生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
278 / 722

第278話 引き継ぎ

しおりを挟む
 屋敷の前ではレストール卿が、今か今かと俺の帰りを待っていた。

「シルビア! セレナ!!」

「「お父様!!」」

 2人は馬車から飛び出すと、レストール卿に抱き着いた。
 張り詰めていた緊張の糸が解れると、わんわんと泣き出す2人。

「おかえり九条。どうだった?」

 馬車に繋がれている馬を労わっていると、近づいてきたバイスに愚痴をこぼす。

「ホント大変でしたよ。全然信用してくれないんですから」

「だから言ったじゃねぇか。グラーゼンさんを連れてけって……」

「いやいや、グラーゼンさんが怒りに身を任せて奴隷商を切り殺したらどうするんです?」

「その時はその時だろ? そもそも身元不明の娘を調べもせずに奴隷として売りに出す方が悪だ」

 間違ってはいない。知り合いを連れて行けば、すぐにでも信用してもらえただろうが、そうはいかない事情があった。
 奴隷商はシルビアとセレナが本当の貴族だとは知らなかった。彼はグレッグが殺した使用人達の代わりの奴隷を売りに来ただけの一般人。
 アニタは、シルビアとセレナをどうしても殺すことが出来ず魔法で眠らせると、奴隷商に2人の身柄を引き渡し、グレッグには殺したと報告していた。
 アニタが勝手にやった事で奴隷商には責任を押し付けられないと、俺だけが買い戻しに行ったのである。
 故にレストール卿とグラーゼンは、2人が奴隷として売られていたことを知らないのだ。
 シルビアとセレナが俺を信用した後、奴隷ではなく何処かに閉じ込められていたことにするよう頼んだ。
 グレッグに殺されるよりはマシだろう。見方を変えればアニタに救われたとも言える。それくらいは大目に見てくれてもいいはずだ。
 今までの経緯はレストール卿が2人に説明するだろう。

「おかえり九条。レシピ通り作ってみたんだけどどうかな?」

 そう言ってシャーリーから差し出されたのは細い串状の棒の束。
 それを1本手に取った。

「うん。よく出来てる」

「でしょ?」

 満面の笑みを返すシャーリー。それは線香と呼ばれる物だ。
 シルビアとセレナを迎えに行っている間に、シャーリー達にレシピを渡し作っておいてもらった。
 線香を作るのは、さほど難しい事じゃない。たぶの木の樹皮か、乾燥した杉の葉があれば最低限の形にはなる。
 どちらも粉末にして水を足しながら捏ねるだけ。それを板状に伸ばし、蕎麦を切る要領で細切りにして乾かせば完成である。
 手作り故にその太さは蕎麦というよりうどんであるが、必要十分だ。

「言われた通り地下室で焚いて来たけど、独特な香りがするのね。何に使う物なの?」

「この香煙には浄化の意味が込められているんだ」

「へぇ。なるほどねぇ」

 それから2時間後。ようやくレストール卿と2人の娘が執務室に姿を見せた。

「すまぬ。九条殿。遅くなった」

 約半年ぶりの再会。積もる話もあるだろうが、正直言って長すぎだ。
 出来れば家族水入らずは、俺達が帰ってからにしてもらいたいものである。
 人を待たせているという自覚はないのだろうか?

「俺達は別にいいですけど……」

 そう、俺達は別にいい。問題なのはもう1人。

「遅い!」

 大きな書斎デスクの下からにょきっと現れたのはペライス。
 2時間机の下に隠れていたのだ。待たせ過ぎである。

「……お……おにい……さま……?」

「遅かったじゃないか2人とも」

 2人の妹に目くじらを立てるペライス。もちろん本気で怒っている訳ではない。
 当の2人は、信じられないものでも見ているような表情で硬直していた。

「……うそ……だって……亡くなったって……」

「久しぶりに可愛い妹に会えるというから、神様に頼んで少しだけ様子を見に来たんだ」

 じれったいとはこのことだ。
 感動の再会。それを邪魔する者は誰もいない。
 ペライスもセレナもシルビアも。ただ茫然と突っ立っていて、聞こえて来るのは鼻を啜る音だけ。
 ならば。きっかけを与えてやろうと口を挟んだ。

