生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第193話 衝撃の事実

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 108番が振り向き、俺に背中を見せた瞬間。辺りの空気が一変した。
 覚えている。俺がゴブリン達と契約を結んだ時と同じ雰囲気。鳥肌が立つほどのピリピリとした緊張感だ。
 大きく両手を広げる108番。その周りには渦を作り出すほどの魔力の奔流。
 スッと目を閉じ始まったそれは、何かの魔法の詠唱にも聞こえた。

「忘れ去られし深淵の忌み子。今一度の足を止め、我が声に耳を傾けよ。
 何処にいようとも縁は楔、汝の姿はここにある。
 揺り籠を彩る黄金の威光。猛き咆哮は全てを焦がし、刹那の輝きは全てを灰に。
 我等が前に顕現し、我等と共に時を歩め」

 ダンジョンの床に小さな魔法陣が描かれると、それは大量の魔力を飲み込み、徐々に膨張を始めた。
 魔力の荒波によって押し広げられた魔法陣は徐々にその面積を広げ、その大きさはスケルトンロードの時と同等以上。

「降臨せよ偉大なる憤怒! トライヘッド・ディフェンダー!」

 飛ばされそうなほどの暴風が吹き荒れ、魔法陣から解き放たれる閃光が世界を白く染め上げる。
 思わず目を瞑ってしまうほどの光に顔を背けると、光と共に魔法陣も儚く消え、俺の前には背中を向けたままの108番が立っていた。
 そして、その前には召喚された巨大な魔獣が……――いなかった。

「……およ?」

 108番が素っ頓狂な声を上げ、首を傾げる。

「どうした? 今ので終わりか?」

「……え……えぇっと……。そのはず……なんですけど……」

 だが、目の前には何もいない。

「巨大な魔獣が目の前に現れ、驚きのあまり腰を抜かしそうになるマスターをクスクスと笑うはずだったのに……」

「性格が悪すぎる……。というか、あれだけ張り切ってたのに、もしかして失敗したのか? むしろ笑いたいのはこっちなんだが? くくくっ……」

「笑わないでください! 成功してますから!」

 心外だと言わんばかりに頬を膨らませる108番。

「でも、なんもないけど?」

「ぐっ……」

 別に馬鹿にしたくて笑ったわけじゃない。自信満々だったのにもかかわらず、失敗という結果に愛嬌というか親しみを感じたからだ。
 そういう人間らしい一面を見て、可愛いところもあるじゃないかと素直に笑顔がこぼれたのである。

「もう1回! もう1回だけチャンスを下さい!」

「ああ。好きにしてくれ」


 息巻く108番はもう一度同じことをするも、結果は変わらずであった。
 ダンジョンハートからは魔力だけが消費され、後には何も残らない。

「調子が悪いなら日を改めても……」

「だから成功してるんですってばぁ!」

 涙目になりながらも必死に言い訳をしているのだが、どう見ても成功しているようには見えないのが、哀愁を誘う。

「ちょっとだけ時間をください!」

 そう言って両手を地面に付けると、108番は目を瞑り何かに集中し始めた。
 時間にして5分ほど。その間108番は微動だにしない。
 ただ何もせず座っているだけというのも暇である。待つのにも疲れ、大きく欠伸をしていると、108番がようやく口を開いた。

「……いない……。なんでいないの!? 封印はとっくに解除してるのに!? もしかして殺された!?」

 驚くほどでもなかったが、そこそこ大きい声。むしろ驚いているのは108番の方だ。
 信じられないとでも言いたげな表情で虚空を見つめ、ワナワナと震えていたのだ。

「殺されたって……。呼び出そうとしていた魔獣がか?」

「そうです……。なんで……。今の人間に勝てるような力はないと思っていたのに……」

 酷く項垂れる108番。怒りに打ち震えるといった感じではない。目を見開き地面を見つめるその目は泳ぎ、動揺を隠せない様子。

「そんなヤバイ奴呼び出そうとしてたのかよ……。人間が勝てないなら魔獣同士で争ったんじゃないか?」

「うーん。ないこともないですが、それなら痕跡が残るはずです……。そうだ! マスターは何か知りませんか? 人間の街での出来事なら噂話とかでもいいので。最近街が滅んだとか……」

「ねぇよ……。物騒にも程があるだろ……。そんなもんが出てきたら討伐隊が組まれて大騒ぎ……」

 そこまで言って思い出した。魔獣騒ぎならあった。街は滅んではいないが、討伐隊が組まれるほどの緊急事態ではあったのだ。

「そういえば、その魔獣の名前は?」

「トライヘッド・ディフェンダーですけど……。もしかして心当たりが!?」

「いや、思っていたのとは違うみたいだ。俺が知っているのは金の鬣きんのたてがみと呼ばれていた魔獣だった」

「それです!!」

 落ち込んでいた108番は、それを聞くと生き返ったように燦然と目を輝かせる。

「……え?」

「……え?」

「……」「……」

 一瞬の間。俺は108番の言っていることが理解出来ず、108番は俺の反応に疑問を感じている様子。

「いや、でも名前が違うぞ?」

「それは人間達が勝手に付けた呼び名だからですよ」

 心拍数が上がって行くのを感じる。体中から滲み出る汗。息が詰まりそうである。
 だが、まだだ……。まだ、慌てる時間じゃない。別の魔獣の可能性もないこともない。

「……いや、まだわからない。昔はそう呼ばれていたのかもしれないが、今は違う魔獣がそう呼ばれてるかもしれないじゃないか。2世的な……」

 若干……いや、相当無理があるのは承知の上だ。だが、信じたくはなかった。

「えぇ……。まぁ、ないこともないですが……」

「そうだ。何か特徴は? 俺の知っている金の鬣きんのたてがみは、トライなんちゃらとは違うはずだ」

「いいでしょう。良く聞いてくださいね? トライヘッド・ディフェンダー、略してトラちゃんは、魔王様に仕えた四天魔獣皇の一柱です。黒龍の首は灼熱の炎、尻尾のバジリスクは石化の呪い、そして獅子の鬣は雷を操る。キマイラの王たる風格が溢れ出るほどの勇猛な黒獅子。その姿はまさに魔獣界の貴公子なんです!」

「……へ……へぇ……」

 ダラダラと流れ出る汗に引きつる表情。間違いない。その特徴は完璧に一致していた。

「……どうしました、マスター? お気分が優れない様子ですが……」

「いや……。まぁ、うん……」

 当たり前である。そのトラちゃんを討伐してしまったのは、何を隠そう自分自身なのだから。
 この事実を公表するべきか……。それとも隠し続けるべきか……。
 胃がキリキリと痛み始める。すぐに治してもらいたいが、頼みのミアはコット村だ。
 事が事だけに、108番に治してくれとは頼み辛い。

「ちょっと時間をくれ……」

「ええ。構いませんけど……」

 不思議そうに首を傾げる108番。俺は深呼吸で気を落ち着かせると、冷静になって考える。
 確かに俺が金の鬣きんのたてがみを倒してしまった。だが、それは人間に危害を加えようとしたからだ。
 言うなれば正当防衛。俺は悪くないのではないだろうか?
 勝手に復活させてしまったのは108番だ。それにはダンジョンハートの魔力を使ったのだろう。
 それも元々は俺の魔力。自由に使っていいとは言ったが、報告をしなくていいとは言っていない。
 言わなければ気付かれないのではないだろうかとも思案したが、グレイスの1件があったばかり。その二の舞いになる可能性は捨てきれない。

 ――ここは正直に話すのがベストであろう。

 俺は覚悟を決めると、言葉を選びながらもゆっくりと口を開いたのである。
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