138 / 722
第138話 地下牢スローライフ
しおりを挟む
「暇だなぁ……」
「流石に1週間も一緒にいたら話すこたぁもうねぇよ。九条の旦那ぁ」
九条の隣で呆れているのは、宮大工のゲンさん。種族はドワーフ。そして既に死んでいる。
いわゆる地縛霊だ。王都スタッグの中心である王宮の設計をした内の1人で、建設中の事故に巻き込まれ、他界した。
九条は現在、王宮の地下牢に捕らえられている。人を殺したのだから当然である。
とは言え、罰を与えられている訳ではなく、処分が決まる間の監視付きの留置が表向きの理由。
湿気が多く快適とは言い難いが、それを除けば扱いは来賓クラス。それなりに高価な調度品の数々に、豪華な食事も定期的に運ばれる。
そんな所に先客として潜んでいたのがゲンさんだ。ゲンさんは「自分が見える人がいるなんて」と大喜び。
九条が捕らえられている間、2人は互いに語り合い、その境遇に笑顔を見せたり涙したりと意気投合したのであった。
とは言え、九条は囚われの身。その心境は複雑だ。
(このままぶち込まれるのか、釈放されるのか、あるいは死刑か……)
それは王族と貴族、そしてギルドのお偉いさんの話し合いで決まる。
九条はいざとなれば、いつでも逃げ出せた。だが、そうしないのは、僅かな希望に賭けていたから。
(逃げるのは容易いが、逃亡生活は御免被る。無罪が通れば大手を振って生きていけるのだ)
あの後。九条は全てをありのままに話し、国中が大騒ぎとなった。
九条を除けばノルディックは、この国で唯一の戦闘型プラチナプレート冒険者。その内面を知る者は少ない。故にそれは皆の憧れであり、ヒーローのような存在だ。
それをポッと出の死霊術師が殺したのだから、騒ぎにならないわけがない。
第2王女とその派閥の貴族達は関与を否定。全て罪を九条に擦り付けた。現場は九条所有のダンジョンだ。その信憑性は高い。
何より、九条は自分で殺したことを証言している。その証拠としてノルディックとマウロの冒険者プレート。更にはマウロの食べかけ――ではなく、食べられかけの遺体と、ノルディックの遺体を提出している。
しかし、ノルディックの遺体は偽物。適当な人骨に肉を付け、ノルディックの鎧と武器を持たせただけの別人である。
この世界に遺体から身元を判明させる技術はない。だからこそ身分証明としてのプレートが存在しているのだ。
もちろん2人がミアを殺そうとしたことも、報告内容には含まれている。冒険者は担当を守らなければならず、やむを得ない状況だったと。
それを第2王女側が受け入れるわけがない。グリンダは九条に死刑を求刑し、第4王女側は正当防衛を主張する。
証人としてミアの出頭を命じられたが、九条はそれを拒み続けた。
(俺が地下牢に囚われている隙に、ミアの命を狙う輩がいるかもしれない。ミアの傍にいてやらなければ、守るものも守れない……)
ミアは九条のダンジョンに匿われている状態だ。もちろん護衛には4匹の従魔をつけている。
(食料の調達はシャーリーにお願いしているし、ダンジョンでの生活は問題ないはずだ……)
そして九条が捕らえられてから、2週間の時が過ぎた。
「マスター。また来ましたよ?」
「今度は何人だ?」
「えーっと……。30人程ですね」
「終わったら教えてくれ」
「……。終わりました。5分と持ちませんでしたね」
「そうか……。ゴブリン達には悪いが、また掃除を頼んどいてくれ」
「了解でーす」
それは108番から九条への報告。九条のダンジョンに度々訪れては敗戦し、慌てて帰っていくのはニールセン公の兵達だ。
第2王女グリンダが愛してやまないノルディックが死んだのだ。
(その気持ちはわからなくもないが……)
他の誰もが提出された2人の遺体を見て、本人であると断定しているにも拘らず、第2王女だけはそれを頑なに認めなかった。それはノルディックではない偽物なのだと……。
(愛のなせる業なのか、それともただの勘か……)
それを証明するとばかりに、派閥貴族の兵達からノルディックの捜索隊が結成された。
