生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
315 / 722

第315話 虫嫌い

しおりを挟む
 イーミアルが部屋を出て行くと、静まり返る室内。

「嵐みたいな人だね……」

「そうだな……」

 ミアの言葉に、言い得て妙だなと全員が頷いて見せる。

「女王様もそうだったけど、イーミアルさんもモフモフ団って言わないね。そんなに変な名前かな?」

 笑顔の中にもふと陰りを見せるミア。

「ミアが一生懸命考えてくれたパーティ名だ。バカにする奴がいたら俺がそいつの奥歯をガタガタ言わせてやるから安心しろ!」

 ガッツポーズで励ますも、返って来たのは喜ぶでもなく笑うでもない微妙な表情。

「そ……そこまではしなくてもいいかも……」

 周りからの視線は痛いが、間違ったことは言っていない。相手の表情を見るに、バカにしているというより恥ずかしくて口に出せないといった類のものだとは思うが、そこまで気にするほどのことだろうか?
 俺達に配慮して、努力してくれているというなら可愛げもあるのだが……。

「言いたくなければ最初から口にしなければいいのにな。エルフが他種族に高圧的なのはわからんでもないが、これもそういった種族や文化の差って奴じゃないか?」

「そうかな? でもジョゼフさんは普通に言ってくれるよ?」

 言われてみれば確かにそうだが、ひとまずそれは置いておこう。今はそれよりこれからの事だ。

「そんなことより、もし行動制限が解かれたらどうする? ミアが街を見て回りたいというなら、依頼を受けても構わないが……」

 それに待ったをかけたのはアニタ。席を立ち俺を睨みつけるその形相は、焦りの色を隠せてはいない。

「ちょっと待ってよ九条! 私の約束はどーなるのよ!?」

「わかってるよ。忘れてないって、急ぐほどの事じゃないだろ?」

 残念ながらアニタのマナポーションより、優先すべきはミアである。
 仕事が増えるとは予想していなかったのだろう。とは言え、アニタが仕事を手伝わずとも報酬は折半するつもりだ。

「どちらにせよ、ちゃんと報酬は折半するから……」

「報酬なんかどうだっていいの! 私は……」

「私はもう帰ってもいいかな? リブレスも十分堪能したよ?」

 アニタの声を上書きしたのはミアだ。苦笑いを浮かべるその様子は、申し訳なさそうでもあり、アニタに遠慮しているようにも見えた。

「……いいのか、ミア? こんな奴に気を使う必要はないぞ?」

「こんな奴とは何よ!?」

 怒り心頭のアニタは無視し、ミアの顔を覗き込む。

「うん。別にアニタさんの為じゃないし、むしろ早く帰りたい……かな?」

 その理由を考えるも、思い当たる節は1つしかない。

「そうか……。まぁ、シャロンさんには悪いが、エルフの種族差別的な考え方はちょっとな……」

 言われるであろうと思っていたシャロンは乾いた笑みを浮かべ、シャーリーは何故か不躾な目を俺に向ける。

「いやいや、何言ってんの九条。虫でしょ?」

「虫?」

 シャーリーの言葉に、恥ずかしそうにこくりと小さく頷くミア。

「あー……そうだったのか……」

 今まで気にしてはいなかったが、ミアくらいの歳であれば虫が嫌いなのは仕方のないことだ。それを表に出さなかったのは、我慢していたか強がっていただけなのだろう。
 シャーリーやアニタが気にしないのは冒険者として慣れているから。シャロンは元々そこに身を置いていたのだから当たり前の話。
 考えても見れば、巨大な樹木が聳え立つウッドエルフの領域からその兆候は表れていた。自然が多いコット村でも虫は出るが、フェルヴェフルールはそれ以上。
 そりゃぁこれだけの大自然。スタッグより南に位置する大陸で、暖かい気候。春先でコレなら恐らく夏は地獄であろう。……いや、虫からしてみれば天国なのだろうが……。

「なら、当初の予定通り調査のみで切り上げよう」

「どうせなら、今受けてる依頼もキャンセルして帰っちゃえば?」

 突然の物言いに、全員がそろって振り向いた。そこにはニヤリと不敵な笑みを浮かべるアニタ。
 悪魔のささやきかと思うほどに衝撃を隠しきれず、その斬新すぎる提案にはさすがの俺も舌を巻く。
 アニタからは同族の匂いがする。同気相求とまではいかないが、もしかするとアニタこそが真の仲間なのかもしれない。

「お前……天才か?」

「おにいちゃん!?」

 違約金としてキャンセル料は発生するが、そもそも報酬はそれほど高くはない。俺にとっては微々たるものだ。
 だが、依頼を受ける前提でリブレスへと入国しているとなると、いきなりキャンセルして出ていくというもの心証が悪い。
 仕事をしないなら何のために入国したのかと怪しまれるのは確実で、観光がしたくて……と言って信じてくれるとは思えない。

「冗談だよ。ミアは俺がそんなことすると思うか?」

「うん」

 間髪入れずに返って来た情け容赦ない返事に胸を打たれていると、戻ってきたのはイーミアル。

「すまん。ダメだった!」

 肩で息をしているところを見ると、急いで確認に言ってくれたのだろう。その努力には敬意を表するが、例え外出許可が出ても依頼を受ける気はなかったので、丁度良かった。

「ならば、予定通り調査の依頼だけということで……」

「うむ。仕方あるまい。この後はこちらで用意した部屋にて休んでくれ。王宮内を見て回るのは構わないが、その間は監視をつけさせてもらう。出発は明日だが、問題はないか?」

「え? 王宮に泊めさせてもらえるんですか?」

「そうだが……不満か?」

「いえ、そう言うわけではなく、ジョゼフさんが宿を取っていると言っていたので……」

「ジョゼフ? ……あぁ、お前達を迎えに行った送迎馬車の御者のことだな? そっちは気にしないでいい。予定が変更になったんだ。まさかこちらもプラチナの冒険者が来るとは思わなくてな。急遽王宮でもてなすことにしたのだ。連絡がいっていると思っていたがうまく伝わっていなかったようだな」

「はぁ……」

 それからは各自が部屋へと案内され、一夜を過ごした。相変わらずミアに用意された部屋は使われないのが不憫である。
 夕食に出た神樹茶は、なんというか独特の風味で人を選ぶ飲み物であった。ジョゼフの言う通り、まろやかで口当たりはいいのだが、飲み終わった直後に鼻に抜ける匂いが泥臭いのだ。不味くはないのだが、クセのある感じ……。長く飲み続ければ、その良さがわかるようになる嗜好品と言えば分かり易いだろうか……。
 そういった意味ではコーヒーやビールなどに感覚は似ているのかもしれない。
 その味に懐かしさを感じていたのは、シャロンだけであった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...