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第326話 因縁の対決
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「【大爆発】!」
「【魔力障壁】!」
イーミアルの放った魔法が、アニタの魔力障壁に直撃すると、轟音と共に天高く上がる土煙。
突然の衝撃に森の動物達は逃げ惑い、入り混じる鳴き声に乗じてフードルは右手を突き出した。
「【精魂槍】!」
その土煙の中から飛び出した1本の槍を、イーミアルは体をねじるように躱し、そのままくるりと1回転。それと同時に掲げた杖を振り下ろす。
「【針水雨】!」
さすがはハイエルフと言うべきか、その動きはまるでバレエでも見ているかのように華麗。
前方に降り注ぐ水雨は、針のように鋭く硬い。
雨が止むと同時に土埃が晴れ、見えてきたのはフードルを庇う血だらけのアニタ。
「へぇ……。この魔法の対策は知っているのね。ちょっと驚いたわ」
針水雨は広範囲にわたって降らせる極小の水針。それを魔力障壁で受けてしまうと、一気に魔力が削られる。
故にそれを解き放ち、身体を小さくして被弾面積を減らすのが正解。針は魔力で生み出されたただの水であり。体内に残ることはない。
ただ1点。今回はフードルを守る為、アニタは全身でそれを受けた。傷は浅いが、何度も喰らう訳にもいかない。
「大丈夫? マナポーションの残りは!?」
「案ずるな。まだ残っておる」
「へぇ……。どうやら本当に人を食わなくなったみたいね。マナポーションが枯渇したのってあんたが飲み干しちゃったからなんじゃないの!?」
ケラケラと笑い、余裕を見せるイーミアル。
「ふん。人を食えばそこから追って来るじゃろうが!」
「そうよ! あんたがさっさと人を食わないから探すのに8年もかかったのよ!? ……でも、そのおかげで随分と弱ってるみたいじゃない? ビビって損しちゃったわ。そんなんで私に勝てると思ってるの? 隣の娘を食べたらどう? お食事中は休戦してあげるわよ?」
「ぬかせ! 【精魂波】!」
フードルの右手から迸る薄紫色の波動はイーミアル目掛けて一直線。
だが、イーミアルは杖を払っただけでそれを弾いて見せた。
「8年前とは比べ物にならない程弱いわね……。今その仮面を返せば、そこの娘は助けてあげる。どう? 悪くない話だとは思わない?」
「返すも何も元々はワシらの物じゃ。奪ったのはそちらじゃろう」
「そんな何十年も前の話知らないわ。時間も惜しいしそろそろ本気だしちゃうかも?」
「やってみろ。大事な仮面が壊れてしまうかもしれんぞ?」
「じゃぁ、壊れないよう守りなさい! 【水禍激流】!」
イーミアルの杖から湧き出す大量の水が激流となって押し寄せる。
「【石柱】!」
アニタの目の前に現れたのは巨大な岩の三角錐。それが襲い来る大量の水を2つに割ると、フードルは大地を蹴って柱を瞬時に駆け上がり、その勢いのままイーミアルへと飛んだ。
「【精魂刃】!」
2人の距離を一気に詰めたフードル。その手に握られていたのは、魔法で出来た輝く直剣。
「くッ!?」
振り抜かれたそれは、咄嗟に掲げたであろうイーミアルの杖を両断する。
イーミアルは慌てて後方へと飛びながらも、左手をフードルへとかざす。
「【氷槍撃】!」
それは伏せたフードルの頭上を通り過ぎただけ。
低い姿勢からあり得ない程の跳躍を見せたフードルは一瞬にして間合いを詰め、その刃はイーミアルの喉元を捉えた。
少しでも動けば首が落ちる。そう思わせるほどの気迫に気圧され、顎を上げながらも動きを止めたイーミアル。
「我が娘に気を取られ過ぎじゃ。先程から水系の魔法ばかり使うのは娘の雷撃が怖いのだろう?」
「それはどうかしら?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるイーミアルは、遊んでいた左手で瞬時にフードルの右手を掴む。
「【解呪】!」
「――ッ!?」
フードルの刃が虚空へと消え、今度は右手をフードルへと突き出した。
「【魔法の矢】!」
イーミアルの周りに浮かぶ複数の光球が、至近距離からフードルに襲い掛かる。
その全てを紙一重で躱したフードルであったが、その狙いは別の所にあったのだ。
「娘さんを気にした方がいいんじゃない? 私の魔法の矢が規格外な事は知ってるでしょ?」
フードルが振り返ると、アニタは凍った水に半身が捕らえられていたのだ。
イーミアルは呼び出した大量の水を、氷槍撃で氷へと変えていたのである。
もちろんアニタの雷撃魔法にも警戒していたが、狙いはそれだけではなかったのだ。
「魔法の矢如き、防げないとでも思ってるの!?」
確かにアニタは身動きがとれなかった。だがそれだけだ。避けられぬのなら防げばいいだけである。
「【魔力障壁】!」
アニタの周りに広がった防御壁……にも拘らず、フードルは踵を返しアニタの元へと走った。
「アーニャ!」
それでは足りないのだ。フードルはそれを身をもって経験していた。
イーミアルから放たれた魔法の矢が空中で結合し、1本の巨大な槍となった。
「うそ……」
それがアニタの魔力障壁を完膚なきまでに粉砕すると、その破片が鏡の如く周囲の風景を切り取った。
偶然にもそこに映し出されていたイーミアルは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていたのだ。
なぜなら、イーミアルの魔法の矢は未だ健在なのだから。
「くッ……! 【精魂分身】!」
フードルから分裂したもう1人のフードル。それは質量を持った霊体だ。
「【影移動】!」
出現したフードルの霊体が霞のように消え去ると、次の瞬間、それはアニタの目の前に現れた。
その魔法は、対象を影から影へと移動させる転移の魔法。魔力消費が激しく、魔族でさえそう何度も使えるものではない。
そしてその身がアニタの代わりに魔法の矢を受け止めると、虚空へと消えていった。
「お父さん!」
「ぐう……ッ」
アニタの前に倒れるフードル。精魂分身は質量を持つが故に、感覚を術者と共有している。もちろん痛覚もだ。
闇のような黒い角は灰へと色を変え、フードルは立ち上がろうとするものの、震える身体は言う事を聞かない。
「なるほどね……。どこかで聞いた事のある名だとは思っていたけど、ヤート村の住民リストで見たことがあるわ。まさか名前を変えて生き残っているとはね……」
アニタはそんな事聞いてはいなかった。兎に角足元の氷をどうにかしようと必死だった。
「これを壊したら、すぐマナポーションを取って来るから!」
アニタが最も得意としている魔法は雷系の魔法。そして次に得意なのが氷系だ。基本である無属性のものも扱えるが、炎系統に関しては会得していない。それはタニアの魔法書に載っていなかったのだ。
そもそもアニタは魔法に興味がなかった。魔法を学んだのは母親の仇を取る為であり、それも既に果たしていた。
それ以後、アニタはフードルの為だけに生きてきた。冒険者になったのもそう。
ギルドで得た報酬は、全てマナポーションにつぎ込んだ。ある時は闇市から。またある時はプライドを捨て、権力者に媚び諂いながらもだ。
「フードル。娘と共に死になさい」
「待って! 仮面は渡す! だから……」
「バカね。こんなチャンス逃す訳ないでしょ。あなたは全力で私の魔法を防げばいいのよ! 失敗すれば大切なお父さんが死んじゃうわよ? 頑張ってね」
イーミアルが両手を天へと掲げると、そこに集まる魔力量にアニタは畏怖を覚えた。
見たことのない大魔法。それがプラチナとの差である。
「【大氷塊瀑布】!」
氷系攻撃魔法の最高峰。上空に出現したのは山ほどもある巨大な氷塊。それは着弾したと同時に砕け、辺り一面は天牢雪獄の極寒の地と化してしまうのだ。
その範囲内にいる者は、吹雪となって襲い掛かる無数の砕氷に切り刻まれながら、息絶えるのである。
「お父さん! まだ間に合う! 私を食べて!!」
アニタは必死の形相でフードルへと手を伸ばすも、それはわずかに届かない。
フードルも同様であった。その手を取ろうとした。もちろんアニタを食べる為ではない。逃がす為にだ。
