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第308話 ギルドの真意とアニタの推理
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店内の雰囲気が元へと戻ると、濡れてしまった床を拭き取る給仕に礼を言って、席へと座り直す。
「ふぅん……。やるじゃん」
「お前が軽率な発言をするからだぞ?」
「そうだけど、私があんなのに負けるとでも思ってんの?」
「そうじゃない。騒ぎを起こされるのは困るんだよ」
「は? 魔法で眠らせるだけじゃん。騒ぎになんてなるわけないでしょ」
「え?」
「え?」
「「……」」
「もっと早く言えよ……」
上手く追い払えたと思ったらコレである。虚脱感に襲われ、溜息が出る。
とは言え、アニタを信じきれなかった俺にも非があるだろう。少々見くびり過ぎていたようだ。
「もしかして、私がこんな大勢いるところで攻撃魔法を使うとでも思ってたわけ?」
「……そうだよ……」
「酷くない?」
「仕方ないだろ。日頃の行いを加味した結果だ」
マナポーションを譲渡する約束をしただけで、アニタは仲間を切り捨て俺に情報を漏らしたのだ。信用しろという方が無理である。
落胆するアニタの表情を見ていると、胸が締め付けられる思いではあるが、それはそれ。
そもそも誤解されるような態度をとらなければいいのだ。
「まぁ、いいわ。それで? もう聞きたいことはないの?」
急な横槍を入れられたせいで話がズレてしまったが、マナポーションの噂は放っておいてもいいレベルの話のようだ。
賢者の石のことまで広まっていたら早急に手を打つべきだとは憂慮していたが、俺が隠し持っていたマナポーションが世に出回っただけ、という程度の噂話ならば問題はないだろう。
「そうだな……。強いて言うならアニタがマナポーションを集める理由……だが、どうせそれもマナポーションを要求するんだろ?」
軽い冗談のつもりだった。マナポーションは魔法系適性冒険者にとっては、命の次に大事な物と言われているくらいである。収集する理由としては当然であり、それ以上の理由はないと言われてもおかしくはない。
しかし、アニタからの返事はなく、ふとその横顔を見ると、自分の心の奥底を覗き込むような深刻そうな表情を浮かべていたのである。
「ねぇ、九条。1つ聞いていい?」
「質問には答えないクセに、俺には聞くのかよ……」
「私の見立てだと、今回ギルドに出回ったマナポーションって数百はあるの。正直言って九条がそんなに隠し持ってるとは思えないのよね。スタッグにいるっていうプラチナの錬金術師なら話は別なんだけど……」
尤もである。アニタ曰く、それを放出した俺は感謝されているらしいが、裏を返せば隠し持っていた事を責められかねない諸刃の剣だ。
出来れば、俺としても広まってほしくはない噂。
そこで思いついた。その錬金術師を利用し、勘違い説を広めていけないだろうかと。
「そりゃそうだろ。俺がそんなに持ってたらギルドになんかやらずに、お前を毎晩抱いてるよ。噂には尾ひれが付き物だ。何処かで俺とその錬金術師が、入れ替わって伝わってるんじゃないか?」
冗談を交え尤もらしく誘導するも、アニタは何の反応も示さず真剣な表情を崩さない。
「確かにその線もあるけど、私は九条が何らかの方法でマナポーションを作り出せるんじゃないかって睨んでるのよね」
さすがはマナポーションオタク。ギルドの在庫数からそこまで推測出来るのは、侮れない。鋭すぎて嫌になるくらいだ。
「なんでそうなるんだよ……。俺に錬金術の適性はないぞ? そんなこと出来るわけないだろ……」
「そうかな? 死霊術師としての九条なら出来るんじゃない? ……例えば死体に残った魔力を吸い出す方法があるとか、魂を魔力に変える方法とか……」
「考え方がエグすぎんだろ……」
引いているようワザと顔を歪めて見せる。
俺の死霊術師としての力の一部を知っているアニタだからこそ辿り着けた答えなのだろう。
確かに魂は構造上、魔力の塊に近い物だ。故に視認することは出来ず、唯一部分的に視覚化できる道具が、冒険者ギルドの適性鑑定水晶だ。
アニタの話は方向性としては悪くなく、可能性としてあり得ない話ではないが、残念ながら間違っている。
「九条は、何故魔族が人を食うのか知ってる?」
「美味いからだろ?」
「違うわよ! 真面目に聞いて!」
「はいはい。わかったよ。知らないなら教えてくれるのか? それともマナポーションが必要か?」
少々皮肉っぽく言い放つも、アニタはそれを聞き流す。
「魔力を効率的に補給する為よ。彼等は体内で魔力を精製出来ないの」
それが本当であれば、死体から魔力を供給するという発想に至った経緯も理解出来る。
とは言え、そもそも死者を冒涜するような行為はしない。したとしても、それは例外的な悪人だけだ。
「考え方は悪くないが、飛躍しすぎだ。たとえそうであったとしても、魔力をマナポーションにするのは結局錬金術の領域だろう?」
なんでも頭ごなしに否定すれば、相手だってムキになる。そうならない為にも、相手の意見を尊重すると同時に、やんわりと否定するのが効果的だ。
「わかった!」
両手を合わせ、快活な表情を見せるアニタ。
「いや、わかってないだろ絶対……」
「九条が魔力を吸い出して、錬金術師がそれをポーションに精製してるのよ! それなら辻褄が合う。そうなんでしょ!?」
「ちげぇよ……」
話を聞かないのであれば、これ以上は無駄である。
賢者の石の情報が漏れていないことを確認できただけでも収穫はあった。あとはフェルヴェフルールでマナポーションをアニタに譲ればそれでいい。これ以上アニタから得られる情報はなさそうだ。
「邪魔したな」
「ちょっと待ってよ!」
「行くぞ。白狐」
引き留めようとするアニタを無視し、ポケットから金貨を1枚取り出すと、それをカウンターに置いて店を出た。
「なぁ白狐。お前はどう思う?」
「何がですか? アニタとか言う娘の話なら、よく考えられていて説得力はあるとは思いますが……」
「確かによくできた話だとは思うが、そっちではなくギルドのことだ。ギルドはネクロガルドとダンジョンを奪い合っている。それを知りながらマナポーションの出所が俺だという事を隠そうとしないのは、おかしくないか?」
「本当に錬金術師のプラチナとやらと間違われている可能性もあるのではないか?」
「ないこともないが、ギルドは俺の機嫌を損ねたくはないはずだ。そんな噂が広がれば修正しようと動かないか? 放っておけばそれが俺の耳に入るのは時間の問題だ。軌道修正が無理なら先に間違った噂が広がっていると、俺に連絡があってもいいはずじゃないか」
「ならば、そもそも修正しようとも考えていないのでは?」
「どういうことだ?」
「つまり、その噂が九条殿の気分を害するものではないと考えているのではないか? むしろその噂が広まることで、九条殿の評判は上がる。ならば九条殿の機嫌を取るには好都合と捉えている可能性もあるかと。ギルドとしては賢者の石の存在さえ隠しておけば問題ないと考えているのでは?」
「……あり得るな……」
正直俺にとっては迷惑以外の何者でもないが、可能性は考えられる。忖度してくれるのは嬉しいが、その方法がまるで噛み合っていない。
「もうちょっとギルドには手心を加えてやるべきか?」
「そうですか? むしろもっと締め上げるべきでは? 彼等は九条殿のことをまるでわかっていない。勉強不足にもほどがある」
ふと笑みがこぼれる。そうしてくれるとありがたいが、精々トライ・アンド・エラーがいいところだ。もちろん失敗から学ぶことも大事だが、彼等が進んで予習するとは思えない。
「まぁ、そう言ってやるな。肩を持つつもりはないが、彼等は俺を見ているんじゃなく、その先を見てるんだよ」
「その先?」
「利益だよ。結局は損得勘定でしか考えられないんだ。商売ってのはそういうもんさ」
「なるほど。確かに人間の考えそうなことだ……」
宿へ戻ると、何事もなかったかのようにミアは寝息を立てていた。
「なんでだよ……」
その隣に寝ていたのはシャーリーである。標準的なシングルベッド故に、俺の寝るスペースはないに等しい。
俺に何かを伝えに来たのだろうが、外出中で待っている間に寝てしまった……といったところだろうか……。
「やれやれ……」
2人の間に無理矢理ダイブしても構わないのだが、起こしてしまうのも忍びない。
シャーリーが俺の部屋に来た理由は、明日聞けばいいだろう。
