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第124話 灰の蠕虫
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姿を現したのはワーム種といわれる魔物。大雑把に言えば巨大なミミズだ。
しかし、目の前に現れたそれは、ただのミミズとは違い攻撃的な風貌をしていた。
ダンジョンの入口とほぼ同じ大きさの巨体。そのサイズと同等の口を大きく開け、上から見下ろすよう威嚇する。
九条達の前に立ちはだかるワームは、見上げなければその全体像を拝むことが出来ないほどの全長。その半分以上が、まだダンジョンの中である。
360度、法則性を見いだせないほど無作為に、そして無数に突き出している鋭い牙は、噛み砕くというより突き刺し飲み込むことに特化している。
それがわしゃわしゃと奇怪な動きをしていて、捕まれば抜け出すことはほぼ不可能だ。
「さすがにこのサイズは見たことねぇな……」
正直な感想がバイスから漏れ出ると、見上げていたそれが大きな口を開け、バイスの頭上から襲い掛かる。
盾で防ぐなんてそんなレベルの話ではない。それほど巨大なものが覆い被されば、バイスは盾ごと丸呑みだ。
それをボーっと見ているシャーリーではなかった。ヨルムンガンドから解き放たれた矢は空気を劈く音を響かせ、ワームの広げた口内へと突き刺さる。
ワームの勢いが衰えると、好機とばかりにコクセイとワダツミは、その巨体に渾身の力を込めた体当たりをぶちかます。
体勢を崩されたワームは、そのまま地面へと横倒しになり、それは足元を揺らすほどの衝撃であった。
しかし、相手は大型種。そのタフネスは底知れず、まるで何事もなかったかのように巨体を起こすと、その狙いをシャーリーへと変えたのだ。
「【鈍化術】!」
グレイスの魔法がワームの動きを鈍化させる――はずだった。しかし、その効果は感じられない。
「レジスト……!?」
それは魔法が打ち消されてしまったことを意味する。相手の魔法防御力が高いのか、そもそも魔法自体を受け付けない性質なのか。
どちらにせよ、ゆっくりと調べている時間などない。
「”スパイラルショット”!」
貫通力に秀でたその技はシャーリーのスキル。武器の威力とも相まって、放たれた矢は通常よりも数倍上の威力を誇っていたが、それはワームを傷付けることなく粉々に砕け散った。
ワームの体は、硬い殻で覆われていた。例えるならムカデの外殻。それは反射を忘れたくすんだ金属のようにも見える。
「チッ……」
無意識に出る舌打ち。バックステップで後退を繰り返しながらもすぐに次の矢をつがえると、今度はワームの口に狙いを定め射出。
それは見事命中するも、ワームが動きを止めたのは、ほんの一瞬だった。
それが切っ掛けとなり、ワームはその大きな口を閉じて唯一の弱点を塞いだのだ。
無数の牙が自然と中心に集まり、ドリルのような形状に変化すると、突進の構えを見せる。
「"グラウンドベイト"!」
そうはさせないとバイスのスキルがワームの注意を引く。シャーリーへの突撃を諦め、バイスへと向き直る巨大ワーム。その隙に、シャーリーは九条の元へと走った。
「九条! アイアンシャフトを全部頂戴!」
ウッドシャフトの貫通力では太刀打ちできないと見たシャーリーは、矢筒に入っていた矢を全て捨て、九条からアイアン製の矢を受け取る。
「ありがとう」
ワームはその巨体を生かした突撃でバイスに迫る。
例えるなら大型のトラックが突撃してくるのと同等――いや、それ以上の質量が襲ってくるのだ。
それに耐えられる人間は皆無。悪ければ即死。良くて異世界転生。
だが、バイスは違った。飲み込まれる心配さえなければ問題はない。
スケルトンロード、それに金の鬣。自分よりも遥かに格上の存在と2度対峙したことで得た度胸は、バイスの技量を数倍上へと跳ね上げていたのである。
「うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
バイスは持っていた盾を思い切り振り抜いた。そのスキルはシールドバッシュ。盾で押し込み、相手の体勢を崩すスキルだ。
金の鬣の素材で作ったバイス自慢の盾と、ワームの巨体から放たれた一撃。
