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第275話 ゴミ掃除
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「お父様。先立つ不孝をお許しください」
グレッグを切り捨てたペライスは、2人に向き直ると頭を下げた。
――その頭は上がらない。
悲しみと共に溢れ出た涙を見せぬ為だろう。零れ落ちるそれが、地面にいくつものシミを作り出していた。
「ペライス! 私が悪いのだ! 私がグレッグなぞの力を借りなければ……」
レストール卿はそれを強く抱き寄せた。
曝涼式典では息子だと知りながらも、声を掛けることすら叶わなかったのだと聞いている。
その後悔を繰り返さないようにと、必死にペライスにしがみついていた。
俺はグレッグが本当に死んだのかを確認すると、部屋を出た。親子の再会を邪魔するほど無粋ではない。
それについて来たのはバイスとアニタ。静かに扉を閉めると、アニタは凄まじい剣幕で俺を捲し立てた。
「ちょっと九条! どういうこと!? あんた死者達の王だったの!?」
「んなわけあるか。どうやったらそう見えるんだよ……」
「でも、頭蓋骨から出来た人が言ってたし」
間違ってはいないが奇妙な表現であったが故に、不覚にも笑みを見せてしまった。
「ペライスがそう思ってるだけだ。説明は面倒だから勘弁してくれ。……それよりも逃げるなよ? この後は楽しい楽しい裁きの時間だ」
不敵な笑みをアニタへ向けると、露骨に嫌な顔を返される。
その顔にいきなり平手打ちをかましたのはバイス。隣でもぞもぞと何かやっていると思ったら、手甲を外していたようだ。
恐らく本気ではなさそうだが、しびれが残るくらいの威力ではあった。
「いったいわね! 何すんのよ!」
バイスはそれを無視し、アニタを指差した。
「九条。コイツだろ? ネストを誘拐した時、護衛にいたっていう……」
「そうです。残り2人は上で寝てます。1人は灰になっちゃいました」
バイスはアニタの胸ぐらを掴み、引き寄せる。
「九条の手前これで許してやるが、次に俺達に手を出したら許さねぇからな。俺達が報告すれば冒険者なんて悠長に続けていられねぇんだぞ? わかってんのか!?」
まるで貴族とは思えない物言いに引いてしまうほどだが、その怒りはもっともである。
表向きは冒険者であるが、グレッグの部下であったことには変わりない。
その命令とは言え、貴族であるネストを幽閉したとあれば罰せられて当然の所業。
それを平手打ち1発で許してもらえるのなら、甘い裁定だ。
「ご……ごめんなさい……」
グレッグの命令だから仕方なくと言い訳するのかと思ったが、意外と素直に謝るアニタ。根は悪い奴ではなさそうだ。
バイスはそっとアニタを降ろし、深い溜息をついた。
「で? この後はどうするんだ? 中の3人を待つのか?」
「そうですね……。まだ時間も掛かりそうですし、先に上の様子でも見に行きましょう」
ダンジョンを抜け地上へと出ると、夕陽が眩しいほどに輝いていた。
俺の匂いを嗅ぎつけたのか、物凄い勢いで駆けて来る2匹の魔獣。ワダツミとコクセイは、俺に覆いかぶさるとペロペロとその顔を舐め回す。
「重い! 重いからよせ!」
一頻り舐め回されると、顔中ベトベトだ。それをローブの袖で拭う。
「どうだった九条殿!?」
「お前達の出迎えは最悪だよ……」
「そうではない。中の様子だ」
もちろんわかっていて言ったつもりだ。
「計画通りだ。お前達の方はどうなんだ?」
「問題ない。そろそろミア殿が来るはずだが……」
「おにーちゃーん!」
遠くから聞こえるミアの声。
その後ろにはズラリと並ぶ冒険者達がシャーリーと一緒になって手を振っていた。
「その様子だと、ゴミ掃除は上手くいったようだな」
「ええ。占めて54人。ダンジョンに死体が無ければこれで全員よ」
シャーリーの振り向いた先には大きな荷車が4台ほど。それに俯き座っていたのはグレッグについて来た騎士団の面々である。
腕は縄で縛られ、それぞれが繋がれていた。
