194 / 722
第194話 真実
しおりを挟む
「……108番。ホウレンソウという言葉を知っているか?」
「ほうれん草? お野菜ですか?」
「いいや違う。報告、連絡、相談。略してホウレンソウだ。これは組織の上下を繋ぐ重要な意味を持つ言葉だ。わかるか?」
「なるほど。わかりますけど、それが何の関係が?」
「まぁ、落ち着け。そのホウレンソウをしていれば、未然に防げた事故もあるかもしれないということが言いたいんだ」
「確かにそういった事例もあるかもしれませんね。……で、何が言いたいんです?」
「今回の件はまさにそれだ。108番が俺に報告していれば、防げた事故のはずなんだ……」
「はぁ……。……え? どういう事です?」
何を言っているのだろうという顔だ。まぁ、これで察してくれというのが無理か。
「つまり……。つまり、その……トラちゃんは死んでしまったということだ……。すまない……」
玉座から立ち上がると、誠心誠意心を込めて頭を下げる。
「それは理解しています。気にしないでください。マスターが謝ることではありません。むしろマスターに守ってもらえたのならトラちゃんも本望でしょう」
「いや、そうじゃなくてだな……」
「はぁ、道理で反応がないわけです……。残念ですが仕方ありません。それで、どこの誰が倒したんですか? 別の魔獣を送りつけてミンチにしてやります!」
「それは……」
「も……もしかして勇者ですか!? あいつ! またしても我らの邪魔を……」
「……俺だ……」
108番が動きを止める。何かを思案しているようなそぶりを見せるも、その目は酷く泳いでいた。
「……んー、よく聞こえませんでした。もう一度お願いしてもよろしいでしょうか?」
「俺が討伐してしまったんだ……」
「……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
驚くのも無理もない。顎が外れるんじゃないかと思う程大きく開けられた口から盛大に漏れる疑惑の声。
予想外の答えに、理解が追い付いていないのだろう。
「何故です!?」
「いや、知らなかったんだよ。まさか金の鬣が108番の言っているトラちゃんだとは思わなくて……。というか言ってくれればよかったじゃないか。こっちだって出来るだけ戦いたくはなかった。言葉も通じないし、襲ってくるものは撃退する以外に方法はないだろう?」
「そうですけど……」
「そもそもなんであんなものを呼び出したりしたんだ!? 騒ぎになって当然だろう?」
「だって……、マスターがダンジョンに護衛を置いてくれなかったから……」
「ゔっ……」
確かに当初から催促はされていた。今思うと何故そうしなかったのかと過去の自分に呆れるが、当時はこちらの世界に来たばかりで、まだ慣れていなかったのだ。
考えが甘かったとしか言いようがない。人の土地に無断で入ってくるなんて、そうそうないと思っていたのだ。
ウルフ狩りのキャラバン。オーク族のゴズに、ミアを亡き者にしようとしたノルディック。
魔物はさておき、この世界の人々は、犯罪に対する意識が低い。街の外であれば大抵のことが放置されているのが現状だ。
村の中であれば最低でも自警団。街ならそれなりに役人も駐在しているし、領主の住まう都であれば騎士団等も治安維持に尽力してはいるが、機能しているのは敷地内とその防衛のみ。
外の見回りなんかしていない。被害が出てから重い腰を上げるのが実情であり、街の外は無法地帯と言ってもいい。
むしろ外は冒険者の領域。襲ってくるなら話は別だが、賞金首以外は例え盗賊だろうと相手にしない。
だからこそ盗賊がのさばり、悪行の数々を尽くしているのだろう。馬車の護衛依頼が多いのもその理由の1つだ。
「それは悪かったと思ってる。だからこそノルディックをデュラハンとして置いているじゃないか。あれだけの強さがあれば十分だろ?」
「まぁ、強さについては申し分ありませんが……」
今なら108番の考えも理解出来る。ダンジョンハートが破壊されれば自分の命が消えるのだ。それは俺も同じこと。
どんな相手が来ても、撃退出来る安心感が欲しいといったところだろう。
「わかったよ。不満があるなら聞こう。できるだけそれに応えるから、トラちゃんのことは許してくれ」
「じゃぁもう1匹、四天魔獣皇を呼び出させてください。いいですか?」
「ああ、わかった。先に聞いておくがどんな奴だ?」
「……あっ、どうせならマスターが選んでくださいよ。その方がいいですよね?」
「確かにそうだが……」
「じゃぁ、分かりやすいように説明するんでちゃんと聞いてくださいね」
それに無言で頷く。言われなくてもそうするつもりだ。