その双方が激しくぶつかり合い、肉眼でも確認できるほどの火花が散った。
そして弾かれたのはワームの方。まさか押し負けるとは思ってもいなかったであろうワームは、だらりと首を垂らすも転倒まではいかなかった。
しかし、先程の勢いは感じられず、怯んでいるようにも見えたのだ。
そのチャンスを逃がす訳がない。獣魔達もシャーリーも手を休めることなく攻撃を加える。
アイアンシャフトであれば、硬い外殻をも貫通しダメージを与えることは出来た。恐らく傷みを感じているであろうことは、その動作からわかるのだが、致命傷にはほど遠い。
人間でいうところの棘が刺さった程度の痛み。そんなものをチクチクと続けていても意味がないのは明らかだ。
矢も無限ではない。ワームに突き刺さっている矢を回収できれば話は別だが、それは現実的に考えて難しい。
「せめて関節の隙間がもう少し広がれば……」
ワームの外殻は固い。ダンジョン内でゴリゴリと身を擦りながら生活しているのだ。硬くなって当然。だが、それは外側の話。
身体を曲げるとほんの少しだけ露になるその関節部分を狙うことが出来れば、確実にダメージを与えられる。
九条はそれを聞き逃さなかった。
「どれくらいだ?」
「……1メートル……。いや、その半分でもいい」
「わかった。俺が注意を引く。うまくいけば正面にその隙間が出来るはずだ。そこを狙ってくれ」
「出来るの?」
「わからんが、何もしないよりマシだろう?」
九条の答えは酷く曖昧で、頼りない。
「コクセイ、来い!」
九条がコクセイに飛び乗ると、背負っていた荷物をボルグサンに投げ飛ばし、山を登るように遠ざかって行く。
その行動の意味は不明だが、九条ならば信じることが出来ると、シャーリーはバイスの真後ろに陣取った。
「九条が何かするって! 少しの間だけ耐えて!」
「誰に言ってんだ!? 少しどころかずっと耐えててやるよッ!」
バイスはワームの攻撃を防ぐのに集中。僅かでも気を抜けば命の保証はない。
その数メートル後ろで、シャーリーは全力で弓を引いた。
そこから放たれる矢はチャージショット。弓を限界まで引き絞ることで力を溜め、威力を何倍にも上げるスキル。普通の弓であれば、数発しか打つことが出来ないスキルだ。
弦を引く力の限界をほんの少しでも超えてしまえば、弓はその力に負け折れてしまうからだ。
シャーリーはレンジャーの中でも非力な方。弓の威力で名を上げる冒険者とは違い、テクニックや技巧を売りにするタイプのレンジャーだ。故に大きな弓の扱いには不向き。
しかし、剛弓・ヨルムンガンドは違った。小さな力でも限りなくどこまでも引き絞ることが出来るのだ。
矢の長さは一定。それ以上引くことは出来ないが、引こうと思えばまだ引ける。
リムにあてがわれている幼龍の角は、何時折れてもおかしくないほどしなっているが、その悲鳴は聞こえない。
それは驚きというよりも、既に常識の範疇を超えていて、気持ちが悪いと言っても過言ではない。だが、今はそれが頼もしい。
シャーリーはそのまま構えて、九条を待った。そしてその時がやって来たのだ。
ダンジョンの入口の更に上。そこからコクセイと共に飛び出した九条が宙を舞う。
「わあぁぁぁぁぁぁぁ」
それは気合を入れて叫んでいるのか、それともただの悲鳴なのかはわからないが、九条の表情は真剣であった。
タイミングを見計らい、コクセイから飛び降りた九条が握っているのは、いつものメイス。
そしてその落下の勢いと共に振り降ろされたメイスは、ワームの胴体に直撃した。
それはクリティカルヒットと呼べるほどのタイミング。
九条が狙ったのは、ダンジョンの入口付近に位置するワームの胴体だ。ワームがどんなに動き回ってもそこだけは動かない根本である。
その威力は言わずもがな。メイスが直撃した外殻には無数の亀裂。そしてその内部に伝わった衝撃は想像を絶する。
「――――――ッ!?」
声にならないほどの悲鳴。ワームに声帯はないが、その動きを見ただけでも激痛が走っていることは明らかだ。
そしてワームは九条に怒りの矛先を変えた。そこに僅かな隙が生まれたのだ。
九条の方へと頭を向けたワームは極限まで体を捻じ曲げ、外殻の繋ぎ目が大きく開く。
「バイス! 避けて!!」
シャーリーの声と同時に、バイスは真横へと飛んだ。
