生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第243話 不安と葛藤

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 シャロンは九条に理解を求める為、全てを話した。シャーリーの想いは隠しつつも、ベルモントギルドでの現状をだ。

「このままだとシャーリーの担当を降ろされてしまうのです。それが嫌で……」

 シャーリーはベルモントでは貴重な冒険者。支部長のノーマンとてそれは理解している。
 ゴールドの冒険者が減っている現状では次点であるシャーリーを手放す訳にはいかない。
 その為にも担当にはシャーリーの監視をして欲しかったのだ。だが、シャロンはそれを断った。冒険者が何処へ行こうが自由。シャーリーは”専属”冒険者ではない。
 そこからノーマンの担当降ろしが始まったのである。普段通りの仕事をしていても、下がる評価はギルド内部の者にしかわからない。
 行方不明だったシャーリーの無事がわかると、それは目に見えて加速した。
 九条に謝罪し、許しを請えばシャーリーが九条を連れて来るようになるかもしれない。何故だか九条はシャーリーとなら行動を共にするからだ。
 九条がシャーリーを気に掛けているなら、それを利用しない手はないだろう。
 シャーリーに難しい依頼を投げれば、九条が重い腰を上げるかもしれない。上手くいけば、ギルド内でのノーマンの株も上がる。
 だが、正直に言ってシャロンにはそんな事どうでもよかった。シャロンにとって最も重要な事は、担当を外されてしまう事なのだ。だから、そうなる前に手を打っておきたかったのである。

「なんで言ってくれなかったの!?」

「ごめんなさいシャーリー。何度も考えたけど、九条様を頼る以外の方法がなかった。担当を決めるのはギルド側だから……」

 残念ながらシャーリーにはどうすることも出来ない。ギルドの人事に口を出せるほどの大貴族か王族。それか同等の発言権を持つプラチナプレート冒険者がどうしても必要だった。
 担当を辞めずに済む方法は1つだけ。それはコット村へと異動になること。
 本部に申請すれば受理される可能性はあるが、審査にはそれ相応の時間と理由が必要だ。それを待つ時間は残されておらず、その間に担当を外されては意味がない。
 そこで、ネクロガルドの騒ぎに便乗して異動を打診しようと画策したのである。

「正直言いまして、九条様には何も得することがありません。断っていただいても結構でございます」

 九条は顎に手を当て真剣に考えていた。シャロンが嫌いな訳じゃない。助けてあげたい気持ちもあるのは確かだ。
 ただ、面倒なことは避けたいという心情と、もし失敗したらという不安が九条に二の足を踏ませていた。
 それを解消できるほどのメリットがあればいいのだが、そう簡単には見つからない。

「……シャーリーに聞きたいんだが、この話が上手くいったとして、本当にコット村に住むつもりなのか?」

「ええ。私は構わないわ。担当を変えるのは私としても不本意だし、シャロンの異動が上手くいくならホームの変更くらい全然平気。別にベルモントに未練はないし」

 潤んだ瞳で俯くシャロン。助けてほしいとは言えなかった。九条にとってはシャーリーを助けるのとは別の話。シャロンは一介のギルド職員であり、九条との繋がりは何もない。
 九条の性格はシャーリーから聞いているので知っている。恐らくは断られるだろうと思っていた。

「わかった。その話、協力しよう」

「本当ですか!?」

 勢いよく頭を上げたシャロンは、信じられないといった表情で九条を見つめていた。

「ホントにいいの?」

「ああ。もちろんだ」

 シャーリーがコット村に定住するのはメリットとしては悪くなかった。シャーリーは九条の秘密を知っているのだ。それを手元に置いておけるのは十分メリットに値する。
 シャーリーは王族でもなく貴族でもない一般的な冒険者。それを攫って九条の秘密を吐かせようとする輩が出てこないとも限らないのだ。
 九条は村の出来事なら大体把握している。それは村中にいる従魔達が九条の目であり耳であるからに他ならない。
 監視……と言うと聞こえは悪いが、ミアを守る為には必要な事。ついでにシャーリーも守れると思えば悪くない。
 そしてなにより、今後ギルドの依頼を受ける際に、レンジャーの心配をしなくて良くなるのは大変ありがたいのである。

(知らない人とパーティーを組むのは、出来ればご遠慮願いたい……)

 見知った仲間であれば自分の秘密を隠す必要がなく、精神的にも非常に楽なのである。

「シャロンさんに質問させてください。協力するのはやぶさかではないんですが、何故コット村なんです? 王都やハーヴェストの方が仕事も多く、シャーリーにとっては稼ぎもいいのでは?」

 至極当然の疑問であるが、その質問に酷く動揺したのはシャーリーである。
 秘めたる想いの為に……なんてシャロンに口走られようものなら、恥ずかしすぎて死んでしまう。
 だが、シャロンにはちゃんとした理由があったのだ。