それを従えなくてはならないのなら尚更である。出来れば温厚な感じの扱いやすい魔獣であってほしい。
正直に話したからか、108番の機嫌も少しは良くなったようにも見え、ひとまずは胸を撫でおろした。
「まずは、アコーディオン・ダイバーちゃんです。大きなワームを想像して頂ければよろしいかと存じます。その外殻は金属よりも固く、ギラギラと鈍く光ることから人間達には灰の蠕虫と名付けられていたと記憶しています。地下に穴を掘るのが得意で、ダンジョンの拡張に役立ちます。人間の街を地下から破壊するのを目的として作り出されました」
「……ん?……」
「どうしました?」
「いや、なんでもない……」
灰の蠕虫という名に聞き覚えはないが、その特徴はノーザンマウンテンのダンジョン調査で戦ったワームと、若干似ている気がしたのだ。
「次は、アブソリュート・クイーンちゃんといって……」
「すとぉーっぷ! それってアレだろ? 白い悪魔って呼ばれてて再生能力を持ってる……」
「おお! ご存知でしたか! アブちゃんは凄いですよ? 海水から魔力を取り込めるので、海の中ではほぼ無敵です!」
「……すまん。それも俺が倒した……」
108番の顔が一瞬引きつったように見えた。
「ま……またまた御冗談を。それはないですね。確かにいつでも封印を解けるようにと魔力を送り込んではいますけど、封印は解いてませんもん」
「セイレーンの女王が封印を解いたと聞いている。海で暴れていたそいつを俺が倒した……。1ヵ月ほど前の話だ」
「……ちょっと調べさせてもらっても?」
「ああ」
108番は先程と同じように地面に両手を付き、目を閉じた。
数分後、この世の終わりとも思える絶望にも似た表情を俺に向けると、口をぱくぱくと動かし始めた。
「……あ……あ……」
「……な?」
「な? じゃないですよ! 何てことしてくれたんですか!」
「それはセイレーンの女王に言うべきじゃないか? と言っても、もう先代はクイーンに返り討ちに合い、殺されたようだが」
「ざまぁないですね! ……じゃなくて!」
なんだかんだでノリのいい108番。裏拳かと思うほどの鋭いツッコミは空を切るも、そのスタイルは嫌いじゃない。
「悪かったとは思ってるよ。だが、不可抗力だ。悪気があったわけじゃない。知っていれば別の手段をとった。そうだろ?」
「むぅぅ……。じゃぁ、お詫びとして彼らの最後を教えてください。そうすれば許してあげます」
どんなことを求められるかと思えば、実況見分でいいなら願ってもない話だ。
そして全てを話した。金の鬣の討伐。白い悪魔とセイレーン、そしてサハギン達の関係。
それを108番は時折物思いに耽りながらも、神妙な面持ちで聞いていたのだ。
「……というわけだ。申し訳ないとは思っているが、今度は是非先に言ってくれるとありがたい」
「わかりました。報告の義務を怠った私にも非がないわけではありません。そのことは水に流しましょう。最後に……その……1つ質問なのですが、マスターが死霊術をお使いになられても他の人間達は何も言わなかったんですか? 人間達の間では外法と言われているんですよね?」
「ああ。そうみたいだが、信用している者達にしか明かしていないから大丈夫だとは思う」
「なるほど……。どうせならバーンと1発かましてやればいいんじゃないですか? 例え見られていても、それだけ強大な力があれば、人間達の考え方も変わるのでは?」
「そんな分の悪い賭けはしない。そもそも俺はどう思われていようと構わないんだ。言いたい奴には言わせておけばいい」
「さすがマスター! 器が大きい!」
「面倒臭いだけだ」
その話が終わってすぐだ。108番が侵入者に気が付くと、姿を現したのはカガリに乗りやって来たミア。それとワダツミである。
「おにー……。……何やってるの?」
「……反省だ」
俺は玉座に正座していた。そして目の前の108番の手を握りながら話をしていたのである。
別に好きでやっている訳じゃない。そうすれば許してくれると言われたのだ。
ミアには108番が見えていない。故に正座しながら両腕を前に伸ばしているという若干シュールな絵面に見えている事だろう。
いや、見えてはいないが知っているからこそ生まれる誤解もあるのだ。
「胸を……揉んでる?」
「違う! 手を握っているだけだ!」
言われてみれば、そう見えなくもない。とはいえそれは証明できない。
すぐに108番から手を離すと、気まずさを払拭するかのように咳払いで茶を濁す。
「で、何かあったのか?」
「えっと、おにーちゃんにお客様だよ。貴族の偉い人なんだけど……」