その横を掠めて行ったのはシャーリーの放った1本の矢。それは既に矢と呼べるような速度ではなく、もはや弾丸。
その速度は音速をも超え、ワームの関節をぶち抜いた。
しかし、目の前に現れたそれは、ただのミミズとは違い攻撃的な風貌をしていた。
ダンジョンの入口とほぼ同じ大きさの巨体。そのサイズと同等の口を大きく開け、上から見下ろすよう威嚇する。
九条達の前に立ちはだかるワームは、見上げなければその全体像を拝むことが出来ないほどの全長。その半分以上が、まだダンジョンの中である。
360度、法則性を見いだせないほど無作為に、そして無数に突き出している鋭い牙は、噛み砕くというより突き刺し飲み込むことに特化している。
それがわしゃわしゃと奇怪な動きをしていて、捕まれば抜け出すことはほぼ不可能だ。
「さすがにこのサイズは見たことねぇな……」
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盾で防ぐなんてそんなレベルの話ではない。それほど巨大なものが覆い被されば、バイスは盾ごと丸呑みだ。
それをボーっと見ているシャーリーではなかった。ヨルムンガンドから解き放たれた矢は空気を劈く音を響かせ、ワームの広げた口内へと突き刺さる。
ワームの勢いが衰えると、好機とばかりにコクセイとワダツミは、その巨体に渾身の力を込めた体当たりをぶちかます。
体勢を崩されたワームは、そのまま地面へと横倒しになり、それは足元を揺らすほどの衝撃であった。
しかし、相手は大型種。そのタフネスは底知れず、まるで何事もなかったかのように巨体を起こすと、その狙いをシャーリーへと変えたのだ。
「【鈍化術】!」
グレイスの魔法がワームの動きを鈍化させる――はずだった。しかし、その効果は感じられない。
「レジスト……!?」
それは魔法が打ち消されてしまったことを意味する。相手の魔法防御力が高いのか、そもそも魔法自体を受け付けない性質なのか。
どちらにせよ、ゆっくりと調べている時間などない。
「”スパイラルショット”!」
貫通力に秀でたその技はシャーリーのスキル。武器の威力とも相まって、放たれた矢は通常よりも数倍上の威力を誇っていたが、それはワームを傷付けることなく粉々に砕け散った。
ワームの体は、硬い殻で覆われていた。例えるならムカデの外殻。それは反射を忘れたくすんだ金属のようにも見える。
「チッ……」
無意識に出る舌打ち。バックステップで後退を繰り返しながらもすぐに次の矢をつがえると、今度はワームの口に狙いを定め射出。
それは見事命中するも、ワームが動きを止めたのは、ほんの一瞬だった。
それが切っ掛けとなり、ワームはその大きな口を閉じて唯一の弱点を塞いだのだ。
無数の牙が自然と中心に集まり、ドリルのような形状に変化すると、突進の構えを見せる。
「"グラウンドベイト"!」
そうはさせないとバイスのスキルがワームの注意を引く。シャーリーへの突撃を諦め、バイスへと向き直る巨大ワーム。その隙に、シャーリーは九条の元へと走った。
「九条! アイアンシャフトを全部頂戴!」
ウッドシャフトの貫通力では太刀打ちできないと見たシャーリーは、矢筒に入っていた矢を全て捨て、九条からアイアン製の矢を受け取る。
「ありがとう」
ワームはその巨体を生かした突撃でバイスに迫る。
例えるなら大型のトラックが突撃してくるのと同等――いや、それ以上の質量が襲ってくるのだ。
それに耐えられる人間は皆無。悪ければ即死。良くて異世界転生。
だが、バイスは違った。飲み込まれる心配さえなければ問題はない。
スケルトンロード、それに金の鬣。自分よりも遥かに格上の存在と2度対峙したことで得た度胸は、バイスの技量を数倍上へと跳ね上げていたのである。
「うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
バイスは持っていた盾を思い切り振り抜いた。そのスキルはシールドバッシュ。盾で押し込み、相手の体勢を崩すスキルだ。
金の鬣の素材で作ったバイス自慢の盾と、ワームの巨体から放たれた一撃。
その双方が激しくぶつかり合い、肉眼でも確認できるほどの火花が散った。
