生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
188 / 722

第188話 呼び出し

しおりを挟む
「で? 何しに来たんですか?」

「ごめんって言ってるじゃない。まさか知らなかったとは思わなくて……」

 別にネストに対して本気で怒っているわけじゃないが、機嫌が良くないのは事実である。
 ネストが謝っているのはグレイスのことだ。あの後、グレイスをギルドへと送り届け、ミアからの説教を聞き、なんとかそれをなだめることに成功して現在へと至るというわけだ。
 仕事が終わったミアと、スタッグから遥々やって来たネスト、そして俺の3人で自室のテーブルを囲んでいるといった状況である。
 ミアには、誤解を解くために巨大ワーム討伐までの一部始終を話し、ネストもそれに耳を傾けていた。
 言っていなかった自分も悪いが、口に出す前にグレイスがどこまで知っているかの確認ぐらいはして欲しかった。
 どこか物憂げに沈んだネストの瞳は、一応は反省の色を見せている。
 俺は大きく溜息をつくと、この辺りが落としどころだろうと溜飲を下げた。

「はぁ、わかりました。次は気を付けてくださいね?」

「ええ。もちろん」

 ネストは村に泊まることになっているが、もう時間も遅い。いつもならミアもそろそろベッドに入ってもいい時間帯である。

「で? 用事と言うのは?」

「リリー王女直々の呼び出しよ。まだ内容は言えないけど、九条には悪くない話だと思う。どう?」

「どうと言われても……」

 チラリとミアに視線を移す。カガリのブラッシングに精を出すも、特に表情を変えることなくいつも通り。
 それに気付いたのか、ミアは手を動かしながらも微笑んで見せた。

「私は、おにーちゃんと一緒ならどこでもいいよ?」

 正直言って王都にはあまりいい思い出がない。それはミアも同様のはず。

「それにギルドは関わってきますか?」

「いいえ。今回は個人的な頼みになるわ。恐らくギルドには顔を出す必要もない。到着連絡も希望するなら私がやっておくし、もちろん宿もこっちで用意する。といってもそんなに長い滞在にはならないはずよ」

「具体的には?」

「長くても1週間くらいかしら。前準備はしてあるから問題はないはず。……あっ。もし来るなら魔獣達も連れて来てね?」

 恐らく嘘ではない。カガリが反応を示さないのがその証拠だ。だが、従魔を連れて来いという指定が気に掛かる。
 連れて来るなと言われるのは仕方ない。それなりに大きく邪魔と言われれば邪魔だ。それに慣れていない人が見れば驚いてしまう恐れもある。
 ということは、従魔達に何かをやらせるつもりなのだろうか……。

「何故、従魔達を?」

「んー……。詳しくは言えないんだけど、威厳の為……かな?」

 それに怪訝そうな目を向けると、ネストは慌てて手を横に振った。

「あっ、戦闘行為はないわ。ついて来てくれるだけでいいの。紛らわしい言い方でごめんなさい」

「……」

 面倒臭いから行きたくないというのが本音ではあるが、王女であるリリーからの呼び出しを断るというのも気が引ける。
 ノルディックの件では相当迷惑を掛けたと自負しているし、ネスト曰く俺にとっては悪い話ではないと言う。
 後々あの時断ったんだからなどといちゃもんをつけられ、余計厄介な依頼を回される恐れも無きにしも非ずだ。そうなれば、それこそ断れなくなってしまうだろう。

「ちなみに2回、依頼をこなしたわ」

「へ? いきなり何の話です?」

「ノルディックが受けるはずだった依頼。本来は九条に行くはずだったものを、私とバイスで片づけてあげたの。……なんと2回も!」

 胸を張りドヤ顔で語尾を強調するネストだが、別に頼んではいない。
 俺の首を縦に振らせたいのはわかるが、それを恩着せがましく思ってしまうのは、俺の心が狭いからだろうか?
 とは言え、感謝していない訳じゃない。本音を言えば非常にありがたいのだが、今まさに返事をしようとしたところでそれを言われてしまうと、ネストに屈したようでいい気分ではないのも確か。
 なんというか、やろうとしていた宿題を先に母親にやれと言われて、やる気をなくしてしまうパターンに近いものを感じる。

「……ずるくないですか?」

「ぜーんぜん? だって事実だもの」

 仏頂面で抗議する俺に対し、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるネスト。
 ミアもそろそろ眠気の限界が近い。うつらうつらと船を漕ぐその姿は、すでに睡眠モードである。

「王女様から話を聞いてから最終的な判断をする……ってことでも構いませんか?」

「もちろんよ。歓迎するわ」

 ネストは自室へと戻り、俺はミアを抱き抱えるとベッドへと移して自分もその隣に寝転がる。
 話を聞いてからと言ったのは、万が一の逃げ道を確保しただけ。
 他でもないリリーの頼み。どんな内容であれ、自分に手伝えることなら手伝おうとある程度の決心はついていた。