誰だろう……。貴族とはいえ、ミアが名前を出さない所を見ると、俺の顔見知りではなさそうだ。
知らない人であればネストが許可証を発行しないはずであるが……。
……考えていても仕方がない。ワダツミを連れてきたのは急いでいる為だろう。
「108番。すまないが、あの話は一旦保留にしておいてくれ」
「わかりました。お早いお帰りをお待ちしています」
「すまんな、ワダツミ」
断りを入れてからワダツミに跨り、カガリとミアを先頭にダンジョンを駆け上がると、俺達は村へと急いだ。
――――――――――
九条が去り、シンと静まり返るダンジョンで108番はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
四天魔獣皇。それは魔王に仕えし忠実なる4匹の僕。
その内の2体。失った戦力は甚大だ。憤慨したい気持ちもあるが、九条の機嫌を損ねることは出来ない。
それには2つの理由があった。1つは九条の魔力を糧として生きている為。
そして問題なのはもう1つ――
108番は薄々だが感づいていたのだ。九条が転生者であることを――
それこそが九条を敵に回せない最大の要因なのだ。桁違いの魔力。それを使いこなせるほどの適性値。そして時折見せる不可解な行動……。
そのどれもがこの世界の人間には成し得ないもので、それは過去の勇者に酷似していた。
九条もそれに勝るとも劣らないほど強大な力を保有しているが、本人はそれに気付いていない。
強さを求めていない故かそれをさらけ出そうとせず、108番には都合が良かったのだ。
(それでいい……。それを人間達に知られるのはマズイ……)
人間の寿命は短い。2000年も前の勇者がどういう存在であったのか記憶している者は、ほぼいないだろう。
文献に蓄えられている知識なぞ朧げなものばかり。そんな物に頼らずとも、108番はそれを覚えている。
今の九条は、白にも黒にも染まっていない言わば中立の立場であるのだ。
(人間達と共に歩むより、こちら側にいた方が心地よいと思わせなければ……。地上に巣食う人間共は、同族で争う醜い種族。その浅ましさに塗れれば、きっとマスターはこちら側に傾いてくれるはず……)
今はまだ育む時。全てを明かすには時期尚早であるのだ……。
「ほうれん草? お野菜ですか?」
「いいや違う。報告、連絡、相談。略してホウレンソウだ。これは組織の上下を繋ぐ重要な意味を持つ言葉だ。わかるか?」
「なるほど。わかりますけど、それが何の関係が?」
「まぁ、落ち着け。そのホウレンソウをしていれば、未然に防げた事故もあるかもしれないということが言いたいんだ」
「確かにそういった事例もあるかもしれませんね。……で、何が言いたいんです?」
「今回の件はまさにそれだ。108番が俺に報告していれば、防げた事故のはずなんだ……」
「はぁ……。……え? どういう事です?」
何を言っているのだろうという顔だ。まぁ、これで察してくれというのが無理か。
「つまり……。つまり、その……トラちゃんは死んでしまったということだ……。すまない……」
玉座から立ち上がると、誠心誠意心を込めて頭を下げる。
「それは理解しています。気にしないでください。マスターが謝ることではありません。むしろマスターに守ってもらえたのならトラちゃんも本望でしょう」
「いや、そうじゃなくてだな……」
「はぁ、道理で反応がないわけです……。残念ですが仕方ありません。それで、どこの誰が倒したんですか? 別の魔獣を送りつけてミンチにしてやります!」
「それは……」
「も……もしかして勇者ですか!? あいつ! またしても我らの邪魔を……」
「……俺だ……」
108番が動きを止める。何かを思案しているようなそぶりを見せるも、その目は酷く泳いでいた。
「……んー、よく聞こえませんでした。もう一度お願いしてもよろしいでしょうか?」
「俺が討伐してしまったんだ……」
「……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
驚くのも無理もない。顎が外れるんじゃないかと思う程大きく開けられた口から盛大に漏れる疑惑の声。
予想外の答えに、理解が追い付いていないのだろう。
「何故です!?」
「いや、知らなかったんだよ。まさか金の鬣が108番の言っているトラちゃんだとは思わなくて……。というか言ってくれればよかったじゃないか。こっちだって出来るだけ戦いたくはなかった。言葉も通じないし、襲ってくるものは撃退する以外に方法はないだろう?」
「そうですけど……」
「そもそもなんであんなものを呼び出したりしたんだ!? 騒ぎになって当然だろう?」