そして弾かれたのはワームの方。まさか押し負けるとは思ってもいなかったであろうワームは、だらりと首を垂らすも転倒まではいかなかった。
しかし、先程の勢いは感じられず、怯んでいるようにも見えたのだ。
そのチャンスを逃がす訳がない。獣魔達もシャーリーも手を休めることなく攻撃を加える。
アイアンシャフトであれば、硬い外殻をも貫通しダメージを与えることは出来た。恐らく傷みを感じているであろうことは、その動作からわかるのだが、致命傷にはほど遠い。
人間でいうところの棘が刺さった程度の痛み。そんなものをチクチクと続けていても意味がないのは明らかだ。
矢も無限ではない。ワームに突き刺さっている矢を回収できれば話は別だが、それは現実的に考えて難しい。
「せめて関節の隙間がもう少し広がれば……」
ワームの外殻は固い。ダンジョン内でゴリゴリと身を擦りながら生活しているのだ。硬くなって当然。だが、それは外側の話。
身体を曲げるとほんの少しだけ露になるその関節部分を狙うことが出来れば、確実にダメージを与えられる。
九条はそれを聞き逃さなかった。
「どれくらいだ?」
「……1メートル……。いや、その半分でもいい」
「わかった。俺が注意を引く。うまくいけば正面にその隙間が出来るはずだ。そこを狙ってくれ」
「出来るの?」
「わからんが、何もしないよりマシだろう?」
九条の答えは酷く曖昧で、頼りない。
「コクセイ、来い!」
九条がコクセイに飛び乗ると、背負っていた荷物をボルグサンに投げ飛ばし、山を登るように遠ざかって行く。
その行動の意味は不明だが、九条ならば信じることが出来ると、シャーリーはバイスの真後ろに陣取った。
「九条が何かするって! 少しの間だけ耐えて!」
「誰に言ってんだ!? 少しどころかずっと耐えててやるよッ!」
バイスはワームの攻撃を防ぐのに集中。僅かでも気を抜けば命の保証はない。
その数メートル後ろで、シャーリーは全力で弓を引いた。
そこから放たれる矢はチャージショット。弓を限界まで引き絞ることで力を溜め、威力を何倍にも上げるスキル。普通の弓であれば、数発しか打つことが出来ないスキルだ。
弦を引く力の限界をほんの少しでも超えてしまえば、弓はその力に負け折れてしまうからだ。
シャーリーはレンジャーの中でも非力な方。弓の威力で名を上げる冒険者とは違い、テクニックや技巧を売りにするタイプのレンジャーだ。故に大きな弓の扱いには不向き。
しかし、剛弓・ヨルムンガンドは違った。小さな力でも限りなくどこまでも引き絞ることが出来るのだ。
矢の長さは一定。それ以上引くことは出来ないが、引こうと思えばまだ引ける。
リムにあてがわれている幼龍の角は、何時折れてもおかしくないほどしなっているが、その悲鳴は聞こえない。
それは驚きというよりも、既に常識の範疇を超えていて、気持ちが悪いと言っても過言ではない。だが、今はそれが頼もしい。
シャーリーはそのまま構えて、九条を待った。そしてその時がやって来たのだ。
ダンジョンの入口の更に上。そこからコクセイと共に飛び出した九条が宙を舞う。
「わあぁぁぁぁぁぁぁ」
それは気合を入れて叫んでいるのか、それともただの悲鳴なのかはわからないが、九条の表情は真剣であった。
タイミングを見計らい、コクセイから飛び降りた九条が握っているのは、いつものメイス。
そしてその落下の勢いと共に振り降ろされたメイスは、ワームの胴体に直撃した。
それはクリティカルヒットと呼べるほどのタイミング。
九条が狙ったのは、ダンジョンの入口付近に位置するワームの胴体だ。ワームがどんなに動き回ってもそこだけは動かない根本である。
その威力は言わずもがな。メイスが直撃した外殻には無数の亀裂。そしてその内部に伝わった衝撃は想像を絶する。
「――――――ッ!?」
声にならないほどの悲鳴。ワームに声帯はないが、その動きを見ただけでも激痛が走っていることは明らかだ。
そしてワームは九条に怒りの矛先を変えた。そこに僅かな隙が生まれたのだ。
九条の方へと頭を向けたワームは極限まで体を捻じ曲げ、外殻の繋ぎ目が大きく開く。
「バイス! 避けて!!」
シャーリーの声と同時に、バイスは真横へと飛んだ。
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