何か証拠をとダンジョンに侵入しては、そのほとんどが元ノルディックであるデュラハンに惨敗し、戦意を喪失した数人が逃げ帰るという状況が続いていたのだ。
(ノルディックに関する何かを見つければ、貴族である自分達の株があがる。必死にもなるか……)
訳もわからず殺されてしまった兵達を憐れむ九条ではあったが、上司に恵まれなかったのを悔やむ他ないだろう。
デュラハンがいるというのは逃げ帰った兵からの報告でもわかっているはずなのに、十分な戦力も与えられず突撃を繰り返しているのだ。
(念仏の1つでも唱えてやりたい気分ではあるが、ここから出れるかが問題だな……)
九条がそんなことを考えながらベッドでごろごろしていると、ガチャリガチャリと近づいて来る足音。
それは九条の独房の前で止まった。
「出ろ」
鍵の束を持った看守の男が、湿気によって錆び付いた鉄格子の扉を開け、金属特有の甲高い音が辺りに響く。
「ようやくか。じゃぁな、九条の旦那! 短い間だったが楽しかったぜ。元気でやれよ!」
「ああ。ゲンさんもな」
天井に向かって手を振る九条を見て、看守の男は顔を歪め後退る。
「そ……。そこに誰かいるんですか?」
「……知りたいか?」
九条はニヤリと不敵な笑みを浮かべ意味ありげに聞き返すと、看守は青ざめ「止めておきます」とだけ言って急ぐように地下牢を後にした。
地下を脱すると、今度はお城の階段を延々と登る。
(結果はどうなっただろうか。極刑も困るが、強制労働なんて言われてもやだなぁ……)
そして連れていかれた先は、覚えのある貴賓室。そこは勲章を賜った時に使用した部屋。
「九条を連れて参りました!」
「ありがとう。どうぞお入りください」
九条はその声にも聞き覚えがあった。
「失礼します」
豪華な部屋。その中央のテーブルを囲んでいたのは、変わり映えしないいつものメンバー。
「よう、九条! 牢獄生活はどうだった?」
軽いノリで片手を上げるのはバイス。それにクスクスと笑顔を見せるのは、第4王女のリリーだ。
その隣でガチガチに固まっているのがシャーリーで、部屋の片隅に立っているのはヒルバーク。
その雰囲気は穏やかなもの。恐らくは悪くはない報告だろうと、九条は一足先に安堵した。
「ようやく出してあげることが出来ましたね。お待たせして申し訳ありません」
「いえいえ、滅相もない。俺が勝手にやったことです。むしろこちらこそご迷惑をおかけしまして、申し訳ない……」
「いいんですよ。派閥の仲間を守るのも、わたくしの務めですから」
その笑顔に嘘はない。この人柄こそがリリーに人が集まる所以だ。
「これで、九条は今日付けで無罪放免となったわけだ」
「ありがとうございます。でもよく勝てましたね。正直言って難しいとは思っていたんですが」
「まぁ、大変だったよ。最初からほぼ負けは確定していたようなもんだった。ダンジョンの不法侵入のみで人殺しはどう考えてもやり過ぎだし、俺達の証言は証拠にはならん。正当防衛たる証拠を出せと言われてもそんなものないしな……。なぁシャーリー?」
「えええ……ええ……。そそそそそうね……」
「ぶはっ、ギャハハハハ……」
シャーリーの返事を聞いて、何故か爆笑するバイス。
「どうした? シャーリー」
その質問の答えは帰ってこない。九条を見つめるシャーリーの目は潤んでいた。
何かを訴えかけているようにも見えるが、それがわかれば苦労はしない。
「さっきからこんな感じなんだよ九条。王女様を前に上がっちまってんだろ?」
「そうなのか?」
シャーリーはそれに高速で首を上下に振った。
「あ……あんた達。なんでそんなに素でいられるのよ。王女様よ? 偉いのよ?」
当然と言えば当然の事。王族になんて、会おうと思って会える存在ではない。シャーリーの反応こそが普通なのだが、逆に九条にはそれが新鮮に見えた。
「初対面で握手を求められた時なんか見ものだったぞ? 九条にも見せてやりたかったよ」
「ガルフォード卿? シャーリーさんに失礼でしょう? 笑うのは止めて差し上げなさい」