ミアに掛布団を奪われ、寒そうなシャーリーに布団を掛け直してやると、俺と白狐はミアの為に用意された部屋で一夜を過ごした。
「ふぅん……。やるじゃん」
「お前が軽率な発言をするからだぞ?」
「そうだけど、私があんなのに負けるとでも思ってんの?」
「そうじゃない。騒ぎを起こされるのは困るんだよ」
「は? 魔法で眠らせるだけじゃん。騒ぎになんてなるわけないでしょ」
「え?」
「え?」
「「……」」
「もっと早く言えよ……」
上手く追い払えたと思ったらコレである。虚脱感に襲われ、溜息が出る。
とは言え、アニタを信じきれなかった俺にも非があるだろう。少々見くびり過ぎていたようだ。
「もしかして、私がこんな大勢いるところで攻撃魔法を使うとでも思ってたわけ?」
「……そうだよ……」
「酷くない?」
「仕方ないだろ。日頃の行いを加味した結果だ」
マナポーションを譲渡する約束をしただけで、アニタは仲間を切り捨て俺に情報を漏らしたのだ。信用しろという方が無理である。
落胆するアニタの表情を見ていると、胸が締め付けられる思いではあるが、それはそれ。
そもそも誤解されるような態度をとらなければいいのだ。
「まぁ、いいわ。それで? もう聞きたいことはないの?」
急な横槍を入れられたせいで話がズレてしまったが、マナポーションの噂は放っておいてもいいレベルの話のようだ。
賢者の石のことまで広まっていたら早急に手を打つべきだとは憂慮していたが、俺が隠し持っていたマナポーションが世に出回っただけ、という程度の噂話ならば問題はないだろう。
「そうだな……。強いて言うならアニタがマナポーションを集める理由……だが、どうせそれもマナポーションを要求するんだろ?」
軽い冗談のつもりだった。マナポーションは魔法系適性冒険者にとっては、命の次に大事な物と言われているくらいである。収集する理由としては当然であり、それ以上の理由はないと言われてもおかしくはない。
しかし、アニタからの返事はなく、ふとその横顔を見ると、自分の心の奥底を覗き込むような深刻そうな表情を浮かべていたのである。
「ねぇ、九条。1つ聞いていい?」
「質問には答えないクセに、俺には聞くのかよ……」
「私の見立てだと、今回ギルドに出回ったマナポーションって数百はあるの。正直言って九条がそんなに隠し持ってるとは思えないのよね。スタッグにいるっていうプラチナの錬金術師なら話は別なんだけど……」
尤もである。アニタ曰く、それを放出した俺は感謝されているらしいが、裏を返せば隠し持っていた事を責められかねない諸刃の剣だ。
出来れば、俺としても広まってほしくはない噂。
そこで思いついた。その錬金術師を利用し、勘違い説を広めていけないだろうかと。
「そりゃそうだろ。俺がそんなに持ってたらギルドになんかやらずに、お前を毎晩抱いてるよ。噂には尾ひれが付き物だ。何処かで俺とその錬金術師が、入れ替わって伝わってるんじゃないか?」
冗談を交え尤もらしく誘導するも、アニタは何の反応も示さず真剣な表情を崩さない。
「確かにその線もあるけど、私は九条が何らかの方法でマナポーションを作り出せるんじゃないかって睨んでるのよね」
さすがはマナポーションオタク。ギルドの在庫数からそこまで推測出来るのは、侮れない。鋭すぎて嫌になるくらいだ。
「なんでそうなるんだよ……。俺に錬金術の適性はないぞ? そんなこと出来るわけないだろ……」
「そうかな? 死霊術師としての九条なら出来るんじゃない? ……例えば死体に残った魔力を吸い出す方法があるとか、魂を魔力に変える方法とか……」
「考え方がエグすぎんだろ……」
引いているようワザと顔を歪めて見せる。
俺の死霊術師としての力の一部を知っているアニタだからこそ辿り着けた答えなのだろう。
確かに魂は構造上、魔力の塊に近い物だ。故に視認することは出来ず、唯一部分的に視覚化できる道具が、冒険者ギルドの適性鑑定水晶だ。
アニタの話は方向性としては悪くなく、可能性としてあり得ない話ではないが、残念ながら間違っている。
「九条は、何故魔族が人を食うのか知ってる?」
「美味いからだろ?」
「違うわよ! 真面目に聞いて!」
「はいはい。わかったよ。知らないなら教えてくれるのか? それともマナポーションが必要か?」
少々皮肉っぽく言い放つも、アニタはそれを聞き流す。
