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第216話 恐怖の再来
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まだまだ年少ではあるものの、素直ないい子達に深く頷き返すバイス。試験とは言え、一緒にパーティを組んだ仲。貴族としても冒険者としても自分の後輩にあたるのだ。初々しくもあり、可愛く見えてしまうのも仕方のない事である。
彼等に小さかった頃の自分を重ねてしまい、懐かしい気持ちに頬を緩ませたのだ。
「……そうだ。お前達これから暇だろう? 村の冒険者ギルドに美味い食堂が併設されてるんだが、一緒にどうだ? 奢ってやるぞ? 中でもプラチナプレートって名前の山盛りの飯がオススメで、九条とも一緒に飯を食う約束をしてるんだ」
「ホントですか!?」
「ああ、どうする?」
「是非行きます……けど……」
「けど?」
「立てるようになったらで……」
あまりの恐怖に腰を抜かしていた生徒達に、さすがのバイスも失笑を禁じ得ない。
「そうかそうか。まぁ、まだ時間はある。それまでここで後続パーティーの様子でも見て笑ってりゃいい」
「え?」
その時だ。合宿所の隣の小屋に、帰還水晶のゲートが出現した。そこから飛び出して来たのは2番目にスタートした別の生徒達である。
顔面蒼白の4人がゲートから飛び出すと、何もない所で躓く者に肩で息をする者と様々だが、慌てふためくその様子は、まるで先程の自分達を見ているかのよう。
その後、ゲートが消える直前に出て来る試験官の冒険者。多少の焦りは見えるものの、やはりプロだ。落ち着きは無くしていない。
「よう、ノルド。どうだった?」
「どうもこうもねぇよ。去年はミノタウロスだったんだぞ? レベルが違い過ぎる。トラップだって初心者には見破れねぇよ。何度心の中で開けるなと言ったことか……」
「すげぇわかる」
バイスはその言い草にゲラゲラと笑い、ノルドと呼ばれたドワーフの冒険者は呆れたように肩を竦めた。
その様子を見ていた2番手の生徒達も、冒険者との差に驚きを隠せないといった表情で、それが滑稽にも見えたのだ。
その後も同じような展開が続いた。
一定の時間を置いて逃げ帰ってくる生徒達。皆一様に顔面蒼白でゲートを出た直後はガタガタと震えていた。それを見て先発の生徒達がゲラゲラと笑う。
逃げ帰って笑われるのだ。精神的ダメージが少なからずあるものの、時が経てば後発パーティの様子に何故笑われたのかを理解し、今度は自分達が笑う立場である。
そこには、言葉には言い表せない奇妙な一体感が生まれていた。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとは良く言ったもので、ある程度落ち着くと、生徒達は誰に言われるまでもなく反省会を始めていた。
しかし、それは帰還水晶の出口である小屋の近くでだ。こんな面白イベントを逃す手はないと、皆そこから動こうとはしなかった。
それに変化が訪れたのは、13組目のパーティだった。
特別クラスの2人と通常クラス2人で結成されているそれは、恐らく今回の生徒達の中では最強だと噂されているパーティ。
もしかしたらデスナイトにも勝てるかもしれない……と、淡い期待を抱かせるほどの人物がその中にはいるのだ。
その人物こそ、学院トップとも噂される第4王女のリリー。幼き頃からネストの個人授業を受けているのだ。実力があって当然である。
それだけの実力があるのにリリーが特別待遇クラスではないのには訳がある。表向きは、出来るだけ多くの貴族達との友好関係を築く為という事にしているが、内実は特別クラスにアレックスがいたからだ。
アレックスの親は第2王女派閥のトップ。第4王女の情報がアレックスを通して漏れる恐れがあった。
あの有名な問題児である。警戒しておいて損はないと、ネストの目の届く範囲に置いているのだ。
小屋に帰還ゲートが開かれると、生徒達はガッカリしたような表情を浮かべた。さすがの王女様もアレには勝てなかった。そう考えてしまったのだろう。
それは間違ってはいなかった。しかし、それだけではなかったのだ。
3人の生徒達が顔面蒼白でゲートから出て来た。そこまでは今までと変わらない。
そして20秒後、ゲートは虚しくその役目を終えたのである。
「えっ?……」