「申し訳ございません」
ゲラゲラと笑っていたバイスは、王女に窘められると、一瞬の内に真顔になった。
そのギャップが面白くて、逆に九条が吹き出しそうなほど。
「結局、どうやって無罪放免まで持ってこれたんです?」
その時だ。部屋の扉をノックする音。
「ちょうど来られたようですね。……どうぞ、お入りになってください」
その扉を開けたのは1人の使用人。その後ろから部屋へと足を踏み入れたのは、ギルド職員のグレイスとニーナだ。
2人は王女を前に跪き、深々と頭を下げた。
「2人がノルディックの全てを証言してくれたんだ。まさに逆転勝利って奴だな」
「……そうだったんですか。ありがとうございます。グレイスさん。ニーナさん」
2人は九条に向き直ると、同様に頭を下げ、ニーナだけが頭を上げなかった。
「九条様。本当に申し訳ございませんでした。個人的な罰があればなんでも仰ってください。私はそれだけのことをしました。どんな罰であれ甘んじて受けます……」
九条は驚きを隠せなかった。あの気丈に振る舞っていたニーナが、これほどまでに心変わりするとは思わなかったのだ。
ノルディックに利用されていたとはいえ、相当反省したと見て取れる。だが、九条にはそれだけで十分であった。
「偉そうに言える立場じゃないが、もう罰は十分受けたでしょう。それはミアに言ってあげてください」
ダンジョンで倒れていたニーナは、ノルディックにやられたと聞いていた。あれだけ痛めつけられれば、罰としてはやりすぎなくらいだ。
それで反省したのであれば、九条は何も言うまいと目を細めた。
顔を上げたニーナは泣いていた。それを自分の袖で拭い、また頭を下げたのだ。
リリーは表情を強張らせると、真剣な眼差しで九条を見つめる。
「九条。あなたは確かに無罪となりました。しかし、ノルディックを殺してしまったのは事実。民衆には納得していない人も多いでしょう」
もちろんノルディックだけではなく、九条の名もそれなりに知られてはいる。ノルディックでさえ持っていない勲章を受勲しているのだ。噂にならない方がおかしい。
だが、剣の道を極めた表向きには評判のいい男と、死霊術という怪しい魔法を行使し、あまり表に出てこない男。どちらが民衆の支持を集めるかと問われれば、言わずともわかるだろう。
「ええ。わかっています。用事がなければコット村からは出ないと思いますし、そこまで影響はないかと。それにプレートを隠してしまえば、俺とはわからないでしょう」
それに口を挟んだのはバイス。
「まぁ、そうかもしれんが、ギルドからの呼び出しは増えるだろうな。まぁ自業自得だが……」
「……え?」
「ノルディックがいなけりゃその仕事は誰がするんだよ。プラチナは少ないんだ。わかってただろ?」
「あ……」
九条が、ノルディックの仕事を心配するわけがない。とは言え、プラチナ限定の仕事は、九条に頼るしかないのが現状となったのだ。
「嫌です」
「嫌です――じゃねぇよ。急に凛々しげな顔して言っても無駄だ」
「そんなぁ……」
情けない表情を見せた九条。それを見ていたニーナとグレイスは目を丸くした。
ノルディックと比べてはいけないと思いながらも、九条のやる気のなさは本当にプラチナの自覚があるのかと疑うほど。
だが、それこそが九条なのだ。冒険者は多種多様。真面目に依頼をこなし高みを目指す者もいれば、最低限生活できるだけの収入があればいいと考える者もいる。
一見ふざけているようにも見えるが、根は真面目である。グレイスはニーナと違い、1度きりだがそれを間近で見ているのだ。
2人は、その激しいギャップに自然と笑みがこぼれた。
ギルドの規約で縛ってはいるが、本来冒険者とは自由なもの。今の九条こそが本物の冒険者なのだろうと……。
「流石に1週間も一緒にいたら話すこたぁもうねぇよ。九条の旦那ぁ」
九条の隣で呆れているのは、宮大工のゲンさん。種族はドワーフ。そして既に死んでいる。
いわゆる地縛霊だ。王都スタッグの中心である王宮の設計をした内の1人で、建設中の事故に巻き込まれ、他界した。
