生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第319話 8年前

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「おやすみ。おにーちゃん」

「何かあればすぐに起こしていただいて構いませんので。お先に失礼致します」

 ミアとカガリ。それとジョゼフが天幕へと姿を消すと、俺とコクセイだけが取り残された。

「リブレスと違って静かだな……」

 リブレスとは違い、耳障りな虫の声も心地よく感じるほど。燃え盛る焚き火を見つめながら物思いに耽るには、丁度良いノイズだ。

「それにしてもネロの仮面か……」

 その名は知っている。2000年前、勇者と共に魔王を倒し英雄となった者の名だ。だが、それは表向きの話。エルザの話ではその後は神と決別し、死霊術を編み出した後、行方知れずとなったと聞いている。
 そんな者の名を冠している仮面だ。それに興味がないわけではなかった。

「ジョゼフさんかシャロンさんなら何か知っているかもしれないが、聞くわけにもいかないよなぁ……」

 王宮とは関わり合いのない2人ではあるが、仮面が祭具として使われているなら何か古い言い伝えが残ってるかもしれない。
 とはいえ、あまりツッコんだことを聞くと、色々と怪しまれそうで憚られる。
 エルフは長命種だ。人間よりも多くの知識を持っていても不思議ではない。ならばネロのことも当然知っているはず。問題はそれをどこまで知っているのか……。そしてそれをどう捉えているのかである。
 世界を救った英雄としてか、それとも神に反旗を翻した裏切り者か……。
 エルフ達が神から与えられたであろう世界樹を信仰しているのならば、恐らくネロとは相容れない立場であると考えるのが自然ではあるが……。

「九条殿。そろそろ……」

「おっと、そうだった。時間か……」

 コクセイに呼ばれ我に返る。それは丑三つ時と言われ、最も陰の気が高まる時間帯。
 ゆっくりと立ち上がり、お尻に付いた土埃を掃うと背を伸ばす。

「行くのか?」

「ああ。留守番を頼む」

「心得た。気を付けるのだぞ?」

 焚き火の中から火持ちのしそうな薪を1本選ぶと、それを松明代わりに村の墓地へと歩みを進めた。
 そして俺は、8年前のヤート村の惨状を知る事となったのである。

 ――――――――――

「九条様。何かわかりましたでしょうか?」

「ええ。もちろんです」

 次の日の朝。皆が起きて来ると、焚き火を囲みながら8年前にこの村に起こった出来事を全て話した。

「この村に埋葬されているのは、村人だけじゃない。村を襲った盗賊達も同じように埋葬されている」

 ヤート村は2度盗賊に襲われていた。1回目は上手く撃退出来たものの、その報復にと2回目の襲撃で村人達は帰らぬ人となっていた。
 その話の中にはネロの仮面らしき物は出てこない。他にわかる事と言えば、襲撃して来た盗賊達のアジトの場所と、昨日の女性の霊が自分の娘を探していた事くらいだ。

「これが廃村になった原因です。この話を信じるかどうかは、ジョゼフさん次第です」

「ありがとうございます。その……盗賊達というのは?」

「彼等は1人の冒険者によって壊滅させられています。グリムロックのギルドに記録が残っているかもしれませんが……直接ギルドに聞いてみなければわかりませんね」

「そうですか……」

 頭を下げるジョゼフであったが、その表情は曇っている。結局その仮面の行方はわからずじまい。そりゃ落ち込みもするだろう。捜索は1からやり直しだ。

「九条様。……よろしければその盗賊のアジトまでご同行願えませんでしょうか? もちろん無理にとは言いませんが……」

 普段の俺なら断っていただろう。だが、ジョゼフにはアニタの事を黙ってもらっているという恩もある。それくらいであればと首を縦に振った。

「そう遠くはなさそうですし、構いませんよ?」

「ありがとうございます」

 ほんの少しだけジョゼフの表情が晴れた気がした。

 その後、馬車で迎えに来たシャーリー達と合流し、盗賊達のアジトがあるであろう場所へと向かう。
 途中までは馬車を使い、そこからは深い森の中の為徒歩である。御者だけを街道に残し、道なき道を進んでいく。

「九条殿。大分近づいて来ているぞ」

「予定とは違う行動に焦っているんじゃないか?」

 コクセイの鼻に反応しているのはイーミアル。村での調査を終えたにもかかわらず、フェルヴェフルールとは逆方向に進んでいく俺達を不審に感じているのだろう。
 こちらはある意味残業してやっているのだ。大目に見てもらいたいものである。
 とは言え、仮面の捜索は絶望的だろう。一縷の望みに賭けたいジョゼフの気持ちもわからなくもないが、8年も前の出来事だ。あったとしても原型をとどめているのかは、甚だ疑問である。
 そもそもそんな仮面が、カネになるのかすら疑わしい。祭具なんかを盗んで一体どうしようと言うのか……。

「ねぇ九条。本当にこっちであってるの?」

「ああ。間違いない。あと2キロほどだ」

「グえぇ……。あと2キロも歩くのぉ?」

「たった2キロだろ……」

 それを聞いて肩を落とすシャーリー。チラチラと目配せしているのは、従魔達に乗る許可が欲しいのだろう。ミアだけカガリに乗ってズルイ……とでも言いたげである。
 そりゃ従魔達の背に揺られれば楽ではあるが、数が足りない。仮に足りたとしてもジョゼフを乗せるつもりはなかった。案内役としては助かっているし、アニタの事も黙ってくれている。だが、信用とはまた別の話だ。
 仕事だからこそ丁寧に接してくれてはいるが、そうじゃなかったら彼も一介のハイエルフ。その思想が俺達他種族にとっては危険なのは変わりない。
 最初から馴れ合いをするつもりはないのだ。仕事だけの関係と割り切って考えた方が無難である。

 草木を掻き分け1キロほど歩いたところで、ようやく一筋の道らしき轍を見つけた。所謂獣道だ。
 この道が盗賊達のアジトに続いているとするなら、数年間は使われていない道であるはずなのだが、その割には少々小綺麗なのは気のせいだろうか?
 その道の先に見えるのは小高い丘。目的地はその先にあった。
 丘を越え、盗賊のアジトがあったであろう小さな盆地を見下ろすと、そこにあったのは今にも崩れそうな小さな納屋。

「どうやら先客がいるらしい……」

 その隣で、何者かが俺達を見上げていたのである。
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