1人の生徒がその意味を理解出来ず、無意識に声を漏らした。帰還した3人の中に王女は含まれていなかったのだ。
ネストが血相を変え、その3人に駆け寄り肩を掴む。
「いったい何があったの!?」
3人の生徒達は五体満足。それには安堵しつつも、その怯え方は尋常ではなかった。それは今までの生徒達とは比べ物にならないほど。
どうすればそこまで怯えることが出来るのか。ガタガタと唇を震わせ、声を出そうにも出せてない。
「落ち着きなさい。貴方達は帰ってこれた。大丈夫よ。それよりダンジョンで何があったのかを教えて」
その時だ。小屋に新たなゲートが生まれた。そこから出て来たのは王女である。しかし、それを見て安堵する者はいなかった。血塗られた右腕が力なく垂れ下がっていたからである。
左手で押さえているので傷自体は見えないが、切り裂かれた制服の袖から流れ出ている血液の量が、その度合いを安易に連想させた。
「九条を呼んで! 早く!!」
あの温厚な王女が、そう叫んだのだ。その必死の形相は、酷く焦燥感に駆られていた。
そしてもう1人、ゲートを通る者がいた。いや、自分の意志で抜けて来たというより、飛んで来たと言った方が正しい。文字通りゲートに投げ入れられたのだ。
それが地面にゴロゴロと転がり横たわる。その冒険者はピクリとも動かない。
「ロイド!!」
「ヴグァァァァァ!!」
それに気を取られている時間はなかった。ゲートから出て来たのが、それだけではなかったからである。
3体のデスナイトに黒いフード付きのローブを深く被った魔術師風のスケルトンが1体。
身体の周りをうっすらと怪しく光らせているそれは、肉眼で確認出来るほどの濃密な魔力の流れである。
「リッチ!?」
アンデッド種で最強と謳われている魔術師。スケルトンメイジなんかとは比べ物にならないほどの強さを誇る魔物である。
物理系最強の戦士がデュラハンだと例えるなら、魔術系最強はリッチである。端的に言うとバケモノだ。
「ロザリー先生はロイドさんを! マグナス先生は九条を呼んできてください! ネストと冒険者の皆さんはここで魔物の足止めを! 私も手伝います!!」
即座に指示を飛ばしたのはリリーだ。それだけの怪我をしても尚冷静であるのはさすがである。
その指示に従わぬ者などいない。リリーはれっきとした王族。この場の指揮権持つのは当然のことだ。
冒険者達は各々でデスナイトの前に出る。これは緊急事態だ。試験ではない。
「クソっ! 何が起きた!?」
「わかんねぇけどやるしかねぇ! これ別に報酬でるんだろうな!?」
ここで押さえなければ、生徒達どころか村が滅んでしまうほどの魔物だ。幸いにも近くに村人の姿は見えないが、だからといって見逃せる状況ではない。
「「"グラウンドベイト"!」」
盾適性スキルを持つ冒険者達がそれを引き付け、完全なる防御の構え。数ではこちらの方が上である。
デスナイトから繰り出される一撃は重く、かすることさえ許されない斬撃が幾度となく冒険者達を襲う。
芝が剥がれてしまうほどの踏み込みで打ち込まれるそれを必死に耐えつつ、残りの冒険者は攻撃に徹する。
鳴り響く金属音にタンクからの指示が飛び、辺りは長閑な田園から一気に戦場へと姿を変えた。
「左から攻めろ! 獲物を持ってない方の腕を狙え!!」
「言われなくともわかってるよ! 合わせろ! 3カウント!」
「2! 1! "シールドバッシュ"!」「"シールドバッシュ"!」
複数人が同時に放った大盾での体当たり。さすがのデスナイトもそれにはバランスを崩し、その場に倒れる。
土埃と芝が舞い上がる中、起き上がろうとするそれはリリーのファインプレーに阻まれた。
「【氷結束縛】!」
デスナイトが白く染まると霜が降り、さらにはビキビキと音を立てて空気中の水分が氷へと変化する。
氷と氷が結合を繰り返し、その中へと捕らえられたデスナイトは藻掻くことすら許されず、一瞬で地面に磔にされたのだ。
だが、それは動きを止めただけである。討伐と呼ぶにはほど遠い。なぜならここにいる冒険者達はほぼ全員がタンクであり、守ることに特化した者達。武器は所持しているものの、その攻撃力はデスナイトに通じるほどの威力はない。
1体だけならまだしも、3体。しかも親玉まで警戒せねばならない。精々足止めが精一杯だ。
唯一のアタッカーは、ネストとリリーだけではあるが、自由に動けるのは恐らくリリーだけ。
ネストはすでに動けない。リッチが何をして来るのかでその行動は変わってくる。