九条は現在、王宮の地下牢に捕らえられている。人を殺したのだから当然である。
とは言え、罰を与えられている訳ではなく、処分が決まる間の監視付きの留置が表向きの理由。
湿気が多く快適とは言い難いが、それを除けば扱いは来賓クラス。それなりに高価な調度品の数々に、豪華な食事も定期的に運ばれる。
そんな所に先客として潜んでいたのがゲンさんだ。ゲンさんは「自分が見える人がいるなんて」と大喜び。
九条が捕らえられている間、2人は互いに語り合い、その境遇に笑顔を見せたり涙したりと意気投合したのであった。
とは言え、九条は囚われの身。その心境は複雑だ。
(このままぶち込まれるのか、釈放されるのか、あるいは死刑か……)
それは王族と貴族、そしてギルドのお偉いさんの話し合いで決まる。
九条はいざとなれば、いつでも逃げ出せた。だが、そうしないのは、僅かな希望に賭けていたから。
(逃げるのは容易いが、逃亡生活は御免被る。無罪が通れば大手を振って生きていけるのだ)
あの後。九条は全てをありのままに話し、国中が大騒ぎとなった。
九条を除けばノルディックは、この国で唯一の戦闘型プラチナプレート冒険者。その内面を知る者は少ない。故にそれは皆の憧れであり、ヒーローのような存在だ。
それをポッと出の死霊術師が殺したのだから、騒ぎにならないわけがない。
第2王女とその派閥の貴族達は関与を否定。全て罪を九条に擦り付けた。現場は九条所有のダンジョンだ。その信憑性は高い。
何より、九条は自分で殺したことを証言している。その証拠としてノルディックとマウロの冒険者プレート。更にはマウロの食べかけ――ではなく、食べられかけの遺体と、ノルディックの遺体を提出している。
しかし、ノルディックの遺体は偽物。適当な人骨に肉を付け、ノルディックの鎧と武器を持たせただけの別人である。
この世界に遺体から身元を判明させる技術はない。だからこそ身分証明としてのプレートが存在しているのだ。
もちろん2人がミアを殺そうとしたことも、報告内容には含まれている。冒険者は担当を守らなければならず、やむを得ない状況だったと。
それを第2王女側が受け入れるわけがない。グリンダは九条に死刑を求刑し、第4王女側は正当防衛を主張する。
証人としてミアの出頭を命じられたが、九条はそれを拒み続けた。
(俺が地下牢に囚われている隙に、ミアの命を狙う輩がいるかもしれない。ミアの傍にいてやらなければ、守るものも守れない……)
ミアは九条のダンジョンに匿われている状態だ。もちろん護衛には4匹の従魔をつけている。
(食料の調達はシャーリーにお願いしているし、ダンジョンでの生活は問題ないはずだ……)
そして九条が捕らえられてから、2週間の時が過ぎた。
「マスター。また来ましたよ?」
「今度は何人だ?」
「えーっと……。30人程ですね」
「終わったら教えてくれ」
「……。終わりました。5分と持ちませんでしたね」
「そうか……。ゴブリン達には悪いが、また掃除を頼んどいてくれ」
「了解でーす」
それは108番から九条への報告。九条のダンジョンに度々訪れては敗戦し、慌てて帰っていくのはニールセン公の兵達だ。
第2王女グリンダが愛してやまないノルディックが死んだのだ。
(その気持ちはわからなくもないが……)
他の誰もが提出された2人の遺体を見て、本人であると断定しているにも拘らず、第2王女だけはそれを頑なに認めなかった。それはノルディックではない偽物なのだと……。
(愛のなせる業なのか、それともただの勘か……)
それを証明するとばかりに、派閥貴族の兵達からノルディックの捜索隊が結成された。
何か証拠をとダンジョンに侵入しては、そのほとんどが元ノルディックであるデュラハンに惨敗し、戦意を喪失した数人が逃げ帰るという状況が続いていたのだ。
(ノルディックに関する何かを見つければ、貴族である自分達の株があがる。必死にもなるか……)
訳もわからず殺されてしまった兵達を憐れむ九条ではあったが、上司に恵まれなかったのを悔やむ他ないだろう。
