生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
279 / 722

第279話 この親にしてこの子あり

しおりを挟む
「本当に俺でいいのか? そっちのやり方の方がいいんじゃないか?」

 それは葬儀の方法についてである。
 ペライスとは別に、使用人達の分は俺が弔ってやるつもりだったのだが、一緒にと頼まれたのだ。
 彼等は海賊達とは違い、しっかりとした宗教意識を持っている様子。ならば、それに倣えばいいのではと提案したのだ。

「ペライスの葬儀は既に終わっている。2回やるというのもおかしな話だろう? 今回は言わば非公式のものだ」

「まあ、それでよければ俺は構わないが……」

 確かに同じ者に2回葬儀するというのも前代未聞だが、それよりも気になるのはシルビアとセレナへの対応である。
 神が迎えに来るなどと言っていたが、一体どう処理するのか……。
 この世界の神がどんな教えを説いていて、どんな容姿をしているのか。それすらも知らない俺にはどうすることも出来ない。
 出来る事といったらアンデッドを呼び出すくらいで、スケルトンロードが迎えにでも来ようものなら腰を抜かしてしまうだろう。
 それが神様と瓜二つなわけがなく、行き着く先は天国と言うより地獄である。
 任せろとは言われてはいるが、本当に大丈夫なんだろうか?

「お父様? 九条さんには何を?」

 不思議そうにレストール卿を見上げるセレナ。シルビアとは正反対で、引っ込み思案な印象を受ける。

「葬送の儀式を頼んだのだよ」

「……何故それを九条さんに頼むのです?」

「彼は死霊術のスペシャリストだからね」

「そうだったのですね……。私はてっきり獣使いビーストテイマーの方かと……」

 まあ、興味がなければそんなもんだ。どう考えても従魔達の方が目立つからな。

「葬儀の件はともかくとして、お兄様のお迎えは何時なのですか?」

 ペライスの傍を離れようとしないシルビアは、ソワソワと落ち着かない様子。

「残り時間は3時間程だが、葬儀と同時に九条殿に送り返してもらう予定だ」

「えっ?」

 それを聞いて言葉を失うシルビア。光を失った瞳がゆっくり俺へと向けられる。

「レストール卿。ちょっとこちらに……」

 レストール卿の袖を掴み、少々強引に部屋を出る。

「俺に死ねと言うつもりですか、レストール卿!?」

「いや、そんなつもりでは……」

「あの言い方じゃ、そうとってもおかしくないでしょう!? 神が迎えに来ることになってるんじゃないんですか!?」

 シルビアは、ペライスが帰ってしまうなら神をも殺すと言い切ったのだ。その役を担っている俺に矛先が向くのは道理である。
 もちろん殺されるつもりは毛頭ないが、何故俺がシルビアの恨みを買わなければいけないのか。

「神のお迎えは何と言うかついノリで……。だが、いくらなんでもウチの娘はそこまでバカじゃぁない。神殺しなんて大それたことするわけがないだろう?」

「ノープランかよ!!」

 敬語を忘れてツッコんだ。貴族じゃなければ、手を出していたかもしれない。
 そして、執務室から漏れ出るシルビアの声。

「離して、グラーゼン! 九条さんを殺せば私はお兄様と……おにぃさまとぉぉぉぉ!!」

「「……」」

 顔面蒼白のレストール卿を睨みつける。

「随分と拗らせているようですが?」

「シルビアは昔からお兄ちゃんっ子だったからなぁ……」

 感傷に浸っている場合ではない。遠い目で現実逃避をするな。
 放っておいても時間が来ればペライスは天へと召されるのだ。そうなれば風情もクソもない。
 会話中に急に灰になるペライスを見せるのはあまりにも酷である。

「レストール卿は、娘さんにトラウマを植え付けるおつもりですか?」

「すまない。色々と考えたのだがいい案が思いつかなかったのだ。娘は何とかするから怒りを静めてくれ九条殿」


 その言葉を信じ、2時間後。執務室へと呼ばれると、皆が勢揃いしていた。
 どうやらシルビアの説得には失敗したらしい。
 簀巻きすまきにされ、ぐったりとしているシルビアが床に転がっているが、見なかったことにしよう。

「お父様。お世話になりました。それとグラーゼン。私なんかの為に尽力してくれてありがとう」

「ペライス……」

「勿体なきお言葉で御座います。ペライス様」

 レストール卿はペライスを抱擁し、グラーゼンは硬い握手を交わす。

「お別れは十分か?」

「ああ。これ以上いると私も諦めきれなくなりそうだ。娘たちの手前、そんな情けない姿は見せられないからな」

 1人1人視線を合わせると、皆無言で頷いた。予想外なのは簀巻きすまきのシルビアもそのうちの1人であった事だ。
 どう言いくるめたのかは不明だが、葬儀の邪魔はされずに済みそうである。
 使用人であった者達の遺骨を並べ、ペライスはその後ろに立つと俺はローブを翻し正座する。

「ペライス。汝の法名は釋董秋しゃくとうしゅうだ。先に言っておくが気にしないでいい。そういう習わしなんだ」

 目の前に用意された小さな器。入っているのは暖炉から拝借した灰だ。

「カガリ。頼む」

 シャーリーお手製の線香を手に取り掲げると、空中に浮かぶ小さな狐火で火を灯す。
 火が移るとそれを払い、灰の器にそっと立てた。
 本来は3本立てるのだが、今回は1本でいいだろう。手作り故に太く、煙の量が多すぎる。
 肺の空気を全て吐き出し合掌すると、次は礼拝らいはい。ゆっくりと頭を下げ、そして上げる。
 大きく息を吸い込むと読経の開始だ。
 ガラリと変わる空気感に、誰もが目を見張った。
 外界と切り離されたような神聖な場の雰囲気に気圧され、息を呑んでしまうほど。
 ぼやけていた煙が一瞬にして晴れ、広大な草原にでもいるかのような錯覚を覚える。
 低い声で唸るように読み上げる経典。それには2つの意味がある。
 1つは故人に向けて読まれるもの。極楽浄土へと行けるようにと願いを込めて。
 もう1つは、大切な人を亡くし心を痛める遺族や参列者を癒すという役割である。
 棒読みのような一定のリズム。初めて聞く者には恐怖すら感じさせることだろう。
 読経の声が聞こえているにもかかわらず、無音にも思える厳かな空間。
 ペライスが淡い光に包まれると、その時が来たのだと皆が自然と理解したのだ。

「お父様。グラーゼン。それにシルビアにセレナ。私は先に逝くが、どうか悲しまないでくれ。道半ばであったが、最後に家族に見送られるなら悔いはない」

「ペライス。私はお前のような息子を持てて果報者だ。もう間違う事もないだろう。安らかに眠ってくれ」

「ペライス様。歳を考えれば次は恐らく私でしょう。土産話を持参致します故、それまでは少々のご辛抱を」

「お兄様! お元気で! 願わくばまた神に頼んで戻って来て下さい! いつでもお待ちしています!」

 シルビアだけが大分欲深い願いを口にしたが、皆がペライスの安寧を願うとその肉体は塵と消え、そこには頭蓋骨だけが残された。
 読経が終わると最後に合掌礼拝し、天井を見上げる。
 分離した魂が最後に礼を言い残し、万感の思いを胸に成仏していったのである。
 約束通り笑顔で見送る一同であったが、それが口元だけであったことは言うまでもないだろう。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...