リッチほどの魔力で範囲系攻撃魔法なぞ撃たれようものなら大惨事。何としてでも生徒達を守らなければならないのである。
一方その頃。九条はバイスと共に食堂で食事を楽しんでいた……。
彼等に小さかった頃の自分を重ねてしまい、懐かしい気持ちに頬を緩ませたのだ。
「……そうだ。お前達これから暇だろう? 村の冒険者ギルドに美味い食堂が併設されてるんだが、一緒にどうだ? 奢ってやるぞ? 中でもプラチナプレートって名前の山盛りの飯がオススメで、九条とも一緒に飯を食う約束をしてるんだ」
「ホントですか!?」
「ああ、どうする?」
「是非行きます……けど……」
「けど?」
「立てるようになったらで……」
あまりの恐怖に腰を抜かしていた生徒達に、さすがのバイスも失笑を禁じ得ない。
「そうかそうか。まぁ、まだ時間はある。それまでここで後続パーティーの様子でも見て笑ってりゃいい」
「え?」
その時だ。合宿所の隣の小屋に、帰還水晶のゲートが出現した。そこから飛び出して来たのは2番目にスタートした別の生徒達である。
顔面蒼白の4人がゲートから飛び出すと、何もない所で躓く者に肩で息をする者と様々だが、慌てふためくその様子は、まるで先程の自分達を見ているかのよう。
その後、ゲートが消える直前に出て来る試験官の冒険者。多少の焦りは見えるものの、やはりプロだ。落ち着きは無くしていない。
「よう、ノルド。どうだった?」
「どうもこうもねぇよ。去年はミノタウロスだったんだぞ? レベルが違い過ぎる。トラップだって初心者には見破れねぇよ。何度心の中で開けるなと言ったことか……」
「すげぇわかる」
バイスはその言い草にゲラゲラと笑い、ノルドと呼ばれたドワーフの冒険者は呆れたように肩を竦めた。
その様子を見ていた2番手の生徒達も、冒険者との差に驚きを隠せないといった表情で、それが滑稽にも見えたのだ。
その後も同じような展開が続いた。
一定の時間を置いて逃げ帰ってくる生徒達。皆一様に顔面蒼白でゲートを出た直後はガタガタと震えていた。それを見て先発の生徒達がゲラゲラと笑う。
逃げ帰って笑われるのだ。精神的ダメージが少なからずあるものの、時が経てば後発パーティの様子に何故笑われたのかを理解し、今度は自分達が笑う立場である。
そこには、言葉には言い表せない奇妙な一体感が生まれていた。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとは良く言ったもので、ある程度落ち着くと、生徒達は誰に言われるまでもなく反省会を始めていた。
しかし、それは帰還水晶の出口である小屋の近くでだ。こんな面白イベントを逃す手はないと、皆そこから動こうとはしなかった。
それに変化が訪れたのは、13組目のパーティだった。
特別クラスの2人と通常クラス2人で結成されているそれは、恐らく今回の生徒達の中では最強だと噂されているパーティ。
もしかしたらデスナイトにも勝てるかもしれない……と、淡い期待を抱かせるほどの人物がその中にはいるのだ。
その人物こそ、学院トップとも噂される第4王女のリリー。幼き頃からネストの個人授業を受けているのだ。実力があって当然である。
それだけの実力があるのにリリーが特別待遇クラスではないのには訳がある。表向きは、出来るだけ多くの貴族達との友好関係を築く為という事にしているが、内実は特別クラスにアレックスがいたからだ。
アレックスの親は第2王女派閥のトップ。第4王女の情報がアレックスを通して漏れる恐れがあった。
あの有名な問題児である。警戒しておいて損はないと、ネストの目の届く範囲に置いているのだ。
小屋に帰還ゲートが開かれると、生徒達はガッカリしたような表情を浮かべた。さすがの王女様もアレには勝てなかった。そう考えてしまったのだろう。
それは間違ってはいなかった。しかし、それだけではなかったのだ。
3人の生徒達が顔面蒼白でゲートから出て来た。そこまでは今までと変わらない。
そして20秒後、ゲートは虚しくその役目を終えたのである。
「えっ?……」
1人の生徒がその意味を理解出来ず、無意識に声を漏らした。帰還した3人の中に王女は含まれていなかったのだ。
ネストが血相を変え、その3人に駆け寄り肩を掴む。
「いったい何があったの!?」
3人の生徒達は五体満足。それには安堵しつつも、その怯え方は尋常ではなかった。それは今までの生徒達とは比べ物にならないほど。