デュラハンがいるというのは逃げ帰った兵からの報告でもわかっているはずなのに、十分な戦力も与えられず突撃を繰り返しているのだ。
(念仏の1つでも唱えてやりたい気分ではあるが、ここから出れるかが問題だな……)
九条がそんなことを考えながらベッドでごろごろしていると、ガチャリガチャリと近づいて来る足音。
それは九条の独房の前で止まった。
「出ろ」
鍵の束を持った看守の男が、湿気によって錆び付いた鉄格子の扉を開け、金属特有の甲高い音が辺りに響く。
「ようやくか。じゃぁな、九条の旦那! 短い間だったが楽しかったぜ。元気でやれよ!」
「ああ。ゲンさんもな」
天井に向かって手を振る九条を見て、看守の男は顔を歪め後退る。
「そ……。そこに誰かいるんですか?」
「……知りたいか?」
九条はニヤリと不敵な笑みを浮かべ意味ありげに聞き返すと、看守は青ざめ「止めておきます」とだけ言って急ぐように地下牢を後にした。
地下を脱すると、今度はお城の階段を延々と登る。
(結果はどうなっただろうか。極刑も困るが、強制労働なんて言われてもやだなぁ……)
そして連れていかれた先は、覚えのある貴賓室。そこは勲章を賜った時に使用した部屋。
「九条を連れて参りました!」
「ありがとう。どうぞお入りください」
九条はその声にも聞き覚えがあった。
「失礼します」
豪華な部屋。その中央のテーブルを囲んでいたのは、変わり映えしないいつものメンバー。
「よう、九条! 牢獄生活はどうだった?」
軽いノリで片手を上げるのはバイス。それにクスクスと笑顔を見せるのは、第4王女のリリーだ。
その隣でガチガチに固まっているのがシャーリーで、部屋の片隅に立っているのはヒルバーク。
その雰囲気は穏やかなもの。恐らくは悪くはない報告だろうと、九条は一足先に安堵した。
「ようやく出してあげることが出来ましたね。お待たせして申し訳ありません」
「いえいえ、滅相もない。俺が勝手にやったことです。むしろこちらこそご迷惑をおかけしまして、申し訳ない……」
「いいんですよ。派閥の仲間を守るのも、わたくしの務めですから」
その笑顔に嘘はない。この人柄こそがリリーに人が集まる所以だ。
「これで、九条は今日付けで無罪放免となったわけだ」
「ありがとうございます。でもよく勝てましたね。正直言って難しいとは思っていたんですが」
「まぁ、大変だったよ。最初からほぼ負けは確定していたようなもんだった。ダンジョンの不法侵入のみで人殺しはどう考えてもやり過ぎだし、俺達の証言は証拠にはならん。正当防衛たる証拠を出せと言われてもそんなものないしな……。なぁシャーリー?」
「えええ……ええ……。そそそそそうね……」
「ぶはっ、ギャハハハハ……」
シャーリーの返事を聞いて、何故か爆笑するバイス。
「どうした? シャーリー」
その質問の答えは帰ってこない。九条を見つめるシャーリーの目は潤んでいた。
何かを訴えかけているようにも見えるが、それがわかれば苦労はしない。
「さっきからこんな感じなんだよ九条。王女様を前に上がっちまってんだろ?」
「そうなのか?」
シャーリーはそれに高速で首を上下に振った。
「あ……あんた達。なんでそんなに素でいられるのよ。王女様よ? 偉いのよ?」
当然と言えば当然の事。王族になんて、会おうと思って会える存在ではない。シャーリーの反応こそが普通なのだが、逆に九条にはそれが新鮮に見えた。
「初対面で握手を求められた時なんか見ものだったぞ? 九条にも見せてやりたかったよ」
「ガルフォード卿? シャーリーさんに失礼でしょう? 笑うのは止めて差し上げなさい」
「申し訳ございません」
ゲラゲラと笑っていたバイスは、王女に窘められると、一瞬の内に真顔になった。
そのギャップが面白くて、逆に九条が吹き出しそうなほど。
「結局、どうやって無罪放免まで持ってこれたんです?」
その時だ。部屋の扉をノックする音。
「ちょうど来られたようですね。……どうぞ、お入りになってください」
