生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第257話 守秘義務? なにそれおいしいの?

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「町長がブラバ卿でした」

「なんだと!?」

 それに驚きの声をあげ、頬張った食事を吹き出すバイス。
 時刻は夕方。九条が宿へ戻ると、夕食のテーブルを囲みながら皆にあったことを報告した。

(守秘義務? そんなものを俺が守るとでも思っているのだろうか? グレッグは1度自分の胸に手を当て、よく考えた方がいい)

 そもそも九条は、まだ依頼を正式には受注していないのだ。仕事内容の説明であれば部下の誰かにさせればいいだけであり、勝手に自分から姿を現したグレッグの落ち度である。
 その上で自分のことは他言無用だと言うのなら、少しは九条も考えたかもしれない。

(……少し考えてみたが、やっぱり言うわ……)

 奴はそれだけのことをしている。九条がそれを許すわけがないのだ。

「いや、あり得なくもないか……。グレッグはレストール卿と懇意にしていたはず。没落したそれを助けても不思議じゃない」

 聞こえは悪いが天下りのようなものだ。落ちぶれた侯爵に、伯爵が救いの手を差し伸べたのだろう。
 それが弱みを握られているからか、復権を見越して恩を売っておくという打算的な考えが働いているのかは定かではない。

「リザードテイルに関する資料はどうでした?」

「ああ。正直あまり役には立たないな。アジトの場所も複数個所あるようで報告はバラバラ。街の防衛もままならない有様でボロボロ。冒険者がいなきゃ街が乗っ取られても仕方ないって状況だ。正直今すぐにでも緊急の依頼を出すべき案件だが、九条の話を聞いて理解したよ」

「グレッグですね?」

「ああ。理由はわからんが騎士団の再編が原因だろうな。鎧を着ただけの素人じゃ守り切れるはずがない。それをレストール卿に知られたくないんだろう」

 緊急の依頼は周辺のギルドからも応援を要請する。ブラムエストからであれば、ロッケザークのギルドにも連絡は行くはずであり、それはギルドを通して領主の知るところとなるだろう。

「グレッグってのはバカなの? 騎士団の再編なんてしなきゃよかったのに……」

「もう貴族じゃないから言えるが、相当なバカだとは思うね。自分の思い通りにならないと気が済まないタイプなんだよ。それもカネと権力でなんとでもなるから性質たちが悪い」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるバイス。まるでタガが外れたかのように、バカだバカだと連呼するのは誰が見ても憂さ晴らし。
 九条はネストの魔法書の件でしか関わっていないが、それ以前よりの恨みを考えれば当然である。

「で? 九条は結局あのバカの依頼は受けるのか?」

「正直言って癪ですが、引き受けるつもりです。このままでは街が大変なことになってしまいますからね」

 それに溜息をつき、九条にジト目を向けたのはシャーリーとミア。

「これっぽっちも思ってないでしょ? そんなこと」

「あっ、バレた?」

 九条の性格は熟知しているとでも言いたげな視線。もちろん間違ってはいなかった。街の為に働くなんて気はサラサラない。それは九条なりの照れ隠しだ。

(本人を前にしてシャロンの為になんて言えるわけがないだろ……。恩着せがましいにもほどがある)

 それを悟られまいと、九条は不自然にはならないよう話を逸らす。

「引き受けるまでに2週間の猶予があります。その期間を有効活用し、グレッグには探りを入れてみようかと。騎士団の件もそうですが、浄霊のきっかけを探さないと……」

「もし、その間にアンデッド化がおこっちゃったらどうするの?」

 不安そうな視線を向けるミアだが、九条はちゃんと考えている。

「そうなったら逃げる」

 九条は、ミアを優しく撫でながらも、凛々しい顔で言い放った。

「えぇ……」

「仕事は引き受けてないし、まだ俺の所為じゃない。そうだろ?」

「そうだけど……」

 頭を撫でられたくらいじゃ騙されないぞと言わんばかりの困惑とも取れる微妙な表情を浮かべるミア。
 毎度のことながら、九条の打算的な考え方には少々の不満を覚えていた。