「魔力を効率的に補給する為よ。彼等は体内で魔力を精製出来ないの」
それが本当であれば、死体から魔力を供給するという発想に至った経緯も理解出来る。
とは言え、そもそも死者を冒涜するような行為はしない。したとしても、それは例外的な悪人だけだ。
「考え方は悪くないが、飛躍しすぎだ。たとえそうであったとしても、魔力をマナポーションにするのは結局錬金術の領域だろう?」
なんでも頭ごなしに否定すれば、相手だってムキになる。そうならない為にも、相手の意見を尊重すると同時に、やんわりと否定するのが効果的だ。
「わかった!」
両手を合わせ、快活な表情を見せるアニタ。
「いや、わかってないだろ絶対……」
「九条が魔力を吸い出して、錬金術師がそれをポーションに精製してるのよ! それなら辻褄が合う。そうなんでしょ!?」
「ちげぇよ……」
話を聞かないのであれば、これ以上は無駄である。
賢者の石の情報が漏れていないことを確認できただけでも収穫はあった。あとはフェルヴェフルールでマナポーションをアニタに譲ればそれでいい。これ以上アニタから得られる情報はなさそうだ。
「邪魔したな」
「ちょっと待ってよ!」
「行くぞ。白狐」
引き留めようとするアニタを無視し、ポケットから金貨を1枚取り出すと、それをカウンターに置いて店を出た。
「なぁ白狐。お前はどう思う?」
「何がですか? アニタとか言う娘の話なら、よく考えられていて説得力はあるとは思いますが……」
「確かによくできた話だとは思うが、そっちではなくギルドのことだ。ギルドはネクロガルドとダンジョンを奪い合っている。それを知りながらマナポーションの出所が俺だという事を隠そうとしないのは、おかしくないか?」
「本当に錬金術師のプラチナとやらと間違われている可能性もあるのではないか?」
「ないこともないが、ギルドは俺の機嫌を損ねたくはないはずだ。そんな噂が広がれば修正しようと動かないか? 放っておけばそれが俺の耳に入るのは時間の問題だ。軌道修正が無理なら先に間違った噂が広がっていると、俺に連絡があってもいいはずじゃないか」
「ならば、そもそも修正しようとも考えていないのでは?」
「どういうことだ?」
「つまり、その噂が九条殿の気分を害するものではないと考えているのではないか? むしろその噂が広まることで、九条殿の評判は上がる。ならば九条殿の機嫌を取るには好都合と捉えている可能性もあるかと。ギルドとしては賢者の石の存在さえ隠しておけば問題ないと考えているのでは?」
「……あり得るな……」
正直俺にとっては迷惑以外の何者でもないが、可能性は考えられる。忖度してくれるのは嬉しいが、その方法がまるで噛み合っていない。
「もうちょっとギルドには手心を加えてやるべきか?」
「そうですか? むしろもっと締め上げるべきでは? 彼等は九条殿のことをまるでわかっていない。勉強不足にもほどがある」
ふと笑みがこぼれる。そうしてくれるとありがたいが、精々トライ・アンド・エラーがいいところだ。もちろん失敗から学ぶことも大事だが、彼等が進んで予習するとは思えない。
「まぁ、そう言ってやるな。肩を持つつもりはないが、彼等は俺を見ているんじゃなく、その先を見てるんだよ」
「その先?」
「利益だよ。結局は損得勘定でしか考えられないんだ。商売ってのはそういうもんさ」
「なるほど。確かに人間の考えそうなことだ……」
宿へ戻ると、何事もなかったかのようにミアは寝息を立てていた。
「なんでだよ……」
その隣に寝ていたのはシャーリーである。標準的なシングルベッド故に、俺の寝るスペースはないに等しい。
俺に何かを伝えに来たのだろうが、外出中で待っている間に寝てしまった……といったところだろうか……。
「やれやれ……」
2人の間に無理矢理ダイブしても構わないのだが、起こしてしまうのも忍びない。
シャーリーが俺の部屋に来た理由は、明日聞けばいいだろう。
ミアに掛布団を奪われ、寒そうなシャーリーに布団を掛け直してやると、俺と白狐はミアの為に用意された部屋で一夜を過ごした。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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