あと1回。振り絞った魔力で影移動が使えれば、アニタを範囲外へと転移させることが出来るのだ。
――出来るのだが、2人のその手が触れ合うことはなかったのである……。
「【魔力障壁】!」
イーミアルの放った魔法が、アニタの魔力障壁に直撃すると、轟音と共に天高く上がる土煙。
突然の衝撃に森の動物達は逃げ惑い、入り混じる鳴き声に乗じてフードルは右手を突き出した。
「【精魂槍】!」
その土煙の中から飛び出した1本の槍を、イーミアルは体をねじるように躱し、そのままくるりと1回転。それと同時に掲げた杖を振り下ろす。
「【針水雨】!」
さすがはハイエルフと言うべきか、その動きはまるでバレエでも見ているかのように華麗。
前方に降り注ぐ水雨は、針のように鋭く硬い。
雨が止むと同時に土埃が晴れ、見えてきたのはフードルを庇う血だらけのアニタ。
「へぇ……。この魔法の対策は知っているのね。ちょっと驚いたわ」
針水雨は広範囲にわたって降らせる極小の水針。それを魔力障壁で受けてしまうと、一気に魔力が削られる。
故にそれを解き放ち、身体を小さくして被弾面積を減らすのが正解。針は魔力で生み出されたただの水であり。体内に残ることはない。
ただ1点。今回はフードルを守る為、アニタは全身でそれを受けた。傷は浅いが、何度も喰らう訳にもいかない。
「大丈夫? マナポーションの残りは!?」
「案ずるな。まだ残っておる」
「へぇ……。どうやら本当に人を食わなくなったみたいね。マナポーションが枯渇したのってあんたが飲み干しちゃったからなんじゃないの!?」
ケラケラと笑い、余裕を見せるイーミアル。
「ふん。人を食えばそこから追って来るじゃろうが!」
「そうよ! あんたがさっさと人を食わないから探すのに8年もかかったのよ!? ……でも、そのおかげで随分と弱ってるみたいじゃない? ビビって損しちゃったわ。そんなんで私に勝てると思ってるの? 隣の娘を食べたらどう? お食事中は休戦してあげるわよ?」
「ぬかせ! 【精魂波】!」
フードルの右手から迸る薄紫色の波動はイーミアル目掛けて一直線。
だが、イーミアルは杖を払っただけでそれを弾いて見せた。
「8年前とは比べ物にならない程弱いわね……。今その仮面を返せば、そこの娘は助けてあげる。どう? 悪くない話だとは思わない?」
「返すも何も元々はワシらの物じゃ。奪ったのはそちらじゃろう」
「そんな何十年も前の話知らないわ。時間も惜しいしそろそろ本気だしちゃうかも?」
「やってみろ。大事な仮面が壊れてしまうかもしれんぞ?」
「じゃぁ、壊れないよう守りなさい! 【水禍激流】!」
イーミアルの杖から湧き出す大量の水が激流となって押し寄せる。
「【石柱】!」
アニタの目の前に現れたのは巨大な岩の三角錐。それが襲い来る大量の水を2つに割ると、フードルは大地を蹴って柱を瞬時に駆け上がり、その勢いのままイーミアルへと飛んだ。
「【精魂刃】!」
2人の距離を一気に詰めたフードル。その手に握られていたのは、魔法で出来た輝く直剣。
「くッ!?」
振り抜かれたそれは、咄嗟に掲げたであろうイーミアルの杖を両断する。
イーミアルは慌てて後方へと飛びながらも、左手をフードルへとかざす。
「【氷槍撃】!」
それは伏せたフードルの頭上を通り過ぎただけ。
低い姿勢からあり得ない程の跳躍を見せたフードルは一瞬にして間合いを詰め、その刃はイーミアルの喉元を捉えた。
少しでも動けば首が落ちる。そう思わせるほどの気迫に気圧され、顎を上げながらも動きを止めたイーミアル。
「我が娘に気を取られ過ぎじゃ。先程から水系の魔法ばかり使うのは娘の雷撃が怖いのだろう?」
「それはどうかしら?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるイーミアルは、遊んでいた左手で瞬時にフードルの右手を掴む。
「【解呪】!」
「――ッ!?」
フードルの刃が虚空へと消え、今度は右手をフードルへと突き出した。
「【魔法の矢】!」
イーミアルの周りに浮かぶ複数の光球が、至近距離からフードルに襲い掛かる。
その全てを紙一重で躱したフードルであったが、その狙いは別の所にあったのだ。