どうすればそこまで怯えることが出来るのか。ガタガタと唇を震わせ、声を出そうにも出せてない。
「落ち着きなさい。貴方達は帰ってこれた。大丈夫よ。それよりダンジョンで何があったのかを教えて」
その時だ。小屋に新たなゲートが生まれた。そこから出て来たのは王女である。しかし、それを見て安堵する者はいなかった。血塗られた右腕が力なく垂れ下がっていたからである。
左手で押さえているので傷自体は見えないが、切り裂かれた制服の袖から流れ出ている血液の量が、その度合いを安易に連想させた。
「九条を呼んで! 早く!!」
あの温厚な王女が、そう叫んだのだ。その必死の形相は、酷く焦燥感に駆られていた。
そしてもう1人、ゲートを通る者がいた。いや、自分の意志で抜けて来たというより、飛んで来たと言った方が正しい。文字通りゲートに投げ入れられたのだ。
それが地面にゴロゴロと転がり横たわる。その冒険者はピクリとも動かない。
「ロイド!!」
「ヴグァァァァァ!!」
それに気を取られている時間はなかった。ゲートから出て来たのが、それだけではなかったからである。
3体のデスナイトに黒いフード付きのローブを深く被った魔術師風のスケルトンが1体。
身体の周りをうっすらと怪しく光らせているそれは、肉眼で確認出来るほどの濃密な魔力の流れである。
「リッチ!?」
アンデッド種で最強と謳われている魔術師。スケルトンメイジなんかとは比べ物にならないほどの強さを誇る魔物である。
物理系最強の戦士がデュラハンだと例えるなら、魔術系最強はリッチである。端的に言うとバケモノだ。
「ロザリー先生はロイドさんを! マグナス先生は九条を呼んできてください! ネストと冒険者の皆さんはここで魔物の足止めを! 私も手伝います!!」
即座に指示を飛ばしたのはリリーだ。それだけの怪我をしても尚冷静であるのはさすがである。
その指示に従わぬ者などいない。リリーはれっきとした王族。この場の指揮権持つのは当然のことだ。
冒険者達は各々でデスナイトの前に出る。これは緊急事態だ。試験ではない。
「クソっ! 何が起きた!?」
「わかんねぇけどやるしかねぇ! これ別に報酬でるんだろうな!?」
ここで押さえなければ、生徒達どころか村が滅んでしまうほどの魔物だ。幸いにも近くに村人の姿は見えないが、だからといって見逃せる状況ではない。
「「"グラウンドベイト"!」」
盾適性スキルを持つ冒険者達がそれを引き付け、完全なる防御の構え。数ではこちらの方が上である。
デスナイトから繰り出される一撃は重く、かすることさえ許されない斬撃が幾度となく冒険者達を襲う。
芝が剥がれてしまうほどの踏み込みで打ち込まれるそれを必死に耐えつつ、残りの冒険者は攻撃に徹する。
鳴り響く金属音にタンクからの指示が飛び、辺りは長閑な田園から一気に戦場へと姿を変えた。
「左から攻めろ! 獲物を持ってない方の腕を狙え!!」
「言われなくともわかってるよ! 合わせろ! 3カウント!」
「2! 1! "シールドバッシュ"!」「"シールドバッシュ"!」
複数人が同時に放った大盾での体当たり。さすがのデスナイトもそれにはバランスを崩し、その場に倒れる。
土埃と芝が舞い上がる中、起き上がろうとするそれはリリーのファインプレーに阻まれた。
「【氷結束縛】!」
デスナイトが白く染まると霜が降り、さらにはビキビキと音を立てて空気中の水分が氷へと変化する。
氷と氷が結合を繰り返し、その中へと捕らえられたデスナイトは藻掻くことすら許されず、一瞬で地面に磔にされたのだ。
だが、それは動きを止めただけである。討伐と呼ぶにはほど遠い。なぜならここにいる冒険者達はほぼ全員がタンクであり、守ることに特化した者達。武器は所持しているものの、その攻撃力はデスナイトに通じるほどの威力はない。
1体だけならまだしも、3体。しかも親玉まで警戒せねばならない。精々足止めが精一杯だ。
唯一のアタッカーは、ネストとリリーだけではあるが、自由に動けるのは恐らくリリーだけ。
ネストはすでに動けない。リッチが何をして来るのかでその行動は変わってくる。
リッチほどの魔力で範囲系攻撃魔法なぞ撃たれようものなら大惨事。何としてでも生徒達を守らなければならないのである。
一方その頃。九条はバイスと共に食堂で食事を楽しんでいた……。
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