その扉を開けたのは1人の使用人。その後ろから部屋へと足を踏み入れたのは、ギルド職員のグレイスとニーナだ。
2人は王女を前に跪き、深々と頭を下げた。
「2人がノルディックの全てを証言してくれたんだ。まさに逆転勝利って奴だな」
「……そうだったんですか。ありがとうございます。グレイスさん。ニーナさん」
2人は九条に向き直ると、同様に頭を下げ、ニーナだけが頭を上げなかった。
「九条様。本当に申し訳ございませんでした。個人的な罰があればなんでも仰ってください。私はそれだけのことをしました。どんな罰であれ甘んじて受けます……」
九条は驚きを隠せなかった。あの気丈に振る舞っていたニーナが、これほどまでに心変わりするとは思わなかったのだ。
ノルディックに利用されていたとはいえ、相当反省したと見て取れる。だが、九条にはそれだけで十分であった。
「偉そうに言える立場じゃないが、もう罰は十分受けたでしょう。それはミアに言ってあげてください」
ダンジョンで倒れていたニーナは、ノルディックにやられたと聞いていた。あれだけ痛めつけられれば、罰としてはやりすぎなくらいだ。
それで反省したのであれば、九条は何も言うまいと目を細めた。
顔を上げたニーナは泣いていた。それを自分の袖で拭い、また頭を下げたのだ。
リリーは表情を強張らせると、真剣な眼差しで九条を見つめる。
「九条。あなたは確かに無罪となりました。しかし、ノルディックを殺してしまったのは事実。民衆には納得していない人も多いでしょう」
もちろんノルディックだけではなく、九条の名もそれなりに知られてはいる。ノルディックでさえ持っていない勲章を受勲しているのだ。噂にならない方がおかしい。
だが、剣の道を極めた表向きには評判のいい男と、死霊術という怪しい魔法を行使し、あまり表に出てこない男。どちらが民衆の支持を集めるかと問われれば、言わずともわかるだろう。
「ええ。わかっています。用事がなければコット村からは出ないと思いますし、そこまで影響はないかと。それにプレートを隠してしまえば、俺とはわからないでしょう」
それに口を挟んだのはバイス。
「まぁ、そうかもしれんが、ギルドからの呼び出しは増えるだろうな。まぁ自業自得だが……」
「……え?」
「ノルディックがいなけりゃその仕事は誰がするんだよ。プラチナは少ないんだ。わかってただろ?」
「あ……」
九条が、ノルディックの仕事を心配するわけがない。とは言え、プラチナ限定の仕事は、九条に頼るしかないのが現状となったのだ。
「嫌です」
「嫌です――じゃねぇよ。急に凛々しげな顔して言っても無駄だ」
「そんなぁ……」
情けない表情を見せた九条。それを見ていたニーナとグレイスは目を丸くした。
ノルディックと比べてはいけないと思いながらも、九条のやる気のなさは本当にプラチナの自覚があるのかと疑うほど。
だが、それこそが九条なのだ。冒険者は多種多様。真面目に依頼をこなし高みを目指す者もいれば、最低限生活できるだけの収入があればいいと考える者もいる。
一見ふざけているようにも見えるが、根は真面目である。グレイスはニーナと違い、1度きりだがそれを間近で見ているのだ。
2人は、その激しいギャップに自然と笑みがこぼれた。
ギルドの規約で縛ってはいるが、本来冒険者とは自由なもの。今の九条こそが本物の冒険者なのだろうと……。
21
あなたにおすすめの小説
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます
網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。
異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。
宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。
セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる