生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第287話 価値観

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 ノーマンを追い払う半月ほど前。俺はコット村西のダンジョンへと来ていた。

 ゴブリン達のおかげで清潔が保たれているダンジョン。
 小部屋には雑な作りの木枠に落ち葉が敷き詰められ、その上から獣の皮を被せてあるだけのベッドだろう物がいくつも置いてある。
 正直言って、生活レベルは高くない。
 俺が通り過ぎると律儀に掃除の手を止め、ゴブリン達は頭を下げる。それに片手を上げて応えるのだが、その様子も慣れたもの。
 今では彼等を見ても醜いとは微塵も思わず、むしろ愛着すら湧いて来る。
 魔物の中では最弱の部類。故に戦闘には向かず、どちらかと言うと単純作業や雑用の方が向いている気がする。
 繁殖力が高く成長速度も速いなどと言われてはいるが、俺のダンジョンでは増えていない。

「マスター。ゴブリンだって時と場合を弁えます。急激に増えるのは種の存続が危ぶまれた時で、平和であれば増えませんよ?」

 俺の隣でゴブリンの何たるかを語ってくれているのは108番だ。
 元は魔族であり、今は精神体だと聞いているが、そもそも生きている魔族すら見たことがない。
 頭に角が生えていて先細った尻尾を生やしているのがこの世界の魔族の認識らしいが、実際に目にした者は少なく、文献に乗っている絵は正直言って下手くそだ。
 ……下手くそは言い過ぎた。特徴はとらえているが、過剰すぎると言うべきか。耳の付け根辺りまで口が裂けている顔が本当の魔族なのだとしたら、バケモノである。
 現に元魔族であったという108番の顔立ちは、人間となんら変わりない。

「そうなのか?」

「ええ。無限に繁殖できるとしたら、それこそダンジョンはパンクしちゃいます。ダンジョンハートの中身だって限られているのですから」

「まぁ、そうだな。戦力にならないものを増やしても無駄ではあるな」

「なんてこと言うんですかマスター! ゴブリンは最も大事な魔物ですよ?」

「さっきと言っている事が違くないか? 繁殖しすぎるとパンクするなら無駄だってことなんじゃないのか?」

「うーん。確かにそうなんですけど……。縁の下の力持ちとでも言いましょうか……」

 顎に手を当て悩むそぶりを見せる108番。地下へと潜りながらも、会話は弾む。
 たかがゴブリンだ。だが、それは聞いていて興味を引かれた。
 魔族側の考えるゴブリン像が、人間のそれとは全く異なるものであったからだ。

「例えば……例えばですよ? マスターが魔の者を統べる王であったとしましょう。そして人間達からこのダンジョンを守らなければならなくなった時、ドラゴンとゴブリン、どちらに守りを任せますか?」

「強さで言えばドラゴンなんだろうが、正解はゴブリンなんだろ?」

 少し意地悪だっただろうか? 108番は目に見えて気だるそうな表情を向けた。

「裏を読むのは止めて下さいよ……。確かにゴブリンなんですけど……」

「で? 何故ゴブリンなんだ? 予想としてはコスト的な話なんだろうが……」

「そうですね。コストの面もあります。それよりも重視されるのは御しやすさでしょう。命令には忠実で、弱いからこそ何かに依存し貪欲に生きようとする。故に狡猾でありしぶとい」

「確かにそうかもしれないが、ドラゴンには敵わないだろう?」

「ドラゴンが住み着いたダンジョンの清掃は誰がするのですか? ドラゴンは気難しく傲慢です。ちょっとでも機嫌を損ねればすぐに出て行ってしまうでしょう。確かにマスターの言う通り、ドラゴン1匹のコストと同じ分だけのゴブリン数百匹で対峙しても、ゴブリン達に勝機はない。ですが、そのゴブリン達が武器を持てばどうでしょうか? それもとびっきりの性能を誇る魔剣であったら? ……言いたいことはわかります。もちろんそんな数の魔剣を用意することは出来ませんが、要は使い方次第ということです」