「この村だけが、冒険者側が担当を選んでいいからです」

「あー……、そういやそんな制度ありましたね……」

 コット村で活動する冒険者に与えられる特典の1つだ。ギルド職員の異動が決まれば、現在受け持っている冒険者の担当は解除され、異動先で新たな冒険者の担当に付く。
 普通であればそれを選ぶのはギルド側だが、唯一コット村だけが冒険者側が指定できるのである。
 それは冒険者の減少対策として設けられている制度。賑わいを取り戻したとはいえ、それはまだ生きているのだ。
 ちなみに、コット村の担当にしたいギルド職員ランキングでは、グレイスがダントツのトップである。(ミア調べ)

「シャロンさんがシャーリーの担当を外されるまでの猶予は?」

「正直はっきりとはわかりません。……ですが遅くとも1ヵ月以内には降格処分となると思います。タイミング的にはその辺りかと……」

「わかりました。出来るだけ急ぎましょう」

 九条は椅子を引いて立ち上がると、防寒着をバサリと羽織る。

「少しギルドに行ってきます。お2人は泊って行かれるので?」

「うん。そのつもりだけど……」

「じゃぁ、鍵を渡しておくから好きな部屋を使ってくれ」

 テーブルに置かれたのは鍵の束。宿の予約状況を気にしている訳ではなく、九条にはまだ2人に話すことがあったのだ。

(相手がシャーリーとシャロンなら、ネストは許してくれるはず。1泊だけだし大目に見てもらおう……)

 九条がカガリを連れてギルドへと赴くと、カウンターに突っ伏してつまらなそうな顔を出していたのはミアである。田舎ギルドの昼下がり。こんな時間に冒険者なんているわけがない。
 ミアが九条を見つけると、椅子の上に立ち上がりカウンターから身を乗り出した。

「あっ! おにーちゃん! お仕事は終わり?」

 今日、九条に割り振られた仕事は村の見回りではなく、子供達のお守り。冬本番を迎えるにあたり、村では本格的な冬支度に入ったのである。
 今日は村人達が一堂に集まり、収穫された野菜や肉を保存食として作り置きする大事な日。
 野菜は主に漬物にするため天日干し。肉は蒸して燻製にと忙しい大人達に代わり、九条は子供達の面倒を見ていた。
 まぁ正確には、白狐と獣達が相手をしていて、九条はただそれを眺めていただけなのだが……。

「いや、まだだがコクセイに預けてきた」

「えぇ……」

 さすがのミアもドン引きである。仕事はちゃんとやらないとダメと言いたそうな顔であるが、村での仕事はボランティアのようなものである。
 それについては強くは言えない様子で、やきもきしているといった状態だ。

「まぁ、大丈夫だろ。乳幼児はいないし……」

 この緩さこそが九条が村を好いている理由でもある。コクセイに丸投げしたのは事実であるが、やりたくなくて仕事を放棄したわけじゃない。
 むしろ九条なんかより、コクセイや白狐の方が子供達には人気。安心して任せられるというものである。

「ソフィアさんは?」

「奥で作業中だよ? 何か用事?」

「ああ。王都のギルドと連絡を取って、俺用の依頼を全部ピックアップするよう言っておいてくれ。出来れば急ぎで頼む」

「え! おにーちゃんお仕事の依頼受けることにしたの? 冬眠から覚めるにはまだ早いよ!?」

「冬眠て……」

 確かに九条は寒い時期には動きたくないと言ったが、冬眠と言われるのは甚だ遺憾であると顔をしかめた。身から出た錆だと言われればそれまでなのだが……。

「でも、ミアは俺と一緒に仕事がしたいだろう?」

「うん!」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる九条に、目をキラキラと輝かせて大きく頷くミア。
 現金……いや、単純に素直なのだ。太陽のような笑顔は、嫌なことも全て忘れ去ることが出来る究極の魔法なのである。

「どれになるかわからんが、何かしらの依頼は受ける。ソフィアさんにはそう伝えておいてくれ。もちろんミアも連れて行くからそれもな」

「わかった!」

 椅子からピョンと飛び降りると、バタバタと駆け出し奥へと姿を消すミア。

「いや、急いでるとは言ったが、カウンターに誰もいないのはまずいんじゃないか?」

 その返事は返ってこない。

(この間に他の冒険者が来たらどうするのか……)

 まぁ、来ないのはわかっているのだが、万が一ということもある。それが気になった九条は即席の代役を置いた。

「カガリ」

 なんとなくわかっているのだろう。その表情は曇り気味だ。

「ミアの代わりに店番をしといてくれ」

「主……。言葉の分からぬ者がいても仕方のないことでしょう?」

「客が来たらミアを呼びに行くくらいは出来るだろ?」

「……」

(めっちゃ不貞腐れるやん……)

 九条がギルドを去る瞬間、ふと後ろを振り向くと、カウンターから顔を出しているカガリが恨めしそうに九条を見ていた。
 何と言うか、タバコ屋で店番をする看板犬のような佇まい……。それが九条にはシュールに見えて、僅かばかりに笑いを誘ったのである。
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