「なんてな。恐らくだが、そうはならない。大丈夫だ」

「ホントに?」

「ああ。むしろ現段階でアンデッド化していないのがおかしなくらいだが、それには何か理由があるはずなんだ」

「どういうこと?」

「そうだな……。イリヤスを覚えているだろ? 彼女はアンデッド化せずに10年の時を彷徨っていた」

「バルバロスさんを探す為だよね?」

「そうだ。自分を捕えた人間達に強い恨みを持っているにもかかわらず、そうはならなかった。それよりも成し遂げたかった目的……。未練が残っていたからだ」

「じゃぁ九条は、グレッグの屋敷の霊達もイリヤスちゃんと同じような未練を持っていると?」

「ああ。それがわかれば解決の糸口が掴めるかもしれない……」

「直接聞けば?」

 シャーリーの意見はもっともなのだが、そう簡単なものではない。

「恐らくは無理だ。怒り狂う魂達が聞く耳を持つとは思えない。それを鎮めることは出来なくはないが、グレッグの前での実演はデメリットでしかない。確定ではないが、自分達を殺したであろう者達の目の前でそれを行うのはリスクが高すぎる。説得に失敗すれば、それこそアンデッド化の引き金にもなりかねない」

 それを九条が言い終わった直後、街中に鳴り響いたのは、非常時を知らせる警報の鐘。

「なんだ!?」

 忙しなく鳴り響く警報と共に聞こえてきたのは、慌ただしい複数の足音。ガシャガシャとうるさい独特な金属音は、聞き慣れた鎧の擦れる音である。
 突然のことに驚きはしたものの、その原因は1つしかない。

「リザードテイルの野郎どもが、また来やがった!!」

 窓から外を眺めると、怒号をあげ南門へと走って行く冒険者達。それに混じって騎士団の面々も見受けられる。
 辛うじて開いていた商店も、店じまいに大忙しだ。

「いきましょう」

 面倒ではあるが仕事は仕事。九条の足取りは重いが、相手から姿を見せてくれたのはある意味幸運でもあった。

(死霊術は使えないが、盗賊相手に負けることはないだろう。盗賊程度なら俺とバイス、シャーリーだけでも十分だ。従魔達の力を借りるまでもない)

「作戦は!?」

 軽装であるがゆえに逸早く装備を整えたのはシャーリー。それに続くシャロンの表情は、やる気に満ち溢れていた。
 ようやくの出番である。この遠征はシャロンが蒔いた種でもある為、少しでも役に立たねばと、その気概は十分であった。

「防衛に専念しよう。出来るだけ目立たず、前線は他の冒険者と騎士団に任せる」

「ちょっと九条。この期に及んでまさか見てるだけとは言わないわよね?」

「そんなことするわけないだろ」

「じゃぁ、私達はどうすればいいの?」

「混戦しているところを狙って横から数人とっ捕まえるだけでいい。追い払ったらそいつからアジトを聞き出して、後は予定通りアンデッドを送り込む」

 攻めてきたのが全員とは限らない。どうせ逃げ出すのだから、アジトで一網打尽にした方が効率的だと九条は考えた。

「……」

「あれ? ダメ?」

「おにーちゃんらしいね……」

「……いまいちパッとしないけど、わかった。私とシャロンは城壁の上に陣取る。九条とバイスを援護するわ」

「頼む」

 最善であろう策を考えたつもりの九条であったが、返って来たのは苦笑い。確かに地味な作戦ではあるが、馬鹿正直に真正面から突撃するよりはマシである。
 相手はまだプラチナプレートがいることを知らない。ならば、そのアドバンテージは生かすべきだ。
 九条達が街の南門へと辿り着くと。鉄格子の門扉が降り、最前線には冒険者。その後ろに騎士団が待機しているといった格好だった。
 騎馬が邪魔であまり良くは見えないが、城壁から離れたところに見えるのは盗賊団リザードテイル。
 大きなトカゲに跨っている屈強な戦士達だ。