「まぁ、一理あるな……」

 無能な上司に優秀な部下が付いても意味がないのと一緒だ。生かすも殺すも使い方次第といったところか。
 オークとゴブリンの関係性を見るに、人間でいうところの奴隷という位置取りだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
 目から鱗……とは言わないが、役立たずだからと無下にはせず、別の使い道を模索する考え方は好感が持てた。

 ダンジョンの最下層へと辿り着くと、目の前にはダンジョンハート。その中身は全くと言っていいほど減っていなかった。
 無断使用はなさそうだとほんの少し安堵する。
 俺がダンジョンを訪ねた理由は3つだ。
 1つはダンジョンハートの内容量の確認。これは問題なし。
 もう1つは、戦力の補充。これはダンジョン側ではなく、自分自身だ。
 いざという時の為に、戦力としてある程度の強さを持っている冒険者の頭蓋骨を魔法書にストックしておきたかった。
 アンデッドを呼び出すのは簡単だが、見た目がガッツリ魔物である。それを俺が使っていると知れたら一大事。
 グレイスの時のようにリビングアーマーがバレてしまうことも念頭に入れると、冒険者の頭蓋骨からよみがえらせた方が安全だ。
 なにせ見た目は生きた人間そのものなのだから。
 そして最後の1つは、ブラムエスト南のダンジョンのことである。

「108番。少し聞きたいことがあるんだが……」

「なんです? 急に改まって……。わかることでしたら答えますよ?」

「魔王が造ったダンジョンってのは、ここ以外にも存在しているんだよな?」

「もちろんです」

「既にダンジョンハートが枯渇して崩壊したダンジョンが復活することってあるのか?」

「魔力があれば再起動は可能です」

 ダンジョンの事を話す108番は毎度のことながら得意気だ。それが可愛らしくもある。

「例えば、俺がどこか別のダンジョンのダンジョンハートに魔力を注いだらどうなる? そのダンジョンの管理者が出てきたりするのか?」

 その意味を思案し何かを閃くと、横手を打つ108番。
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらも、目を細める108番はいやらしさを感じさせる。

「あれあれぇ? もしかして22番を起動させたのはマスターですかぁ?」

 ダンジョンの入口に名前が書いてあるわけでもなく、22番と言われてもまるでピンとこない。

「……どこだよ……。ブラムエストの南のダンジョンのことか?」

「だからブラムエストじゃわかりませんよ。22番はここからずーっと西にあります」

「曖昧過ぎてわからん……。地図とかないのか?」

「残念ですがありませんね」

 どうやら心当たりがありそうだ。ならば隠していても仕方がない。

「はぁ……。じゃぁ正直に言うが、地下50層からなるダンジョンに潜り、ここよりもデカイダンジョンハートを見つけて触れたんだ。ダンジョンが息を吹き返したが、管理者は出てこなかった」

「ここから西にあるダンジョンで地下50層と言えば22番で間違いないでしょう。やはりマスターだったんですね」

「やはりってお前。知ってたのか?」

「もちろんですよ。ダンジョンの管理者ですから」

「ん? ちょっと待て。その22番のダンジョンもお前が管理しているのか?」

「はい。というか、22番と108番だけではありませんよ? 全てのダンジョンを統括し管理していますが何を今更……」

「いや、最初に会った時は108番の管理をしていると言っただろ?」

「はい。108番もしています。ですが、108番だけとは言ってません」

 その言い方に苛立ちを覚えるも、揚げ足を取っている訳ではないだろう。
 受け取り側の問題か、それとも108番がわざと濁したのか……。
 あの時はお互い初対面だった。所謂腹の探り合い。俺が108番の名前を聞き、108番はそれに答えただけ。
 余計な情報を与えたくないという108番の思惑もあったのだろうが、脱出を焦っていた俺にも非がある。
 とは言え、それほど目くじらを立てることもない。108番が全てのダンジョンを管理していると知ったところで実害はなく、むしろ俺にとっては好都合。
 それは知りたい答えを知っていると言っても過言ではないのだから。
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