「だって……、マスターがダンジョンに護衛を置いてくれなかったから……」
「ゔっ……」
確かに当初から催促はされていた。今思うと何故そうしなかったのかと過去の自分に呆れるが、当時はこちらの世界に来たばかりで、まだ慣れていなかったのだ。
考えが甘かったとしか言いようがない。人の土地に無断で入ってくるなんて、そうそうないと思っていたのだ。
ウルフ狩りのキャラバン。オーク族のゴズに、ミアを亡き者にしようとしたノルディック。
魔物はさておき、この世界の人々は、犯罪に対する意識が低い。街の外であれば大抵のことが放置されているのが現状だ。
村の中であれば最低でも自警団。街ならそれなりに役人も駐在しているし、領主の住まう都であれば騎士団等も治安維持に尽力してはいるが、機能しているのは敷地内とその防衛のみ。
外の見回りなんかしていない。被害が出てから重い腰を上げるのが実情であり、街の外は無法地帯と言ってもいい。
むしろ外は冒険者の領域。襲ってくるなら話は別だが、賞金首以外は例え盗賊だろうと相手にしない。
だからこそ盗賊がのさばり、悪行の数々を尽くしているのだろう。馬車の護衛依頼が多いのもその理由の1つだ。
「それは悪かったと思ってる。だからこそノルディックをデュラハンとして置いているじゃないか。あれだけの強さがあれば十分だろ?」
「まぁ、強さについては申し分ありませんが……」
今なら108番の考えも理解出来る。ダンジョンハートが破壊されれば自分の命が消えるのだ。それは俺も同じこと。
どんな相手が来ても、撃退出来る安心感が欲しいといったところだろう。
「わかったよ。不満があるなら聞こう。できるだけそれに応えるから、トラちゃんのことは許してくれ」
「じゃぁもう1匹、四天魔獣皇を呼び出させてください。いいですか?」
「ああ、わかった。先に聞いておくがどんな奴だ?」
「……あっ、どうせならマスターが選んでくださいよ。その方がいいですよね?」
「確かにそうだが……」
「じゃぁ、分かりやすいように説明するんでちゃんと聞いてくださいね」
それに無言で頷く。言われなくてもそうするつもりだ。
それを従えなくてはならないのなら尚更である。出来れば温厚な感じの扱いやすい魔獣であってほしい。
正直に話したからか、108番の機嫌も少しは良くなったようにも見え、ひとまずは胸を撫でおろした。
「まずは、アコーディオン・ダイバーちゃんです。大きなワームを想像して頂ければよろしいかと存じます。その外殻は金属よりも固く、ギラギラと鈍く光ることから人間達には灰の蠕虫と名付けられていたと記憶しています。地下に穴を掘るのが得意で、ダンジョンの拡張に役立ちます。人間の街を地下から破壊するのを目的として作り出されました」
「……ん?……」
「どうしました?」
「いや、なんでもない……」
灰の蠕虫という名に聞き覚えはないが、その特徴はノーザンマウンテンのダンジョン調査で戦ったワームと、若干似ている気がしたのだ。
「次は、アブソリュート・クイーンちゃんといって……」
「すとぉーっぷ! それってアレだろ? 白い悪魔って呼ばれてて再生能力を持ってる……」
「おお! ご存知でしたか! アブちゃんは凄いですよ? 海水から魔力を取り込めるので、海の中ではほぼ無敵です!」
「……すまん。それも俺が倒した……」
108番の顔が一瞬引きつったように見えた。
「ま……またまた御冗談を。それはないですね。確かにいつでも封印を解けるようにと魔力を送り込んではいますけど、封印は解いてませんもん」
「セイレーンの女王が封印を解いたと聞いている。海で暴れていたそいつを俺が倒した……。1ヵ月ほど前の話だ」
「……ちょっと調べさせてもらっても?」
「ああ」
108番は先程と同じように地面に両手を付き、目を閉じた。
数分後、この世の終わりとも思える絶望にも似た表情を俺に向けると、口をぱくぱくと動かし始めた。
「……あ……あ……」
「……な?」
「な? じゃないですよ! 何てことしてくれたんですか!」
「それはセイレーンの女王に言うべきじゃないか? と言っても、もう先代はクイーンに返り討ちに合い、殺されたようだが」
「ざまぁないですね! ……じゃなくて!」
なんだかんだでノリのいい108番。裏拳かと思うほどの鋭いツッコミは空を切るも、そのスタイルは嫌いじゃない。
「悪かったとは思ってるよ。だが、不可抗力だ。悪気があったわけじゃない。知っていれば別の手段をとった。そうだろ?」
「むぅぅ……。じゃぁ、お詫びとして彼らの最後を教えてください。そうすれば許してあげます」
どんなことを求められるかと思えば、実況見分でいいなら願ってもない話だ。