「ペライス。久しぶりに見た妹たちの顔はどうだ?」

「そうだな……。髪はボサボサで……歪んだ顔は酷くて……。だめだ……涙で……よく見えない……。2人とも……もっと近くで……よく見せてくれ……」

「「おにいさまぁぁぁッ!!」」

 大粒の涙をボロボロと流す3人は強く抱き合い、その悲しみとひとときの喜びを分かち合った。
 それに釣られて涙するレストール卿にグラーゼン。どうやらサプライズは成功のようだ。
 これを提案してきたのはレストール卿。
 鼻息も荒く2人をびっくりさせてやろうなどと言い始めた時は、耳を疑った。
 死霊術はそんな事の為に使うつもりはないとも考えたが、俺もそこまで鬼じゃない。
 グレッグを殺した事でペライスの未練は断ち切ったはずだが、2人の妹に会うこともそれに含まれていると言うのならば、その願いを叶えるのも俺の務め。
 直接ではないにしろ、ペライスを殺したのは俺なのだ。それが罪滅ぼしになれば本望である。

「ペライス。そろそろ……」

「はい」

 レストール卿に促されペライスは涙を拭うと、2人から離れデスクに座る。

「シルビア。セレナ。こちらへ。引き継ぎだ」

 その意味を理解したのだろう。2人の視線はレストール卿へと移った。

「今日からこの街はシルビアとセレナに治めてもらう。ペライスから町長を引き継ぐんだ」

「そんなッ! まだ早すぎますお父様! お兄様が帰って来たのです。このままお兄様が統治すれば良いではありませんか」

「シルビア。言っただろう? 戻って来れたのはほんの少しの間だけなんだ。だから、迎えが来る前に……」

「それは何時ですか!? 神がお兄様を迎えに来ると言うなら私が連れて行かないでくれと懇願します! 信仰深い信者が誠意をもって祈れば、神は応えてくれます。それでもダメなら殺してしまえばいい。願いを聞き入れない神なぞ不要です!!」

 一同ドン引きである。言いたいことはわかるが、暴論ここに極まれりだ。
 信者を選べない神様には多少の同情を覚える。
 この2人には俺の秘密を明かすつもりはなかった。セレナはいいとしてシルビアは口が軽そうだから……。
 故に神様が情けをかけてくれたということで煙に巻こうとしたのだが、それを聞き入れるつもりはないらしい。
 死んだ者が帰って来たのだ。離れたくないと思うのは人の心としては当然であり、欲を出すなと言う方が難しいだろう。

「シルビア。ヴィルザール神様を悪く言ってはいけない。死者がよみがえることはあってはならないこと。世界の理を歪めてまでこの時間を作ってくれたことに感謝しなければ……」

「ですがッ……」

 ペライスは諭すよう優しく言葉を紡いだ。
 シルビアだって頭ではわかっているのだろう。我が儘のようにも見えるが、ただ諦めきれないだけなのだ。
 それを素直に聞き入れたのは、他でもないセレナであった。

「わかりました。私はお兄様の意志を継ぎ、この街の町長として立派に職務を果たして見せます!」

 ペライスを真っ直ぐに見据え、決意する。
 セレナが覚悟を決めたのだ。姉であるシルビアが感化されないわけがない。
 いつまでも甘えているわけにはいかないと目に浮かぶ涙を拭い、シルビアはその気持ちを震える声に乗せた。

「私もです! セレナと一緒にこの街を導いて見せます。レストール家の者として。お兄様の妹として恥じぬよう精進致します!」

 その硬い決意がペライスの心に響いたのだろう。
 2人に向けられた柔らかな笑顔は、これ以上ない幸福感に満たされたものであった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...