(なるほど。道理で騎士団が勝てない訳だ……)

 装備の質で言えば騎士団に軍配が上がる。だが、中身はどう見ても勝ち目はない。筋骨隆々な盗賊団は、ボディービルダー顔負けの猛者達であった。
 大きな木製の盾が小さく見えてしまうほどの迫力に、身長の2倍はあろうかという長槍を軽々と持ち上げるさまは、一朝一夕で身に付くような筋肉ではないことを物語っている。
 盗賊にしておくには惜しい逸材達。技量のほどは定かではないが、その威圧感は軍を前にしているといっても差し支えない。

 しばらくは睨み合いが続いた。九条としてはさっさと門を開け放ち、迎え撃ってもらいたいのだが、急かす訳にもいかない。
 城壁からの攻撃もないところを見ると、未だ射程圏外なのだろう。

「毎度のことながらイラつかせやがる……」

 九条達の隣にいた冒険者が大きな舌打ちと共に小言を漏らす。

「いつもこんな感じなんですか?」

「ああ。そうなんだよ。結局はしびれを切らして俺達が迎え撃つんだ」

 それには九条も首を傾げた。籠城しているのはこちらで、相手よりも有利な状況にもかかわらず、出て行くのは勿体なくはないのだろうかと。
 そもそも指揮をしているのは誰なのかと辺りを見渡す九条ではあったが、それっぽい騎士は見当たらない。

「って、九条さんじゃねえか!!」

 突然の大声に皆の注目がそこへと集まる。

(知らないで話してたのかよ……)

「九条さんが来てるなら百人力だ! ささっ、どうぞ前へ!」

「いや、ちょっと待て!」

 どよめく冒険者達。それにつられて騎士団の面々も騒ぎ出す。

「遠慮するこたぁねぇ。俺達はこの状況に終止符を打てるヒーローを待ってたんだ!」

 それに首を傾げたのはミアとバイスだ。どちらかと言えば、九条の考え方は悪役ヒールの方が近いと思っているからだ。
 今回だって騎士団と冒険者達には囮役をやらせようとしていたのだ。それは明らかにヒーローの所業ではない。

(今でも十分だけど、ヒーローみたいに振舞うカッコイイおにーちゃんも見てみたいな……)

 そんな願望を胸に秘めるミアであったが、九条とは長い付き合いだ。正直半分は諦めていた。

 南門の群衆が真っ二つに割れると、前線までの道が開かれる。それは花道というより地獄に続く一本道。

「諦めろ九条……」

「えぇ……」

 九条達に浴びせられる視線は痛烈で、周りで捲し立てる冒険者達からは歓声が上がる。

「ほら九条、覚悟を決めろ。いつまでもそんな顔してないで、こんな時くらいシャンとしろ」

 まるで母親みたいなことを言うバイスは、九条の背中をバチンと叩く。

「おにーちゃん。猫背になってるから胸張って!」

 ミアまでもが、お母さん状態。そして何故か笑顔である。

(はぁ……仕方がない。諦めよう……)

 バイスを先頭に最前線へと躍り出る九条達。それと同時に城門の鉄格子が上がり始めた。

「何で開けるんだよ!?」

 確かにそういう空気ではあったが、何故自ら不利な立場に立たねばならぬのか。
 空気を読んで門を開けた奴は、後で1発殴らなければ気が済まないと決意も新たに、九条は門を潜ると外へ出た。
 それについて来るのは仲間達だけ。他には誰もついて来ようとはせず、聞こえて来るのは歓声ばかり。その様子はまるで見世物小屋である。

「何やってんのよ九条……」

 それを、城壁の上から見ていたシャーリーとシャロンは頭を抱えていた。
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