生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第306話 エルフ族の確執

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 そろそろ日が暮れる時間帯。正面に見えてきたのはエイブレストと呼ばれるリブレス最初の街。

「本日はこちらに宿を取っておりますので、ゆっくりとお休みになられて下さい」

 そこそこ大きいこの街は、主にグリムロックから来た商人達が荷下ろしをする街でもある。故に商店が多く立ち並び、昼夜を問わず多くの者が訪れる。
 エルフ達の街だからと特別変わった所は何もなく、石造りの建物はドワーフや人間の街とほぼ同じような様式だ。
 違うところは、何処を見てもエルフばかりで、他の種族はほぼ見られないことくらいだろう。
 そんな中、外を歩く大勢のエルフに紛れ、見たことのない種族が目に付き気になった。

「彼等もエルフなんですか?」

「え? ……えぇ、一応……」

 歯切れの悪い答えを返すジョゼフ。俺がこの世界で見たことのあるエルフ族は主に2種族。ハイエルフとハーフエルフ。
 どちらも意外と見かける種族ではあるが、そのどちらでもない。耳の形はエルフのそれだが、肌の色は灰とも青とも取れる暗い色で、白い髪が美しく、何処か面妖にも見える者達。

「彼等はダークエルフと呼ばれる種族です。貴重な労働力ですが、その性格は残忍で狡猾と言われております。あまりお近づきにはならない方がよいでしょう」

 ジョゼフとシャロンはハイエルフだ。その言い方からエルフ達にも複雑な事情があるのだろうと、頭の片隅に置いておく程度に留めた。

「この街は外出してもいいんですよね?」

「ええ。ですが、あまりオススメは致しません。フェルヴェフルールとは違い、治安がいいとは言えませんので……」

 人の忠告は聞くものだが、俺にはそうは見えなかった。どちらかと言えばグリムロックの薄暗い地下街の方が物騒な気がする。
 場所にもよるのだろうが、大通りは比較的賑わっていて笑顔が溢れている。その中に混ざりたいとは思わないが、それを眺める分には楽しめそうな雰囲気だ。

「それはどのあたりです?」

「いえ、地域の問題ではありません。強いて言うなら全域でしょうか……」

 それは、結局外へ出るなと言っているようなもの。強制ではないのだろうが、矛盾しているようにも聞こえる。要は自己責任という事だ。
「なら、最初から出るなと言えばいいだろう」……と、嫌味の1つでも言ってやろうとしたのだが、それを止めたのはシャロンであった。
 俺の膝にそっと手を置き、無言で首を横に振ったのである。

 宿には人数分の部屋が用意されていた。グレードとしては冒険者用の安宿よりはマシ程度。とは言え、それに対して文句はない。
 例の如くミアは俺の部屋でくつろぎ始め、次に部屋の扉をノックするのはシャーリーだろうと身構えていたのだがその予想は大きく外れ、扉の前に立っていたのは神妙な面持ちのシャロンであった。

「先程は申し訳ございません」

「いえいえ、いいんですよ。何か理由があるんでしょう?」

「はい。それを説明しに参りました」

 そしてシャロンはエルフ族の格差について教えてくれた。
 エルフ族は、ハイエルフ、ウッドエルフ、ダークエルフ、ハーフエルフの4種族に分けられる。
 ハイエルフは白い肌が特徴で、魔法に特化した種族であり、唯一世界樹の麓で暮らすことを許されている者達。
 ウッドエルフは主に大樹の上に家を作り生活する種族であり、ハイエルフよりは小柄で弓を得意とする者が多い。
 ハーフエルフは混血と呼ばれ、人間と交わった種族。故にフェルヴェフルールに入ることは禁止されているがリブレス国内での出入りは許されている。
 4種族の中で、最も忌み嫌われている者達がダークエルフ。2000年前、元々ハイエルフであった彼等は魔王側に寝返った者達。
 魔王亡き後、種族の存続を望んだ彼等は服従を受け入れた。エルフ族の中で最も低い身分を与えられ、他種族に酷使される運命を背負った悲しき種族。
 長い地下生活を強いられ変異した結果、美しかったブロンドの髪は、色素が抜けて白髪に。青灰色の肌は、魔族に酷似している為か迫害の対象にもなっている。
 リブレスが連合国と呼ばれる所以は、4種族にそれぞれを統治する王がいる為だ。とは言え、ダークエルフ達に発言権は与えられていない。

「この辺りは主にハーフエルフとダークエルフが混在している地域で、フェルヴェフルールから出たがらないハイエルフ達から見れば治安が悪いんです。普通の人間は受け入れてもらえるので、九条様は気にしなくても大丈夫ですよ?」

「なるほど。道理でハイエルフをあまり見ない訳だ……」

「この街を出れば神樹の庇護下に入りますので、街の雰囲気はガラッと変わると思います」

「神樹の庇護下?」

「ええっと……。世界樹の真下……つまり影のことですね。その範囲を私達エルフは庇護下と呼んでいて、そこには純血……ハイエルフとウッドエルフしか住むことを許されていないんです。そもそもダークエルフは国を出ることも許されていません。人間の国で言うところの奴隷の扱いに近いでしょうか……。と言っても個人に仕えるのではなく、国に仕えていると言った方が正しいですけど」

「そうなんですね……」

 それ以外に言葉が出てこなかった。俺の中でのエルフのイメージが180度反転してしまったからだ。
 馬車の中から見たダークエルフ達は幸せそうに笑っていた。そこには分け隔てない自由があるのだろうと思っていたが、そうではなかったのだ。
 エルフの国は美しく、自然を愛し、争いを嫌う。故に排他的なのだろうとそう考えていたが、それは幻想であった。
 純血至上主義。人種……いや、種族差別というべきか……。それが当たり前のように蔓延る国。正直に言って、人間の方がまだマシである。

「軽蔑されましたか?」

「いえ……。そんなことは……」

 声には出していない。だが、俺の表情からシャロンは察してしまったのだろう。
 失態である……。だが、そんな俺にもシャロンは優しい笑顔を向けた。

「正直に仰っていただいても構いませんよ? 私もそう思い、里を出たのですから。2000年という月日は長いものです。ですが、エルフ族は長命です。一族の中から裏切者が出たその恨みは、未だ癒えてはいないのでしょう」

 2000年前。エルフ達の中から裏切者が出たことで、世界中から非難を浴びた彼等は、贖罪の為その身を捧げた。
 その献身的な行いを神は見捨てず、彼等に1つの使命を与えた。それが世界樹を育て守護することであったのだ。
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