 次の日、朝一でネストの乗って来た馬車で王都スタッグへと向かう。
 1人で乗って来たにしては大きめの馬車だとは思っていたが、従魔達を乗せることを前提にしていたのであれば、丁度いい大きさである。

「まるで貴族とは思えない恰好ですね……」

「人のこと言えないじゃない」

「俺とミアは貴族じゃないんでいいんですよ」

 相変わらずの寒さではあるが、ミアはカガリと白狐にサンドイッチ状態で身動き1つしない。
 俺はワダツミを抱きしめていて、ネストはコクセイを抱きしめている。その絵面は若干シュールだ。
 従魔達も呆れて物も言えないといった表情である。

 馬車の旅は至って順調であった。寒さ故か、盗賊達も休業中の様子。だが、ネストはそれに若干の不満があるようだ。
 体を動かし温める為の運動に丁度いいなどと豪語するネスト。ネストほどの実力があればそれも嘘ではないだろう。
 それを聞いた御者は甚く惚れ込み、2人で楽しそうに会話の花を咲かせていた。
 御者にはただの冒険者に見えているのだろうが、やめておけ。それは冒険者を装った貴族である。
 教えてやったらたまげるだろうなぁと思いながらも、馬車の旅もそろそろ大詰め。
 たった3日の短い旅路は、ネストの希望によりグリムロックでの出来事を話しているだけで、あっという間に過ぎ去った。


 馬車は王都スタッグの南門を通過する。そのままネストの屋敷に向かうのかと思っていたが、馬車は王宮を迂回し北区へと足を進めた。

「あれ? ネストさんのお屋敷に行くんじゃないんですか?」

「いいえ、違うわ。もう少しで見えて来るけど……。あっ、あれあれ。あの赤い屋根のところよ」

 俺とミアは、ネストが指さした方向へと身を乗り出し覗き込む。
 確かに見えるが、その建物の上半分も見えていない。恐らく大きな時計塔のような建物。
 俺にはそれが何なのか不明であったが、ミアはそれを知っていた。

「えっ? 魔法学院?」

「ミアちゃん、せいかーい」

 嬉しそうにミアの頭をなでるネスト。
 ネストが魔法学院の教師をしているのは聞いていたが、だとしたら俺を迎えに来る為だけに休暇を取ったのだろうか?
 時刻は夕方。帰宅の時間なのだろうことが窺える。
 徐々に近づいて来る魔法学院の正門だろう出入口から制服姿の生徒達が続々と出て来る様子を見ると、休日という感じではなさそうだ。

「九条、ちょっと伏せてて」

 ネストに頭を押さえつけられ、馬車の荷台に縮こまる。
 その意味はすぐに理解した。ネストは俺の評判を危惧したのだろう。
 俺の顔を生徒達に見られると困るのだ。俺と一緒のところを見られれば、ネストの評価も下がりかねない。そう判断するのが妥当。何せ俺はノルディックを殺したのだから。
 正門を素通りする馬車。そのままぐるりと外壁を1周し、裏門で止まった。

「はい、到着。みんなお疲れ様。荷物を降ろしたら、ついて来て頂戴。教員用の宿舎に案内するわ」

 馬車に長時間押し込まれていたということもあり、そこから降りて最初にする事といえば、うんと体を伸ばすこと。それは従魔達も同じである。
 自分で持てる荷物は自分で持ち、ネストに宿舎へと案内される。
 その様子はまるで泥棒のようだった。ネストが先行して廊下を進み、誰もいないことを確認すると手招きに従いついて行く。
 正直に言って気分が悪い。俺は人にどう思われようと気にはしない。だが、貴族様は違うのだろう。
 そこまでして俺を呼び出して、一体何がしたいのだろうと推し測る。
 そんなことを幾度となく繰り返し、到着したのは3階の一室。

「ここよ」

 ネストが持っていた鍵でそこを開けると、そこは一般的なワンルームの部屋。
 適当な場所へ荷物を降ろすと、ネストは窓のカーテンを閉めた。

「明日の夕方に王女様と一緒に来るから、それまでは部屋から出ないでね? 食事はこっちで運ぶから安心して」

「ああ」

 申し訳なさそうなネストに適当に相槌を打つ。
 正直、もうどうでもよかった。こんなことで怒っても仕方がない。さっさと用事とやらを聞いたら、帰ればいいだけだ。
 俺の苛立ちを察してか、ミアも従魔達も声を掛けようとは思わなかったのだろう。
 馬車での旅の疲れもあり、その日は早いうちに備え付けのベッドで横になった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...