
「ソフィアさん。とりあえず立ってもらってもいいでしょうか?」
それに応じてゆっくりと立ち上がる。
その顔は酷いものだ。
目を合わせることは無く、髪はぐしゃぐしゃ。涙の跡がハッキリとわかるくらい肌の色が違い、元気もなくやつれている。
まるでこの世の終わりでも見ているかのような表情だ。
だが、ソフィアは後悔していないのだろう。
コット村を救う為、カイルと共に勧誘作業を毎回欠かさず行っていた。
それを間近で見ているのだ。
結果獲得できたのは俺だけで、それがプラチナだとわかればその落胆ぶりは想像に難くない。
「支部長……」
それを見てミアの顔には悲しみが宿る。
何故相談してくれなかったのか。
皆で考えれば、より良い解決法があったかもしれない。
しかし、そうしなかったのも皆を守る為なのだろう。
ソフィアが全ての責任を負えば、村のギルドが無くなる事はないはずだ。
新たに別のギルド職員が着任するだけである。
「じゃぁ、ソフィアさんは降格ということで……。どうでしょうか?」
それを聞いてソフィアは顔を上げた。
その表情は驚きと困惑が混ざり合った微妙なもの。
ふと目に入ったのはソフィアのブロンズプレートだ。そしてニーナの降格を思い出した。
それがどれほどの処分に相当するのかわからないが、奴隷よりはマシだろう。
「そんな程度の罰でよろしいのですか? それなら支部長を辞するなども付け加えても……」
ソフィアが何故自分を犠牲にしてまで村に固執するのかはわからないが、俺はそもそもソフィアをそこまで恨んではいないのだ。
正直、厳重注意くらいでいいと思うのだが、まぁ報告の義務を怠った罰としてはこのくらいで丁度いいのではないだろうか?
「コット村ではソフィアさんは村人達から慕われています。個人的には無理に支部長を変えるのは愚策だと思いますが……」
「そうですか……。まあ、九条様がそう仰るなら……」
少々不満気なロバート。恐らく罰としては弱いのだろう。
「九条さん……。許されないことだとは承知しています。ですが……ありがとうございます……。申し訳ございませんでした……」
ソフィアは目に涙を溜めながらも礼を言うと、頭を下げた。
「泣かないでください。ソフィアさんは当時無一文だった俺を助けてくれたんです。そして住む場所も提供してくれた……。俺はそれだけでも十分感謝しています」
元の世界で路頭に迷った時、見ず知らずの誰かが手を差し伸べてくれるだろうか?
恐らくは否だ。
しかし、ソフィアとカイルは何の疑いもなく助けてくれた。
『人は恩を知り、心に感じ、それに報いねばならない』
これは仏教の教えの1つ。受けた恩を返すのは当然のことなのである。
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45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
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コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月中旬出棺です!!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
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やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
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