「大勝利だぜ! 九条の旦那ァ!」
「「おぉぉぉぉ!」」
うるさいほどの大歓声。意気揚々と盛り上がる冒険者達は、ギルドの依頼を見て来てくれたのだ。
俺が匿名でギルドに募集をかけていた。その内容は盗賊団の残党狩りで、集まったのは30人弱。
正直ちょっと集まり過ぎた感はあるが、50人もの騎士団員を見逃さない為にも人手が欲しかった。
シャーリーにはその指揮をお願いし、ダンジョンから出て来た彼等を一網打尽にしてもらったというわけだ。
グレッグが雇い入れたという騎士団があの時の盗賊達であるとするなら、デスハウンドを見れば逃げ出すと思っていた。
俺が徹底的にボッコボコにしてやったのだ。それはトラウマになっていても仕方のないこと。
盗賊は何処までいっても盗賊だ。グレッグに忠義を尽くすような奴はいないと思っていた。
カガリから降りて、パタパタと忙しなく駆けて来るミアを抱き上げる。
「この盗賊さん達はどうするの?」
「もちろんレストール卿に引き渡す。沙汰は俺の関与するところじゃないが、きちんと裁いてくれるだろう。シャーリー、悪いんだが冒険者達を連れて先に帰っててくれ」
「おっけー。ダンジョンの調査報告もしちゃっていいんでしょ?」
「ああ。頼む。シャロンさんよろしくお願いします」
「かしこまりました」
それからしばらくすると、グラーゼンがレストール卿とペライスを連れダンジョンから姿を見せた。
「もういいのか?」
「ああ。ありがとう九条殿。それとこれを」
差し出されたのは貸していた風の魔剣だ。逆の手にはペライスから受け取ったであろう王家の紋章が入ったロングソードが握られていた。
「死の王……。いや九条殿。この度は誠に感謝する。それと今更で申し訳ないが、九条殿にガルフォード卿。あの時のことを謝らせてほしい。本当にすまなかった」
俺達の前に立ったペライスは深く頭を下げた。
「気にするな。侯爵に歯向かえないのは知ってる」
「アンカース卿にもすまなかったと伝えてくれ。直接謝罪したいが、あまり時間は残されていない」
「ああ。言付かろう」
バイスはペライスと握手を交わし、お互いが笑顔を見せた。
「じゃぁ、一度街に帰ろう。ペライスには成仏する前にやってもらいたいことがあるんだ」
街に帰ると、時は既に夜更け。俺達は真っ先にグレッグの屋敷へと向かった。
「懐かしいな……。半年振りか……」
感傷に浸るペライスが玄関の扉を開け、屋敷に1歩足を踏み入れた瞬間だった。
荒れ狂う死者達の霊が一瞬にして鎮まると、ペライスの前に列を成したのである。
「「おかえりなさいませ。ペライス様」」
「お前達……。ただいま……」
死して尚主人の帰りを待っていたのだ。
それは皆にも見えていた。自我を保ったままのアンデッド化はそう起こる事ではない。
それが彼等使用人としての最後の仕事。それを成し遂げたのである。
ペライスが涙しそれが床に零れると、仕事を終えた使用人達はその姿を消した。全ての未練が取り払われ、成仏したのだ。
天寿を全うすることすら叶わなかった彼等だが、最後には満たされた想いを胸に、天へと還って逝ったのである。
その表情は誰もが安らかであった。
それからは重苦しい屋敷の空気も一変し、いまや何の変哲もない洋館へと早変わり。スッキリとした空間は、まるで別世界のようである。
「アニタ。案内しろ」
それは屋敷の地下に隠されていた。炊事場の下にある地下倉庫。
野菜やワインなどの保管場所であるが、更にその下には地下牢が隠されていたのだ。
そこには白骨化した無数の遺体。
「ひとまずここから運び出す。俺がやるから何か入れ物を用意してくれ」
残念ながら骨となってしまえば見分けはつかない。
頭蓋骨の数で人数を判断し、その数だけ手を合わせると、それを全て運び出す。
後でまとめて供養する為だ。
町長の執務室に全員が集まると、レストール卿がテキパキと指示を出していく。
グレッグが雇っていた元奴隷の使用人達はそのまま雇い入れることとなり、グラーゼンを含めた旧騎士団の面々も現場復帰へと相成った。
グレッグが法外に搾取していた税率も見直され、街はようやく元の姿に戻ったのだ。