そして全てを話した。金の鬣の討伐。白い悪魔とセイレーン、そしてサハギン達の関係。
それを108番は時折物思いに耽りながらも、神妙な面持ちで聞いていたのだ。
「……というわけだ。申し訳ないとは思っているが、今度は是非先に言ってくれるとありがたい」
「わかりました。報告の義務を怠った私にも非がないわけではありません。そのことは水に流しましょう。最後に……その……1つ質問なのですが、マスターが死霊術をお使いになられても他の人間達は何も言わなかったんですか? 人間達の間では外法と言われているんですよね?」
「ああ。そうみたいだが、信用している者達にしか明かしていないから大丈夫だとは思う」
「なるほど……。どうせならバーンと1発かましてやればいいんじゃないですか? 例え見られていても、それだけ強大な力があれば、人間達の考え方も変わるのでは?」
「そんな分の悪い賭けはしない。そもそも俺はどう思われていようと構わないんだ。言いたい奴には言わせておけばいい」
「さすがマスター! 器が大きい!」
「面倒臭いだけだ」
その話が終わってすぐだ。108番が侵入者に気が付くと、姿を現したのはカガリに乗りやって来たミア。それとワダツミである。
「おにー……。……何やってるの?」
「……反省だ」
俺は玉座に正座していた。そして目の前の108番の手を握りながら話をしていたのである。
別に好きでやっている訳じゃない。そうすれば許してくれると言われたのだ。
ミアには108番が見えていない。故に正座しながら両腕を前に伸ばしているという若干シュールな絵面に見えている事だろう。
いや、見えてはいないが知っているからこそ生まれる誤解もあるのだ。
「胸を……揉んでる?」
「違う! 手を握っているだけだ!」
言われてみれば、そう見えなくもない。とはいえそれは証明できない。
すぐに108番から手を離すと、気まずさを払拭するかのように咳払いで茶を濁す。
「で、何かあったのか?」
「えっと、おにーちゃんにお客様だよ。貴族の偉い人なんだけど……」
誰だろう……。貴族とはいえ、ミアが名前を出さない所を見ると、俺の顔見知りではなさそうだ。
知らない人であればネストが許可証を発行しないはずであるが……。
……考えていても仕方がない。ワダツミを連れてきたのは急いでいる為だろう。
「108番。すまないが、あの話は一旦保留にしておいてくれ」
「わかりました。お早いお帰りをお待ちしています」
「すまんな、ワダツミ」
断りを入れてからワダツミに跨り、カガリとミアを先頭にダンジョンを駆け上がると、俺達は村へと急いだ。
――――――――――
九条が去り、シンと静まり返るダンジョンで108番はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
四天魔獣皇。それは魔王に仕えし忠実なる4匹の僕。
その内の2体。失った戦力は甚大だ。憤慨したい気持ちもあるが、九条の機嫌を損ねることは出来ない。
それには2つの理由があった。1つは九条の魔力を糧として生きている為。
そして問題なのはもう1つ――
108番は薄々だが感づいていたのだ。九条が転生者であることを――
それこそが九条を敵に回せない最大の要因なのだ。桁違いの魔力。それを使いこなせるほどの適性値。そして時折見せる不可解な行動……。
そのどれもがこの世界の人間には成し得ないもので、それは過去の勇者に酷似していた。
九条もそれに勝るとも劣らないほど強大な力を保有しているが、本人はそれに気付いていない。
強さを求めていない故かそれをさらけ出そうとせず、108番には都合が良かったのだ。
(それでいい……。それを人間達に知られるのはマズイ……)
人間の寿命は短い。2000年も前の勇者がどういう存在であったのか記憶している者は、ほぼいないだろう。
文献に蓄えられている知識なぞ朧げなものばかり。そんな物に頼らずとも、108番はそれを覚えている。
今の九条は、白にも黒にも染まっていない言わば中立の立場であるのだ。
(人間達と共に歩むより、こちら側にいた方が心地よいと思わせなければ……。地上に巣食う人間共は、同族で争う醜い種族。その浅ましさに塗れれば、きっとマスターはこちら側に傾いてくれるはず……)
今はまだ育む時。全てを明かすには時期尚早であるのだ……。
22
あなたにおすすめの小説
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月中旬出棺です!!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる