生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
256 / 722

第256話 罪の重さ

しおりを挟む
「アニタ。ギルドまで送ってやれ」

 帰りの馬車の付き添いは、ドルトンではなく魔術師ウィザードの女。

(深くローブを被っているのは顔を見られたくない為か? そんなことをしても無駄だ。すでに見たことがあるからな……)

 九条がアニタと共にグレッグの屋敷を出ると、自然と不快感は収まった。それに安堵の溜息をつく。

(どうせコイツも喋らないのだろうが、あの屋敷に留まるよりはマシか……)

 知らない人と乗る観覧車は、こんな気分なのだろうかと九条は苦笑いを浮かべた。
 無言のまま時は過ぎ、ただ外を眺めている九条であったが、アニタは船を漕いでいた。その理由がわからない九条ではない。

「そんなに寝られていないんですか?」

 その声にハッとしたアニタの顔が、徐々に赤みを帯びていく。
 誰だって睡眠を邪魔されれば途端に機嫌は悪くなる。それが怒りによるものなのか、恥ずかしさから来るものなのかは九条にはわからないが、どちらにせよ返事は返ってこないだろうと高をくくっていた。
 そんな九条の予想に反し、アニタは案外あっさりと口を開いたのだ。

「ねぇ。さっき言ってた準備ってのはどれくらいかかるの?」

(口止めされているわけではないのか? ただドルトンが無口なだけか?)

 どちらにせよ、会話が成り立つなら都合がいいと九条は素直に質問に答えた。

「与えられた期間で、なんとかしようとは思ってますが……」

「違う。お金の話。依頼を受けてくれるなら、私が準備に掛かる費用を捻出してもいいよ?」

 思わぬ申し出に目を丸くする九条。正直に言うと準備なんて必要はない。九条はただ、皆と相談する時間が欲しかっただけ。グレッグを言いくるめる為に嘘を付いただけなのだ。

(恐らくだが、30人近い者達があの屋敷で命を絶たれている。その迷える魂達がアンデッドとして実体化せず耐えているのは、何か理由があるからだ……)

 無理矢理祓うことは、九条にとっては造作もない事だが、出来ればそうはしたくなかった。

「あっ、わかってるよ? プラチナのあんたの方がお金を持ってることくらい。私はお金を別途払ってでも早く解決してほしいって事が言いたくて……」

「……」

「……ねぇ。何とか言ってよ!」

「嫌なら辞めればいいんじゃないですか? お金を払ってまで俺を頼ることはないでしょう?」

「それは……」

 冒険者は自由な職業だ。プラチナでなければ、それほど制限はされてはいない。嫌な依頼であれば無理にやる必要はない。いくら報酬が良かろうと、冒険者側にだって断る権利はあるのだ。

「辞められない理由はなんですか? 義理ですか? それとも人情?」

「……」

 俯き言葉に詰まるアニタ。九条はなんとなくわかっていた。彼らは一蓮托生なのだと……。

(グレッグは自分の手を汚さない。俺達を襲った時も、ネストを誘拐したときもそうだ。今回も恐らくはそうなのだろう)

 グレッグに言われるがまま、罪もない人を殺めた冒険者。辞めたくても辞めれない。裏切者には口封じと言う名の制裁が待っている。

「何人殺したんですか?」

「――ッ!?」

 僅かな身震い。その反応だけで、九条は十分理解出来た。

 アニタは怖くなってしまったのだ――

 始めは死霊術なんて怪しい魔法、信じてはいなかった。
 ゴーストやレイスなどのアンデッドは魔物として実体化している。だが、その前段階である魂や霊と呼ばれる存在は一般人には視認できない。故に信じていない者が大半だ。
 しかし、報酬目当てでグレッグの依頼を受けようとする死霊術師ネクロマンサーはそれなりにいたのだ。
 彼等がグレッグの屋敷に足を踏み入れると、皆が口を揃え同じことを言うのである。

「自分には手に負えない――」

 中には軒先で嘔吐してしまう者もいた。そして「よくこんな所に住めるものだ」と捨て台詞を残して去ってゆく。
 魂なんてものは存在していないと思っていたが、アニタには心当たりがあるのだ。認める以外に説明がつかなかった。
 5人目の死霊術師ネクロマンサーが屋敷を去ろうとした時、アニタはそれを引き留めその理由を聞いた。

「ここの迷える魂達が全てアンデッド化しようものなら、ゴールドのお前達でも手に負えないかもしれない。魔物は魔物を呼ぶ。それくらい知っているだろう? 街のど真ん中にダンジョンが出来るようなものだ。外は盗賊、中は無限に湧き出すアンデッド。それも時間の問題。下手に手を出してその責任を取らされても困るのでね」

 アニタがそれをグレッグに報告しても、彼等は報酬が上がるのを待っているだけなのだと言い張るだけで、取り付く島もない。
 確かにその可能性もなくはないとギルドに立ち寄るも、彼らは全員が即日に街を出ていた。
 グレッグはいい。アニタ達が護衛しているのだから。真夜中だと言うのに、ランタンの明かりを絶やさぬようにと命令して御就寝。
 寝室のランタンなんて数個で十分なのに、グレッグの部屋だけ20個はある。真夜中なのにもかかわらず、寝室だけは真昼であるかのような明るさだ。
 交替で寝ること自体は可能だが、アニタには護衛は付かない。それに女性はアニタだけ。
 仲間とは言え一緒の部屋で寝る気にはなれないし、だからといって1人で寝るのも心細い。
 何時起こってもおかしくないアンデッド化に怯えながらの生活。結局は恐怖が勝ってしまい、アニタは殆ど寝れていないのが現状であった。
 故に九条が最後の頼みの綱であるのだ。

(グレッグの屋敷を訪れた死霊術師ネクロマンサーで、唯一執務室まで辿り着けた冒険者……。だが、それは同時に自分の罪を認めてしまう事にも繋がる。……正直に言ってしまうべきか……。それとも……)

 しばらく続いた無言の時間。それは御者によって破られた。

「ギルド、着きましたよ?」

「ありがとうございます」

 九条は御者に礼を言って馬車を降り、迎えに来ていた狼の魔獣を自然な笑顔で撫でていた。

「ちょっと……」

 スッと消えた笑顔。アニタを見据えるその瞳は鋭く冷たいものであった。

「命は皆平等だ。それを奪ったのなら、奪われる覚悟もしているのでしょう。よく考えてから行動した方が良かったですね」

 従魔と共に去って行く九条の背中を見送るアニタの表情は、溢れ出る不安を隠せてはいなかった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...