「娘さんを気にした方がいいんじゃない? 私の魔法の矢が規格外な事は知ってるでしょ?」
フードルが振り返ると、アニタは凍った水に半身が捕らえられていたのだ。
イーミアルは呼び出した大量の水を、氷槍撃で氷へと変えていたのである。
もちろんアニタの雷撃魔法にも警戒していたが、狙いはそれだけではなかったのだ。
「魔法の矢如き、防げないとでも思ってるの!?」
確かにアニタは身動きがとれなかった。だがそれだけだ。避けられぬのなら防げばいいだけである。
「【魔力障壁】!」
アニタの周りに広がった防御壁……にも拘らず、フードルは踵を返しアニタの元へと走った。
「アーニャ!」
それでは足りないのだ。フードルはそれを身をもって経験していた。
イーミアルから放たれた魔法の矢が空中で結合し、1本の巨大な槍となった。
「うそ……」
それがアニタの魔力障壁を完膚なきまでに粉砕すると、その破片が鏡の如く周囲の風景を切り取った。
偶然にもそこに映し出されていたイーミアルは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていたのだ。
なぜなら、イーミアルの魔法の矢は未だ健在なのだから。
「くッ……! 【精魂分身】!」
フードルから分裂したもう1人のフードル。それは質量を持った霊体だ。
「【影移動】!」
出現したフードルの霊体が霞のように消え去ると、次の瞬間、それはアニタの目の前に現れた。
その魔法は、対象を影から影へと移動させる転移の魔法。魔力消費が激しく、魔族でさえそう何度も使えるものではない。
そしてその身がアニタの代わりに魔法の矢を受け止めると、虚空へと消えていった。
「お父さん!」
「ぐう……ッ」
アニタの前に倒れるフードル。精魂分身は質量を持つが故に、感覚を術者と共有している。もちろん痛覚もだ。
闇のような黒い角は灰へと色を変え、フードルは立ち上がろうとするものの、震える身体は言う事を聞かない。
「なるほどね……。どこかで聞いた事のある名だとは思っていたけど、ヤート村の住民リストで見たことがあるわ。まさか名前を変えて生き残っているとはね……」
アニタはそんな事聞いてはいなかった。兎に角足元の氷をどうにかしようと必死だった。
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アニタが最も得意としている魔法は雷系の魔法。そして次に得意なのが氷系だ。基本である無属性のものも扱えるが、炎系統に関しては会得していない。それはタニアの魔法書に載っていなかったのだ。
そもそもアニタは魔法に興味がなかった。魔法を学んだのは母親の仇を取る為であり、それも既に果たしていた。
それ以後、アニタはフードルの為だけに生きてきた。冒険者になったのもそう。
ギルドで得た報酬は、全てマナポーションにつぎ込んだ。ある時は闇市から。またある時はプライドを捨て、権力者に媚び諂いながらもだ。
「フードル。娘と共に死になさい」
「待って! 仮面は渡す! だから……」
「バカね。こんなチャンス逃す訳ないでしょ。あなたは全力で私の魔法を防げばいいのよ! 失敗すれば大切なお父さんが死んじゃうわよ? 頑張ってね」
イーミアルが両手を天へと掲げると、そこに集まる魔力量にアニタは畏怖を覚えた。
見たことのない大魔法。それがプラチナとの差である。
「【大氷塊瀑布】!」
氷系攻撃魔法の最高峰。上空に出現したのは山ほどもある巨大な氷塊。それは着弾したと同時に砕け、辺り一面は天牢雪獄の極寒の地と化してしまうのだ。
その範囲内にいる者は、吹雪となって襲い掛かる無数の砕氷に切り刻まれながら、息絶えるのである。
「お父さん! まだ間に合う! 私を食べて!!」
アニタは必死の形相でフードルへと手を伸ばすも、それはわずかに届かない。
フードルも同様であった。その手を取ろうとした。もちろんアニタを食べる為ではない。逃がす為にだ。
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