――ある1点を除いて……。
グレッグを切り捨てたペライスは、2人に向き直ると頭を下げた。
――その頭は上がらない。
悲しみと共に溢れ出た涙を見せぬ為だろう。零れ落ちるそれが、地面にいくつものシミを作り出していた。
「ペライス! 私が悪いのだ! 私がグレッグなぞの力を借りなければ……」
レストール卿はそれを強く抱き寄せた。
曝涼式典では息子だと知りながらも、声を掛けることすら叶わなかったのだと聞いている。
その後悔を繰り返さないようにと、必死にペライスにしがみついていた。
俺はグレッグが本当に死んだのかを確認すると、部屋を出た。親子の再会を邪魔するほど無粋ではない。
それについて来たのはバイスとアニタ。静かに扉を閉めると、アニタは凄まじい剣幕で俺を捲し立てた。
「ちょっと九条! どういうこと!? あんた死者達の王だったの!?」
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「でも、頭蓋骨から出来た人が言ってたし」
間違ってはいないが奇妙な表現であったが故に、不覚にも笑みを見せてしまった。
「ペライスがそう思ってるだけだ。説明は面倒だから勘弁してくれ。……それよりも逃げるなよ? この後は楽しい楽しい裁きの時間だ」
不敵な笑みをアニタへ向けると、露骨に嫌な顔を返される。
その顔にいきなり平手打ちをかましたのはバイス。隣でもぞもぞと何かやっていると思ったら、手甲を外していたようだ。
恐らく本気ではなさそうだが、しびれが残るくらいの威力ではあった。
「いったいわね! 何すんのよ!」
バイスはそれを無視し、アニタを指差した。
「九条。コイツだろ? ネストを誘拐した時、護衛にいたっていう……」
「そうです。残り2人は上で寝てます。1人は灰になっちゃいました」
バイスはアニタの胸ぐらを掴み、引き寄せる。
「九条の手前これで許してやるが、次に俺達に手を出したら許さねぇからな。俺達が報告すれば冒険者なんて悠長に続けていられねぇんだぞ? わかってんのか!?」
まるで貴族とは思えない物言いに引いてしまうほどだが、その怒りはもっともである。
表向きは冒険者であるが、グレッグの部下であったことには変わりない。
その命令とは言え、貴族であるネストを幽閉したとあれば罰せられて当然の所業。
それを平手打ち1発で許してもらえるのなら、甘い裁定だ。
「ご……ごめんなさい……」
グレッグの命令だから仕方なくと言い訳するのかと思ったが、意外と素直に謝るアニタ。根は悪い奴ではなさそうだ。
バイスはそっとアニタを降ろし、深い溜息をついた。
「で? この後はどうするんだ? 中の3人を待つのか?」
「そうですね……。まだ時間も掛かりそうですし、先に上の様子でも見に行きましょう」
ダンジョンを抜け地上へと出ると、夕陽が眩しいほどに輝いていた。
俺の匂いを嗅ぎつけたのか、物凄い勢いで駆けて来る2匹の魔獣。ワダツミとコクセイは、俺に覆いかぶさるとペロペロとその顔を舐め回す。
「重い! 重いからよせ!」
一頻り舐め回されると、顔中ベトベトだ。それをローブの袖で拭う。
「どうだった九条殿!?」
「お前達の出迎えは最悪だよ……」
「そうではない。中の様子だ」
もちろんわかっていて言ったつもりだ。
「計画通りだ。お前達の方はどうなんだ?」
「問題ない。そろそろミア殿が来るはずだが……」
「おにーちゃーん!」
遠くから聞こえるミアの声。
その後ろにはズラリと並ぶ冒険者達がシャーリーと一緒になって手を振っていた。
「その様子だと、ゴミ掃除は上手くいったようだな」
「ええ。占めて54人。ダンジョンに死体が無ければこれで全員よ」
シャーリーの振り向いた先には大きな荷車が4台ほど。それに俯き座っていたのはグレッグについて来た騎士団の面々である。
腕は縄で縛られ、それぞれが繋がれていた。
「大勝利だぜ! 九条の旦那ァ!」
「「おぉぉぉぉ!」」
うるさいほどの大歓声。意気揚々と盛り上がる冒険者達は、ギルドの依頼を見て来てくれたのだ。
