生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
92 / 722

第92話 帰還

しおりを挟む
 コクセイの一族と別れ、その余韻を引きずりつつも、ベルモントの酒屋で土産用の酒を選んでいた。
 スタッグ産ではないのが玉に瑕だが、カイルは別にグルメというわけではない。恐らく飲めればなんでもいいのだ。

「ミア。どれならスタッグ産と言ってもバレなそうだ?」

「えぇ……。お酒なんか飲んだことないからわかんないよ……」

「だよなぁ……」

 こちらの世界の酒の知識は皆無である。仕方ない。こうなったら適当に高そうな酒を購入しよう。
 それなりの値段なら、たとえバレても文句は言うまい。

「オヤジ。これをくれ」

「ありがとうございます。いかほどご用意致しましょうか?」

「全部だ」

「……は?」

「この樽をまるごと頼む」

 ここの酒屋は量り売り。大きな樽に入った酒が棚にズラリと並べられ、そこから蛇口のような物を捻り、自前の容器に好きなだけ入れるというシステムだ。
 しかし、酒を入れる容器を持っていない。ならば樽ごと買えばいいだろうと考えたのだ。カネならある。

「お客さん、冗談はほどほどに……」

 俺の恰好はどう見てもお金持ちにはみえない。酒を樽で買っていく大口の客なんて貴族か飲み屋くらいなものだろう。
 店主から見れば冷やかしのようにも見えるはず。
 ジロジロと値踏みすような視線を向ける酒屋の店主であったが、それは俺の胸の辺りでピタリと止まる。
 恐らくは見たことがないだろう輝きのプレート。それは冒険者の最高峰たる証。

「――ッ!? もっ……申し訳ございません。すぐにご用意致します!」

 店主が奥からゴロゴロと転がして来た樽は、恐らく新品未開封の物だ。
 内容量は不明だが、正月にやる鏡開きで使う酒樽より大きく、ドラム缶より少し小さい位だから、おおよそ150リットルくらいだろう。
 その酒樽を言い値で買い取ると、店主はそれを馬車に乗せるのを手伝ってくれた。 コクセイ達と別れ、丁度開いてしまっていた馬車にそれを乗せ、酒屋の店主に見送られつつコット村へと馬車を走らせたのだ。


「九条殿、我らもここらでお暇させていただく」

 コット村へと近づくと、ワダツミが別れを告げ、白狐も重い腰を上げた。

「おや、なら私達もそろそろだな……」

 2匹の魔獣が立ち上がると、別れの挨拶とばかりに俺とミアに頬ずりを求め寄り添う。

「ワダツミも白狐も、ありがとうな」

「いやなに。これくらいなんてことはない」

「元気でな」

 ワダツミと白狐は、会おうと思えば何時でも会える距離なのだが、コクセイとの別れが尾を引いてしまっているのか、車内は妙にしんみりとしていた。
 2匹の獣は走り続ける馬車から飛び降りると、仲間を連れ森の奥へと帰って行く。
 ミアはその後、ずっとカガリを撫でていた。まるで別れの淋しさを紛らわせるかのように。

 紅く染まっていた空が紫へ、そして次第に暗がりへと飲み込まれた空は、地平線の先に見える淡くぼやけた光をより際立たせていた。
 松明の炎が燃え盛る村の入口。『プラチナプレート冒険者の住む村! コット村へようこそ!』の看板が見えて来ると、帰ってきたという実感が湧いて来る。
 その看板の隣。村の西門から手を振っているのはカイルだ。俺達の帰りを誰よりも先に気付いたのだろう。
 狩猟適性持ちのカイルがトラッキングスキルを用いれば、魔獣のカガリに逸早く反応を示すからだ。

「おかえり。九条、ミアちゃん」

「ああ、ただいま」

 カイルは俺達が帰ってきたことを喜んでいると言うより、お土産の方が気になっているみたいだ。
 俺達よりも後ろの馬車の方に目線が泳いでいた。
 馬車の一団が村のギルドの前で停止すると、ギルドからはソフィアが迎えに出て来ていた。

「九条さん、ミア。おかえりなさい。大変だったそうですね」

「ただいま、支部長!」

「ただいま帰りました。報告はどうします?」

「荷下ろしの後で大丈夫ですよ。今日はもうギルドは閉めちゃいますので」

「すいません。ではそうします」

 ソフィアは、ギルド本部からの連絡である程度の出来事は知っているようだ。
 カイルが村の門を閉め、小走りで駆け寄って来ると、従魔用飼料の積み下ろしを手伝ってくれた。

「これはどこに運ぶ?」

「ひとまずギルド前に積んでおいてくれ」

「九条の旦那! コレは何処に?」

 御者の男が指差したのは、金貨の入った複数の革袋だ。

「そうだ、ソフィアさん。ギルドってお金を預けておけるんですよね?」

「ええ、大丈夫ですよ。いかほどですか?」

「じゃぁ、金貨で3000枚ほどお願いします」

「「さ……3000!?」」

「あ、支部長。私は5000枚でお願いします」

「「ご……5000!?」」

 金貨が1000枚あればそこそこ立派な家が建つ。俺はその3倍、ミアは5倍だ。2人が驚くのも無理はない。
 この日より村1番の金持ちはミア、そして俺が2番目だ。
 結局、従魔用の飼料の置き場は自分の部屋にはなく、ソフィアには申し訳ないが、またしてもギルドの部屋を借り、其処へ一時的に保管しておくという形になった。

「九条、この樽は何処に持って行きゃいいんだ?」

「ああ、そうだ。それはカイル用の土産だ。是非受け取ってくれ」

「マジかよ! これ全部か!? さすが金貨を3000枚も持って帰ってくる男はやることがちげぇや!」

 カイルは酒樽にキスすると、それをゴロゴロと転がしながら嬉しそうに食堂へと運んでいく。

「ん? 持ち帰らないのか?」

「何言ってんだよ。今から飲むに決まってんだろ? 九条達も晩飯はまだだろ? 荷下ろしが終わったら一緒に呑もうぜ」

「そうだな。そうするか」

 ふと笑みがこぼれた。誰にも気を遣う必要のないこの雰囲気の方が、俺には合っているのだろう。
 貴族位の話を蹴ったのは勿体なかったかな? とも思っていたが、そんな考えはすぐに消えた。
 張り切るカイルと、荷下ろしを手伝ってくれた御者達へのせめてもの礼として晩飯を御馳走する。
 カイルの土産に買った酒は高いだけあって美味かった。そしてカイルはそれをベルモントで買った物だとは気付かなかったのである。

「九条、あんまりデカイ声で騒ぐなよ?」

「なんでだ?」

「村の奴にバレたら全部なくなっちまうだろ!」

 確かに大宴会になれば、この大きな樽も一晩でなくなってしまうだろう。
 結局、土産の酒はその場にいた者達で分け合いながら、小さな宴会を楽しんだ。
 飯が終わると、酒が入った所為かギルドへの報告も忘れ、俺とミア、そしてカガリは自分の部屋で泥のように眠ったのだ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

処理中です...