俺が匿名でギルドに募集をかけていた。その内容は盗賊団の残党狩りで、集まったのは30人弱。
正直ちょっと集まり過ぎた感はあるが、50人もの騎士団員を見逃さない為にも人手が欲しかった。
シャーリーにはその指揮をお願いし、ダンジョンから出て来た彼等を一網打尽にしてもらったというわけだ。
グレッグが雇い入れたという騎士団があの時の盗賊達であるとするなら、デスハウンドを見れば逃げ出すと思っていた。
俺が徹底的にボッコボコにしてやったのだ。それはトラウマになっていても仕方のないこと。
盗賊は何処までいっても盗賊だ。グレッグに忠義を尽くすような奴はいないと思っていた。
カガリから降りて、パタパタと忙しなく駆けて来るミアを抱き上げる。
「この盗賊さん達はどうするの?」
「もちろんレストール卿に引き渡す。沙汰は俺の関与するところじゃないが、きちんと裁いてくれるだろう。シャーリー、悪いんだが冒険者達を連れて先に帰っててくれ」
「おっけー。ダンジョンの調査報告もしちゃっていいんでしょ?」
「ああ。頼む。シャロンさんよろしくお願いします」
「かしこまりました」
それからしばらくすると、グラーゼンがレストール卿とペライスを連れダンジョンから姿を見せた。
「もういいのか?」
「ああ。ありがとう九条殿。それとこれを」
差し出されたのは貸していた風の魔剣だ。逆の手にはペライスから受け取ったであろう王家の紋章が入ったロングソードが握られていた。
「死の王……。いや九条殿。この度は誠に感謝する。それと今更で申し訳ないが、九条殿にガルフォード卿。あの時のことを謝らせてほしい。本当にすまなかった」
俺達の前に立ったペライスは深く頭を下げた。
「気にするな。侯爵に歯向かえないのは知ってる」
「アンカース卿にもすまなかったと伝えてくれ。直接謝罪したいが、あまり時間は残されていない」
「ああ。言付かろう」
バイスはペライスと握手を交わし、お互いが笑顔を見せた。
「じゃぁ、一度街に帰ろう。ペライスには成仏する前にやってもらいたいことがあるんだ」
街に帰ると、時は既に夜更け。俺達は真っ先にグレッグの屋敷へと向かった。
「懐かしいな……。半年振りか……」
感傷に浸るペライスが玄関の扉を開け、屋敷に1歩足を踏み入れた瞬間だった。
荒れ狂う死者達の霊が一瞬にして鎮まると、ペライスの前に列を成したのである。
「「おかえりなさいませ。ペライス様」」
「お前達……。ただいま……」
死して尚主人の帰りを待っていたのだ。
それは皆にも見えていた。自我を保ったままのアンデッド化はそう起こる事ではない。
それが彼等使用人としての最後の仕事。それを成し遂げたのである。
ペライスが涙しそれが床に零れると、仕事を終えた使用人達はその姿を消した。全ての未練が取り払われ、成仏したのだ。
天寿を全うすることすら叶わなかった彼等だが、最後には満たされた想いを胸に、天へと還って逝ったのである。
その表情は誰もが安らかであった。
それからは重苦しい屋敷の空気も一変し、いまや何の変哲もない洋館へと早変わり。スッキリとした空間は、まるで別世界のようである。
「アニタ。案内しろ」
それは屋敷の地下に隠されていた。炊事場の下にある地下倉庫。
野菜やワインなどの保管場所であるが、更にその下には地下牢が隠されていたのだ。
そこには白骨化した無数の遺体。
「ひとまずここから運び出す。俺がやるから何か入れ物を用意してくれ」
残念ながら骨となってしまえば見分けはつかない。
頭蓋骨の数で人数を判断し、その数だけ手を合わせると、それを全て運び出す。
後でまとめて供養する為だ。
町長の執務室に全員が集まると、レストール卿がテキパキと指示を出していく。
グレッグが雇っていた元奴隷の使用人達はそのまま雇い入れることとなり、グラーゼンを含めた旧騎士団の面々も現場復帰へと相成った。
グレッグが法外に搾取していた税率も見直され、街はようやく元の姿に戻ったのだ。
――ある1点を除いて……。
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